皆さんこんにちは、夢月リュウカです。
確か前*1に私の前世は『2023年に亡くなった日本人女性』と言いましたが、具体的に『私』は2023年11月2日に交通事故で亡くなっています。
『私』の自我はハッキリとは残っていないのですが、今でも『自分』が死ぬ直前の光景を夢に見て飛び起きる事があります。
これが何を示すのかというと、『ブルーアーカイブ』メインストーリーVol.5以降の内容を私は知らないということです。
公式生放送内のPVで身共だかミドモと言っていた同編の主人公の名前すら、私はまったく知らないのです。*2
シャーレの部員リストを照会すれば、もう見つかるかもしれませんけど。
どちらにしても私はちょっかい掛ける気はないです。
まぁルシア先生なら原作のシャーレの先生みたく動かなくても、我が道を行ってどうにかするでしょうし。
……そうそう、もう一つ。
『私』が亡くなった頃のブルアカは、アニメ『とある科学の
『とある』は全然知らなかったのですが、美琴も操祈もしっかり入手しています。
当イベントでは美琴たち
『ヘイローは視認可能』など、過去に実装されたストーリーの展開*3と併せるとだいぶ不自然なものも含まれています。
それに加えてコラボのため用意された設定のあまりの大味さに、『私』が見ていたSNSでは二次創作作家や考察勢の一部が阿鼻叫喚地獄に陥っていました。
まさか雑なクロスオーバー二次創作を公式の暴力で殲滅するためなのでは?
『私』の感想はさておき。
私が生まれて今住んでいる世界には、今のところ物語中に出てこないだけでヒトの大人も男も存在します。
対して涙子はキヴォトスのあちこちを(おそらく監視カメラの映像で)見た後、先生を見て『初めて大人を見た*4』と話しています。
これは獣人やロボットなどの年齢を種族的な違いで判断できないだけではなく、“ヒトの大人”をまったく確認できなかったと事を意味します。
ですが正月セリカの絆ストーリーなど立ち絵がない形で、ヒトの男性や大人が出ていると思われる場面は原作中にも存在します。
なので『キヴォトス人は女だけの種族』などと断定する材料は一切ありません*5し、別に男女比がおかしい設定がある訳でも──
「リュウカ、お願いだから現実逃避しないでよ」
マーヤの呼びかけで我に帰りました。私はいったいどれだけ固まってたのでしょう?
「すみません」
気を取り直して、私は対面に座る生徒へ顔を向けます。
「……なにさ?」
“自称”鹿嶋田チハル、トリニティ総合学園二年生。
不審者として通報後、職務質問を行った
しかしその名前の生徒は同時刻トリニティ学園におり、正義実現委員会がアリバイの裏付けをしています。
……彼女はどうやら、平行世界のキヴォトスから迷いこんで来た『並行同位体*6』のようです。
仕方ありません、埒が明かないので正直に話しますか。
「単刀直入に言いましょう、ここはあなたが生まれ育ったキヴォトスではありません。何かのきっかけでパラレルワールドへと飛ばされたのだと考えられます」
チハルさんはそれを聞いて当然ながら面食らいました。
「は? ……でもそれなら説明がつくのか」
普通なら頭がおかしいと言いそうですが、理解が早くて助かります。
いくら『悪役令嬢もの』に出てくる乙女ゲームの舞台のようなトリニティといえども、ここがキヴォトスである以上はSF要素からは離れられません。
この世界のチハルさんにはまだ会ってはいませんけど、意外と頭の回転は早いのかもしれません。
……
「これを報告しても“誇大妄想”だと取り合ってもらえませんし、仮に信じて貰えたとしてもヴァルキューレではどうする事もできません」
「……つまり?」
「
さすが私の親友、すぐに意図に気付いてくれました。
このような案件は既に『メインストーリーFinal あまねく奇跡の始発点』を経ているシャーレに頼るしかありません。
それにデウス・エクス・マキナに等しい
話を戻しますが、シャーレの名前を出した途端にチハルさんは苦虫を噛み潰したように渋い顔をしました。
「え、嫌だよ」
「なんで? こんなの先生以外にどうしろっていうのさ?」
「嫌なものはイヤだよ。あの先生に頼るなんて」
特異現象捜査部に頼るという線もありますけど、『とある』コラボの件はかなりのご都合主義で話が成り立ってますので当てになりません。
そもそもどうやってヒマリかエイミに接触するのかが問題になります。
チハルさんの意図を読めずに会話が途絶えた直後、誰かが取調室のドアをノックしました。
「はーい」
監視役のマーヤが誰かを確認するために扉を少し開きましたが──
「あれ? 先生じゃないか」
え。
「どうも。ちょっと“チハルさん”に聞きたい事があってね。この件はシャーレで預からせてもらったよ」
「んー? まぁ話通してるならいいけど」
……彼女はマーヤが“先生”と言った直後に体が強張り、すぐ先生の声を聞いて力が抜ける様子をかすかに見せました。
どうやらチハルさんの世界の先生はルシア先生ではないようですね。
先生が部屋に入ってきたので椅子を譲るために立ち上がります。
「リュウカちゃん、最近調子はどう?」
「最近ママに会いました。あなたが“先生”だという事を伝えました」
「通じるの?」
「たぶん」
小声で短く言葉を交わします。
この間までは
だってママの古い友人ですもの。
赤ん坊の私をママが拾ってきたのがきっかけで、キヴォトスの存在を知ったそうです。
私と入れ代わりに座った先生は、机に手を置いてチハルさんへと向き合いました。
「はじめまして。私は連邦捜査部の顧問をやらせてもらってる先生だよ」
『シャーレの先生と言えばわかるかな?』という問いかけにチハルさんは頷きました。
「ここがパラレルワールドっていうなら、あいつらもここにいるのかと思った」
「あいつ“ら”?」
……うーむ。どうやらチハルさんの世界の先生は私たちの知るそれとは少し違うようです。
『私』が知るプレナパテスはどこかのバッドエンド世界線からやってきた、本編先生の並行同位体でした。
ですが
二次創作は作者の欲望や願望が反映されやすいですから、一般的に(ブルアカというゲームの)主人公と見做されているシャーレの先生は十人十色です。
最悪“
「“向こう”のキヴォトスで何があったのか、あっちの先生はどんな人なのか教えてくれるかな?」
先生のお願いを聞いて、たっぷり悩みに悩んだ末にチハルさんは口を開きました。
そもそも『サンクトゥムタワーの喪失』という事実がないというのは何を意味するのか?
言うまでもない、≪色彩の嚮導者≫プレナパテスの襲来が起きなかったということだ。
不知火カヤの陰謀を利用する形で先生を拉致しシャーレを制圧、リンが罷免された直後を狙って連邦生徒会を乗っ取ったカイザーコーポレーション。
“プレジデント”は行政委員会を解散に追いこんた上でハッキングしたサンクトゥムタワーを使った『戒厳令』を発令。
ヴァルキューレを始めとした警察機関を『指揮系統の喪失』により機能停止へ追いこみ、堂々とカイザーPMCを進駐させた。
首都たるD.U.と『キヴォトスが学園都市であるための存在』たるサンクトゥムタワーをカイザーに奪われたキヴォトスは、絶体絶命の危機に立たされる。
しかし“サンクトゥムタワーによる行政命令”を無視して先生の救助に向かったカンナたちヴァルキューレの一部、そして
後は
空が赤く染まり、突然現れた
カイザーがタワー周辺から人を追い出し封鎖していたため、半径数キロメートルが消滅したものの結果的に死傷者はなかった。
しかし計画の要であるサンクトゥムタワーを失い、事態が自分たちの手に余ると判断したカイザーは即座に撤退。
連邦生徒会を失い戒厳令を撤回できる存在がないため、警察が麻痺したD.U.に≪色彩≫の軍勢が押し寄せる最悪の事態へと発展した。
その状況でシャーレが関係各所をまとめ上げ、世間に一連の詳細を知られる事なく世界を救ったのは『ブルーアーカイブ』ユーザーの多くが知る物語である。
ルシアはチハルが“それ”より前の時期から来たのではと疑ったが、彼女が告げた本日の日付は間違いなくこちらと同じであった。
エデン条約締結式襲撃事件は起きているし、晄輪大祭も行われている。
リュウカの興味を惹いたのは『SRT特殊学園が健在』という点だが、どうもシャーレが活動の責任を担うと『先生』が連邦生徒会を言いくるめたと言われているらしい。
「うーん。確かにSRTとシャーレはとても似た組織ではあるよ? でも色々裏心があったカヤですら存続に賛成はしても“防衛室で預かる”とは言わなかったのに、シャーレがか……」
ルシアは腕を組んで考えこんだ。『シャーレの先生』という人物の正体不明さは彼女自身も自覚している事だからだ。
子ウサギタウン再開発計画の障害となる武装浮浪者への対処を巡り、公安局がカイザー系列会社と癒着し銃器提供を受けた事件も“こちら側”同様に起きている。
……が。何があったのかチハルが知る由もないが、“こちら側”でRABBIT小隊が行ったクローバー作戦以上の損害をヴァルキューレ本館に与えてしまったらしい。
「ニュースで見たときびっくりしたね。ヴァルキューレの建物が半分瓦礫の山になってるんだから」
「えー……それもう全滅してるじゃんか」
サキが“要塞”と比喩するほど守りは厳重な警察学校本館だが、大国の軍特殊部隊に等しいSRTが全力で戦力をぶつければひとたまりもないだろう。
チハルは口にはしなかったが、おそらく死傷者も出ているだろう。
これだけなら糾弾されるのはSRTの方であり、ヴァルキューレと上層部である連邦生徒会・防衛室は完全な被害者だ。
しかしSRTは何食わぬ顔でリベートの証拠物件だけでなく、明らかにおかしい量の『ヴァルキューレ警察学校によるカイザーグループとの癒着』の証拠を提出。
それがクロノススクールに“漏れた”結果大騒ぎとなり、さしものの連邦生徒会もカイザーの処罰を検討し始めた。
加えて“腐敗の温床”たる公安局は解体、“絶対なる正義”であるSRTがその業務を引き継ぐと報道されていたという。
ルシアは事件の顛末を聞き、腕を組んでうなり始めた。
SRTの入学試験は屈強な地球人の大人ですら脱落者が続出するような、特殊部隊の入隊テストと何ら変わりはない過酷なものである。
ゆえにそれをパスし山羊を象った校章を授かった者は、ひどくプライドが高く『SRT特殊学園の生徒である』事にアイデンティティを求める傾向がある。
ヴァルキューレ警備局へ転入させられた元生徒への聞き込み調査から、ルシアはそう結論付けていた。
初期のミヤコのように“正義”の意味を取り違えて、盲目的に『SRTに属する自分たちが正しい』と考えている生徒も少なからず居たであろう。
だがここまで過激な行動をするほど歪んではいないはずである。
「(彼女たちの“正義感”を誤った方向に誘導した者がいる?)」
一方のリュウカは
防衛室はヴァルキューレ警察学校の上層部あるいは生徒会に相当する部署だが、実のところその活動に正当な理由なく介入する事はできない*8。
対して公安局は防衛室から直接命令を受けて活動を行う立場にあり、実質的には防衛室の私兵として扱われている*9。
そのため腐敗官僚からの“極めて政治的な”要求に従わざるを得ず、前述のリベートに関しても防衛室長であるカヤから『成果を挙げれないなら公安局は取りつぶす』と脅され*10『利害関係が一致する者と手を結べ』と遠回しに強要されたためである。
事実カヤによる政権さん奪時の混乱の際、公安局が機能停止状態にあったことでカイザーへの依存を強める結果となっていた。*11
『先生』はSRTと共謀してその公安局を解体したという。
これは実質的に
「(カヤ……いえ、防衛室に対する宣戦布告? “お前らが何を考えているのかは知っているぞ”という脅迫?)」
作中のリベート事件ではカヤが巧みに動いてカンナに全責任を押し付けたのもあるが、それが出来る(=自分に追及が及ばない)ほど防衛室の腐敗官僚が多い事を示している。
原作の先生は一連の騒ぎの元凶がカヤであると感づくのは、彼女がクーデターを成功させた『カルバノグの兎編2章』の途中から。確証に至るのは『己の正義』を貫く事を決めたミヤコが先生に『カヤ会長代行がSRT隊員を利用して行おうとしている大規模テロ計画』を話した*12ためである。
だがこの騒ぎが意図的であるとするならば、ニコが身分を隠して『カイザーと子ウサギタウン再開発計画の関係』を伝えた*13『1章後半』の時点でカヤとカイザーの関係に気付いていた事になる。
「(ヴァルキューレ本部を破壊したのは『SRT生徒の不祥事』ではなく意図的な命令? リベート以外の『汚職の証拠』がどこまで本物かはわかりませんが、真贋問わず用意するには時間がかかる……)」
あえて事件を大きくすることで警察学校の社会的信用を原作以上に失墜させ、その上部組織である防衛室の管理責任を問うと同時にカイザーグループへの追及を強める。
そして同時に『権力者を絶対悪と罵り自尊心を満たす』民衆に組織の有用性を知らしめ、『連邦生徒会長の権限を後ろ盾とする』シャーレとSRTに対する批判から目を逸らさせる……。
「チハルさん、SRT特殊学園は連邦生徒会長が活動を承認しなければ動けないはずです。もしかしてそれもシャーレが担ってるのでしょうか?」
RABBIT小隊の四名はシャーレ預かりの身であり、それが後ろ盾になってはいる。
しかしシャーレ部員としての公務を除いて活動の可否は小隊員の合議制を採っているため、特定の誰かの命令を受けて動くという事はない。
「そんなの私が知るわけないじゃん」
「ですよね」
「ああ。でもSRTらしい生徒がしょっちゅう先生の近くにいたかな?」
その一言に面食らうリュウカと
「ウサギ耳型のヘッドギアを着けてる子? それともキツネの耳が生えてる子?」
「えー……猫耳みたいな形だった気がする」
「……うーん」
話を主導していた二人が揃って考えこんでしまったため、気まずくなったマーヤが口を開いた。
「ねえ! さっき『カイザーは“あの騒ぎ”で潰れた』って言ったよね? それってどんな騒動だったの?」
プラ製コップに注がれた水で喉を湿らせると、チハルは渋々といった様子で視線をマーヤへ向けた。
「……あまり思い出したくないけど、言えって言うなら言うよ」
「カイザーのせいでヘイロー持ちが怪物になって、大勢死んだんだよ」
「「「……えっ?」」」