【WR】僕のヒーローアカデミアRTA 雄英HERO%【五条チャート】【有料DLC:呪術廻戦パックvol.01使用】   作:Mary✼C✩.*˚

4 / 30
2裏 スタートライン、爆豪の。

 一線級のトップヒーローは皆、学生時から逸話を残している。

 平凡な市立中学からたった一人、あの雄英に首席合格――それが爆豪勝己の描いた完璧なプランだった。

 

 ……だった、と言うのは――。

 とある対照的な二人の手によって、それが妨害されたからだ。

 

 一人は、緑谷出久。

 何にも出来ない無個性のくせに、道端の石っころの癖に、何かが癪に障っていた。

 

(あん時だって……助けなんか求めてねェのに、あいつは……っ!!)

 

 自分の中にある何か、弱いものを自覚させられるような……言語化できない気持ち悪い感覚があった。

 

 だが、こいつはそれとは全く違う。真逆だ。

 単純な力の差。格の違い。

 この自分が、追いつくことすら出来ない――。

 

 そんなはずはない、と己を鼓舞し、爆破を加速させる。

 

「テメェ待ちやがれクソアマァ!!」

 

「ふうん? キミ筋がいいね。これだけボクに着いてこられるやつは流石に初めてだ。……名前なんて言うの?」

 

 涼しい顔で、上から目線を隠す様子もないその女に、爆豪は腸が煮えくり返るような怒りを感じた。

 いや……その女に、ではない。

 今の今まで勝利を確信し、自らこそが世界に選ばれた天才で。

 並ぶものなど一人もいるはずがないと錯覚していた、愚かな自分に……だ。

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!! ふざけんじゃねェぞ……っ!! 俺様がとるのは完膚無きまでの一位だァ!!」

 

 自分に言い聞かせるように、必死に怒鳴り散らす。

 そうだ。一位だ。取らなくてはならない。

 己が目指すのは、完璧で最高の――オールマイトのようなヒーローなのだから。

 

「それはご愁傷さま。悪いけど首席はボクのものだよ、だって君――まだ弱いもん」

 

「あ゛ぁっ!!?」

 

 弱い。初めて他者に言われたその言葉を咀嚼する間もなく、そいつは飛んだ。

 どんなカラクリなのかは分からない。

 ただの身体技術ではないのは確かだったが――そいつは、いつの間にかゼロポイントのデカブツの真上にいた。

 

「少しだけおもしろくなってきたね。折角だし、ちょっと乱暴しようか――無限順転――【蒼】」

 

「あァ゛!? なんだそりゃァ……ッ!!」

 

 涼しい顔で。全く表情を動かさず、それを何か訳の分からない力で倒した女を見て――。

 爆豪は気づいてしまった。

 

 この試験においてあの女がアクセルを踏んだのは、今のが初めてだったのだ――と。

 こちらはずっと……ずっとベタ踏みだった。

 

(アイツ……ッ!! 本気、全く出してねェ……ッ!! クソ舐めプ野郎が、ふざけんじゃねえぞ……ッ!!)

 

「ハア……ッ!! ハア……ッ!!」

 

 人生で初めての――完膚無きまでの敗北。

 言い訳のしようのない、負け。

 己の全てを否定されたかのような感覚に、爆豪はその場に座り込んでしまった。

 まだ、まだ、試験は続いているというのに――。

 

 爆豪の脳裏に過るのは、過去の光景だった。

 爆豪を褒め、凄い凄いと囃し立てる何にも出来ないモブ達。

 あらゆる事において自分は常に先頭で、そうでないことは一度もなかった。

 

「かっちゃんすげー! 頭ヤベー!!」

 

 ――なんで知らねーの?

 

「すげぇかっちゃん何回跳ねた!?」

 

 ――なんで出来ねーの?

 

「おおーこりゃまた凄い個性だなぁ!」

 

 ――あ、そっか。

 

 ――俺がすげーんだ。

 

 ――皆、俺よりすごくない!!

 

 

 

 ――はず、なんだ。

 ――はず、だったのに。

 

 

 だったのに――ッ!!

 

 

(俺より――凄ェ……勝てねェ)

 

 積み重ねてきたあらゆるものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 いつの間にか……試験は終わっていた。

 

(こんなはずじゃ……こんなはずじゃ……っ)

 

 これが、挫折なのか。

 自分は。 

 主人公ではなく、ただのモブ――ただの、噛ませ犬だったのか。

 

 ……それから、どのようにして試験を終えて帰宅したのか覚えていない。

 

 数日後。

 試験結果に記された烙印――二位。

 その二文字を見て。

 

 爆豪は泣き叫んだ。

 

「クソが!! クッソ……ッ!! 上等じゃねェか……やってやる……っ!! 俺ァ、こっからだ……こっから!! 俺はあそこで……ッ!! 一番になってやる……ッ!!」

 

 肥大化していた自尊心が、音を立てて崩れていく。

 残ったのは――理想を目指して駆ける気高いプライドだけ。

 爆豪勝己のスタートラインは、かくして本来よりも早く訪れることとなった。

 

 

 

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

 

「実技総合、成績出ました」

 

「……とんでもないな」

 

 いつもならばワイワイとお祭り気分な教師陣も、今回の結果には驚愕のあまりか――暫くの沈黙があった。

 

 

 

 そして――弾けるようにして、それぞれが言葉を交わす。

 

「一位、五条 玲珠。個性【無限】……しかしその個性を使ったのはあの一回きり、か」

 

「単純な身体能力が群を抜いてる。それに恐らくだが――アイツは個性をずっと使っていたぞ」

 

「そうなの? そうは見えなかったけど?」

 

「そう見せねぇようにしてんだろ。【無限】……抽象的過ぎて実態が分からん。あんだけ派手に暴れて個性も隠匿……とんでもない話だ」

 

「にしてもあれをぶっ飛ばしちまったのは久しく見てねぇな。しかも二人も!! 思わずYEAH! って言っちゃったよ」

 

「八位の子のアレは良く分からん。それはそれとして……五条 玲珠は恐らく試験内容を見抜いていたな」

 

「ええ、そうね。明らかに何かを探していたもの……恐らくだけれど、仮想ヴィランに負けそうな子を」

 

「YEAH! って言っちゃったしな」

 

「いや、それはどうなんだ? 救助Pの事を分かってんなら0Pヴィランはもうちょい放置するはずじゃねえか。その方が稼げる」

 

「そういうヒーローらしからぬ理屈を嫌う奴なんだろう。精神性も含めて疑う余地がない……。反面、二位の子はまだ幼いな」

 

「そこ比べちゃうのは酷なんじゃない? 充分凄かったと思うけど」

 

「最後まで戦い抜く素晴らしいタフネスがあったのにも関わらず、膝を着いて動かずじまい……か。恐らく五条 玲珠のそれを見て心が折れたんだろう。救助Pも0……むしろこれで二位というのは凄まじいという他にない」

 

「入学までに落ち着くといいけどなあ! 途中までは一位に対抗してスッゲーいい動きしてたしな。これを糧に成長すれば絶対良いヒーローになるぜ」

 

「それよりも、八位の子の――」

 

 ――教師陣の盛り上がりは、それからも長く続いた。

 

(……ったく、わいわいと……今年は一段とうるさいな)

 

 ……一人を除いて。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。