戦女神の日常   作:目多須でぃてくた

11 / 18
 メインストーリーVol.4『カルバノグの兎編』2章10話『制御不能』から続くIFショートストーリー。
 正確には8話『新たな代行』の時点で原作とは乖離していますが。
 普段と違って感情の赴くままに書いたので、キャラクターのブレや設定のガバは見逃してください。


旧09話 IF:さよならシャーレ

 

 防衛室長・不知火カヤは連邦生徒会長代行・七神リンをその立場から蹴落とすために様々な策を講じた。

 彼女自身の落ち度に加え、自身の汚職や捏造した証拠を駆使して逮捕拘禁。そして合法的にその後釜に座った。

 彼女は少し前に連邦生徒会にクーデターを起こしたカイザーグループを堂々と駆使し、D.U.(首都)を徹底的な管理社会に置こうとした。

 

 だが、彼女は本当にキヴォトス生まれキヴォトス育ちなのかと疑ってしまうほど純粋だった。

 そしてあまりにも役職に対して力不足であった。

 

 次から次へと起きる問題と自分自身が原因の業務遅延、政治的味方である人材資源室長が呼び込んだレッドウィンター工務部は思惑とは逆に『至極正確に』連邦生徒会長代行である自分を糾弾しだした。

 それを相手の無能だと決めつけ、山のように積み上げられた書類に埋もれながら責任逃れを図り続けるカヤだったが──

 

 

 「カヤ代行!」

 日が傾き始めた頃。

 自身の配下である防衛室の行政官が、ノックもせずに執務室へ飛びこんできた。

 必死に財務室長(アオイ)から突き返された申請を含めた書類を捌いていたカヤは、余裕の無さそうな顔を行政官へ向けた。

 「今度はなんですか……?」

 「テレビを見てください! クロノスチャンネル!」

 「クロノス……?」

 電源をつけた放置していた業務用のデスクトップパソコンを操作し、クロノススクール公式HPのネット配信ページを開いた。

 

 『ご覧ください! カイザーPMCの大部隊がシャーレのオフィスビルを包囲し、次々と物資を運び入れています!』

 『カイザーPMCのジェネラル氏は『カイザーセキュリティへ治安維持活動を委託するにあたって発令された政令』に基づき、連邦生徒会より用地と施設を提供されたと説明しています!』

 

 「……は!?」

 画面の向こうの信じられない光景に、カヤは手にしたコーヒーカップを落とした。

 冷めきったコーヒーが書き直していた書類を黒く染め上げる。

 

 役立たずのヴァルキューレ警察学校に替わってD.U.全土を『管理』するためには、カイザーといえども師団規模の部隊を編成する必要があった。

 戦力そのものはカイザーPMCの保有戦力を名義だけ換えて確保したが、それらが活動するため常設の駐屯地をいくつも用意しなければならない。

 短期的にはカイザーが各地のグループ保有施設を供出し対応するが、本格的な拠点は連邦生徒会が保有する施設や用地を提供する契約である。

 

 カヤは確かにその契約書にサインをした。

 が、その中に連邦捜査部(シャーレ)のオフィスが含まれているなどとは……。

 「(そんなバカな!? 契約書は確かに全文を読んだはずなのに……!)」

 

 『シャーレの先生? ああ、カイザーセキュリティが連邦生徒会から正式に提供された施設に居座っていた人間か』

 RABBIT小隊への当てつけを終え現場に現れたジェネラルは、シャーレ前に詰め寄るクロノス報道陣のカメラの前に姿を見せた。

 『不法占拠の罪で拘束しようとしたが逃走、犯人は現在D.U.全土に広域指名手配されている。善良なD.U.市民の方々は見つけ次第ただちに最寄りのガードに──』

 

 カヤは最後まで中継を見ず、公文書の保管室へと駆け出した。

 

 

 保管日付が新しい引き出しを片っ端からひっくり返し、カイザーとの契約書を必死に探し出すカヤ。

 そして見つけ出したそれには、確かに提供対象として『連邦捜査部シャーレ オフィスビル』が記されていた。

 「(どうしてこんな単純な策に気付かなかった!?)」

 記憶が確かなら、サインをした契約書にこんな記述はなかった。

 つまりカイザーの工作員がクーデターの煽りで警備が緩み切っていた事務局に侵入し、書類を差し替えたという事になる。

 FOX小隊は別件で近くにおらず、大勢が出入りしていたカイザー関係者を一人一人警戒する事など不可能であった。

 

 

 『カヤ、これ一つだけはちゃんと聞いてほしい。本気でカイザーを利用するのだったら、契約書の管理は厳重にしておくこと』

 

 

 昨日の夜、政見放送のついでに執務室に先生を呼び出したカヤ。

 彼女はシャーレを連邦生徒会へ組み込んでその成果だけをかすめ取り、そう遠くない日に組織を解体する腹積もりで『業務改善案』を差し出した。

 冊子を読み終えた先生はリンが失脚した理由や改善案に一定の理解を示しつつも、次々と問題点の指摘や質問をぶつけてきた。

 やれ新政令の施行を急ぎすぎだ、引き継ぎはちゃんとしたのか、連邦生徒会長がシャーレを作った動機とそれを踏まえてどう思うか……。

 言い方は優しいが、まるで説教でもしてくるかのように。

 

 先生はすぐに飛びつくだろうと高をくくっていたカヤは、遂に我慢の限界に達した。

 「世論のシャーレへの支持を配慮して下手に出れば、大人のくせにグチグチと文句ばかり……!」

 腰に提げていた自動拳銃(ハイパワー)を抜き、銃口を先生の眉間へと向けた。

 時々フラリと防衛室に現れては話しかけてきて、自身の不備を見つけては諭すように指摘していく正体不明の大人。

 それは時には不正の証拠にまで近づく事もあり、カヤにとって先生は目障りな存在であった。

 「いつもいつも煩く口出しして……ここはキヴォトスなんですよ!? 大人は黙って子供のいう事を聞いていればいいんです!」

 

 撃鉄を上げ、安全装置を外す。

 引き金を引けばこの脆弱な肉体の大人は確実に死ぬ。

 なんて事はない、この人間は連邦生徒会長失踪事件の最重要容疑者といえる。王殺しに等しい犯罪者は厳格に罰せなければならない。

 

 しかし、先生はその明確な殺意に全く動じなかった。

 「……ようやく本音を話してくれたね」

 “人を殺そうとしている”事実を自覚し、無自覚に体を震わすカヤに小さくため息をつく。

 「カヤ、これ一つだけはちゃんと聞いてほしい」

 冊子を机に置き、シッテムの箱を収めた腰のホルダーを撫でる。

 「本気でカイザーを利用するのだったら、契約書の管理は厳重にしておくこと。……それじゃあ、明日から代行頑張ってね」

 先生は何事もなかったかのように無防備な背中を向け、代行執務室を出て行った。

 

 

 「……ちっ」

 散らばった一面の書類の上で跪くカヤは、自嘲かはたまた先生の不甲斐なさをあざ笑うかのように舌打ちした。

 “彼女”の忠告を聞かずカイザーにはめられた結果、連邦生徒会長が創設したシャーレを連邦生徒会長代行たる自分の命で潰した体にされてしまった。

 自身の政治的基盤が揺るがされている事ぐらい今のカヤでも理解できる。

 これでは市民が管理社会を受け入れ、やがて自身が連邦生徒会長(キヴォトスの王)に就任するという野望が遠のいていく。

 

 「会長代行! ミレニアムサイエンススクール、トリニティ総合学園、ゲヘナ学園……シャーレに深く関与している有力校が事情の説明を求めています!」

 「表で騒いでいるデモ隊が『シャーレを解体したカヤ代行を許すな』とヒートアップして──」

 「先生との連絡がつきません! カイザーが電話会社に圧力を掛けて、先生の携帯電話を利用停止したようです!」

 

 カヤが破れかぶれになり、恐怖による支配を目論むまであと■日。

 

 

 

 

 『先生、このままでいいんですか?』

 「(今日のところはどうしようもないよ)」

 ブラックマーケットの中にあるラーメン屋で、先生はラーメンをすすりながらアロナ達と言葉を交わす。

 「(でもまた悪用しようとしたクラフトチェンバーが無くなってるの、ジェネラル達が見たら度肝を抜かれるだろうね)」

 『先生は未来の世界の猫型ロボットですか……?』

 プラナはやや複雑そうな面持ちで外界の景色を見ていた。あの“強烈な光景”を見て自分の知る先生(プレナパテス)と比べているのだろうか。

 「(何でも入る魔法のポケット、ってね)」

 

 今の先生はシャーレ顧問としての服を脱ぎ、旅人のような装いのラフな格好をしている。

 アロナ達とおそろいのメッシュを落としバンダナで髪をまとめた姿は、とても“シャーレの先生”には結びつかなかった。

 「(とりあえずはこのままゲヘナへ行こう。電車が使えないからアビドスとミレニアムは難しいし)」

 『わかりました! メールでゲヘナ風紀委員会へ連絡しておきます!』

 先生はラーメンを食べ終えると、食券制の店舗なのでそのまま店の外へと出た。

 

 「(……カヤ、結局話を聞いてくれなかったんだね)」

 彼女は先生ではあるが神ではない。

 救えない命もあれば、届かない想いもある。

 この事態はカヤの本意ではなく、カイザーによる陰謀と報復なのだと先生はしっかり判断していた。

 

 「きっと、次に会う時は敵としてなんだろうな……」

 この混乱はとうぶん収まりそうにないだろう。

 先生は深くため息をつきながら、薄暗い街を歩いていった。

 

 

 


 

 

 オマケ:正史(原作)ルートでのやりとり

 

 「本気でカイザーを利用するのだったら、契約書の管理は厳重にしておくこと」

 「そんな当たり前の事を今更! 私をなんだと思ってるんですか!?」

 取引相手は狡猾なカイザーだ、連邦生徒会が紙媒体依存なのを突いて自分に都合がいい内容の書類へと差し替えることぐらいするだろう。

 リンを拘束した時点で部下に命じて、契約書を収めた公文書保管室の警備は厳重にしてある。

 「ごめんよ。……それじゃあ、明日から代行頑張ってね」

 先生は何事もなかったかのように無防備な背中を向け、代行執務室を出て行った。

 

 「……チッ」

 人を小学生(幼子)のように扱うあの大人が心底腹立たしい。

 いつか自分の足元に跪かせてやる。カヤはそんな苛立ちを表すかのように舌打ちした。

 

 翌日、カヤは自分の考えの甘さをこれでもかと見せつけられる事となった。

 

 




 ※RABBIT小隊が公園を引き払った事に気付くあたりから原作の展開に合流。
 ただ、シャーレオフィスを失っているためFox Eatsが来る場所が先生の潜伏場所に変更となる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。