【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】 作:いる科
――「いいのよ。……おまえは――」
いつからだろう。
そこから先を、思い出せない。
何よりも大切な母の言葉なのに。
何よりも大切な母との記憶なのに。
その事を考えると、最近は何故だか五条玲珠が頭の中に出張ってくる。
何故だ?
傲岸不遜で、まるで敵などいないかのように振る舞うあの女は――母とは似ても似つかない。
なのに――なんでもないはずの言葉が、頭の中で、ぐるぐると。
ずっと、ずっと――。
母の言葉と、交互に。
繰り返すように。
――「いいのよ。……おまえは――」
――「――それは、君の個性だろ?」
――「いいのよ。……おまえは――」
――「ヒーローになったら――」
――「いいのよ。……おまえは――」
――「――その時君は……どうするの?」
「うる、さい……っ!!」
父――エンデヴァーの。
左の力を使わずに"一位”になる――それは最早、無理を通り越して夢物語になった。
だが、それがどうした?
ここで嫉妬や憎悪に駆られ、自分の筋をねじ曲げるようではそれこそ父と何も変わらない。
半分の力だけで、戦いきる。
たとえどんな惨めな結果になったとしても――。
俺だけは父を呪い、否定し続ける。
それが俺の結論だった。
……その、はずだ。
――それで、いいはずだ。
第一、第二種目を終えて昼休み。
五条vsオールマイトのエキシビションマッチを控えた会場は、「早く見せろ」と熱狂の渦に包まれている。
「おい見ろよ皆!! 凄えぞ、五条の特集がネットのトップ記事だ!! 流石五条、漢だぜ!!」
「……? 五条は女だろ」
「あ、まぁそうなんだけど……ホラ、とにかく見ろよ。あ、緑谷も! 一緒に見ようぜ!!」
「うん、勿論見るけど……ええっと、『オールマイトに宣戦布告!? 謎の美少女、五条玲珠の正体に迫る』……。す、すごいな。こんな短時間で……」
「いい趣味とは言えませんわ……本人に許可はとっていないのでしょう?」
「ケッ、マスコミなんてそんなモンだろうが」
「…………少し俺にも見せてくれ」
「あ、轟くん。うん。いいよ!」
――轟がその記事を見たのは、正直興味本位だった。
USJの襲撃の時、ただ一人――五条玲珠のみが、オールマイトと肩を並べて戦っていた。
あの強さの原点が、果たしてどこから来るものなのか。
どのようにして培われたものなのか。
知りたくない者などいないだろう。
だが、その内容は――。
「…………!!」
「……おい、なんだよこれ……デマじゃねえだろうな」
「……そんな。こんな事って――。だって、ウチ、こんなの、一度も……っ」
――控えめに言っても、地獄だった。
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『オールマイトに宣戦布告!? 謎の美少女、五条玲珠の正体に迫る』
―はじめに―
雄英体育祭当日、初めに誰よりも注目を集めたのはヒーロー科1―A 10番 五条玲珠さん(15)だ。
麗らかな容姿と確かな実力を併せ持つ彼女は、ヒーロー科の入試を首席で合格している。
彼女は人を食ったような態度でその場の生徒全員を挑発・鼓舞した後に、「オールマイトに勝つ」といった趣旨の発言を行った。
恐るべきは、それに対し「何を言っているんだ」と嘲笑する声が一つもなかった事だろう。
これは、彼女ならばやりかねないと思っている者が多数であることを意味するからだ。
実際現在のTwit〇erのトレンド一位は雄英体育祭を抜いて五条玲珠であり、彼女の写真や発言が切り抜かれ、あるいは発掘され、大きなうねりを生み出している。
そこで我々は、彼女の生い立ちや個性、現在のプロフィールなどを独自に調査した。
その結果判明したのは、彼女の壮絶な人生だった。
今ここで雄英ヒーロー科首席として立っていることが奇跡としか思えないほどの、悲劇がそこにあった。
1.プロフィール
[写真1]
朗らかに笑顔を浮かべる五条玲珠さん。
[写真2]
選手宣誓にてオールマイトに宣戦布告する五条玲珠さん。
五条 玲珠(15)女性。
誕生日十二月七日。
個性【無限】詳細不明。
※インターネット掲示板やSNSにおいて、無限に関する数式を具現化する効果があると予測されているが根拠は薄い。
2.過去(※過激な表現が含まれるため閲覧注意)
彼女の母は、彼女が齢六歳を迎えた日に死亡しており――――
(――雄英体育祭当日のネットニュースより一部抜粋)
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――幼少期。
玲珠が最も恐れていたことは、目を開くことだった。
目を開くと、何が何だか分からない気持ちの悪いものが一気に押し寄せてくる。
それはやがて、血の涙となって――声にならないほどの痛みと共に、玲珠の視界を暗闇に閉ざしてしまう。
開いても閉じてもどの道見えないのなら、閉じていた方が絶対にいい。
そう思うほどの激痛が、常に玲珠を苛む。
――なのに。
――それなのに、目を閉じると父は激しく怒る。
激しく怒って――割れた酒瓶で、殴ってくる。
いや、殴られるだけならまだいい。
たまに、刺される。
それくらい、その個性なら防げる――本気を出しなさい――そうでなければ神がお怒りになる――と、言って。
「ぁ……っ、あ゛……っ」
「いつまで喚いておられるのですか、玲珠様!! この程度の痛み、現世に溢れる混沌に比べれば些事のはず!! あぁ、あぁ、神よ!! 神よ、蒙昧な我らに試練をお与えください……っ!! あああああッ!!」
「ひっ……ごめ……ん、なさいっ、ごめんなさい……っ!! おとう、さま、ごめんなさい……ッ!!」
「私に謝るのではありません!!! 神にお祈り申し上げるのです!! 玲珠様、あなたは神の力を持って生まれてきたのですから、神にならねばならないのですッ!!!!」
「は、い……っ」
父が狂っているのだと分かったのは、母のおかげだった。
イカれた思想に取り憑かれた父と違い、母は普通の人だった。
だから――それだけ、強く憎まれた。
「お前なんかが……お前なんかが生まれたからこうなったのよ!!! 神? 違うわ、お前は悪魔よ!! 私の夫を返して……返してよ!!!」
――知るか、そんなもん。
……と、今ならそう言えるだろう。
だが当時は――当時の世界は、家族が全てだった。
それが誰であるかに関わらず、子供なんてそんなものだろう。
「おお、選ばれし神子様、玲珠様。私があなたにこのように試練を与えるのは、これが神の思し召しだからなのです。どうかご理解をいただけませんか。あぁ……どうか、この過酷溢れる世界に光をもたらしていただけませんか」
「……ひか、り……」
そんな事を言われても。
玲珠は生まれてこの方、光など一度も見たことがなかった。
「…………あたし、が……つよくなれば、いいの? そしたら……しあわせ、に、なれる……?」
「その通りでございます!!! 玲珠様が最強に、この世で最も高い頂に到達すれば!!! 自ずとこの世界は、救われ、光に満ち溢れるのです!!!」
……とあるところに。
個性終末論と似たような、それでいてアプローチの異なるアホくさい理論があった。
――ある一つの神がかった個性によって世界は統一され、永久に続く王朝が出来、真の平和が約束される。
……そんなバカげた話だ。
とある所に。
そのバカげた思想に取り憑かれた――"人の個性を見ることの出来る個性”を持つ男がいた。
とある所に。
平凡な――無個性と判断されたものの実際は、"理解することさえ出来れば最強の武器となる個性”を持つ女がいた。
男は彼女を見つけ、恋愛を装って彼女に近づいた。
「あれは――天啓でした。運命の出会い――神のお導きだったのです。成就させねばバチが当たるというもの……ああっ、あああ……」
彼女は、どうしてか男を好きになった。
理由などは、知らない。
母とはあまり話せなかったから。
女を手に入れた男は数々の手段を試みたが、どのように言葉を尽くしてもどのような試練を与えても。
彼女にその個性を自覚させることは、ついに出来なかった。
「あなたは偽物だったのですか……!? 私を誑かしたのですか……!!? いや!! しかし!!! そ、そ、そうか……!! 私の個性と組み合わされば――――」
醜悪にねじ曲がり、狂いきった末での個性婚――。
そうして生まれたのが、五条玲珠だった。
平凡な黒髪黒目の容姿をした二人から生まれたはずの玲珠は、それはそれは美しい見た目をしていた。
――突然変異だった。
白銀に煌めく頭髪、青く透き通る双眸。
彼女の容姿は、日を跨ぐにつれ、成長するにつれてより良く洗練されていく。
それを見て、玲珠の父が"神の起こした奇跡である”と曲解してしまったのも頷けるほどの――十万年に一人の美貌が、そこにあった。
そして。
用済みとなった母は次第に粗雑に扱われるようになり。
十二月七日――玲珠の誕生日に。
恐慌に陥り、玲珠に襲いかかった。
「あんたが…………あんたが、死ねば、私を……私を見てくれるはず……ッ!!」
そして不幸にも――その日、初めて玲珠は個性の制御に成功した。
「……は? 何よ……何よ、コレ!!!」
「……おか、あ、さま」
「この悪魔……っ、ついに本性を現したわね!!? 殺す気なんでしょ、私を!!! 邪魔な私をっ!!!」
「――――あた、し。おかあさまは……すき、だよ」
だって、ふつうだから。
ふつうの人だから。
こんなことを言ったら、また怒られる。
神様に、怒られる。
父が、癇癪を起こす。
けれど。
何故だか、それを伝えるのは今しかないと思った。
「おかあさまが、いい。……ふつうが、いいの――あたしも、おかあさまみたいに……」
「…………れい、じゅ?」
――ふつうに、なりたい。
鬱陶しく煌めく銀髪も、開けると疲れる訳の分からない青い目も、母に触れられなくなるこの個性も。
何も要らない。
……ただ。あなたの愛が欲しい。
その気持ちの一欠片でも母に届いたなら、どれだけ幸せだったろう。
長い時間をかければ、玲珠がもう少し成長するのを待つことが出来れば――あるいは、可能だったはずなのだ。
だって、母は壊れてしまっただけで――普通の人だから。
だがその日。
神の子に手を出した罪を、父は許さなかった。
「おおお!! 悪魔にっ、悪魔に取り憑かれてしまったのですね!!! 大丈夫――大丈夫ですよ……私が今あなたを救済してさしあげますッ!!!!」
「なんで!!? どうして!!? 私、こんなにあなたを愛しているのに……っ!!」
「人と人の愛などと、無知蒙昧にもほどがある!!! 戯言を言うのも大概にしなさい……!! 私が興味があったのは貴様のその"個性”だけ。真の神の子が生まれた以上は無用の長物ッ!! ああっ、なんと愚かしい女よ……ッ!!」
「……そんな…………それじゃあ、私、なんの、ために――」
――ふざけるな、と言いたかった。
――お前の方がよっぽど体罰をしているだろ、と言いたかった。
母はお前のせいで狂ったんだ。
母は自分のせいで狂ったんだ。
「おかあさん、なにも、わるくないのに。なんで……なんで……っ」
「――玲珠……」
狂気に染まりきった父と裏腹に、皮肉にも母は正気へと戻った。
あるいは、頭に昇った血が抜けきってしまったからかもしれない。
いや――。
今ならわかる。
母は今際の際に、探したのだ。
自らが生きた意味を。
生きた証を。
――未練しかない人生に、それでも納得出来るように。
玲珠の願いは――最悪の形で、叶ってしまった。
「ごめ、んね。玲珠…………ひどい、母親で……ごめんね。――――ごめ、んね」
血の匂いの充満した狭い部屋で、初めて母に撫でられた。
どうしてだろう。
ただそれだけの事なのに、心の底から温かくなる。
何を今更、などとはとても思えなかった。
それだけ玲珠も母を愛していた。
叶わぬ愛に身を焦がす――良くないところで、親子は似てしまったのかもしれない。
母が死の間際に探した人生の意味。
少なくとも、母にとって自分がそこにいた事が――たまらなく、嬉しい。
「ああ……今日、あなたの、誕生日だったのね。……ごめんね、祝ってあげられなくて…………ごめんね」
「おかあ、さま……おかあさま。おかあさま……っ!!」
「逃げて、玲珠…………ふつうに、生きなさい」
その日――自らを抱きながら、涙を流して最期を迎えた母の亡骸の中で。
初めて玲珠は、母の体温を知った。
それでも、残酷に。
とめどもなく溢れて、奪われて――急速に冷えていく。
賢い人ではなかった。
愚かな選択をした人だった。
自分の事しか見えていない、哀しい人だった。
……それでも。
この世でたった一人の、母だった。
最期に、たとえそれが自己防衛の結果だったとしても……玲珠のことを想ってくれる――たった一人の。
「あ、あ…………っ、あ。あ゛あぁあああ゛――!!!!!」
玲珠は初めて、自らが弱いことを呪った。
力があれば守れた。
力がないから守れなかった。
力をつける術は、あったはずなのに。
「――お嬢ちゃん、大丈夫かい……?」
「…………はい」
父は捕まった。当然だ。
ヒーロー飽和社会の現代において、殺人などしてのうのうと生きられるはずもない。
「げふっ……ああっ!! 神よ――神の子よ!!! ぜー……っ、ぜー……っ。も、最早あなた様に私など必要ない……っ!! 試練を乗り越え、明日を生き――あなたが世界を変革するのです!!!! この地獄に、救いを――」
――うるさい。
そんなこと、したくない。
世界がどうとか、どうでもいい。
(…………おなか、すいたなぁ)
明日から、どうやって生きよう?
――そうだ。
ひとまずは、強くならなきゃいけない。
じゃないときっと。
また――奪われてしまうから。
「…………」
望んでいた平和は、呆気なく手に入った。
それからの"個性”の伸びは著しく、今までのことがアホらしくなるくらいで。
目を開いても痛まなくなるまで、十日もかからなかった。
自分を守ってくれる"透明の膜”が使えるようになるまで、五日もかからなかった。
施設の人が優しく指導してくれたおかげだと分かっていても――つい、思ってしまう。
――これだけの、事だったなら。
「……ボクが言う通りにしてれば、守れたのかな……?」
過去をどれだけ悔やんでも、もう自分はそこには行けない。
失ったものは、かえってこない。
平和の中に暮らしながらも、どこかぽっかり穴の空いたような。
そんな気持ちで――毎日を過ごしていた。
そして、運命の日。
五年前。ふとテレビに映ったオールマイトを【六眼】で覗いて――。
「何だよ……これ……何だよ、これ……っ!!!」
平和の象徴が、死にかけているという事実を知った。
世界の根本を揺るがす、重大な事実。
知ってしまった時点でもう、自分は"ふつう”ではいられない。
どれだけ悩んだか、どれだけ苦しんだか。
もうあまり覚えていないが――。
確か、半年くらいは何も考えないようにして引き篭っていたように思う。
そんなある日、母の遺言を思い出したのだ。
自分を嫌っていた母が、最期にこの目を真っ直ぐに見て――伝えてくれた言葉。
――「ふつうに、生きなさい」
そうだ。
普通に、平和に、ただ自由を享受するために。
分かっていて人が死ぬだなんて耐えられない。
救えると分かっている命に手を差し伸べないなんて、心が壊れてしまう。
――過去をどれだけ悔やんでも、もう自分はそこには行けない。
失ったものは、かえってこない。
だからこそ、守らなくてはならないのだ。
今度こそ、守らなくてはならないのだ。
取り返しのつかない事が起こる前に――。
この"個性”で、今より。
五条玲珠は、最高のヒーローにならなくてはならない。
――もう二度と、大切なものを何も失わないために。
いつか。
ヒーローが暇を持て余すほどに平和な世界で、普通に生きるために。
だから……。
「勝つよ。――オールマイト」