女海賊【泣跡の鬼神】   作:なゆさん

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遅くなりました。
本当にすみません。
いつになればまともな頻度で書けるのやら。


9話

ロジャー海賊団との邂逅からしばらく経った。

私はさらなる高みを目指し鍛錬を続けながら、航海を続けていた。

 

「――ハッ!!」

 

鞘から刀を抜き、全力で空を切り裂く。風や音すら置き去りにする神速の抜刀。今の己の最速の一閃。

 

「――ダメだ。こんな程度では……」

 

ため息を吐きつつ刀を納める。今まで自分が戦ってきた猛者たち。それらを相手に、今の己では太刀打ちできない。

焦り。私の心中には、ひたすらに焦りがあった。海の強者たちに追いつくには、今のままでは足りない。力が必要だ。格上に対抗する力が。

 

「……悪魔の実、か? いや、デメリットが大きい。それに悪魔の実の能力はピンキリだ。食べるにしても、使える能力の悪魔の実を見極める必要がある」

 

確かに摩訶不思議な力を得ることのできる悪魔の実は手っ取り早く実力をつけられる手段の一つではある。

ただ、抱えるデメリットも大きければ、メリットも食べてみなければ分からない。悪魔の実図鑑なるものもあるようだが、私は持っていないので完全に運となってしまうのだ。

 

「かと言って、今まで通りの修行ではダメだ。さて、どうしたものか……ん?」

 

悩みに耽っていると、見聞色の覇気で海の中に弱々しい反応を感知した。どうやら人間のようだ。

 

「死にかけじゃないか。……見捨てるのも忍びない。助けてやるか」

 

大した労力もなく助けられる者を見捨てるのも気分が悪い。私は着ていた服を脱ぎ、海に飛び込んだ。

 

(反応はこのあたりだが……あれか!)

 

水面に浮いている人影を発見。助けるべく近づく。

 

「――魚人か。酷い怪我だな」

 

そこにいたのは、傷だらけの魚人だった。周囲には船の残骸と思わしき木材が浮かんでいる。

 

「おい。起きろ」

 

呼びかけるが返事はなし。仕方なく、そのまま担いで自分の船へと戻った。

 

「……まずは止血と、怪我の具合の確認だな」

 

船の上にその魚人を寝かせ、服を着てから治療を行っていく。傷の様子から見るに、嵐に遭って先程の船の残骸と衝突したのだろう。あちこちに切り傷ができており、打撲跡も少々、何より頭から出血している。魚人でなければ致命傷にもなり得る傷だ。

 

「……処置を急ぐか」

 

今、この船で輸血できる血液は私用のしかない。

この魚人の血液型がどれかは知らないが、私とは違う前提で考えるべきだろう。となれば、これ以上の出血は危険だ。

私は急いで手当てを始めた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「――ハッ! ここは」

「目が覚めたか」

 

件の魚人が目を覚ました。

 

「気を失うまでの記憶はあるか?」

「俺は、たしか嵐に巻き込まれ、急に流れてきた船にぶつかって……」

「ふむ。記憶の混乱は少ない、か。脳の損傷については大丈夫そうだな」

 

受け答えがしっかりできており、気を失う前の記憶もある程度思い出せている。

 

「お前、名前は?」

「――フィッシャー・タイガー。冒険家だ」

 

……何処かで聞いた名だ。原作か? もはやルフィなどの主要人物以外のことはあまり思い出せないが、奴隷関連で何かを行った人物だったことはかろうじて覚えている。

 

「そうか。ではタイガー、手短に言うが、お前の傷は深い。このまま海に出てしまえば傷が開きいずれ死ぬだろう。――そこで、だ。治療を受けられる島に着くまでこの船に乗っていかないか?」

 

タイガーの傷は常人なら致命傷になりかねないものだ。そんな状態で、仮にも自分が治療した者を海に放り出すなど外道のすることだ。

 

「いいのか? 治療をしてもらった上に、そこまでしてもらうのは……」

「構わん。私にはお前を治療した責任がある。私は医者ではないが、患者を無事に送り出すぐらいの度量はあるさ」

「ありがとう…! 恩に着る」

 

こうして、後に大事件を起こす魚人フィッシャー・タイガーとの共同生活が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「おいタイガー。飯の時間だ」

「おお、やっとか! 今日はどんなメニューだ?」

「前回の砂漠島で手に入れた食材を使った、アラバスタの郷土料理だ」

「アマナの飯は美味いからな。楽しみだ」

 

あれから3ヶ月。中々医療の充実した島がないのと未だ魚人差別の根強い島が多いのが相まって、未だタイガーは私の船にいた。なんなら、もうほとんど傷は塞がっており、動いても問題ないところまで回復している。

この期間で、タイガーとはすっかり打ち解け、暇なときに雑談に興じる程度には仲も深まった。

 

今日もいつも通り過ごしていたのだが、

 

「……タイガー。少し待っていろ」

「また海軍か?」

「そうだが、いつもとは違う」

 

少し離れたところに海軍の気配。そして、その中に一際大きな気配があった。そして、それは覚えのある気配だった。

 

「ガープか…!」

 

向こうもこちらを補足しているだろう。進行方向とその速度的に、今から方向転換しても逃げられまい。随分と船足の速い軍艦だった。

 

「――俺も手伝うか?」

「ふん。病みあがりは大人しくしていろ。そもそもお前は別に海軍の敵ではないだろう」

「だが、俺はお前に命を救われた恩がある。命の恩人のためなら、俺は誰を敵に回そうとも構わない」

「やめろ。何のために私がお前を治療したか分からなくなる。……っと、そろそろ来る。お前は大人しく待っていろ」

 

そうして、私はやって来た軍艦を見る。

 

「ん~? 何だえ、あの船は。海賊旗を掲げているえ。おい! わちしの進行方向に海賊船があるえ! さっさと消すんだえ!」

 

無駄によく響く豚の鳴き声が聞こえてきた。

あぁ、やけに高性能な軍艦だし、ガープもいるから何事かと思ったが、そういうことか。

 

「じ、実は、あの船は……」

 

豚に呼ばれた海兵が咄嗟に何かを言おうとして言い淀む。

 

「私の船だ」

 

軍艦に乗り込み、私は天竜人(ぶた)の前で堂々とそう言った。

 

「だ、誰だえお前は!! おいお前たち!! 早く捕らえるんだえ!! 奴隷にしてなぶり殺しだえ〜!!」

 

興奮して鼻息荒く鳴く豚。非常に不愉快だ。やはり、奴らは生理的に受け付けない。ゴキブリよりも嫌悪感が強い。

 

「お、落ち着いて下さい! 奴は、【泣跡】アマナは、天竜人殺しを行った女なんです!」

「な、何だと!? アレが若返りの薬を作れる下地民かえ!! 早く捕らえるんだえ!!」

 

こいつらは何処に行っても同じらしい。

 

「ハァ、うるさい」

 

刀を振るう。

護衛が認識できぬほどの速度で刀は天竜人の首に吸い込まれていく。

 

『ガシッ』

 

「――邪魔をするか、ガープ」

「一応護衛だからな。気は乗らねぇが」

 

豚の命を刈り取らんとした刃は、武装硬化したガープに掴まれた。

 

「気が乗らんなら退け。そこの豚が目障りだったから得物を抜いたが、私もここで殺し合いをする気はない」

「ハハハ、アマナ! もう忘れちまったのか? 次会ったら牢屋にぶち込むって言ったよなぁ!」

「……以前と同じだと思うなよ?」

 

刀でガープを弾き飛ばし、距離を取る。

今の私ではまだガープには及ばない。だが、この状況なら話は別だ。

ガープの後ろには護衛対象のうるさい豚と、豚の護衛と思われる者達、自分の部下もいる。そしてここは海軍の軍艦。ガープの行動は相当制限されるはずだ。

 

「――【天龍斬(てんりゅうざん)】」

「その程度の技――ぬ!?」

 

余裕を持って躱した筈のガープの首元から出血。

 

「――もう少しで首を両断できたものを」

 

先程の技は手元の動きで間合いを相手に誤認させる技だ。見聞色の覇気を極めている相手であろうと騙せる技なのだが。

この程度の小細工では、流石に海軍の英雄の首には届かないようだ。

 

「やるじゃねぇか。スピードが上がってる。――こりゃあ、手加減は要らねぇかな?」

 

『キュイン』

 

「――ッ!」

 

ガープの姿を見失った。やはり凄まじい練度の【剃】だ。その移動音からして他の連中とは違う。

 

――だが、それがどうした。

私は冷静に刀を鞘に戻す。

 

「【天静(てんせい)清流(せいりゅう)】」

「ぬぉお!?」

 

背後からのガープの拳骨を素手で受け流し、衝撃を逃がす。そして、

 

「【天紅(てんぐ)】」

 

『ドゴォ』

 

「グフッ!!」

 

溝尾にカウンターの肘打ち。かなり深く入った。流石のガープといえども、自らの剃の勢いを乗せられたカウンターには怯まざるを得ない。

 

「【天斬(あまぎり)】」

 

隙のできたガープに、覇王色を纏った全力の一撃を食らわせる。

 

「なッ!? ぐぉおお!!」

 

見事に吹き飛ばされ、軍艦の主砲に衝突する。衝撃音と共に、主砲がバキバキに破壊された。

 

「――チィッ! 今ので仕留めきれないか!」

 

手早く決めるために相手の打つ手を予測しつつ、見聞色の覇気によって予測を補強する。そして初見の技で相手を崩し、全力で仕留める。

格上用のメインの勝ち筋だったのだが、どうやらまだこちらの破壊力が足りないらしい。

 

「……ペッ! やるじゃねぇか! まさかここまで腕を上げてるとはな!」

「――効いてないのか…?」

「いや? 結構効いたぜ」

 

まるで堪えていないかのように、腕を回しながら平然と目の前に立つガープ。

その底知れないタフさと状況に合わぬ楽しげな顔に、シャボンディ諸島で味わった絶望感と敗北が脳裏をよぎる。

何もできず、ただ殴られるだけだった。そう、まるで弱く不自由だったあの頃のように。

 

「――いや、違う! 私は強くなったんだ! ハァッ!!」

 

その恐れを振りきるかのようにガープに斬りかかる。

 

「フンッ!」

「ガハッ!?」

 

だが、間合いに入った途端、ガープの拳が私を捉えていた。

 

「チッ! 【天――」

「遅ぉい!!」

「がッ!?」

 

体勢を立て直す暇もなく、重厚な打撃が私を襲う。

 

「このッ――ぐぉ…!」

「ぜりゃァ!!」

 

頭に一撃を受け意識が飛びかけた私を、ガープのアッパーが的確に撃ち抜き私は宙を舞った。

 

「バカな…何故――ハッ!」

「――一つ、教えてやるぜ」

 

いつの間にか頭上にいたガープが拳を振りかぶっていた。

 

「迷う奴ぁ――弱い!!」

 

ガープの一撃は重く、空中でモロにそれを食らった私は成すすべもなく海に撃ち落とされた。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「あ、捕まえなきゃいけねぇのに海に落としちまった!」

 

アマナの姿が海に消えた後、ガープが思い出したかのように言う。

 

「な、何をやっているえ!! アレはわちしが奴隷にするんだえ! 捕まえろと言ったはずだえ! このッ役立たずが!!!」

 

天竜人が怒り狂ってガープを責める。――が、

 

「――あぁ?」

「ヒッ!」

 

ガープの圧力に撃沈。ブツブツ言いつつも大人しくなる。

 

「が、ガープ中将!!」

 

飯でも食おうと船内に戻ろうとしたその時、部下の声がガープの耳に入る。

 

「何だ?」

「【泣跡】の船が、消えています!!」

「何だと!?」

 

急いで甲板からアマナの船があったところを確認する。そこに船は影も形もなかった。

 

「仲間がいたのか、アイツ」

 

これは、アマナは助かるかもしれない。ここで追跡しなければ、数日もしない内に回復するだろう。

すべては、ガープの判断次第。

 

「……【泣跡】は海に沈んだ! 船はもういい! 今はゴ――天竜人の護衛が優先だ!」

 

部下に命令を出す。ガープには、このクソみたいな任務を早く終わらせることが優先だった。

 

(運のいいヤツだ。だが、次はこうはいかんぞ――絶対に牢屋にぶち込んでやる!)

 

無意識に口角を上げ、ガープは食堂に向かった。

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