やぁ、TS転生者の神田さんだよ〜。いやぁ、実はあの事件から3週間ほど立ってるんですけど、あの3人はいつも通り接してくれてるようでして。嬉しい、嬉しくない?私は嬉しい。精神強くて助かったわぁ。
しかも他にも何故かいろんな人と仲良くなれたし。起きてるときは渚とかカルマとか茅野とかが話しかけくれるし、たまに片岡さんとか奥田さんとか磯貝くんとか、いろんな人が話してくれるようになってクラスでの立ち位置も安定してきて、まさに青春を感じる今日このごろ。
私は陽キャ。ナイトプールでサーフィンする女!とか思っていた時に限って寺坂グループというか寺坂に毎回茶々いれられるんだけど。嫌がらせにしか思えないぜ!テンション下がるぁ〜。大体なんでそんなに敵視してるんですか?あっ元A組だからですかそうですか。
そんな平々凡々なハッピーライフを送っているとだんだん不安になってくるのが人というもの。というか何か大事なこと忘れている気がするんだよなぁ。あっもしかしてこれフラグ?
キーンコーンカーンコーン
おっチャイムが鳴った。さっき考えてたことは一端置いておいて、前の方を見ると…。うわ、でた。妖怪ビッチ女が殺せんせーにくっついてますねクォレワ。
そんな時期だったかぁ。これで私の平々凡々平凡凡な生活は終わりを迎えました。こいつの生活いっつも終わってんな。
だいたい事前準備はバッチリとか言ってるくせに実弾使ってるし、プライドからか渚の忠告聞かないし、ほんとあほくさやめたらこの仕事。(殺し屋)
まぁ殺し屋の時点で人じゃないんですけどね。初見さん。というか殺せんせー胸しか見てないやん。自称教師くんさぁ。やっぱり本当の教師は烏丸さんしかいないってはっきり分かんだね。というか殺せんせーもそうだけどビッチも烏丸さんも教員免許持ってんのかなぁ。
それはさておき、自己紹介が終わったあと、休み時間にみんなサッカー暗殺みたいな謎運動しにいった。皆誘ってくれたけど残念ながら私に暗殺はフヨウラ!ここ最近は活発になってるし、殺せんせーも全然寝かせてくれないから眠気が…
………ん?気づいたら教室で突っ伏して寝てたわ。てか教室タバコ臭いんだけど。あのさぁタバコは副流煙がやばいってそれ一番言われてるから。クソビッチくん教室前の廊下で吸うのやめてクレメンス〜。注意しに行こ。
はぁ〜このビッチせっかく優しく言ったのに無言なんだけど。はぁ(クソでかため息)聞こえなかったんかなぁ。これじゃあ本当に人じゃねぇなぁ。
まぁでも優しい神田さんはもう一度聞いてあげましょう(クソガキ)ふぁ!?こいつ私のことガキって言ったんだけど!もう許せんぞ!転生特典マシマシで動きを封じた後、お前を殺す!と取り巻き消失バグを起こしながらタバコを奪って烏丸さんに全部渡す。
喋ってくれたお陰ですべてが丸く収まったな。ヨシ!(現場猫)まぁ烏丸さんがいるので問題が増えただけなんですけど。種はあるけど仕掛けはないマジックだから逆に嗅ぎ回られると困るんだよなぁ。それはさておき、教室に戻って二度寝と洒落込みましょうかね。
………zzzzzz。なんかうるさいなぁ…。あっ!やべ休み時間終わってたわ。皆戻ってきてんじゃーん。というかビッチこっち見るのやめてクレメンス。お前が見ると視線が痛たたたたた。いくら顔面が整ってる紫黒のロングヘアーのくすんだ碧と赫の目を持った完璧最強美少女といえどここまで注目されると消滅しちゃう!慰謝料ぶん取らなきゃ。(使命感)
ままええわ。てかどうせビッチ授業しないんだから帰ってくれないかなぁチラッチラッ。帰らないみたいなので寝ます。存在が自体が嫌いだと思っていたけど、もしかしてこれボーナスイベントなのでは?神田は訝しんだ。
……いやぁ流石ビッチだなぁ。もうお前が担任でいいよ。ずっと授業しててくれ。(手のひら返し)てことで寝てカット。体育も同じでビッチ先生の体操服イベントも軽く学級崩壊するのも寝てカットだ!これはもう完璧で究極のRTA走者。これにはゲッターもニッコリだな。
やべ、気づいたら改心イベント始まってる。ちゃんと謝罪して自分ができることを精一杯やろうとする姿勢は見直したわ。でも私まだ謝罪されてないんだよなぁ。しかも不埒な視線を送ってくるし、マイナス1億神田ポイントだわ。…神田ポイントってなんだよ。
おっ皆が正式にビッチ先生と呼び始めた。事あるごとにビッチって言われてて草なんだけど。だいたい格好がもうビッチなんだよなぁ。あっキレた。割と皆も楽しそうだし、良かった良かった。ある程度は原作通り進んでいるみたいだね。私以外の不安要素が多すぎて泣きそうだけど。そろそろ私の中のカンディーも助走をつけて殴るレベルで怒り始めるわ。
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今回の任務は超生物を殺すこと。そのために一応教師という枠で暗殺しないといけないのは不服だけれど、私なら授業をするまでもなく完璧に暗殺できる。
いろいろなプランの中からわざとコンビニで襲われて、そのまま救出してもらうというベタなストーリーで進めたけれど、対象は案外簡単に引っかかって正直拍子抜けしてしまった。
それでも最新の注意を払いながら、続けて色仕掛けをしていたけれど驚くほど色仕掛けが効果的みたい。顔があからさまに発情している。暗殺予定の学校での自己紹介は全て烏丸に任せてずっと対象を観察していた。ガキ共の印象なんて表面上だけで十分だ。
紹介が終わると対象は校庭でガキ共と遊び始めた。私は烏丸とその様子を廊下から眺めながら、おもむろに取り出したタバコを吸った。
「色々接近するために手段を用意していたけどまさか色仕掛けが通じるなんて思わなかったわ」
「だが、ただの殺し屋を学校で雇うのはさすがに問題だ。表向きのため教師の仕事もやってもらうぞ」
はぁ、めんどくさくてしょうがない。ガキどものおもりなんてほんとに勘弁してよね。そう憂鬱な思いを馳せていると、不意に後ろから声がした。
「やぁ烏丸さん。それとイリーナ。生徒の前でタバコを吸うのはいかがかなものかと思うよ。タバコには副流煙というものがあってね。それは吸っている本人よりも周囲の人に非常に有害なんだ。だからタバコはやめてくれないかい?」
驚き、急いで振り返るとそこには神田美琴がいた。確かに今後の計画のことを考えていたが油断していたわけではない。足音が無かった?いやそもそも気配すら感じなかった。彼女はただの生徒じゃない。今までの暗殺者としての経験からそう思った。
データでは怪しい点も見られなかったが、もしかして潜入している暗殺者ではないのか。そんなことを考えてしまい、彼女の言葉自体には全く脳のリソースを割けず、なにも聞いていなかった。
「再度言うね。タバコ、やめてくれないかな」
その言葉には明らかな違和感が含まれていた。そしてわたしはこの違和感の正体を知っている。世界中を回っていた時にたまたま出会った人間がこれと同じような違和感を感じさせたからだ。
違和感の正体とは、彼女は私を人間だと思っていない。それに尽きる。つまり彼女からみた私は真の意味でヒトモドキにしか見えてないということだ。
ただ、少しは動揺したものの、相手はただのガキ。冷静に観察すれば武器も持ってない上、立ち振る舞いに隙がありすぎる。極めつけは同族の匂いもしない。
さっきは油断していないと思ったけれど、あまりに上手く行き過ぎて調子に乗っていたのかもしれない。だからこれはただの偶然。それが一番しっくりくる。
だいたいこんな精神異常者のガキに舐められっぱなしっていうのも癪に触るし、話を聞いてやる通りもない。
「いやよ。なんでガキの言う事聞かないといけないの?」
その瞬間、彼女が漂っている雰囲気が変わった。この感覚は…覚えがある。私が暗殺者になるために師匠に従事しているとき、師匠が訓練で私に本気で殺気を放った時の雰囲気と似ている。そう、似ているだけ。圧倒的に殺気の濃度が違う。こっちのほうが何倍も何百倍も濃かった。
一体何をしたらこんな殺気が出せるようになるのだろうか?そもそも人間にこれが出せるのか?矢継ぎ早に質問が出てくるが、もちろん答える人はいない。
体はかろうじて立っていられているが手足の震えが止まらない。逃げろ、イリーナ・イェラビッチ。こいつは今までの誰よりも、あの怪物よりもヤバイと、自身の生命を脅かすものだとそう本能が叫んでいる。そう思いすぐに逃げ出そうとしたが私がそれを実行することは叶わなかった。
「そうかそうか、それは残念だ」
彼女がそう言った途端、体が動かなくなった。つま先から頭まで指一本たりとも動かせない。声も…出せない。
あぁ今日この日ほど私の優秀な頭脳を恨んだ日はない。何も理解できず、空っぽな頭だったらどれだけ良かっただろうか。今彼女が私を羽虫や物としてでなく、人間として見ていることに気が付かなければどれだけ良かっただろうか。
彼女が一歩一歩近づいてくる。拒絶することなどできるわけない。彼女の足音が死へのカウンドダウンに聞こえてしょうがなかかった。殺される。確実に殺される。今日、イリーナ・イェラビッチはその生涯に幕を下ろすのだとそう、確信した。
そして彼女が目前まで迫り私の恐怖は最高潮へと達した。私の耳にはもはや高鳴る心臓の鼓動しか聞こえていない。
彼女が右手を伸ばしてくる。首をへし折るのか腹を腕で貫くのか。もはやそういった現実離れしたことでもされそうだ。
しかし、彼女は私が想定したことは一切実行しなかった。彼女は私からタバコをすべて取り上げ、存在を忘れていた烏丸に投げ渡すとそのまま教室へと去っていった。
彼女が見えなくなると同時に体の自由が戻り、私の心境は安堵一色に染まった。良かった助かったという気持ちが心を覆い尽くしている。体の震えは多少残っているものの、もはや大した問題ではない。
そうして安堵に浸っていると烏丸が声をかけてきた。
「助けることができずに申し訳ない。彼女の特異性は理解していたつもりだったのだが、調査不足のようだ」
「……ねぇ烏丸。あの化け物何なの?私を動けなくさせることもそうだし、あの殺気も。あんなの人じゃ不可能よ。特異性なんて言葉で片付けられないくらいの真の異常。しかも半端に顔が良いせいで不気味なんてもんじゃない。そもそもほんとに人間かしら?もしかしたらあのタコの仲間なんじゃないの?」
「…今までの調査ではただの生徒だ。怪しい経歴もない上、学校生活でも欠席や早退が多いだけで彼女の特異性に関係するとされる物事は一切確認されなかった。だが今回の件でさらなる調査が必要だと判断した。彼女のことはこちらに任せて暗殺に集中してくれ。」
「言われなくても分かってるわよ。それと、手に入った情報があれば私に共有しなさいよね」
「善処しよう」
善処するってことはあんまり信用できないわね。とりあえず私の方でも情報を探ってみましょう。関わりたくはないけど、本当に致し方ない。ああ、最悪だわ。それに憂鬱。
あと、もうしばらく禁煙ね。さっきので確実にタバコに対するトラウマができてしまった。タバコは私の相棒と言っても差し支えなかったのに、本当に残念でしょうがない。
それから暗殺の方は順調に進んでいてお昼休みに対象をベトナムまでチャイを買いに行かせて引き離し、そのうち間に私が連れてきた男たちに倉庫で待機させ、今は潮田渚に情報をもらっている最中。
「触手一本なら破壊できた人はいるけど、その程度じゃ殺せんせーは余裕でした。たぶんすべての触手を同時に壊すくらいしないと、とどめを刺す前に逃げられます。あと、闇討ちするならタバコ、辞めたほうがいいですよ。若干臭います。殺せんせー、鼻ないのに、鼻いいから」
「そう、ありがと」
その程度なら計画に支障はないわね。あらゆる状況で暗殺をしてきた女。だけど彼女の行動次第では予期せぬ出来事が舞い込んでくるかもしれないし、できるだけ情報を集めときましょうか。
「今度はクラスメイト全員の情報を教えてもらおうかしら」
「なんでクラスメイトの情報がいるんですか?先生なら事前にいろいろ調べてそうですけど…」
「そうね。だけど今回欲しい情報は好きなこととか嫌いなことかじゃなくて、普段の行動とかなのよ。さっきは不和が生じちゃったじゃない?私もこんな空気で暗殺したくないし、できるだけ仲良くしたいと思ってるのよ」
「…そう、ですか。わかりました」
こんな簡単に騙されるなんて、やっぱり中学生ってチョロい。それにしてもこれでようやく神田美琴の情報が手に入る。
「うーん。そうね、まずは神田さんのことについて教えてもらいたいわ」
「そうだなぁ…。勉強も運動もできてまさに天才って言う感じの人なんだけど、それだけじゃなく、優しくて、気が利いて、たまに放課後勉強を見てくれる人です。最近は僕や茅野、後はカルマくんとよく話してますね。あと、よく寝てます。たぶん今も教室でぐっすりしてると思います」
あれがいい人のふりをして一般人の中に紛れ込んでいると思うと寒気がする。紛れられているのはひとえに擬態の上手さか、それとも洗脳でもされているのか。あの整った顔に騙されているのか。この時点で情報の真偽があやふやになってしまった。最悪だ。一番気になった寝ることに関しても、碌な情報を得ることはできないだろう。
「なんで寝てるかっていうのは聞いたことはある?」
「あ〜この間、目の隈が凄くて心配になって聞いてみたら、勉強しているって言われました。神田さんは真面目だからたぶんこつこつ勉強してて、それで睡眠不足になってるんじゃないかと」
「なるほどね。最後に彼女ってタバコが嫌いとかって聞いたことある?」
「先生以外にタバコ吸う人がいないのでそもそも話したこともないですね」
「分かったわ」
ほぼ確実に何かしらの行動を夜にとっていることは分かった。それも確実に殺しの方面で。まぁいいわ。真偽は定かじゃないけど情報は抜き取ったし、あとは烏丸の仕事。タバコの件は謎のままだけど、生徒の前では擬態してるでしょうから、取り敢えず暗殺の邪魔はしてこないでしょう。これが分かっただけでも僥倖だわ。
「そろそろ他の生徒のことを教えて頂戴。そうね、赤羽とか」
こうしてしばらく情報を引き抜けるだけ引き抜いた。他の生徒の情報はあまり成果は上げられなかったけれどそれが主目的じゃないから大丈夫。オマケみたいなもんだし。
そして時間は経ち時刻はもう夕暮れ、職員室にも夕日が差し込んできて部屋を橙色に染め上げる。私は席に座りながら今日のこと、とりわけ彼女について思い出していた。
彼女…神田美琴は私がBとVの違いも分からないガキ共に正しい発音を教えていたときもずっと後ろで寝ていたし、私が暗殺に失敗した時も外の芝生の上でレジャーシートを敷いて寝ていた。
失敗したことにイライラしてガキ共を煽ったときだってずっと寝ていたし、烏丸に二面性を思わされた時だって教室でずっと寝ていた。
あいつが起きていたのは私がガキ共に対して謝罪するときと昼食のとき、あとは殺せんせーの授業の時と教室移動するときとトイレするときくらいしかない。
はっきりいって睡眠の悪魔かなにかに呪われたんじゃないかっていうくらいにはずっと寝ている。というかさっきからずっと待っているんだけど、遅いわね。
それからさらにしばらく待ってもうすっかり日も落ちた頃。ガラガラガラとドアを開く音がして烏丸が入って来た。遅いって言おうと思ったけれど、額に汗が浮かんでるみたいだし、やめておきましょう。
「遅れてすまない。話を聞かせてくれ」
「まぁ要件と言ってもこれだけよ。神田美琴に関する調査書が出来上がったから直接渡しに来たの」
「…まさか一日でここまで情報を集めるとは、流石だな」
私は先程まとめた神田美琴に関するレポートを烏丸に渡すとどうやら好評のようだ。対人のスペシャリストである私を舐めないでほしい。
「喜んでもらえて何よりだわ。それじゃ私はこれで。また明日ね」
「ああ、また明日。君には無粋だとは思うが気をつけて帰ってくれ」
「…言われなくても分かってるわよ」
少しぶっきらぼうに言い、そのまま足早に校舎を出た。
さて、明日の暗殺はどうしようか。色仕掛けは効かないから、朝職員室で奇襲をかけてもいいし、毒物を試してみてもいい。あらゆる手段を持って暗殺しよう。
ガキ共だってビッチビッチうるさいけどその実、慕ってくれているのが分かるし、やりがいもある。だから私は暗殺者としてだけじゃなく、教師としてもこれからの学校生活が少し楽しみになっていた。
だが私はミスをした。とんでもなく初歩的なミスをした。山には静寂が蔓延り、暗闇はかろうじて月に照らされている。そんな襲うには絶好な場所なのにもかかわらず油断していた。
神田美琴がわざわざ私を襲う理由はないだろうと精神異常者に常識を当てはめてしまったせいだろうか。烏丸の言ったことを呆け話に変換してしまった自分への罰だろうか。
木々の隙間から現れたのは、最も警戒すべき存在、神田美琴だった。
木々の隙間から降り注ぐ月光が、彼女を照らしている。両目は閉じられており、その美貌も相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。
そんな彼女からは何も感じない。悪意も敵意も好意も善意も殺意も戦意も何も感じない。だからこそとても不気味だ。
「やぁ。こんばんは。こんな山の中腹で奇遇だね。まるではじめから待ち伏せていたような偶然だ」
面白いほどにねと付け加える彼女に対し、私は冷や汗と手足の震えが止まらなくなる。
「おやおや。フフ、まるで生まれたての子鹿のようだね。まぁ安心してよ。別に君を拷問したり、殺したりするわけじゃないんだから。ただ寝てもらうだけだよ。それもほんの少しね」
彼女がそういった次の瞬間、全身に強い衝撃が走った。意識が飛び、気がつくと私は先程の場所から100mほど離れていた。
全身は至る所が木の枝や小石で体はボロボロ。出血もしているし、確実に骨も何本か折れている。もはや痛みでうめき声を上げることしかできず、助けを呼ぶこともできない。
そんな惨めな私の様子を見てか彼女は赫と碧の瞳を輝かせ、笑っている。
死にたく…ない。せっかく…教師…に…成れたと…思った…のに…。
その思いとは裏腹に無常にも私の暗い闇の世界へと意識は沈んでいった。