【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】 作:いる科
「……悪趣味だな、オイ……」
皆にとっては、昼休み。
だが五条玲珠にとっては――この先に控えた、人生を左右するであろう戦いのための準備時間。
精神を整え、戦略を反芻し――この先の勝利を確定させるために、使わなければならない時間。
……だというのに。
彼女はその心を沈められずにいた。
「…………いっそのこと、マスコミ全員殺してしまおうか」
もちろん、本気じゃない。
自分の怒りを抑えるために――出来もしないことを言っているだけだ。
誰が、どのようにしてたどり着いたのかは分からない。
……情報があまりにも正確すぎる。
獄中にいるはずの父に、聞いたのかもしれない。
――アレがまともな会話を出来るとは、とても思えないが。
(ダメだ……。落ち着け。分かっていたことだろ――有名になれば、いつかは必ずこういう時が来るって)
それが思っていたよりも少し、早かっただけだ。
――落ち着け。
悲惨な過去でこそあれど、だからといって迷うことなどもう何もない。
清算の済んだ話なのだ。
今更こんなものに惑わされていては、超えられるものも超えられない。
こんなことじゃ。
こんなことじゃ――。
「五条少女。……そろそろ時間だ」
「……っ! お……お迎え? ふふっ、デートの待ち合わせみたい」
「HAHAHA!! ナイスジョーク!!」
……自分は今、どんな顔をしているだろう。
ちゃんと笑えているだろうか。
最近どうにも、その辺りの制御がおろそかになっているような気がする。
オールマイトは、危機に笑う人間が好きなはずだ。
幾ら酷いことをされた直後でも、やつれた酷い顔を見せてはいけない。
失望させてしまう――。
笑え。五条玲珠。
お前は――平和の象徴を、継ぐのだろう?
……と。
そんな風に力んでいたから。
「試合前に……少し相談したいことがあるんだ、五条少女。いいかい?」
オールマイトの気の抜けるような発言に、玲珠の頭は真っ白になってしまった。
「……?」
「死柄木弔……覚えているかい? USJを襲撃した主犯格の男のことだ」
「……はい。手だらけの」
「そうそう。……で、彼なんだが――」
今更、彼がなんだというのだろう。
AFOとの繋がりの件なら、既に真っ黒として解決されているはずだが――。
「彼ね。先代ワンフォーオール継承者……。私のお師匠の孫だった」
「…………え?」
「……参ったよ。AFOは本当に――――やられたら一番嫌なことを……的確に突いてくる」
「…………」
「私は彼を、思い切りぶん殴ってしまった。その背景を……何も知らずに」
――――。
「もし次――AFOの手下として相対した時……きっと私は彼を殴れない。もう彼を、純粋な悪のヴィランとして見ることなど……私には出来ない」
「……」
「だが、彼の出自を突き止められたのは君のおかげだ。……ありがとう、五条少女」
オールマイトには、申し訳ないのだが。
この時、玲珠の頭には話の半分も入ってこなかった。
ただ――。
オールマイトの、悲痛に喘ぐ哀しい表情だけが――。
(……そんな顔……するんだ)
勿論、して欲しい、とは思っていた。
自分が彼にとって頼れる友人になれば、平和の象徴への道が開けるから。
でも。
今はそんな打算なんて、一切なくて。
ただ、とめどもなく流れる感情の奔流に、器が壊れて。
そうして零れてしまった感情の雫だけが――。
(…………ああ、そうか)
きっとオールマイトが今こうして頼ってくれたのは、ささくれ立った玲珠の心を癒すためなのだ。
――No.1、ナチュラルボーンヒーローの自分でもこうして人に頼るのだから、いつだって頼ってくれていいんだよ――と。
……きっと、そんなメッセージなのだ。
「オールマイト」
「……なんだい?」
「記事……見た?」
「あぁ。――見たよ」
「…………そっか」
今まで。
人に、自ら弱みを見せたことなんてない。
見られてしまうことはあったかもしれない。
その度に、完璧でなくてはならないと自らに言い聞かせ続けてきた。
そうでないと――この先にある地獄を、平和には変えられないから。
でも。
――ちょっとくらいなら、許してくれたっていいじゃないか。
自ら施した呪縛が。
優しく、包まれるようにして解かれていく。
きっと、彼にしか話せない。
同じ悩みを何十年も、ずっと一人で背負い続けてきた――自分よりも何倍も何十倍も辛い道を、"自ら掴み取った”彼にしか。
気づけば……言葉が、零れていた。
「ボクも、今少し――いや、めっちゃ辛い。だってそうじゃん? いくら終わったことでもさ……嫌だったこと思い出させられて? 嫌だったことぜーんぶ世界中に公開されて? ……いいよぉ! って、言えるわけないじゃん??? バカか!? 脳みそ空っぽなのか!?? ボクは聖人君子じゃねえよクソが!! 一般美少女高校生だぞ労れや大人共っ!! こちとら生まれてから十五年しか経ってねぇんだよ……っ!!」
「……そうだね」
「大体さぁ――――!!」
「――――」
「――――」
「――――」
「――――」
いつまで、そうしていただろうか。
試合開始まで、もう時間はあまりないのに。
お互いの、いつもは胸に秘めて押し殺していた愚痴。
――些細で余計な感情だ、と裏切り続けてきた自分の気持ち。
それが、こんなにも簡単に話せる。
――そうか。
これが、"ふつう”なのか。
「ぷっ……ぶははは!! ちょちょ、オールマイト……!! そこまで言っちゃっていいの!? やっば!!」
「HAHAHA!! 私だってたまには羽目を外したくなるさ!! 君だってそうだろう?」
「…………うん」
気づけば、玲珠もオールマイトも。
心の底から――笑えていた。
そして、お互いに。
それがとても幸福な事だと、噛み締めていた。
「さ……名残惜しいが、試合の時間だ。一応――抱負を聞いておこうかな? 五条少女」
「……抱負? ははっ! 勘違いしてるみたいだから言っとくけど――そっちが
「HAHAHA!!!! 違いない!!」
――ありがとう、オールマイト。
彼の前なら、玲珠は"ふつう”になれる。
玲珠の前なら、彼も"ふつう”になれる。
だからこそ。
いつか彼は、終わってしまうから――。
その前に。
「……勝つよ」
同じ決意。
それでも――先刻よりも、ずっと晴れやかだった。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
熱狂する観客。盛り上がる実況。
雄英体育祭、異例のエキシビションマッチは――それでも、まだ始まったばかり。
「挨拶代わりだ五条少女――!! CAROLINA――――SMASH!!」
それはオールマイト、必殺の一撃。
数々の凶悪ヴィランを一発で倒した渾身のクロスチョップは、空を裂き、強力な突風となって――。
少女に襲いかかる。
思わず観客達はどよめいた。
あれでは死んでしまうのではないか? ――と。
オールマイト、それはいくらなんでもやりすぎだろう――と。
そして。
少女は一切その場から動くことなく、人差し指を立てた。
――放送事故を憂う観客たちの思惑は、最高の形で裏切られた。
「無限、収束――【蒼】。さ……はじめよっか」
オールマイトの生み出した必殺の一撃は。
……ただそれだけで、無へと帰したのだ。
「HAHAHA!! ――相手にとって不足なし、だね!!」
少女のあまりの規格外さに、笑い飛ばすオールマイト。
続いて――理解の追いついた観客たちが熱狂する。
「「「お――おお。うおおおおおおおお!!!!!」」」
「す……すっげぇ!!! オールマイトのスマッシュ防ぎやがった!!」
「指一本だぜ指一本!!! かっけえ……凄ぇよ!! かっけえ!!!!」
それに呼応するようにして、プレゼントマイクは声を張り上げた。
「YEAH!! 出たァオールマイトの代名詞、SMAAAASH!! ――を指一本で防いだァ!!? 何をした五条玲珠ゥ!!?」
「同等のパワーで相殺したな。言葉で言うのは簡単だが……オールマイト級のエネルギーを生み出すのは至難の業だ」
「HEYHEYHEY! ヒーロー科首席の名は伊達じゃないってかァ!!? ――だがオールマイト、果敢に攻め込むゥ!!」
「SMASH!!」
「……【蒼】」
オールマイトが近づき、一撃を放つ。
五条玲珠はそれを凌ぎ、一撃を返す。
一秒一秒が、一つ一つの動作が――全て、必殺。
しかし――オールマイトのそれは、五条の【蒼】よりも僅かに早い。
「TEXAS SMASH!!」
遂に、オールマイトの拳が五条を捉え――。
「ちっ……早すぎんだろ……」
「shit! やはりダメか……!!」
――その直前で、不意に止まった。
「遂に一撃食らわせたぞオールマイトォ!! No.1の底力ァ――って、全然効いてねぇ!? 嘘だろ五条!? バリア……バリアか!? オールマイトの拳が届いてねぇ!! CRAZY!! おいイレイザーヘッド、五条の個性ってアレなんなの!? いくらなんでもやりすぎじゃねええ!!?」
「【無限】……説明が難しいんだが……要するに、アイツに近づくほど遅くなって絶対に触れられない。タイマンにおいては限りなく最強の個性と見ていい」
イレイザーヘッドの解説に、観客はまたしてもざわめく。
ネットに出回っていた情報と、限りなく一致しているからだ。
「マージかよクレイジーすぎるぜ五条玲珠ゥ!! ……ん? タイマン最強……って、イレイザーヘッド、お前の個性で消せねえの?」
「……場合による。あいつが先にアレを展開してた場合は【抹消】そのものがあいつに届かない――。つまり、見てないことになるから無理だ」
「とんだチートじゃねえか!!! 凄すぎるぜ五条玲珠ゥ!! これってもう最強だろ!!? どうするオールマイトォ!!?」
「チート……って言い方はあまり好ましくないな。勘違いするバカが出るだろう」
「おー? どういうこっちゃ?」
「簡単な話だ。同じ個性を別のヤツに与えてもろくに使えない。生まれ持った強烈なセンス、弛まぬ鍛錬――複雑極まる制御の果てにあの結果がある。五条玲珠は個性が【無限】だから強いわけじゃない。……五条玲珠が【無限】を持つから強いんだ」
「HEYHEYHEY!! いつになく喋るじゃねえかイレイザーヘッド!! もしかしてイチオシィ!?」
「……そういうわけじゃない。にしても……五条はやけにオールマイトから距離を取りたがってるな。くらってもいいはずの攻撃を警戒している……」
「そりゃあ――オールマイトだから、じゃねえの!!?」
「そうだな。五条は、自身のバリアを信頼していない。……そしてその判断は……恐らく正解だ」
「だが止まんねぇ、止まんねぇオールマイトォ!! ゴリ押しもここまで来ると神がかってんなあ!!?」
「TEXAS SMASH!!」
「――ここだ!!」
繰り出される拳。
引き起こす風圧、衝撃には指向性があり、その要素は元がパンチである限りは排除できない。
五条はそれをギリギリまで引きつけて――そして、消えた。
違う。
「む……ッ!! そちらか!!」
「気づいたところでもう遅ぇよ――【蒼】!!」
その間に起こったことは、実にシンプル。
【蒼】の衝撃をガードで防いだオールマイトの死角を――更なる【瞬間移動】によって突いた。
「ぐっ……!! いい一撃だ、五条少女――っ」
「フツー今ので終わりでしょ……っとに調子狂うな……!!」
「……しゅ、瞬間移動――――からの、凄まじい蹴りだァ!? いよいよなんでもアリだなオイ!!! ほんとにJKかァ〜〜!!?」
拮抗する戦況――見ているこちらが呼吸を忘れてしまうほどの、緊張。
しかし、当の二人は笑顔を見せて――拳を交わす。
「きゃははっ!! はははははっ!!」
「笑うかよ、五条少女――!! 私も、同じだがな!!」
化け物二人の織り成す宴が、会場を揺らしていた。
「なるんだ。ヒーローに――オマエを超えて!! ボクがボクでいるために……ッ!!」
「その意気だ五条少女――とっておきだ、覚悟したまえ!!! New Hampshire SMASH!!」
「な――」
それは――五条が間に合わない、と呟くことさえ許されない刹那の事だった。
オールマイトはその肘で、後ろの空気を押した。
オールマイトがノーモーションから繰り出せる、最高速度。
【蒼】による瞬間移動に限りなく近いそれは――五条玲珠の【アキレスと亀】を揺るがした。
「やはり、な――ッ!! 私の拳は君には届かない――。だが!! 届かない領域ごと吹き飛ばしてしまえば良いということだッ!!!」
「――は……?」
「Plus ultra――DETROIT SMAAAAASH!!!」
(想定外――だから、どうした? まだ……やれる事はある)
吹き飛ばされ、意識の霞む中で――それでも、と五条は目を見開いた。
【蒼】とは、ゼロへと無限に近づいていく収縮を強化し、具現化した結果である。
ゼロというゴールが決まっているが故に、イメージがし易い。
イメージがし易いが故に、その事象の具現化は容易かった。
ならば、その逆はどうであろうか。
ゴールは無く、ただひたすらに発散し続ける無限のエネルギー。
……イメージしろという方が無茶な話だ。
ゴールがそもそも存在しないのだから。
が、故に。
【蒼】によって起こる事象を――個性の起こす波、流れ――全てを追って。
把握し、掌握し――逆再生するかの如く再現する他に、道はなかった。
十五年。
五条玲珠のこれまでの人生における、集大成。
――究極の奥義。
「収束――発散。無限反転――【赫】」
その最大威力は――【蒼】の二倍を、ゆうに超える。
制御出来るか? 分からない。
そもそも発動は上手くいったのか? 分からない。
だから――これは賭けだ。
己が、己こそが最高のヒーローに相応しいと証明するための――。
「――Plus ultra――!!!」
一転。
静まり返る、観客。
地に転がった、己とオールマイト。
目に入る、全身で感じる情報の全てが――宴の終わりを示す。
何やら先生たちがどちらが勝ったのかを確かめているようだが。
五条にはもう、結果が分かっていた。
立ち上がり――右腕を。人差し指を、ピンと伸ばして天に掲げる。
変えられない過去。
背負って立つ現在。
失って、作る未来。
「オールマイト、場外! 勝者――五条さん!!」
思考がクリアに。ただただ今は――。
この世界が、心地良い。
「天上天下――唯我独尊」
大歓声を浴びて――疲労が吹き飛ぶ。
ああ、ようやく。
――ようやく、ここまで来られた。