戦女神の日常   作:目多須でぃてくた

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 すぐ真っ黒な設定を盛り込もうとするのは私の悪い癖です。
 ですので以前掲載していたものとは主人公の設定が別物になっています。


02 こちら生活安全局(前編)

 

 ヴァルキューレ警察学校本館*1

 連邦国家たる学園都市キヴォトスの首都、“D.U.”を始めとする非・学園自治区の治安維持を担う国家警察の総本部がここにある。

 所属生徒は数百名*2

 生徒全員が現場での業務を担当する『執行隊』ではないため、戦力としてみると意外と貧弱に思える。

 D.U.全域をカバーするため各所に警察署*3と人員が配置されているのを考慮しても、“女子高校”という性質もあってセントラル全体で見れば雀の涙程度の人手しかいない。

 これは間違いなく、“子供の国”たるキヴォトス特有の問題といえた。

 

 

 「あっ!? リュウカ! また英語で書いてますよ!?」

 「あっ」

 ある日、生活安全局のオフィスにキリノの声が響いた。

 隣のデスクで報告書を書いていた同僚へふと視線を向けると、ボンヤリとした顔で書き記されてゆく言語が日本語ではなかったのだ。

 「すみません」

 リュウカは頭をかきながら英語で記述した書類をシュレッダーに押しこみ、新しい用紙を引き出しから取り出した。

 

 キヴォトスの公用語は日本語であり、連邦生徒会の公文書も日本語に加えて印鑑が使われるなど日本文化そのままの様式が採り入れられている。

 一方で彼女(キリノ)の同期生である夢月リュウカは、文章を書く際にアメリカ式らしい英語を使う癖がある。

 キリノは一度彼女に手帳を見せてもらった事があるが、びっしりと英文が書きこまれており全貌を理解するのを断念した。

 「英語圏で育つとどうしても癖が抜けないんですよ」

 そう言いながら、今度はきれいな筆跡の日本語で素早く報告書を書き上げてゆく。

 「? そういえば、ずっと前に“自分は帰国子女だ”ーって言ってましたっけ」

 報告書を完成させ、目線を首をかしげるキリノへ向ける。

 「そうですよ」

 

 ペンを置いて彼女へ椅子ごと向き直ると、リュウカは自身の生まれを初めて他人に語った。

 「ママは“遠い世界”からキヴォトス観光に来たところで、駅のロッカーの中に捨てられていた私を拾ったそうです」

 「……ええっ」

 「それで中学までは“外”で育てられて、高校進学に併せてキヴォトスに戻ってきたんです」

 シレッと突飛な話をされて息が詰まるキリノ。

 “キヴォトスの外”と一口に言っても、学園都市キヴォトスとされる領域の“外”とキヴォトスのある世界(惑星)の“外”の二種類がある。

 学園都市の外からの出入りがあるのはキリノも知っているが、彼女が言っている“外”はおそらく後者だ。

 

 「ごめんなさい。いきなり話すような内容ではなかったですね。でもママに拾われたおかげで、私はいま幸せなんですよ」

 「……確かに、本当の親御さんは自分のお腹を痛めて産んだ赤ちゃんを捨てるような人ですからね」

 リュウカは素知らぬ顔で席から立ち上がると、複雑そうな顔のキリノの肩を叩いてほほ笑みかけた。

 

 

 報告書を不在の生活安全局長席へ置きに行きながら、リュウカは思考を巡らせた。

 「(ある意味、これが『私』の転生特典といえるのでしょうか?)」

 リュウカの前世女性がプレイしていたゲーム『ブルーアーカイブ』は、いま彼女が生きている『学園都市キヴォトス』を舞台にしている。

 プレイヤーの分身たる語り部『シャーレの先生』の視点で学園都市の支配層たる女子高生の青春物語を支えてゆく構成上、世界観すべてが描写される訳ではない。

 特に女子高生と同じ人間型(ヒューマノイド)の『大人』と年齢を問わない『男性』は明言される形で登場せず、獣人やロボットの住人が登場するのみとなっている。

 公式側が製作した短編アニメや漫画『便利屋68業務日報』も同様で、2.5周年を迎えた二〇二三年半ばまでは確実にこれが徹底されている。

 

 そのため二次創作物において『キヴォトスにはヒトの男性が存在しない』という極端な解釈をする者、『ここはコンピュータワールドであり、処理数削減のため無関係な人間を獣人やロボットに置き換えている』というメタフィクション的な説を主張する者が一定以上いる。

 また百合に挟まる男ではないが、先生以外の人物を男主人公にして女子校に組み込む二次創作も結構な数が存在する。

 

 しかし、リュウカが生まれたキヴォトスにはヒトの大人や男性も普通にいる。

 原作を尊重する形で説明するならば『単に物語に登場していないだけ』である。

 そもそもアリウス分校を含めたトリニティでは『貴族』『血統』絡みの展開が散見され、大企業セイント・ネフティスの令嬢である事が示唆されるノノミという指標もあるのだ。

 「(仮に死ぬ前に見つけてもらえても、ママが拾ってくれなければサオリたちと同じ運命を辿っていたかもしれません)」

 遠い昔に起きた歪みの果てに、悪意ある大人によって殺人マシンに仕立て上げられかけた少女たちを思い浮かべた。

 

 二次創作において『原作を知る者がその世界へ転生』というシチュエーションは、登場人物が知り得ない知識や展開をあらかじめ把握できる事から『原作キャラクターに対する優位性を確保できる』面から人気がある。

 『ブルーアーカイブ』もまた同様なのだが、上記の事情ゆえか“親”という存在に踏みこむ事は基本的に無い。

 親という存在は、ただ資産と学園での地位を提供してくれる、便利な『舞台装置』にすぎないのだ。

 

 とはいえ作劇上の都合もあるにせよ、キヴォトスの“大人”は悪人や心無い者が大半を占めている。

 実子から一切顧みられる事ないアツコの親族や、生徒会から失脚した途端に娘を放逐したミカの親といい、血の繋がった実の娘であっても自己保身や利用価値の喪失であっさりと見捨てる者も存在する。

 これでは触れたくないのも無理はない。

 

 「(こうして違う世界の価値観から見てみると、キヴォトスってほんと倫理観おかしいですね)」

 ため息をつきながらコーヒーマシンのサーバーを手に取り、煮詰まったコーヒーを紙コップへと注いだ。

 「(まあ、地球人とて違う文明からすれば未開の蛮族になるでしょう。異文化交流とはそんなものです)」

 

 

 「なにしけたツラしてるのさ、二人とも」

 「い、いえ! なんでもありませんよ!?」

 席に戻ったリュウカとキリノの間に割りこむように、マーヤがビニール袋片手に身を乗り出してきた。

 「はいこれほか弁。今度は自分で取りに行きなよ?」

 トンとキリノの目の前に近所で買ってきた仕出し弁当が置かれた。

 「ありがとうございます! ……あれ? マーヤの分は?」

 「ボクらは今からパトロールでしょ? そのついでにネットで評判の店に美味しいものを食べにいくんだよ」

 「え。ず、ずるいですよ!?」

 マーヤそう言いながら、机の上にあったリュウカの制帽を乱暴に被せた。

 そんな彼女に対してリュウカは、不機嫌そうなうなり声をあげながら席を立った。

 「ほら行くよリュウカ。うまいランチがボクたちを待ってるからね」

 「目的を取り違えていますよ……。パトロールに行ってきます」

 

 そそくさとオフィスを出る二人とすれ違いながら、フブキはドーナツの入った箱を抱えてキリノの元へやってきた。

 「あの二人も何だかんだよくやっていけてるねぇ……?」

 「言うほど不思議ですか? 結構いいコンビだと思いますけど」

 「まあね」

 『私たちと同じか』と心の中で思いつつ、箱を開いて紙ナプキンごとドーナツを二つキリノの机に置いた。

 「これ、いつものお店ではないですね?」

 「あー。ちょっと途中で先生に出くわしてさ、『トリニティに最近できた店で買ってきたから、キリノと一緒にどうぞ』ってくれたの」

 「わあっ」

 フブキはドーナツ箱を自分のデスクに置くと、引き出しの中からインスタントコーヒーの箱を取り出して給湯室へ向かった。

 オフィス内にあるマシンにセットしてある豆は味の良くない安物の上、先程リュウカが淹れたもののように保温したまま放置されて煮立ってしまっている。

 故にフブキは、あれこれ試して気に入ったインスタントコーヒーをストックしておき、特別に美味しいドーナツを食べる時に淹れて飲んでいるのだ。

 

 コーヒーを持って戻ってくると、キリノは弁当そっちのけでドーナツを頬張っていた。

 「むむっ……美味しいですよこれ! フブキ! 先生からお店の名前と場所聞いていませんか!?」

 箱は汎用品の白い無地であるため、店名などが書かれていなかった。

 『実は私の手製なんだ』と言えば信じてしまうかもしれないが、先生はこういう事では嘘をつかない人である。

 「後でモモトークすればいいやと思ってたからなぁ」

 早くも二つ目に齧りつく相棒を尻目に席へ座り、箱から取り出したチョコファッションを一口。

 モクモクと味わうように咀嚼し、コーヒーを一口。

 「んーっ♪ 美味い……」

 

 

 


 

 

 

 はい。

 ママは異世界人で自分は地球人の前世記憶持ち。夢月リュウカです。

 これって属性過多じゃないでしょうか?

 でも“向こう”で名の知れた人物であるママがキヴォトスに住んでいる訳ではないので、ぶっちゃけて言えばフレーバーみたいなものですよ。

 ブルアカに限らずとも存在する『無関係な作品の“能力だけ”転生特典として貰って、自分自身の力としてそれを振るうタイプの転生者』よりはよっぽど謙虚だと思っています。

 

 マーヤとの関係を大雑把に說明しますと、訓練所以来の腐れ縁といったところでしょうか。

 髪の一部を染めてはいますけど、制服を大きく着崩したりローファーやブーツではなくスニーカーを履いているフブキよりは落ち着いています。

 

 そもそも“かっこいい”と謳うヴァルキューレの制服って結構バラバラなんですよね。

 キリノと私たちが着ているものが生活安全局の制式ですけど、フブキが着ているのはカンナ公安局長や警備局・公安局の生徒……いわゆる『ヴァルキューレ警察学校のモブ』が着ているものに近いです。

 この制服は確かにカッコイイですけど、デザイン優先で機能性は他の制服と比べて劣りますし……。

 アメリカの警察官をイメージしたらしいフブキはもとより、同時期*4に登場したモブが日米織り交ぜた“普通の”デザインなのは汎用性を重視した通常型制服……かもしれません。

 

 「……また脳内トーク? 最近ずいぶんと多いね」

 「仕事はちゃんとしてるからいいじゃないですか」

 私が北風なら彼女は太陽でしょうか。いや、ル■ン■世と次■大■のほうが適切か。

 典型的な凸凹コンビですよ。

 

 

 さて。

 私たちが属する『生活安全局』は、そのまま日本警察庁の生活安全局と上部組織の地域部に近い任務を担っています。

 大雑把に説明すると日常のパトロールや交通整理を行う地域警察全般、鉄道路線などの治安維持を担当する鉄道警察隊の任務も範疇に含まれています。

 『カルバノグの兎編2章』でカヤとの密約に基づいて駅を占拠したカイザーを、カンナ局長と我々はミヤコと先生を援護するため『執務規則第32条1項』を適用して排除しました。

 これも私たち生活安全局が、鉄道駅を含めた公共交通機関の安全を守る任務を帯びているからこそできた芸当です。

 ……まあ、鉄道強盗とかの検挙は警備局や公安局の仕事ですが。

 

 

 「それで? どこの店に行く気ですか?」

 「『バンクオブシカゴ』ってピザ料理の店があるんだけど、そこで出してるシカゴ風ピザとかサイドのシカゴドッグが美味いんだって」

 チセが“名古屋めし”と口にしたりしてるから今更ですけど、キヴォトスって地球の地名とか固有名詞がバンバン出てきますよね。

 「ほらあそこ。早めに来たつもりだけど並んでるね」

 マーヤが指差した先に立つ雑居ビルの一階に、デカデカと『BANK OF CHICAGO』と書かれた看板を掲げた店がありました。

 私たちは風下にいるからか、お店の方からピザとかの美味しそうな匂いが流れてきて……

 「あ」

 「……かわいい腹の音だね。期待してたんでしょ?」

 「うるさい」

 ニタニタ笑うマーヤを置いて先を進みます。

 店先に人が並び始めてますし、巡回中なのにあまり同じ場所に留まるのはサボりと見られる恐れがあります。

 

 列に並ぼうとしたその時。

 視界に煙を曳く何かが一瞬見えたのを見て、追いついてきたマーヤを反射的に地面へ押し倒しました。

 

 爆発。

 

 目の前でお店が大爆発を起こし、前に並んでいた市民たちが吹き飛ばされるのが目にうつった。

 巻きこまれたのがキヴォトス人でなかったらと思うと、背筋が寒くなる……。

 

 「えっなに? 銀行強盗?」

 私の下敷きになったマーヤが疑問の声をあげますが、その内容がいくらなんでも頭が悪すぎます。

 「そんなバカな。名前だけ見て銀行と間違えるなんて──」

 

 「ハァ!? ここは銀行じゃない!?」

 「だから言ったじゃないですか!」

 

 前言撤回。無反動砲(RPG-7)が発射された方からそんな声が聞こえてきて、私は頭を抱えたくなりました。

 ……そうでした。ここは学園都市キヴォトス。

 強盗の動機が“猫カフェの行き過ぎで金欠になった”とか、くっそしょーもないものだったりするブラックコメディワールドでした。

 

 私、少し自信なくなってきたかも……。

 

*1
以降、警察学校本部

*2
『カルバノグの兎編』1章16話、サキの発言「ヴァルキューレの本館ってことだろ?あの要塞、何百人いると思ってるんだ?」

*3
呼称は『分校』や『支所』など公式でもまちまち

*4
バレンタインイベント




次回に続く
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