* * *
「到着だよ」
「本当に近くだった…」
目的地である公園まで、徒歩で約5分ほどで到着した。ここでオハナシかぁ…。
「まぁ、なんだ。そこにベンチがあるし、座ろうか。」
「あっ…はい」
そう言って、俺たちは、入ってすぐに設置されたベンチへ腰掛けた。
変なこと言わないように気をつけないとな…。
「……まずは、紅音との事を聞かせてもらっていいかな?」
「はい?紅音の事と言いますと…」
互いに座ってから、少しの間があったが、先に沈黙を破ったのは、輝朝さんだった。
「そのまま…というよりは、君が紅音と出会った時とかかな?君が出会って、付き合うまでの事をね」
なるほど…。でもあの辺って色々あったけど正直に言うと困惑されないか…?まあ、そこは吟遊ロールの見せ所だな。
「そうですね…まず、俺が紅音と出会ったのは、ゲームの中でした。」
そこからは俺は、輝朝さんに紅音との出会いから若干誇張したりしながら説明した。
それまでの間、輝朝さんは特に口を挟むでもなく、静かに頷いていた。
「こうして俺は、紅音と恋人同士になりました。」
「……そうだったのか。あの紅音がなぁ…。」
そう言った輝朝さんの顔は、遠い目をしていた。
昔、何かあったのだろうか。
「あの、輝朝さん?」
「ああ、ごめん、全部聞いていたよ。ただ…君は、なぜ紅音が今の紅音になったか知らないという認識なんだが、どうだい?」
今の紅音に…?昔からあんな感じじゃなかったのか?
「初耳ですね。昔、紅音に何かあったんですか?」
輝朝さんに疑問を投げかけた。輝朝さんは、一瞬悩む表情を浮かべ、意を決したように口を開いた。
「……紅音はね、今でこそ元気だけど、昔は病弱だったんだよ。」
「!?」
その言葉に俺は耳を疑った。紅音が病弱だった…!?初耳だし、今の姿を見ているからそんな事考えもしなかった。
そんな俺の考えはお見通しとでも言うように、輝朝さんは続けて言葉を紡いだ。
「僕たちがこの家に引っ越してくる前、当時まだ幼かった紅音は、すぐに体調を崩して寝込んでしまうような子だったんだ。病弱で元気な姿が中々見れなくて、僕や和泉はとても心配したよ。」
「………」
そんなことが…。
「でもね、楽郎君。僕たちはそんな紅音を心配して今の家への引っ越しを決めたんだ。新しい環境で、前の所には無かった自然に触れたからなのか、どんどん紅音が元気になってね。徐々に良くなっていくにつれ、体力を付ける為って事で走り始めた事で今の紅音になったんだ。今ではとても健やかに育ってくれて僕たちは本当に嬉しいよ。」
「そうだったんですか…。まさか、あの紅音にそんな過去があったとは…。」
「あはは…。まぁ、紅音もその事はあまり話したがらないからね。あまり紅音に聞かないでもらえるとありがたいな。」
まあ、自分が昔病気がちだったなんてあんま言いふらしたくないだろうし聞かれたくないもんな。俺も触れないでおこう。
「わかりました。でも、教えてくれてありがとうございます。」
「良いよ。紅音と付き合っていく上で知って欲しいなと思っての事だからね。いわゆる父親のお節介ってやつさ」
「とまあ、話っていうのはそれくらいなんだけど、この公園は、夜になると星空がとても綺麗なんだ。楽郎君は今日ウチに泊まっていくんだろう?」
「は、はい。和泉さんから許可は貰ってると聞いたので…」
「そうだったね。僕もそこは気にしてないよ。むしろ紅音のお友達や恋人なら歓迎するさ。それで、もし君が良ければなんだが、紅音を誘ってこの公園で星空を眺めてみないかい?」
「え?良いんですか?」
そりゃあ、紅音と二人っきりで居られるんなら俺としてはとても嬉しいし、それほどに綺麗な星空を見ることが出来るらしいからな。だけど、紅音が夜に外出する事になるがその辺大丈夫なのか…?
「もちろんだよ。もし家からここまで遠かったら了承しなかっただろうし、そもそも提案すらしなかったと思うけど、ここはすぐそこだからね。」
「なるほど、確かに…。」
そういうことか。だったらお言葉に甘えて紅音を誘ってみようかな。
星空といえば…そういや陽務のご先祖が確か…
「では、お言葉に甘えさせていただきます。」
「うん。紅音の事、よろしく頼んだよ」
「はい。お任せください」
俺は輝朝さんに強い頷きを返した。
* * *
「なぁ、紅音」
「はい!なんでしょうか楽郎さん!」
「さっき輝朝さんから聞いたんだけどさ、この近くの公園って星空がとても綺麗らしいな」
「はい!私も時々あそこに行ってます!」
「そうか!えっとな…今からそこへ行かないか?」
紅音の家での夕食を終えた後、俺は輝朝さんとの話を思い出し、紅音を近くの公園へ行かないかと誘ってみた。
なんていうか…ちょっと二人で話したいこともあるしな
「良いですね!行きたいです!」
「そうか!あの…和泉さん」
「良いわよ、紅音とデートでしょ?」
「お母さん!?」
「あの…和泉さん…?」
「ごめんごめん、すぐそこの公園でしょ?だったら大丈夫よ。二人きりで楽しんできなさい!」
「和泉さん…ありがとうございます…!」
「ありがとうお母さん!」
和泉さんからの承諾も貰うことが出来た。
「じゃあ、行くか」
「はい!」
「いってらっしゃい」
「……楽郎君、紅音を頼んだよ」
* * *
「着いたな」
「はい!」
「紅音、どこがよく見えるとかってあるか?」
「ここはどこでもよく見えるので、そこのベンチとかどうでしょうか?」
そう言って、紅音が指さしたのは、つい先程俺が輝朝さんと話した時に座っていたベンチだった。
「そうだな。…座ろうか。」
「はい!あの…楽郎さん…もっとくっ付いても良いですか…?」
「紅音さん!?」
紅音は耳まで真っ赤にしながら提案してきた。
俺としては…恥ずかしさもあるけど…まあ、夜だし良いか
「あ、ああ…。良いぞ…!」
「で、では、失礼…します!」
互いに顔を真っ赤にしながら体を寄せ合わせた俺たちは、事前に示し合わせたかのようにお互いの唇を重ねた。
「紅…音…」
「楽郎…さん…」
俺たちは星を見にきたはずなのだが…体を寄せ合った時にそういう雰囲気に近いモノになってしまった。
……既に何度か、してるのもあって、スイッチが入りかけたが、流石にそこは鯖癌の時に培った方法で理性を抑えた。流石に外はな…
「っ……」
「んっ……」
顔を離すと、ツーッと重力に従い銀色の糸が弓形に引いた。
「……」
「……」
お互いに無言で気まずい…。
「あ、あの…!楽郎さん!」
「な、なんだ!?」
「その……そ、空、とても綺麗ですね」
「そ、そうだな」
空を見上げると、紅音の言う通りとても綺麗な星空だった。こんなにも星空が綺麗なら…先祖に天体狂いが居たのも納得だな…。
「……なぁ、紅音」
「は、はい!?」
俺は、紅音に伝えようと考えていた事を紅音に伝える事にした。
……緊張するな。
でも…俺の想いを…今後を…紅音に伝える。
「……実はな、俺大学を卒業したら────」
「本当ですか!?」
「ああ。まだ確定したわけではないんだが…」
「それでも私は、楽郎さんが目的の為に頑張る姿を見たいです!」
「楽郎さんがどんな道を進んでも…私は楽郎さんを好きでいます!ずっと好きなままでいます!」
「だから、頑張ってください!」
「ありがとうな…紅音」
そこまで言われたんなら、俺も頑張るしかないな
「……一つ、過去の話をしても良いか?」
「楽郎さんの過去ですか?」
「俺の…というか、俺の先祖、だな。」
「ご先祖様ですか!聞いてみたいです。」
「わかった。なら、語ろうか。」
「実はな、俺の…陽務の血は皆何かしらの趣味に没頭してる家系なんだけどさ」
「これは昔、聞いた話なんだけどさ、陽務の由来は、確か明治辺りに星次郎っていう人が居たそうなんだ。」
「この人は、とてつもない天体観測狂いだったそうでな、自分が餓死寸前まで朝も昼も夜も空を見上げてたそうなんだわ」
「そんでもって、名前が"星"でさらに務めにするくらいに太陽が好きって事で、陽務になったそうだ。」
この話は昔、陽務の趣味狂い共が集まった時に語られたそうだ。俺は、父さん達にそれを聞いた。今だったら、こんなにも趣味狂いばっかなのも納得が行く。しかも俺と瑠美に至っては両親共に趣味狂いのハイブリッドだしな。
「そんな人が居たんですね、前に楽郎さん達が趣味に生きてるというのは聞きましたが、納得です。」
「うん。それでな紅音……」
「はい?」
……
「……好きだ」
「楽郎さん!? あの…えと…私も大好きです!」
「いきなりでごめんな紅音、でももう一つとても大事な話がある。」
「……はい」
これは俺にとっても…紅音にとっても…。とても重要になる話だ。だって…
「俺は…紅音の事をとても大事に思っている。」
「まだ日は浅いかもしれない。でも…俺はずっと一緒に居たいと思うくらい紅音の事が好きだ!」
「だから…この先もずっと一緒に居て欲しい!」
「楽…郎さん…」
俺は…紅音へ抱いてる想いを伝えた。重いと思われるかもしれない。もしかしたらそれで離れてしまうかもしれない。でも、俺はそう思ってしまうぐらいに紅音を愛してる。
「楽…っ…!」
「紅音!?」
紅音の瞳からは、涙が零れ落ちた…。……笑顔のまま。
「楽郎さん…!」
「紅音…うぉっ!」
次の瞬間、紅音が俺の胸に飛び込んできた。
普段であれば受け止めて抱きしめるとこなのだが……今はベンチに座っており、そのままバランスを崩してしまった。つまり
「私も楽郎さんとずっと一緒に居たいです!」
「私も楽郎さんの事が大好きです!」
「ちょ…!紅音ステイ…! 一度、今の自分を見てくれ」
「はい?……!?」
俺は紅音に意図せず押し倒される形になってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
顔を真っ赤にした紅音がすぐに降りた。
本音を言うと満更でも…って何言ってんだ俺は…。
「大丈夫だから…。紅音が故意にそんな事したわけじゃないのはわかってるから。」
「は、はい…!」
「……楽郎さん、私も私の過去を話させてください。」
「紅音…?」
紅音の過去…。輝朝さんからは、あまり話したがらないと聞いてたが…。
「良いのか?」
「はい、楽郎さんでしたらお話ししても良いと思いました!」
「そうか…。」
紅音が自ら自分の過去を語ってくれるのか。
「お話ししますね。私が小さい時、私はとても体が弱かったんです。」
「ああ…。」
「それこそ、今みたいに走ったりなんて、以ての外でした。」
「いつも体調を崩してばかりで、お父さんとお母さんには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。」
「ですが、今の家にお引越しをしてから、グングンと調子が良くなったんです!」
「あの頃は挑戦したくても出来なかった私でしたが、今では走る事が楽しいんです!」
「努力したり、挑戦し続ける人を見ると、憧れて、尊敬しちゃうんです!」
「私は…そんなサンラクさんの姿を見て、私も頑張ろうって気持ちになったんです。」
「それが楽郎さんってわかって、好きになって…。」
「今もその気持ちは変わりません!私は楽郎さんが大好きなんです!」
「だから!私からも言わせてください!」
「ああ…!」
「私も、楽郎さんが大好きで、一緒に居たいです!ずっと一緒に居たいんです!」
「この先も、私と一緒に居てください!」
「紅音…!!」
そうだな…。隠岐紅音はこういう子だ。
何事にもまっすぐで、ひたすらに突き進めるんだ。
純粋な想いを伝えてくれて…。
何度も俺の事を好きって言ってくれてさ…。
「ありがとう…紅音」
「はい…楽郎さん」
この日、俺たちは互いの過去を知り、想いを伝える事で、恋人としての仲が深まった。
「では、帰りましょうか」
「ああ。」
俺たちは手を繋いで、紅音の家に向かって歩き出した。
次回、正月か紅音の卒業と受験後もしくは雑ピ達の尋問