皆さんこんにちは、夢月リュウカです。
私の
「へぇ、オートマにしたんだ?」
「リボルバーも好きですけど、
フブキは手に持った私の銃をまじまじと眺めたあと、グリップをこちらへ向けて返してくれました。
ベースはCZの“SHADOW2 コンパクト”。
CZ75の競技用モデルの派生型で、警察業務や自衛用に性能を極力維持したまま軽量化を図ったものです。
……少し高くつきました。
これが地球で発売された当時『私』は雑誌でこれを見て一目惚れしたようで、私がショーケースに飾られているこれを見た時に凄まじい衝動に駆られて買ってしまいました。
名前は“ラーズグリーズル”。
ちなみに元々持っていた≪首狩りウサギ≫はママに預かってもらいました。
「まあ、私たちが銃を実戦で使うなんて起きない方がいいですね」
「そうそう、平和が一番。警察官がヒマするのはいい事だよー」
フブキ、机に突っ伏して寝ようとしないでください。先輩方を呼びますよ?
「ただいま戻りました!」
「お疲れ様です」
そうこう言っているうちにキリノが戻ってきました。
彼女はさっき他の生徒とのジャンケンで負けて、近くの弁当屋まで買い出しに行っていました。
学校内に食堂や売店はあるのですけど、いま食堂に入ってる業者は安い代わりにどうも味がイマイチなんです。
出前を取るのは時間帯的に難しいですし、懐に余裕のある生徒は近くで店を開いている弁当屋に頼りがちだったりします。
私とマーヤですか? 私が食事当番の時は弁当持参です。
机に向かって二段になっている弁当箱を開けば、中身は塩鮭の切り身が入った幕の内弁当です。
一般的にご飯を入れる下の段は野菜サラダになっています。
容器がやや細長いので詰めこむのが大変でした。
「いやぁ、ボクには真似できないなぁ」
「たまにはあなたも作ってください」
「ドカベンでいい?」
「嫌です」
マーヤの分も同じ献立ですけど、あの子はよく食べるので弁当箱のサイズも大きくなっています。
箸を手にして“いただきます”をしようとすると、隣のデスクから熱い視線が向けられていることに気付きます。
「……」
手に一番安いのり弁当を持って、こちらへ顔を向けるキリノの喉が鳴りました。
「……交換します?」
「いいんですか?」
「自分で作ったものですから、味は知り尽くしています」
適当な理由を並べてさっさと交換しました。
私こう見えて繊細なんですよ? そんな目を向けられながら食べれるほど神経が太くありません。
“いつもの”感バリバリなのり弁を食べていると、先輩生徒のひとりが自分の弁当を持ってキリノに詰め寄ってきました。
「キリノ。この洋風バラエティ弁当にエビフライが入ってないけど、店から何か聞いてるかしら?」
上半身を傾けて覗いてみると、確かにまだ手を付けてないにもかかわらずエビフライがありません。
「え? ……確か入り口に『エビ入りメニューに変更がある』って貼ってあったような?」
「エビ……エビね?」
フブキも話を聞いてしょうが焼弁当から顔を離したようです。
「そういえば、きのう行った“モフ”*2もエビカツバーガー休止してたね。エビが入ってこないんだってさ」
そう言いながら紙コップにいれたお茶を一口飲みました。
ああ、なるほど。
最近の猛暑といい、イベント『夏の特殊作戦!RABBIT小隊と消えたエビの謎』が始まろうとしているのですね。
エビが入ってこない原因を『私』は知っています。
D.U.におけるエビの供給元*3で海運会社が現地人の迷信深さを利用した密輸事件を起こして、その過程でD.U.で流通するはずのエビが海に捨てられているのが原因です。
夜戸浦村で起きた事件はシラトリ支所の管轄ですけど、現地の駐在所で情報が止まっているので異変にまだ気付いていないはずです。
結局シャーレの先生の提案で調査兼バカンスに乗り出したRABBIT小隊が事件を解決し、主犯は夜戸浦村内で処されたので表沙汰にはならないと思います。
「……何やら事件の予感がしますね!」
キリノ、口に物含んだまま喋らないでください。
「だとしても
『話しても相手にされないって』とフブキは軽い口調で言い捨てました。先輩生徒もそれに頷いています。
「エビかー……聞いてたらなんだかエビ天が食べたくなってきたな。リュウカ、晩ごはんエビ天丼でお願い」
……マーヤは今まで何を聞いていたのでしょうか?
……
外はクソ暑いですけど、仕事は仕事。
ミニパトが出払っているので徒歩でパトロールに出ました。
「暑くて干からびそう……」
「ウゴイテナイノニアツイヨー」
「えっ何」
あのイベントでは子ウサギ公園は三五℃あるとサキが言っていましたけど、街中はヒートアイランド現象のせいで気温が四〇℃に達しているようです。
こういう時ママから作り方を教わった“アレ”を使えればいいのですが、いくらウイやサヤのように魔法のような技術を使う生徒がいても、ここは自重しなければなりません。
「ねえリュウカ、どこかで休憩しようよ。このままじゃ熱中症になっちゃうって」
「一理ありますね」
問題は冷房が聞いててコンビニか何かがあり、かつ
「マーヤ、ここからならシャーレが近いです」
あそこは部員以外の生徒も出入りしますし、先生が何か言ってくるとは思えません。
シャーレへの初訪問といきましょう。
D.U.外縁部某所。
連邦生徒会事務局より三〇キロメートル先のビル街にそびえ立つ、一棟の高層ビル。
学園都市キヴォトスにその勇名と無数の悪評を轟かせる、“連邦捜査部
「ありがとうございました!」
「どこで食べる?」
「少し奥に休憩室があるはずです。そこを使いましょう」
「……ねえ。その部屋、無事なのかな?」
シャーレの外観は小綺麗だったが、中はずいぶんと荒れ果てていた。
エントランスホール付近に入っている
戸や窓のガラスを張り替えた以外は、床に散らばった破片や空薬莢を片付けてモップがけしただけといった感じである。
連邦生徒会の関連施設にしては、ずいぶんと管理が疎かだなとマーヤは訝しんだ。
「公安局の人に聞いた話ですけど」
奥へと歩を進めつつ、リュウカは“噂話”という体で原作の展開を語り始めた。
当事者を情報源とする事で、探られた時に怪しまれないよう予防線を張るのも忘れない。
「例の戒厳令のとき……ほら、
「はぁ!?」
マーヤは驚きのあまり、
「なんでさ!?」
「そこまでは
休憩室の対岸にあるゲームセンターを覗きこむ。
ゲームマニア垂涎のアーケード筐体群がメチャクチャに壊され、窓際にバリケードのように寄せられていた。
「ただ……カイザーが何を狙っていたかは判りませんが、ここを要塞化しようとしていたのは確実ですね」
「ゾッとする話だね?」
「ええ。そうなれば最悪、建物ごと吹き飛ばさければならなかったでしょう」
アビドス砂漠で探し求めていた
だが肝心の“本船”を動かすには本来、連邦生徒会長かその代行にしか管理権限がないサンクトゥムタワーを奪う必要があった。
そこで不知火カヤの謀略に乗じて先生を拉致監禁し、シャーレオフィスを占拠。
次に連邦生徒会を襲撃し崩壊させると、直前に生徒会長代行の資格を停止されたリンを幽閉して正規のタワー管理権限を“子供”から永久に奪い取る。
そしてシャーレ地下にある物質生成機“クラフトチェンバー”の認証*4を“とある方法”で回避し利用する事で、タワーの行政制御権を掌握し学園都市の行政機能を手中に収めた。
あとは連邦生徒会を騙って戒厳令を発令しヴァルキューレ警察学校を無力化、カイザーPMCの大部隊を我が物顔で駐屯させD.U.を封鎖したのだ。
あのとき、キヴォトスはカイザーの手に落ちる寸前であった。
なにしろこの時のカイザーはキヴォトス全てのライフラインを握っている上に超兵器を持っているのだ、愚かな“子供”が支配する数千の学園をいつでも潰す事ができるのだから。
プレジデントが目論む“
だが尾刃カンナらに先生と“シッテムの箱”を奪い返された上、“色彩”によってサンクトゥムタワーを破壊された事でこの完璧な計画は水泡に帰した。*5
自分たちでは成すすべなしと判断したカイザーは撤退し、シャーレの下に団結した生徒たちによって世界の危機は救われる事となる。
民衆は一連の騒動の真相を知らないまま日常へ戻り、同時にシャーレ占拠事件は完全に闇に葬られた。
サンクトゥムタワー再建とシラトリ区の復興が急がれるなか、カイザーとの戦闘と“色彩”の攻撃でひどく損傷したシャーレオフィスは放置され続けていた。
そしてほんの数日前、
休憩室でゴリゴリ君をかじりながら、マーヤは私が話す“人づてに聞いた”話を聞いてため息をつきました。
「カイザー、カイザー……キヴォトスは猫も杓子もカイザーだね。奴ら本気で世界征服する気?」
「もうされていますよ。支配権をかろうじて“生徒”が握っているだけで」
ハイパーカップの濃厚なバニラ味が、今の私には少しくどく感じられました。
『悪の組織が経済的に世界征服を成し遂げ、社会システムそのものを人質にする』というのは、フィクションにおいては偶にあるシチュエーションです。
『ブルーアーカイブ』におけるカイザーコーポレーションはまさにそれで、少なくともキヴォトス中央部の非学園自治区ではどこかしらでカイザーグループの影響を受ける事となります。
おそらく連中の手口の巧妙さに、歴代の連邦生徒会が嵌められてきたのだと思います。
でなければ、下手に手を下すとキヴォトス社会が崩壊するような依存度にはならないでしょう。
稚拙な恐怖政治の対価として公共交通網を売り渡そうとしたカヤは論外ですが、ここ数十年の間にカイザーに騙されたり懐柔された政府関係者は数え切れないはずです。
ですが“所詮は子供だから”の一言で片付けるのは、それこそ幼稚さをあざ笑う“大人ぶった”考えだと『私』は考えていました。
ポットから冷えたむぎ茶を拝借して口直しすると、ゴミを片付けて私たちはパトロールに戻る事にしました。
あまり帰るのが遅くなるとサボりがバレて、グロ版四コマ*6の二人のように職務怠慢で始末書を書くはめになりそうですし。
店の外からソラに会釈して、エントランスからシャーレの外へと出ます。
うわ……暑っ!? 下手に冷房が効いたところに居たせいで余計につらい!
学校に戻ったら一度シャワーを浴びて服を着替えないと、汗でベタベタでとても事務作業ができませんよ。
「そういえばさっきの話の続きだけどさ」
そう話を振ってくるマーヤも同じように汗が噴き出ています。
サウナ風呂じゃないんですから勘弁してください。
「なんでしょう?」
「シャーレってあれだけカイザーの悪事潰して回ってるけどさ、よく報復されないよね?」
さて、どう答えましょうか?
「……カイザーにとってわざわざシャーレを潰す理由がないから、でしょうか」
「うーん?」
「それが会社にとっての“利益”になるなら、連中は総力を挙げて先生を消しますよ。それだけでシャーレはお終いですから」
もう一度言いますが、カイザーグループはキヴォトスの社会・経済において常に強い影響力を持つ企業体です。
下手に親会社を解体してしまえば社会への悪影響が深刻ですから、無策に相応の罪を課せられない。
ですからカヤ派による思惑はどうあれ、世界に対するクーデターの大罪すら酷く軽い罰だけで済ませざるを得ないのです。
そして
“子供”たちが自分をどうこうできる知恵も忍耐もない、それを知ってるからこそカイザーは平然と悪事を働くのです。
ですが目障りな先生を殺すなりシャーレを物理的に壊滅させることをしないのは、それが”会社の儲けにならない”という一点のみに集約されると思います。
「カイザーにとって、シャーレはその辺を飛んでいるカラスと同じなんですよ。邪魔ならいつでも駆除できる、ね」
「害獣扱い……」
「『私の命令ひとつでシャーレなどキヴォトスから瞬時に消えるのだ。それを忘れない事だな!』とか、
まあ彼は職務に忠実な中間管理職ですから、どんなに腹立てても自分からそんな命令出さないでしょうけど。
「やだねえ現実ってのは。夢が欲しいよ夢が」
「いつか私が実家へ“里帰り”するとき、遊びに来ますか?」
「おお……夢しかないねそれは」
そういえば先ほどソラから聞いた話ですが、先生はきのう夜戸浦村へ出張にいったそうです。
D.U.でエビが家庭の食卓へ戻ってくる日はそう遠くないでしょう。
とある方法ってなんなのアロナ?