リュウカは相方のマーヤに連れられてパトロールついでの外食へと赴いた。
ところが目的地のレストランの店名が“BANK”だったせいで、頭キヴォトスな犯人が銀行と間違えて襲撃する場面に遭遇してしまった。
私たちの目前で吹き飛んだレストラン、黒焦げになりながら脱兎のごとく逃げ出す民衆。
避難誘導をする必要もありませんね。キヴォトスの市民は逃げ足と陰口だけは一級品ですから。
二年目夏のショートアニメの話を少し。
さっきまでバーゲンセールで商品を奪い合う時に銃を向け合っていた女子高生たちが、警備ロボットの暴走時には一目散に逃げ出していました。
その銃は飾りですか?
これを言うと最終編2章『虚妄のサンクトゥム攻略戦』のトリニティ自治区防衛戦もですね。
避難が遅れて外れの古聖堂まで追い詰められた民衆を守ったのは、避難誘導に割り当てられ偶々同行していたコハルと、そして彼女を助けるために持ち場を離れて駆けつけたミカだけです。
トリカス……失礼。トリニティ一般モブは遅れて駆けつけたハスミとマシロに『ミカが敵だ』と主張する、恩を仇で返すムーブをかましていました。
安易に掌返して感謝せずとも、その口を閉じられないんですか?
女子高生どころか一般市民ですら銃器や爆弾携帯が“常識”のキヴォトスですが、その武器を持って犯罪者や脅威に立ち向かう『勇気あるもの』は存在しません。
キヴォトス人にとって銃器は新聞紙ソードのようなもので、『戦うための兵器』であるという認識がないのかもしれませんね。
私はキヴォトスの外で育ったうえに地球人の倫理観がプラグインされているので、普通のキヴォトス人とは考え方が違うのでしょう。
「どうすんのリュウカ? ほっとく?」
「我々は警察官ですよ? 始末書は書きたくないでしょう?」
……それよりも、目の前の蛮行をどうにかしませんと。
警備局の到着を待っていては犯人が逃げてしまいますから。
「だから言ったじゃないですかお姉……姉貴! そこは銀行じゃないって!」
「うるせえですわ! 銀行の上に喫茶店が入ってる*1ような紛らわしいとこがあるのが悪い!」
ヘルメット団のような装いの二人組は、黒煙をあげるレストランを遠目に見ながら言い争っていた。
“ヘルメット団のような”と一口に言っても、それはゲーム中で立ち絵を使いまわしているからというメタ的な理由だけではない。
単にヘルメットを被れば成立するお手軽さから、顔を隠す目的でメットを着用した者も結果的にヘルメット団風になるのだ。
最終編以降のサオリがヘルメット団のアルバイトで被っている、駄コラ感丸出しの立ち絵が印象に残る
また『便利屋68業務日報』4話に登場した『バリバリヘルメット団』に至っては、構成員が工事用ヘルメットを被った汎用モブ“傭兵バイト”で占められていた程だ。
「ウダウダやってるヒマはねェです。売上金だけでも奪うぞ!」
姉貴と言われた赤ヘルは
素人丸出しな動きで周囲を警戒しつつ、店の前まで進む。
『ヴァルキューレ警察学校だ! そこのヘルメット女二名、武器を捨てて投降しろ!』
警察を名乗る何者かが拡声器を使って呼びかけてきたのを受けて、強盗は足を止めた。
「なんですのよ!?」
『レストランにロケットぶち込んどいて、心当たりがないとか言う気かい?』
一〇メートル先の人影に銃口を向け、その姿をはっきりと認識する。
その格好はまぎれもなくヴァルキューレの制服だったが、種類を見てリーダー格はバイザーの下でほくそ笑んだ。
「生活安全局じゃねえですか。迷子の相手でもしてろ!」
左手で中指を立て腰に構えた銃の引金を連続的に引く。
銃から放たれた7.62mm弾が自分たちへ飛んできたのを確認し、リュウカとマーヤは建物の陰に飛びこんだ。
対面にあるビルの窓に写る鏡像で様子を見ながら、腰のホルスターから制式拳銃を抜くリュウカ。
彼女が持つ“第3号ヴァルキューレ制式拳銃”は生活安全局の標準的な装備で、五連発の.38口径
「公務執行妨害が成立しましたね」
「一発お尻に当たったよ。あー痛い」
マーヤは自分の尻をさすりながら、得物である“
こちらは昔警備局で使われていた装備が、
「作戦はどうします?」
「考えるだけ無駄でしょ。もう店は吹っ飛んじゃってるし」
「ではごり押しで」
「オーライ」
リュウカは判っている情報をもとに骨子を作り、
二人は生活安全局の業務外である『犯人制圧』を行う際、いつもこのように役割を分けている。
足音を忍ばせ壁伝いに移動し、マーヤはわずかに顔を出して中の様子を確認した。
店の規模にしては万全の防火設備を備えていたらしく、スプリンクラーによって店内の火は消えていた。
厨房は客席から調理の様子が見れるようにガラス張りになっており、そこへ榴弾が飛びこんでガス爆発を起こしたらしい。
「こりゃ営業再開はいつになるやら……ちぇっ」
「マーヤ」
「店内クリア。連中は奥に行ったようだね」
破壊したレジスターの中に現金があまり入っておらず、敵を目の前にして金庫狙いに切り替えたようだ。
このグダグダぶりで本当は銀行強盗をしようとしていたのだから、呆れたものだとリュウカはため息をつく。
厨房の隅にあった元栓を閉めてスプリンクラーを止めて、二人はバックヤードを進む。
最奥の事務室の扉がこじ開けられているのを確認し、壁際へ寄って突入体勢を整える。
『お姉様、これどうやって開けるんです?』
『……あー。その辺に番号とかないですか? ヴァルキューレの警備局は、局長の誕生日を備品ロッカーのパスワードにして付箋貼ってるって噂ですし』
マーヤは会話の内容に面食らってリュウカに振り向くが、彼女に力なく首を横に振られて眉間を押さえた。
「(だから警備局には行きたくなかったんだよ!)」
「(言ってる場合ですか。カチコミますよ)」
リュウカはスモークグレネードと併せて一個ずつ持ってきている
ドン、という爆音と強烈な閃光が室内を包んだのを確認すると、銃を構えながらすばやく室内へと進入する。
「アアアアッ!」
物陰からふらつく黒ヘルが飛び出し、叫びながらマシンガンで殴りかかってきた。
「撃てよお嬢様」
マーヤは迷うことなくトリガーを引き、まず敢えてバイザーに覆われた顔面に一発。
「ぎゃっ」
フォアエンドを動かして次弾を薬室へ送りこむと、胴体へ追い撃ちの一発。
こちらは腹付近に命中し、机へ倒れこむと腹を押さえて咳こみ始めた。
「リュウカ、
黒ヘルの捕縛を相方に任せて奥へ進むと、リーダー格の女が耳を押さえて床をのたうち回っていた。
色付きバイザーのせいでダイヤルが読み取れず、赤ヘルを脱いでいたらしい。
腕をつかみ上げて無理やり立たせると、焦点が定まってないその目の前で手錠をかけた。
「一二時一九分。強盗・傷害・器物損壊・住居不法侵入の現行犯、ならびに公務執行妨害で逮捕ね」
強盗犯ふたりを外まで連れ出したところで、警備局の生徒が乗っているらしいパトカー何台かがやってきました。
ヴァルキューレって見た目はアメリカンなのに、バレンタインイベの告知を見るとパトカーは日本で使われているタイプなんですよね。
個人的にはダッジ・チャージャーの方が似合ってると思うのですけど。
中から降りてきたのはタクティカルベストを身に着けた生徒が四人と、白いブレザー型ジャケットを着た生徒が一人。
警備局長から任命された現場指揮官のひとりと、指揮下に加わった当直の小隊のようです。
ここでヴァルキューレ警備局について説明しましょう。
警備局は武力行使による犯罪者の検挙を行う『SWATチーム』と、治安警備などの『集団警備力』を執り行う日本の機動隊の性格を併せ持つ戦闘部隊のことです。
SWATチームは一般的なイメージと違って、武力行使による犯人の制圧・殺害は交渉に失敗した時の最終手段ですので可能な限り避けるよう努力します。
ですが銃程度では死なないキヴォトス人の防御力に加えて、銃の引き金が大変軽く日常的に銃撃戦が起きる事情から、警備局は武力行使による速やかな犯人逮捕を前提に出動します。
フブキの初登場となった生活安全局グループストーリー*2において、警備局は強盗犯ひとりに局長が出張ってくる様子が描かれていました。
キリノが『警備局に志願していた』という設定も併せて、この時点では憧れの特殊部隊といった印象をユーザー側は受け取っていたと思います。
ですが二〇二二年となりヴァルキューレ警察学校が深掘りされ、本物の特殊部隊である公安局が登場すると状況は一変します。
その結果、警備局の生徒はあまりにも……その……、数だけはやたらといるボンクラで平和ボケの無能集団としか言いようがない状態になってしまいました。
もちろん真面目に仕事をしてる生徒はいるのでしょうけど、物語中に出てくる警備局生徒は九割九分このタイプです。
現行の設定なら、キリノの志望先は公安局である方が適切でしょう。
カヤに利用されたFOX小隊の襲撃が原因となってSRT特殊学園は廃校に追いこまれましたが、それに反発したミヤコたちRABBIT小隊と行方をくらませたFOX小隊以外の生徒は“警備局へと転入した”とされています*3。
……大丈夫なんですか? SASとかデルタフォースの現役隊員を小学校の風紀委員にするようなものですよ?
SRT生徒のプライドの高さは作中でも触れられていますし、温度差が激しすぎて肩身の狭い思いしてませんか?
ともあれ今回のように飲食店を襲ったごく少人数の強盗犯相手であれば、このような最小限の戦力だけで十分だと思います。
閑話休題。
警備局の指揮官は犯人を見ると露骨に顔をしかめて、私へ話を切り出してきました。
「任務外業務ご苦労様。犯人はその二人で間違いないの?」
「はい。ミランダ警告のうえで簡単に身元を確認しましたが、二人共トリニティ総合学園の生徒です。所持していた学生証も本物のようです」
指揮官はキヴォトス三大校のうち、ある意味一番厄介なところの名を挙げられた事で口角が露骨に下がりました。
「……そう。後は警備局が引き継ぐわ。貴官らは業務に戻りなさい」
彼女はこれで話は終わりだとばかりに強盗犯を引っ張り、パトカーへ押しこみました。
『ヴァルキューレ風情が何の権利があって私を捕まえるというのです! 私の家は──』
「行きましょう」
「ああ」
スプリンクラーのせいで私たちはびしょ濡れです。
早く学校へ戻ってシャワーでも浴びましょう。
……
私たちはシャワーを浴びた後、髪を完全に乾かす間もなく生活安全局のオフィスへ戻りました。
本件に関しての報告書を書かなければなりませんし、キリノとフブキのペアが入れ違いに外での対応に出かけましたから。
「ねえ? ハヤホがどうしてあんな顔をしたか、リュウカはわかる?」
売店で買ってきたクリームパンを齧りながら、私の対面にあるデスクからマーヤが聞いてきました。
髪が完全に乾いていないので結ばず下ろしています。
“
訓練所で射撃教官を務めていた時期があって、私たちもお世話になっています。
警備局の増員に伴って現場に戻されたと前に……それは置いておいて。
「そうですね……。犯人はおそらく常習犯で、罪をなかった事にできるだけの後ろ盾を持っているのではないでしょうか? どうもハヤホさんは犯人グループの顔を知っているようでしたし」
「でもトリニティの生徒でしょ? そんな事するかな?」
ゲヘナは
ですがトリニティは生徒の親が関係者に顔が利く有権者でしたり、校内派閥のアレコレや
ですが、それはトリニティの自治区内で起きた事件に限ります。
「マーヤ、“生徒全員がその学園の自治区に住んでいるわけじゃない”ですよ?」
「……ああ、そういうこと」
背中と尻で語る別ゲームの某キャラみたいな顔しないでください。笑ってしまいますから。
つまり、あの不良トリニティ生徒はD.U.などの非学園自治区に住んでいて、実家が防衛室に働きかけて罪を無かった事にできるだけの力を持っている……のかもしれません。
『ブラックストーン』という企業が自社の謀略を邪魔されないように、防衛室に賄賂を渡してヴァルキューレの活動を妨害したという事例が原作中にもあります。*4
カヤが失脚し実質的に防衛室を取り仕切っていた次長が室長代行に立とうとも、一人ですべての仕事をしている訳ではありません。
ですからカヤに媚びへつらって甘い蜜を吸っていた汚職官僚なりが、その後釜に座ろうと密かに動き回っているのでしょう。
そんな事してまで子を守る親も親ですが、賄賂を渡して即釈放とかG■Aのようですね。
これ全部私の妄想ですよ? 本当のところは分かりません。
「まぁ
「だといいんだけどねぇ」
マーヤはパンを口に詰め込みながらそうボヤきます。
私たちは生活安全局なんですから、そういう事は他の部署に任せておけばいいのですよ。
普段おちゃらけているのに根っこは真面目なとこ、私は好きですけどね。
……あ、また英語で書いちゃった。書き直さないと。