ホラー映画。
それは夏の風物詩。トレーニングを終えて寮室に帰ってきたある日、タマモクロスとオグリキャップは映画を見ていた。
それはだいぶ昔に流行した映画で、『見ると7日後に死ぬ呪いのビデオ』を題材にした作品だった。
内容としては、主人公が呪いのビデオを観てしまった為にどうにか呪いから逃れようと奔走するといったものだ。
当時のホラー邦画としてはミステリーやサスペンス要素が強かった為、今観ても楽しめる1つの作品である。
そんな話を聞いたから、話の種になるだろうとその映画を見ているわけだが……。
「呪いのビデオぉ~? ウチら世代はビデオなんて扱った事あらへんし、いまいちどういうもんかピンと来ぇへんなぁ」
VHS規格が廃れたのは当の昔、タマモクロス達の世代では馴染みがない代物になっていた。
映画が作られた当時はそれこそこの映画を鑑賞する者にとっても身近なもので、だからこそ恐怖の対象にもなったのだが、今は時代が違う。
……とはいえ、怖いものは怖い。タマモクロスは映画の"怪異"が画面に映る度に「ビクリ」と肩を震わせる。
展開が進行していくにつれ、タマの顔色も蒼褪めていき、無意識にクッションを抱きしめてしまっていた。
「…………」
一方でオグリキャップはというと、画面に映っている不気味なシーンにも全く動じず、平然としている様子だった。
タマモクロスが横目でオグリの横顔を見ると、いつも通り感情の起伏を感じさせない表情でスクリーンを見つめている。
――ホンマ、オグリはこういうもん怖がらへんな。
内心でそう思っていると、ふと、オグリの手がタマの膝に置かれた事に気がつく。
「……なんや?」
オグリの行動を疑問に思って、一旦映画を一時停止させた後、問いかける。
「今朝のニュースで、主人がソファに座って泣いていると隣に座っていたわんこが手を主人の膝に乗せて慰めていて……」
要はタマモクロスを安心させたかったらしい。
確かに少し怖い気持ちで落ち着かなかったが、いきなり膝を触られるのは恥ずかしい。
オグリキャップも犬でないのだからその理屈はいただけない。
「オグリ……ウチかて女の子や……」
そういう風に抗議の視線を投げかけると、彼女は納得したように頷いてから手を除けた。
「す、すまない。タマ……」
そしてオグリは出来る限り優しくタマの手を取って、きゅっと握る。
「オグリ」
「……どうした?」
何かまた変な事をしてしまったのだろうかと不安そうな表情をするオグリであるが、実際のところ不安な時はお互いの手を握るくらいは別に変でもない間柄ではある。
ただ、タマモクロスは「映画の展開が怖くて不安だ」と認めるのは嫌だ。
「……なんや、オグリも映画の女幽霊が怖いんかぁ~?」
だから、オグリキャップが怖がってるという体で話を誤魔化そうとした。
「……あぁ、正直なところ。あの呪いのビデオや女幽霊は、少し怖い」
……少しだけ眉を曲げてから、まっすぐにタマの顔を見つめてきた。その視線は、まるで雷が鳴った時に不安そうにしている大型犬のようで、手を振り払うのは躊躇われた。
「そ、そうか。なら……しかたあらへんな」
タマモクロスはそう返すと、再びオグリキャップの手を握ったまま、ホラー映画を見続けた。
それから映画は後半に差し掛かる。
呪いのビデオが「劇中作」という形で、鑑賞するタマモクロス達が「呪いのビデオを観ている」とも受け取れる描写が挟まれる。
この時点で、タマモクロスの恐怖はピークに差し掛かっていた。隣にいるオグリに縋りたい気持ちをグッと堪えて我慢していたが、外で雷が鳴った途端、「ぴぎゃ"ぁ"っ"!!」と濁点のついた叫び声をあげてしまう。
「タマ、大丈夫か?」
「あ、あぁ。これくらい――」
……タマモクロスは、オグリキャップの腕に力強く抱き着いている事に気が付いた。
「……」
先に膝に触られたくないという振る舞いをした手前、少し気まずい。
タマモクロスは謝って離れようとしたが、オグリキャップが察したような振る舞いで口を開く。
「大丈夫だ。タマ。私がついている」
そう言い切るやいなや凛々しい顔で、タマモクロスの瞳を見つめてくる。そんなメロドラマみたいな口上を真向から言われてしまうと……。
「私が幽霊からご主人様を守ってみせる、にゃわん」
……色々と台無しだ。
しかし、幽霊を怖がっているのがバカらしく思えて、恐怖心が和らいでいくのも感じる。
「……なら、もう少しだけ……」
タマモクロスはそう言うと、オグリキャップの腕に抱き着いたまま映画を鑑賞し続ける事になった。
「なんや!! 結局どうしようもないやんあんなん!!」
ホラー映画のオチを見届けた後、タマモクロスが叫ぶように言う。
詳細は伏せるが、どうにもタマモクロスから見てハッピーエンドとは言えない内容だったらしい。
エンディングロールを眺めながら、頭を抱えるタマモクロスであった。そんな様子を見ながら、オグリキャップが自信満々に言う。
「大丈夫だタマ」
「どういう事や?」
タマモクロスが尋ねると、オグリキャップは自信満々な表情を浮かべながら何かを取り出す。それはいくつかの円盤型の記録媒体。
「な、なんや……まさかモノホンの『呪いのビデオテープ』を観せよういうんや……」
タマモクロスは嫌な想像をして、ますます蒼褪めた。だが、オグリキャップが取り出したのは、そういった類の物ではなかった。
「今の映画の続編だ。続編できっとお話がハッピーエンドで終わるに違いない」
凛々しい顔で語るものだから、タマモクロスは乾いた笑いが出た。実際、どういう経緯でお話が続くのか気になりはするが。
「……あぁ、でも一人で観るのはな……」
さすがに怖い。だが、そう言うのは憚られた。
「……一緒に見る。わん」
オグリからやたらキラキラとした瞳で見つめられて、タマモクロスは断る術を失った。
――犬飼うた時に、遊ぶ事ねだられたら断れへんやろなぁ、ウチ……。
今の段階から、ペットを飼う未来を憂うタマモクロスであった。