【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】   作:Mary✼C✩.*˚

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10―裏2 耳郎響香:ライジング

 わかっている事だった。

 知り合ったその日から、ずっと。

 

「天上天下――唯我独尊」

 

「五条! 五条! 五条! 五条!」

 

 五条玲珠一色に染まる会場を見て――それでも、耳郎の心は酷く穏やかだった。

 

 こうなってしまう事は、分かっていたから。

 まさか――流石に、オールマイトにまで勝ってしまうとは思わなかったけれど。

 

 流石に……あんなに酷い過去を、持っているとは思わなかったけれど。

 

 どれだけ追いすがろうと努力しても、あいつの輝きは眩しすぎて――。

 彼女には絶対に届かない。

 

 でも、自分だけが知っているんだ。

 あいつは決して、過去を、悲しみを乗り越えてなんかいない。

 縛られ続けて、苦しみ続けて――。

 それでも前に進めるほどに、強く在れてしまうだけ。

 

 強さという呪いに憑かれた、普通の女の子。

 

 強さ? 立場? 

 それが離れているから、なんだっていうのだろう。

 何が起ころうとも、私だけは。

 彼女を、たった一人の普通の子として見ていたい。

 

 彼女から頼ってきて欲しい、というのが本音だ。

 過去について知った時、どうして話してくれなかったのかと怒る気持ちが止められなかった。

 

 でもそれは、彼女が耳郎のことを本気で想ってくれているからこそだ。

 

 重荷になってはいけない。

 彼女が心底安心して、ここにいられるように。

 

 そのためにはやっぱり、強さが必要だ。

 先の考えと矛盾するようだけれど、それは確かなことだ。

 

 だから、勝たなければならない。

 この体育祭は――絶対に。

 

「第五試合! ロックにお届け爆音波! ヒーロー科 耳郎響香!!」

 

「んでウチがロック好きなこと知ってんの……」

 

「VS! あの角からなんか出んの!? ねぇ出んの!? ヒーロー科 芦戸三奈!」

 

「にっひっひ〜! いくら相手が耳郎でも手加減しないかんね!」

 

「こっちのセリフ!」

 

「どっちも頑張れぇぇえええ!!! 格闘ゲームみたいに服が破ける感じでぇええ!!!」

 

 峰田の戯言がここまで届いてくる。

 

(クソすぎかよ……)

 

 ……それはさておき。

 芦戸三奈の強みはその類まれな身体能力。

 近寄らせてしまっては勝ちの目はない。

 

 コチラの強みはリーチ。

 伸縮自在のこの耳で、なんとか距離を――。

 

 ――。

 

(あれ? これって――)

 

 ……玲珠とオールマイトの時と――一緒なんじゃ?

 玲珠はあの時。

 わざと、オールマイトの攻撃を誘っているように見えた。

 わざと相手の土俵に乗ったフリをして――初見殺しの必殺を決めた。

 

 そして、勝った。

 

「さぁ行ってみようかァ!! 第五試合、スターーーート!!」

 

 芦戸の近接を、ミスを装って誘う――。

 出来るだけ、被害の少ないやり方で。

 

「甘いよ耳郎!!」

 

 やっぱり、芦戸は凄い。

 コードの隙間を当たり前のように潜ってくる。

 でもここまでは想定内。

 

「くっ……!」

 

 初見の必殺を決める……。

 とはいえ、耳郎に玲珠の【赫】ほどの効果を望める技は無い。

 

(違う……必要ない。一瞬、相手の思考を奪うだけでいい……!!)

 

 なぜなら、耳郎はプラグを相手に刺しさえすれば、爆音によって大幅なアドバンテージを得ることが出来る。

 

 爆豪や轟、緑谷などはともかく――他の者には一撃で勝負を決められるだけの火力がある。

 

 だから。

 耳郎は――ミスを装い、芦戸の足元にプラグを刺した。

 

 ――【ハートビートファズ】!!

 

「どこ狙って――って、わぁああ!?」

 

(なんてお粗末な威力……ッ!! でも、今はこれでいい!!)

 

 今の【イヤホンジャック】が出せる音量など、音響増幅装置がなければこんなものだ。

 地面に軽くヒビを入れ、足元を崩す程度。

 

 それで充分――ッ!!

 

「貰った……っ!!」

 

 狼狽する芦戸にプラグを差し込み――。

 心音を、流し込む。

 

「しまっ――いッ!!? がっ……」

 

「芦戸さん失神! 二回戦進出、耳郎さん!」

 

「……っし!!」

 

「芦戸失神KO!! 勝者は耳郎響香ァ! 途中まで押されてるように見えたがな!!」

 

「いや……あれは多分ブラフだろうな」

 

「多分ボクのやり方の真似かな〜! 響香流石、よく見てるよね!!」

 

「全部手のひらの上だったってか!! クレバー!!」

 

 ……そこまでのものじゃない。

 今のはたまたま、本当に思いつきが上手くいっただけ。

 

 同じことをもう一回やれと言われたら無理だろう。

 それに恐らく、次の相手は――。

 

 常闇踏陰。

 リーチ互角、火力と手数はアチラの圧勝。

 正面から殴りあったら――。

 

 ダメだ。勝てるビジョンが見えない。

 

(……どうしよう……どうすれば――)

 

 

 悩んでるうちに、試合はどんどん進んで行った。

 

「オオオオラァァァァァッ!!!!」

 

 果敢に挑む麗日を、爆豪はいとも容易くあしらってしまう。

 それでも――振り払われるごとに増していく、麗日の瞳の光。

 

「まだまだァァァァッ!!」

 

「お茶子ちゃん……」

 

「ウチ、見てらんない……っ」

 

 けど――けど。

 顔を覆って――すぐに、やめた。

 

 何故か、目を逸らしてはいけない気がした。

 爆豪も、心がないわけではない。

 

 むしろその逆だ。

 麗日お茶子というヒーローを心底認めて、警戒しているからこその徹底的な爆撃。

 

(本気で……やってるんだ)

 

 ――試合は爆豪が勝った。

 それでも麗日お茶子の魅せた執念は、会場を震わせた。

 

 

 次の試合は、もっと凄かった。

 緑谷と轟――朝の様子から、何か因縁めいたものがあることは察していた。

 

 緑谷出久――。

 玲珠が何やら気にしている、少し不思議な男子。

 

 気が弱く、オタク気質で、のめり込むと周囲の状況も気にせずブツブツと頭を回し出す。

 でも、実戦では誰よりもヒーローで。

 誰よりも人のために戦う――まるで、オールマイトのような背中になる。

 

 実際オールマイトともよく話しているようだし、何か繋がりがあるのかもしれない。

 

 ……玲珠が気にしてるのも、きっとオールマイト絡みだ。

 彼に何か特別な思いがあるとか、絶対そんなんじゃないはず。

 多分、いや、そうでないと困る――。

 だって、玲珠は……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ふぅ。落ち着け。そうじゃない。

 

 要するに、だ。

 

「だから君も――――全力でかかってこいッ!!!」

 

 ハッ、と、させられたのだ。

 

 そうだ。

 勝算がないからなんだというのか。

 

 ヒーローは勝てるヴィランにしか挑まないのか?

 ――違う。

 

 どれだけ格の違う相手でも、ヒーローは自らの命さえ投げ打って果敢に挑んでいく。

 

 なぜならヒーローは――守るために戦うのだから。

 

(ウチが、守りたいのは――)

 

 玲珠。

 傲慢で、イタズラ好きで、喧嘩腰で、優しくて、誰にでも手を差し伸べて――。

 可愛くて、美しくて、寂しがりで、強がりで。

 ――――大好きな、あの子。

 

 想う度に胸が張り裂けそうになって苦しいのに、どこからか無限に力が湧いてくる。

 不思議で、どうしようもない自分の気持ち。

 

 耳郎響香は思う。

 玲珠のためなら、何だってできる――と。

 

 ……覚悟は、決まった。

 

 

「二回戦第三試合!! スタートだァ!!」

 

「【黒影(ダークシャドウ)】!!」

 

「アイヨォ〜〜!!」

 

 ――やっぱり、中距離戦でひたすら打ち合うのは分が悪い。

 押し負けて相殺が難しい上に、手数もあちらの方が多い――勝てる要素がない。

 

 それなら……ッ!!

 

「つか、まえた――ッ、ん、ぎぎぎぎ――――っ!!!」

 

 凄まじい速さで迫り来る【黒影】を、正面から受け止める。

 場外にならないよう、必死に踏ん張って――ギリギリの所で、耳郎はそれを受け止めた。

 

「何……っ!!?」

 

「たし、かに……吐きそうなくらい……痛い、けど――ッ」

 

 一撃なら充分に――耐えられる。

 死にそうなほど痛いけれど――死にそうなだけだ。

 本当に死ぬわけじゃない。

 

 こんなもの――こんなもの。

 あの子の受けてきた、心の痛みに比べれば――!!!!

 

「常闇、アンタの武器ってさぁ……手数、でしょ――っ!? こういう根気比べ、苦手なんじゃないの――ッ!!!?」

 

 受け止めた【黒影】にプラグを差し込み、心音を流す。

 【黒影】は常闇と繋がっている。

 

 つまり――音もそのまま届く。

 ……本人に刺した時ほどの効果は見込めないかもしれないが。

 

「ヒィ!!? ウルサァ!!?」

 

「ぐ、あああああっ!!? ……ッ、お、押し出せ――【黒影】ェ!!!」

 

「ァ――アイヨォォ!!」

 

「意識保ってんの流石ぁ……!! てこでも、動いてたまるかぁあーーーっ!!!!」

 

「うおおおおおおおッ!! 堪えろ、堪えろ【黒影】ォ――ッ!!」

 

「これはアチィ!! アッチィ勝負だァァ!!!」

 

「手数で劣る耳郎が、一撃必殺の勝負に持ち込んだ形だな……。だが、あの速度で襲い来る影によくもまぁ正面から飛び込めたものだ……」

 

「肉を切らせて骨を断つってかァ!!? 可愛い見た目に反してすんげェ作戦だ耳郎響香ァ!!」

 

「響香はロックだからね〜、やるときゃやるんだよ!!」

 

 ……そうだ。

 やらなければならない時に、全力で――。

 

「だが火力不足だ……。ここまでしてようやく五分。ここから耳郎が勝つにはもう一つ……何かが要るぞ」

 

 ビートをアゲろ。

 腹の底から煮え滾るこの思いを。

 心を音に乗せて。

 Plus ultra――ッ!!

 

 全てを、吐き出せ――ッ!!

 

「【グランドロックビート】――ッ!!!!」

 

「か、は…………ッ。み、見事―――ッ」

 

「――常闇くん、失神!! 準決勝進出、耳郎さん!!」

 

 ――勝った。

 どっと力が抜けて、その場に座ってしまう。

 

 ……てかめっちゃ痛い!!

 何これやば、こんなんさっきまで耐えてたの――ッ!!?

 

(え、ウチ凄くない……?)

 

 

「――――。一皮、剥けたな」

 

「熱い接戦の果て、勝者は耳郎響香ァ!! 最高だ!! もうこのまま優勝しちまえェッ!!」

 

「うお〜〜!!! 響香〜〜〜っ!! かっこよかったよ〜〜っ!!」

 

 玲珠のラブ(?)コールが、マイクを通して会場中に響き渡る。

 絶対そういう意図ではないのだけど――。

 

 自分の心は汚れてしまっているから、そうとしか聞こえないのだ。

 

 ……。

 

 あー……。

 

「――もう。……そういうの、恥ずいからやめてよぉ……」

 

 

 そして。

 準決勝で耳郎響香は――爆豪勝己に、何も出来ずに惨敗した。

 


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