【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】 作:いる科
書き溜めたはずの文が一瞬で溶けていく……(諸行無常)
相澤が、五条玲珠に対して教師として下した評価。
それは端的に言えば、『即戦力級』――そして、『教えがいがある』だった。
発動時間制限という縛りこそあるものの、おおよそ弱点らしい弱点のない無敵の個性。
しかし、強い個性のみで務まるほどプロヒーローの座は安くない。
どれだけ強い個性でも、豚に真珠では意味がないのだ。
しかし、個性把握テストや戦闘訓練において彼女の見せた、合理的な思考に基づいて行動し、最大限の結果を出す姿勢。
そのやり口を、相澤はいたく気に入っていた。
平たく言えば、思考回路が似ていたのだ。
……唯一、他者を嘲るあの態度についてはあまり理解が及ばないが。
なればこそ、これから教えていくべきはプロヒーローとしての考え方。
相澤自身が積み上げてきた、ヒーローとしてのキャリア。
それに基づく合理的な立ち回りを教え――結果として、上の指示を仰がなくとも常に安定した正しい行動が出来るようになれば。
可能性はそれこそ無限大だ。
それこそ、将来ヒーロービルボードチャートJPのTOP10に入るほどの成長を見せるやもしれない、と相澤は考えていた。
――しかしそれは、間違った評価であったと言わざるを得ない。
「一かたまりになって動くな!! 13号、生徒を守れ!!」
「え……」
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!! あれはヴィランだ!!」
突如黒い霧から現れたヴィラン連合と名乗る集団に対し、相澤が取った行動は――単騎での突撃だった。
生徒たちを守らねばならない立場なのはもちろんの事――。
この場で誰よりも経験豊富な自分が、生徒たちの心の支柱となって理知的な判断を助けなければならない。
生徒全員が混乱して自滅。
それが最悪のケースだからだ。
だが……それでも、と。
考えてしまった。
一対多数、集団との長期決戦。
緑谷が言ったように、言うまでもなく苦手な分野――。
このままでは分が悪い。
だが、この状況を一瞬で変えられる個性を相澤は知っていた。
(五条なら――。……っ、ダメだ、俺は何を考えてる)
個性への信頼はあった。
しかし、五条へのヒーローとしての信頼はなかった。
自身が命にかえてでも守るべき、一生徒。
五条自身が判断し、それが最適であると考えて加勢しにくるならそれはいい。
それだけの強さが彼女にはあるからだ。
だが。
教師である自分が、ヒーローである自分が。
僅かでも、能動的に彼女に頼ろうとしてしまった。
愚かな自分の思考を自覚した……相澤の葛藤。
冷ややかな合理と、熱く燃えるヒーローとしての矜恃を持ち合わせる彼だからこそ生まれた……時間にして一秒にも満たないその逡巡が、致命的な転換点となってしまった。
「しまっ……!!」
気づけばワープの男は生徒たちの元に。
そして、相澤は主犯格であろう手だらけの男に、肘を崩されていた。
「個性【抹消】……永久に消し続けられるわけじゃないんだろ? 動き回るから分かりづらいけど、たまに髪が下がる時がある……あぁ、そりゃそうさ。……ヒーローだって瞬きはするもんなぁ?」
「チッ……!!」
「なんだっけ、えーっと……ヒーローは一芸ではつとまらん、だったか? かっこいいなぁ。かっこいいなぁ!! でも……無理をするなよ――イレイザーヘッド」
距離を取って仕切り直すが、しかし片腕を使えないハンデはあまりにも大きい。
(マズったな……教師が聞いて呆れる)
しかし、だ。
本来ならば。
たとえ合理を突き詰めたとしても、生徒に頼る選択肢など浮かぶはずがない。
図らずも五条玲珠の存在によって生まれてしまったこの状況そのものが、彼女の異質さを雄弁に物語っていた。
そして。
奴は弾けた。
いつの間にか目の前に現れた五条玲珠の隣には――オールマイト。
「や。相澤くん。私がひっそりと来た……っと、危ない! 私の相手は君か? 中々個性的な見た目だね」
「……!?」
【瞬間移動】による戦場からの離脱――。
相澤が動き出した直後には既に、彼女は事態解決に向けて動いていた。
それも、クラスの全員を守るための正しい行動を。
そしてプロヒーローの到着が遅れることを聞き、オールマイトを連れて戻ってきたのだ。
恐るべき判断の早さ。手際の良さ。
下手なプロヒーローよりもよっぽど実践的だ。
実際、ヴィラン連合の現れたあの瞬間。
相澤の脳内に、五条の【瞬間移動】という選択肢は浮かばなかった。
相澤は、彼女に対する評価を一つ改めた。
いつかヒーローに……ではない。
個性。戦闘力。視野。判断力。
彼女のそれはとっくに、並のヒーローを凌駕している、と。
「【瞬間移動】……? 逃げられてたのかよ、黒霧ィ……!! 言えよ……っ!! にしても、オールマイトだけを連れてくるなんて……助かるよ。おまえ、良い個性だがバカだな。何十人もプロが来たらゲームオーバーだったってのにさ……。それとも、つれてくるのは一人が限界だったのかな?」
……違う。
人数の制限も勿論あるにはあるのだろうが、五条のこれは愚策ではない。
何故なら目の前の男は、一つ失念している。
――五条玲珠は、プロヒーローと同等か、それ以上に強い。
相澤がたった今改めた、五条玲珠への評価だ。
そしてそれは……最早、疑いようもない事実。
「ベラベラとうるっさいなぁ……。なぁおい、コミュ障だろお前。人の事とやかく言う前にまずさぁ、その訳の分からんキモイファッションから見直せよ……」
余裕たっぷりな声色でヴィランを挑発する彼女に、相澤は戦慄した。
何故なら――その姿に、他でもない自分自身が安心させられてしまったから。
脳が剥き出しの怪物があのオールマイトと渡り合っている……この明らかに異常な光景を目の前にしても。
そんな事は関係ない、とばかりに。
一線級のトップヒーローは皆、学生時から逸話を残している。
……どころの話ではない。
彼女の器はもう、既に――。
……全く。
むしろ彼女に今すぐプロヒーロー免許を渡してやれない社会の方に、不合理を感じるほどだ。
相澤の期待、というよりも確信に近いものだったが――とにかくそれに応えるようにして、五条は結果を魅せ続ける。
不意打ちとはいえ相澤の肘を砕いたあの狡猾なヴィランを、圧倒したのだ。
「【物理無効】ってとこか……? 【瞬間移動】に【個性看破】に【物理無効】……脳無でもねぇのに滅茶苦茶しやがって、クソチートが……!!」
「物理無効っていうか、近づく度に遅くなってんの。アキレスと亀――あ、ほい卒には分かんないかぁ、ごめんごめ〜ん!! もう君が弱いのは充分分かったからさっ、さっさとおねんねしてくれる? ……っと、身代わりか。やるね」
「……っ、痛ぇよ、クソチート……!! 本気でぶん殴りやがって……。危うくゲームオーバーだ、こんなのがいるなんて聞いてないぞ先生……!! おい脳無、あのお邪魔キャラから殺せ。オールマイトより全然厄介だ」
五条の実力を察した敵の大将が、余裕を無くしている。
そうだ。お前が今対峙しているのは――免許をまだ持っていないだけの、トップヒーローだ。
「無理無理、ボクをやっつける方法なんてないから。ちょっと考えれば分かるでしょ……それとも何、君って無理ゲー好んでやるタイプのマゾヒスト?」
「……ッ!」
「あぁ、そうだ、消太先生。一応今の状況なんだけど――」
語られたのは、緻密に練られた――非の打ち所のない、あまりに完璧な打開策だった。
とても、あの一瞬で考えたとは思えないほどの。
「……そうか、分かった」
「バカって言ったのがそんなに気に障ったかいチートJK……! 全部掌の上ですってか……? ああ、恥ずかしくなるぜ、ヴィラン連合……!!」
「……五条、お前がうちの生徒で良かったよ。俺一人だったらどうなってたか分からん。……ありがとな」
気づけば、本音が零れていた。
一生徒には絶対に言わないであろう、本音が。
「なーに弱気になってんのさ消太先生、君にはまだまだ働いてもらうからね」
「……勿論だ」