戦女神の日常   作:目多須でぃてくた

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 自己満足転生SSスタート


旧作エピソード
パイロット版 転生しちゃった?


 

 『●●の世界に転生した』。

 これは二次創作では掃いて捨てるほどのあるあるネタでしょう。

 対象作品が流行ってるからと何も調べずに書くゴロから、よく世界観を読みこんでシミュレーションするマニアまで執筆層は千差万別です。

 そんな作品の転生オリ主の珍道中や凶行に笑ったり怒ったり、ありえん! と頬を引きつらせたりなどしていました。

 

 ええ。過去形です。

 何しろ『私』自身がその転生者となってしまっていたので、笑い事でなくなったからです。

 ソーシャルゲーム『ブルーアーカイブ』の舞台となる超巨大学園都市、『キヴォトス』の支配層といえる女子高校生が今の私です。

 ブルアカはカジュアルにプレイしていましたが、『私』はどちらかと言えば二次創作小説を読むのが好きなタイプでした。

 

 申し遅れました、私は夢月(ゆめづき)リュウカ。

 二〇二三年地球の日本人女性だった『私』の記憶を思い出した現地人です。

 

 この手のブルアカ転生の入学先はトリニティ総合学園かゲヘナ学園の二極化が激しいです。

 理由は容易に想像できます。

 まずトリニティはメインストーリーVol.3『エデン条約編』で深堀りされていて、学園内の組織構造や内情が明確化されているため。

 ゲヘナはまぁ……マトモに授業を受けなくても平気な無法地帯なので、基本好き勝手動けるし勉強が苦手な転生者でもどうにでもなるからでしょう。

 事実『私』が某小説サイトで目を通したオリ主ものは、頭の良さが求められるミレニアムや設定が不透明な他の学園生徒は少数派でした。

 

 私ですか?

 

 「リュウカ、フブキを見ていませんか?」

 「フブキ? ……たぶん“いつも通り”だと思いますよ?」

 「もう……!」

 目の前にいるのは私の同期、中務キリノ。話題に挙げているのは同じく同期の合歓垣フブキ。

 そうです。私はヴァルキューレ警察学校、生活安全局の生徒なのです。

 

 ……そういえばメインストーリー『カルバノグの兎編 2章』の影響なのか、急激と言っていいほどオリ主のヴァルキューレ率が上がってきていました。

 学園の自治権がらみで警察権の行使ができなくとも、連邦警察的な立場はあれこれと暗躍するオリ主には向いているのかもしれませんね。

 

 本部勤めのキリノが地方扱いの山海経まで“仕事”*1の建前で食道楽に行くぐらいですし、ええ。

 

 「それにしては……体の方は大丈夫ですか?」

 「五体ピンピンですよ。一日お休みをいただきましたから、疲れも取れましたし」

 腕を大げさに動かしてキリノに健康体である事をアピールします。

 「なら良いんですが……。病み上がりなんですから無理はしないでくださいよ?」

 「キリノこそ。フブキぐらいはダメですけど、適度に肩の力を抜くのを忘れずに」

 

 なぜ私が『私』の記憶を思い出したかといいますと、よくある頭への衝撃ですね。

 交通整理中に暴走車に撥ねられて、近くの建物の壁と地面に頭をぶつけたのです。

 

 不知火カヤとカイザーが作ろうとした世間知らずの管理社会は一週間足らずで終わりましたけど、その尻拭いは当然ヴァルキューレが行う事になりました。

 公安局がシャーレと正式に協力体制を結んだおかげで、面倒な書類作成を後回しにしてすぐ出動できるようにはなっています。

 ですが大なり小なりの不満は公安局や警備局ではなく、交通局や私たち生活安全局の職域で対処するような物が多いのです。

 暴走行為や信号機などの公共物破壊がそれで、私はそれらに巻きこまれた形ですね。

 

 「では私はパトロールに行きますね」

 「え? 相方(バディ)は今日お休みをいただいていますよ? 一人で大丈夫ですか?」

 「あなたもフブキも単独行動ばかりじゃないですか。D.U.シラトリ区、コーギータウン周辺の巡回へ出発します」

 ザッと敬礼をして、キリノへ有無を言わさずに生活安全局を出ました。

 

 ……正直、少しだけ寂しいです。

 最初は一匹狼を気取っていましたけど、ぐいぐい距離を縮めてくるあの子を見てると……なんだか姉がいたらこういうものなのかと思うんですよね。

 今ではすっかり絆ランク25突破ですよ。

 

 

 

……

 

 

 

 色彩ペロロジラとKAITEN FX Mk.∞の激闘で半壊したシラトリ区ですが、カルバノグの兎編も終わってますし完全に復興しています。

 ここまでは特に何もありません。せいぜい戦車の駐禁ぐらいですけど、既に対応していました。

 

 さて。私の脳内に『私』が入力されてから一日経ちましたが、正直まだ少し混乱しています。

 特に問題なのはゲームの語り部である『シャーレの先生』に関しての情報が整理仕切れていないという点です。

 

 原作ゲームの先生はアロナの描いた似顔絵でお馴染みの、変態壊れ菩薩で知られていますね?

 漫画『便利屋68業務日誌』で『公式』ビジュアルのひとつが示された時は、開発スタッフの発言を叩き棒にした荒らしが大暴れしていたと『私』が言っています。

 ……アニメシリーズ、どんな内容になったのでしょうか?

 

 一方で無数に存在する『二次創作』という名の並行世界には、薄い本ネタを含めて魑魅魍魎のような先生が跋扈しています。

 『幻■入り』とか『鎮■■に着任』的なそういうノリで、よその漫画とかのキャラを先生にする人も後をたちません。

 いま私が生きている世界が、そういった作品の中である可能性もあるのです。

 先生の性根がひん曲がってたり、ブルアカ世界を別作品の力で蹂躪するネタを好む層は当然いるでしょう。

 ですが私は学園都市キヴォトスで生きる一人の人間です。

 神様視点で読んで楽しむだけの読者と違って、先生が狂っていたり別作品キャラとかの不確定要素があったりするのは死活問題と言わざるを得ません。

 ましてや世界(キヴォトス)そのものの存亡すらかかっているのですから。

 

 「(どうせならキリノに先生の写真でも見せてもらうべきでした)」

 “やってしまった”と制帽を取って頭をかきます。

 別にSNSを見れば先生の姿を写した写真ぐらい載せられているでしょう。

 ですがそれは避けて、本人に直接会うのが最善だと考えています。

 今の私の頭では変なバイアスがかかってしまう恐れもありますし。

 

 

 バリンと大きなガラスが割れる音、何発ぶんかの銃声。

 銃声だけならいつもの事ですが、ガラスが割れる音というのは穏やかではありませんね。

 警察官(ヴァルキューレ)としての役目に従い、現場へ向かいましょう。

 

 

 


 

 

 

 「おら! テメエら金出せ!」

 建設作業員のような格好のアンドロイド族男性が、自動小銃の銃口をあちらこちらへ向けて歩いている。

 なんの変哲もないファミリーレストランに複数人の強盗が押し入り、レジや客から現金や貴金属を奪って回っていた。

 

 「……先生、どうするの?」

 「ちょっと待ってて。いま強盗が何人いるか調べてるから」

 シャーレの先生と便利屋68の鬼方カヨコは、通りに面した窓際角席でメニューボードを見ている最中だった。

 カヨコが愛好する音楽バンドのニューシングルと、替えのイヤホンを求めてCDショップへ来た帰りにこの事件に遭遇したのだ。

 

 角のテーブル席は隣り合った席の衝立で見えにくくなっており、二人がここにいる事は強盗にまだ気づかれていない。

 賊が出入口から侵入した際の銃撃で隣のテーブル席前の窓が割れており、少し無理をすれば脱出はできる。

 だがそんな薄情な真似をするほど先生は追い詰められていない。

 

 カヨコは≪デモンズロア≫の遊底(スライド)を少し引いて薬室への装填を確認すると、いつでも撃てるように鞄の陰に隠した。

 「カヨコ、わかる範囲で強盗は六人。そのうち三人が厨房を彷徨いてる」

 先生が手に持つ≪シッテムの箱≫の画面には強盗団の姿がはっきりと映し出されていた。

 レストランの各所に設置された監視カメラをアロナがハッキングし、敵の位置を丸裸にしているのだ。

 「従業員はみんな逃げ出したみたい」

 「……ハァ」

 たとえ丸腰であっても、武器を持った犯罪者へ果敢に挑む者というのは一定数存在する。

 しかしキヴォトスの大人というのは多くが自分勝手で、危機が迫れば他人などすぐに見捨てるロクでなしである。

 先生もカヨコも己の“仕事”でそういった人たちを沢山見ているため、最初から期待はしていなかった

 現に通報すらされていないようだ。

 

 「先生」

 カヨコが小声で呼びながら窓を指差した。

 視線を向けると、ヘイローと淡色の髪の上に載ったヴァルキューレ生活安全局の制帽が窓の下から顔を覗かせていた。

 「キリノ……じゃないね」

 「確かあの髪色は……」

 先生が窓をノックすると、カヨコには見覚えない生徒がにゅっと顔を見せた。

 『犯罪者の数は?』

 メモ帳に書いた文字を指で指し示すリュウカ。

 対して紙ナプキンに『厨房に3人 裏口へ回って銃声を合図に突入』と書いて見せると、リュウカは頷いてその場を離れた。

 「生活安全局だよね? 戦力外の」

 「結構筋がいい子が多いんだよ? 表向きカンナが全部解決した事になってる『アレ』、キリノとフブキ以外の生活安全局の子たちも頑張ってくれたんだ」

 お冷で軽く喉を湿らせつつ先生はそう告げた。

 

 便利屋68は不知火カヤが政権を握っている間、D.U.には入っていない。

 むしろカヤによる無茶苦茶な政令により過激さを増すカイザーセキュリティの取締りを前に、先生が各部員に『危ないのでD.U.へ行くのはとうぶん控えるように』と呼びかけていた。

 カヤの事を思い出して少し表情を曇らせる先生を見て、カヨコは心のなかでため息をついた。

 

 

 リュウカは店の裏手に回ってすぐ、監視カメラの外に居て確認できていなかった七人目の強盗とばったり出くわした。

 「わ、ポ──」

 相手が大声を出す前に警棒で銃を叩き落とすと、そのまま回し蹴りを浴びせて近くの壁へと叩きつけた。

 「少しジッとしててください」

 立ち上がろうとした所に足を払って転ばせると、肘打ちを鳩尾に浴びせて素早く無力化する。

 アンドロイドに鳩尾打ちが効くのか? とか言ってはいけない。

 「……さて、リアルカヨコのお手並み拝見といきましょうか」

 制式拳銃に持ち直し、音を立てないように裏口の扉を開いた。

 

 

 サプレッサーを≪デモンズロア≫から外し、それを持ったままシートに手を置くカヨコ。

 先生は遮音のためエンジニア部製イヤホンを両耳の穴へと入れた。

 「! おいテメエ、シャーレの先生か!?」

 強盗の一人がついに先生の存在に気付き、銃を向けたまま駆け寄ってきた。

 「ギャハハハ! ツイてるぜ! こいつを人質にすれば金がたんまり手に入る」

 

 先生は右手の人差し指と中指で、タンとテーブルの天板を叩いた。

 攻撃の合図である。

 それを確認したカヨコはスッと≪デモンズロア≫を取り出し、目前に迫った強盗の眉間へと照準を合わせた。

 「ヒャ──」

 

 まるで大砲を撃ったかのような爆音が店内に鳴り響き、他の客や強盗たちが前後不覚となりフラついた。

 ≪デモンズロア≫から放たれた9mm弾は狙いを違えず、直撃した強盗はその場に崩れ落ちて意識を失った。

 素早くサプレッサーを銃口に付け直し立ち上がると、対岸側の一人が自動小銃を向けた。

 「なんだおま「カヨコ!」ぐはぁ!?」

 強盗が向けた銃は火をふかず、先生が具体的な指示を出す前に発射された弾が胸を強かに打った。

 更にレジを漁っていた三人目の強盗にも、カヨコの銃撃が急所へと命中した。

 

 厨房から銃声が断続的に聞こえてくる。

 カヨコは『やはり力不足か』と思いながら歩を進めると、飛び出そうとした強盗が背中から撃たれて倒れこんだのを見て足を止めた。

 「強盗犯の制圧は完了しましたよ?」

 制式拳銃の回転式弾倉(シリンダー)へ弾を込めながら、リュウカは自身に向けられた銃口を下げるように視線で促した。

 「(……キリノとフブキ以外にも腕の立つ生徒はいたんだね)」

 ≪デモンズロア≫を下ろしてフッと息を吐く。

 

 「お疲れ様、確か──」

 「私の事は後で。犯人を引き渡すため、ヴァルキューレ警備局へ連絡します」

 

 

 

……

 

 

 

 私です。私が知るシャーレの先生と顔合わせできました。

 きれいな白髪に日焼けしてない白い肌、性別は……なんでしょうね?

 頭がクラっときてうまく認識できません。

 オフだったのか男物のラフな服装なせいで、今は中性的な風貌といえるでしょう。

 背丈は一六五センチの私よりは高いですが、おそらく靴底の厚みでそう見えるだけで大差はないと思います。

 

 こう言ったらアレですけど、先生を痛めつけて生徒を曇らせるタイプの作品とかでしたら何が起きるかわかりません。

 残念ながら、どこか妙な界隈から流れてきた層が『曇らせ』と称してキャラクターを虐待するような作品もゼロではありません。

 そういった人達が書いたものの世界線であれば、待っているのは捻れた先の終着点(バッドエンド)です。

 この先生ならきっと問題なく、これからのメインストーリーを終わらせてくれると信じたいところです。

 

 ……早くこの頭の混乱をどうにかしないと。

 

 いつものように重役出勤してきた警備局に後を引き継ぐと、先生たちと一緒にペロロジラのオブジェがある池まで移動しました。

 

 ……一応警備局を擁護しておきますが、公安局ほどでないにせよ出動には様々な手続きをしなければならないんです。

 最終編では上司(不知火カヤ)がカイザーPMCに拉致された足で雲隠れした上、連邦生徒会が崩壊させられたせいで手続きが通らずに出動できなかったというのが『私』の記憶から導き出した結論です

 

 『カルバノグ2章』で公安局が『命令不服従』とやらで丸ごと謹慎処分を受けていたのは、カイザーが連邦生徒会を騙って出した『戒厳令』を撤回できる存在がなかったためです。

 加えて『シャーレ奪回作戦』での無断出動と『虚妄のサンクトゥム攻略戦』でシャーレを守ったカンナ公安局長たちを、あの糸目ピンクがジェネラルへのゴマすりを兼ねて『命令に従わない無能』として裁いた……というのが真相でしょう。

 私が生きているこの世界線では、ですけど。

 

 「先生、挨拶が遅れましたことをお詫び申し上げます。私は夢月リュウカ。ヴァルキューレ警察学校、生活安全局の生徒です」

 「よろしくね。キリノとフブキにはいつもお世話になってるよ」

 私の敬礼に対して先生は手を差し伸べてきたので、彼に合わせるように握手をしました。

 

 「今後何かのご縁があれば、また宜しくお願いします。……部員の方も」

 私はそう言って先生の隣に立つカヨコに話を振りました。

 「取り締まりとかでなければ」

 あ、はい。

 ムツキが煽ってハルカがやらかしてアル社長が白目むいたりする案件とか、便利屋は後ろめたいネタが多いんでした。

 

 「では先生、カヨコさん。私はこれにて失礼させていただきます」

 この地区のパトロールも済んだので帰りましょう。ファミレス強盗の報告書も書かなければなりませんし。

 

 

 

 「……なんか変だな」

 小さくなっていくリュウカの背を見ながら、先生はそうつぶやいた。

 「先生、あの生徒に何か……?」

 「あの子とは何度も話してるはずなんだけど、どうして初対面みたいな対応をしてるんだろう?」

 

*1
明らかに生活安全局の業務外のもの

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