【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】 作:いる科
「……なるほど。あの脳無と呼ばれていたヴィランは、AFOによってつくられた改造人間なんだね……」
端的に纏め、なんということだと眉間を抑える塚内に、玲珠は軽く首肯した。
まさか、一般の警官がオールマイトの親友とは思わなかったが。
「まさか、あの怪我で生きていたとは……」
AFOが復活して暗躍を始めている、という情報を得られたのは、玲珠にとっても実に僥倖だった。
勿論AFOは死にました、と言われた方が嬉しいのだが……取り返しのつかなくなる前に、この情報が得られた。
その意味は果てしなく大きい。
……AFOに手が加えられた個性からは……ノイズが走ってしまい、詳細な情報が得られない。
緑谷やオールマイト、青山などがそうだ。
脳無のそれはノイズがさらに激しく、様々な人間の記憶が入り交じってバグってしまっている。
あぁ、これでは何も分からない。
そして、黒霧と呼ばれていた男のそれもそうだった。
黒霧は脳無だったのだ。
しかしそのぐちゃぐちゃにバグった記憶の断片に……若き日の相澤と香山――ミッドナイトがいたのは、何故なのか。
ただの他人の空似なのか?
(ダメだな…………不確定な情報が多すぎる……。それでもこの人には全て話しておくべきか……? 考えろ……天才美少女なんだろ五条玲珠、最適解を導け……!!)
雄英に潜んでいる裏切り者――青山優雅の事はまだ伏せている。
なぜなら、今ここで話してしまえば間違いなく彼は死亡するからだ。
彼を視て、そう確信した。
彼が決して根っからのヴィランではないことも――。
……慎重に検討する必要がある。
今の自分では、彼を魔王の手から守ってやれない。
守る行為自体認められない。
しかしそもそも……青山を見捨ててしまえば済む話ではある。
緑谷やオールマイトなら、絶対にしない選択だろう。
――違う。
だからこそ、自分が進んでやる必要がある。
平和の象徴を継ぐ、完璧なヒーローになるために。
(…………恨んでいいよ、優雅。ボクは大義のために……世界のために、君を見捨てる)
「出久、少し外してくれる? ここから先は……多分、ホントのホントに機密だから」
「う、うん。分かったよ。……あのさ。五条さん、本当にありがとう」
「今そういうのいいから。早く行けって」
「う、うん……またね!」
(……ありがとう、か。皮肉だなぁ……。今からボクは、君の信頼を裏切るってのにさ)
……ああ、そうだ。
黒霧の件についても話そう。
まずは自分が、正義の味方として信頼されなければならないから。
後懸念しておくべきは……死柄木弔――本名志村転弧の記憶が、何故か視えなかったことくらいか。
恐らくは記憶喪失なのだろうが……。
AFOなら人の記憶をいじるなど造作もないだろうが……どこか気にかかる。
「志村……だって……? いや、まさか……まさかな」
……オールマイトは、彼の本名を知った時何を驚いていたのだろう。
知り合いに、同じ苗字の人でもいるのだろうか。
休学があけて、次の日。
いつも通り盛り上がる皆の中で――。
一つ、席がなくなっていた。
「あれ? 青山いなくね? なんで?」
「自主退学したんだってさー、まだ始まったばっかなのにな……」
「あんな事があったんだ、怖気付いても仕方ねぇよ。でも残念だな……まだあんま話したことなかったけど、クラスメイトが減っちまうのは嫌だぜ」
「私結構仲良くしてたのにな〜」
「芦戸、アレを仲が良いとは言わん……」
「えぇ〜? そう?」
「ハッ! 怖気付いたモブの事考えてる暇なんざねェよ!!」
「かっちゃん、そういう言い方はよくないよ……」
「そうだぞ爆豪くん! こういう時こそ一致団結し、心機一転、クラスの士気を高めるべきだ!」
「デクテメェ最近調子乗ってんな!? いちいちいちいちそこのクソエリートみてぇに噛み付いてきやがって……!!」
「だ、だってなんか最近のかっちゃん話しやすいから……」
「あぁ!!? 俺がいつ丸くなったってんだ!?」
「声をあまり張り上げるな、爆豪くん!!」
「お前も張り上げてねぇか……?」
青山優雅――ヴィランスパイの容疑により拘束。
その後両親と共に無惨な死体で発見されるも、極秘情報として処理。
本来であれば、一年を通して培われた友情に彼は救われるはずだった。
しかし今はまだ、四月。
クラスの中に、彼の友人と呼べる存在は未だいなかった。
……1―Aの生徒が、退学の理由を――彼の死を知ることはない。
彼の存在は、やがて……忘れられるだろう。
…………。
殺人をするのは、初めてではない。
……勿論手を下した、という意味ではない。
殺したのはAFOだ。
それでも――。
――そう誘導したのは、自分だ。
AFOが動かざるをえない状況を作ることで、自らの情報の信憑性を上げた。
青山優雅の死によって、ヒーロー並びに警察を引き締めた。
オールマイトによって蔓延してしまった平和ボケを、取り払った。
酷く冷えた論理的な思考で――損得勘定で、人の命を軽々しく扱った。
「…………っ」
こみ上げる吐き気と罪の意識は、抑えることが出来なかった。
視界が酩酊している。音もなんだかよく聞こえない。
ここまで弱るのは、いつぶりだろう。
……否が応でも思い出される。
真っ暗闇に、いつまでも一人。
痛む体を抱いて、寒さに凍えていたあの地獄の日々――。
「……ゅ」
……? 何だろう。
誰かが、何かを言っている。
……よく聞こえない。もっとハッキリ喋って欲しい。
「……じゅ」
――。
「玲珠!」
名前。そうだ、名前を呼ばれている。
返事を――返事を、しなくては。
三回も呼ばれてしまった。二回も無視してしまった。
ああ、ダメだ。
「……ひっ、ご、ごめんなさ――」
怒られる。殴られる。
完璧にしていないといけないのに。
五条玲珠は完璧でなくてはならないのに。
そうでないと、生きてはいけないのに。
ほら、とんできた。手が。
自分の頭を――。
……。
……。
殴られ、ない?
「玲珠……?」
温かい手が優しく、玲珠の額に触れた。
温かい声が優しく、玲珠の心を包み込んだ。
……ああ。そうだ。
そうだった。
もう、悪夢は……とっくにこの手で終わらせたのだ。
二度とあのように、理不尽に殴られることはないのだ。
……どうやら相当精神が参ってしまっているらしい。
目の前にいる親友は、自分を殴ることなど絶対にしないというのに。
「……響香」
「玲珠、どうしたの? 上の空だし、それに……なんか顔色悪くない? 体調悪いの? 大丈夫? 保健室行く……?」
いつになくこちらを心配する親友に玲珠は、はてどうしたものか、と思案する。
自分は今、そんなに酷い顔をしているのだろうか。
……いけない。これではダメだ。
五条玲珠は、完璧でなくてはならない。
五条玲珠が心配されることなど、守られることなど、あってはならない。
原点を思い出せ――。
自分の命は、何のためにある?
(ふーー……落ち着け……心を沈めて……笑顔を作って……)
「ん、ちょっと眠かっただけだよ、大丈夫大丈夫。昨日徹夜でスマブラやっちゃってさぁ〜〜……ふあぁ、欠伸止まんないや」
「……そう? ならいいけど……無理しないでね。困ったら何でも言ってね。玲珠が凄いのは知ってるけど……ウチら、親友でしょ」
「なーにいきなりクサいこと言っちゃってんの。あ……次作る曲の歌詞?」
「ホントそういうとこ!! ウチ本気で心配してんのにさぁ!!」
「はいはい、あんがとあんがと〜。……実際、助かったよ」
「……?」
……。
(…………ごめんね、響香)
――たとえ親友でも。
――話せないことも……変えられないものも、あるんだよ。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
絶対、おかしい。
耳郎響香は、少なくとも五条玲珠という少女の感情の機微に対しては人一倍敏感であるつもりだ。
彼女が時折見せる、寂しそうな表情。
見ているこちらが泣きたくなってしまうような――。
恐らくは自分しか気づいていない、彼女の本当の顔。
傲慢で超然的な仮面に隠された、哀しい素顔。
「響香……?」
暗闇の中で助けを求めるような、神に縋るかのような弱々しい声に、思わず抱きしめたくなる。
……本当に、どうしたというのだろう。
心配して詰めてみると、いつの間にか彼女はいつも通りに戻ってしまっていた。
(……ウチが、弱いからだ)
きっとそうだ。
もっと強くなって、信頼されなければならない。
親友を名乗るならば。
オールマイトのように強く、気高く、決して倒れない支柱に。
……強く、ならなくては――。
(玲珠は……ウチが、守るんだ)