【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】 作:Mary✼C✩.*˚
一線級のトップヒーローは皆、学生時から逸話を残している。
平凡な市立中学からたった一人、あの雄英に首席合格――それが爆豪勝己の描いた完璧なプランだった。
……だった、と言うのは――。
とある対照的な二人の手によって、それが妨害されたからだ。
一人は、緑谷出久。
何にも出来ない無個性のくせに、道端の石っころの癖に、何かが癪に障っていた。
(あん時だって……助けなんか求めてねェのに、あいつは……っ!!)
自分の中にある何か、弱いものを自覚させられるような……言語化できない気持ち悪い感覚があった。
だが、こいつはそれとは全く違う。真逆だ。
単純な力の差。格の違い。
この自分が、追いつくことすら出来ない――。
そんなはずはない、と己を鼓舞し、爆破を加速させる。
「テメェ待ちやがれクソアマァ!!」
「ふうん? キミ筋がいいね。これだけボクに着いてこられるやつは流石に初めてだ。……名前なんて言うの?」
涼しい顔で、上から目線を隠す様子もないその女に、爆豪は腸が煮えくり返るような怒りを感じた。
いや……その女に、ではない。
今の今まで勝利を確信し、自らこそが世界に選ばれた天才で。
並ぶものなど一人もいるはずがないと錯覚していた、愚かな自分に……だ。
「喧嘩売ってんのかテメェ!! ふざけんじゃねェぞ……っ!! 俺様がとるのは完膚無きまでの一位だァ!!」
自分に言い聞かせるように、必死に怒鳴り散らす。
そうだ。一位だ。取らなくてはならない。
己が目指すのは、完璧で最高の――オールマイトのようなヒーローなのだから。
「それはご愁傷さま。悪いけど首席はボクのものだよ、だって君――まだ弱いもん」
「あ゛ぁっ!!?」
弱い。初めて他者に言われたその言葉を咀嚼する間もなく、そいつは飛んだ。
どんなカラクリなのかは分からない。
ただの身体技術ではないのは確かだったが――そいつは、いつの間にかゼロポイントのデカブツの真上にいた。
「少しだけおもしろくなってきたね。折角だし、ちょっと乱暴しようか――無限順転――【蒼】」
「あァ゛!? なんだそりゃァ……ッ!!」
涼しい顔で。全く表情を動かさず、それを何か訳の分からない力で倒した女を見て――。
爆豪は気づいてしまった。
この試験においてあの女がアクセルを踏んだのは、今のが初めてだったのだ――と。
こちらはずっと……ずっとベタ踏みだった。
(アイツ……ッ!! 本気、全く出してねェ……ッ!! クソ舐めプ野郎が、ふざけんじゃねえぞ……ッ!!)
「ハア……ッ!! ハア……ッ!!」
人生で初めての――完膚無きまでの敗北。
言い訳のしようのない、負け。
己の全てを否定されたかのような感覚に、爆豪はその場に座り込んでしまった。
まだ、まだ、試験は続いているというのに――。
爆豪の脳裏に過るのは、過去の光景だった。
爆豪を褒め、凄い凄いと囃し立てる何にも出来ないモブ達。
あらゆる事において自分は常に先頭で、そうでないことは一度もなかった。
「かっちゃんすげー! 頭ヤベー!!」
――なんで知らねーの?
「すげぇかっちゃん何回跳ねた!?」
――なんで出来ねーの?
「おおーこりゃまた凄い個性だなぁ!」
――あ、そっか。
――俺がすげーんだ。
――皆、俺よりすごくない!!
――はず、なんだ。
――はず、だったのに。
だったのに――ッ!!
(俺より――凄ェ……勝てねェ)
積み重ねてきたあらゆるものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
いつの間にか……試験は終わっていた。
(こんなはずじゃ……こんなはずじゃ……っ)
これが、挫折なのか。
自分は。
主人公ではなく、ただのモブ――ただの、噛ませ犬だったのか。
……それから、どのようにして試験を終えて帰宅したのか覚えていない。
数日後。
試験結果に記された烙印――二位。
その二文字を見て。
爆豪は泣き叫んだ。
「クソが!! クッソ……ッ!! 上等じゃねェか……やってやる……っ!! 俺ァ、こっからだ……こっから!! 俺はあそこで……ッ!! 一番になってやる……ッ!!」
肥大化していた自尊心が、音を立てて崩れていく。
残ったのは――理想を目指して駆ける気高いプライドだけ。
爆豪勝己のスタートラインは、かくして本来よりも早く訪れることとなった。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「実技総合、成績出ました」
「……とんでもないな」
いつもならばワイワイとお祭り気分な教師陣も、今回の結果には驚愕のあまりか――暫くの沈黙があった。
そして――弾けるようにして、それぞれが言葉を交わす。
「一位、五条 玲珠。個性【無限】……しかしその個性を使ったのはあの一回きり、か」
「単純な身体能力が群を抜いてる。それに恐らくだが――アイツは個性をずっと使っていたぞ」
「そうなの? そうは見えなかったけど?」
「そう見せねぇようにしてんだろ。【無限】……抽象的過ぎて実態が分からん。あんだけ派手に暴れて個性も隠匿……とんでもない話だ」
「にしてもあれをぶっ飛ばしちまったのは久しく見てねぇな。しかも二人も!! 思わずYEAH! って言っちゃったよ」
「八位の子のアレは良く分からん。それはそれとして……五条 玲珠は恐らく試験内容を見抜いていたな」
「ええ、そうね。明らかに何かを探していたもの……恐らくだけれど、仮想ヴィランに負けそうな子を」
「YEAH! って言っちゃったしな」
「いや、それはどうなんだ? 救助Pの事を分かってんなら0Pヴィランはもうちょい放置するはずじゃねえか。その方が稼げる」
「そういうヒーローらしからぬ理屈を嫌う奴なんだろう。精神性も含めて疑う余地がない……。反面、二位の子はまだ幼いな」
「そこ比べちゃうのは酷なんじゃない? 充分凄かったと思うけど」
「最後まで戦い抜く素晴らしいタフネスがあったのにも関わらず、膝を着いて動かずじまい……か。恐らく五条 玲珠のそれを見て心が折れたんだろう。救助Pも0……むしろこれで二位というのは凄まじいという他にない」
「入学までに落ち着くといいけどなあ! 途中までは一位に対抗してスッゲーいい動きしてたしな。これを糧に成長すれば絶対良いヒーローになるぜ」
「それよりも、八位の子の――」
――教師陣の盛り上がりは、それからも長く続いた。
(……ったく、わいわいと……今年は一段とうるさいな)
……一人を除いて。