戦女神の日常   作:目多須でぃてくた

6 / 18
04 警察学校の裏事情

 

 自室のベッドからおはようございます、夢月リュウカです。

 間抜けなレストラン強盗の件からしばらく経ちましたが、キヴォトスはいつも通り子供のケンカレベルの銃撃戦が絶えません。

 まともな感性を持った地球人がキヴォトスへ来たら、ストレスで気が狂ってしまうんじゃないでしょうか?

 

 「ふぅわぁ……。朝ご飯作らなきゃ」

 

 ……ああ、そういえば。

 “転生”の仕組みについて解説していませんでしたね。

 流石にコトリでも語れない内容ですし、この際ですから說明しましょう。

 

 私が育った世界では、様々な出来事を経て輪廻転生の原理がある程度解明されています。

 “前世の記憶と倫理観を思い出す”という現象*1は『完全に初期化されたはずの魂が、何かの弾みでリセット前の状態に一部復帰してしまった』という理屈です。

 原因は主に頭部への外傷、あるいは多大な精神的苦痛など。いずれにせよ脳に強いショックがかかった場合です。

 これがより重篤になると『現人格の喪失と前人格の復帰』が起きて、魂が完全に初期化前に戻ってしまいます。

 俗にいう“憑依転生”ものの多くは、このように前世の人格と記憶が現世のそれと引き換えに復活する現象を指します。

 そうですね……電子ゲームにおける巻き戻りバグみたいなものでしょうか。

 転生者が多くの場合『身体の持ち主の魂はどこに消えた?』と疑問に思わないのは、魂自体は同一のものだからです。

 

 重篤化の要因としては、その人の前世と今の世界のギャップ差にあると考えられます。

 中世〜近代ヨーロッパ風ファンタジー世界で転生者が多いのは、二一世紀地球の科学世界との落差が激しいからでしょう。

 幸い『私』の地球と私の育った世界は文明レベルと倫理観も大して変わりませんし、何よりも養母(ママ)やそのご親友といった専門筋の方もいらっしゃいます。

 キヴォトス人でありながら記憶の混乱だけで済んだのは、間違いなく『転生』までの環境の違いにあります。

 事前に知識で知っていなければ『自己意識を強く保つ』という初歩的な対処はできませんでしたし。

 

 

 『いいかいリュウカ。突然知らない記憶が脳内にあふれたりしても、君自身が自分を認識し保っていれば“憑依転生”とか言って身体を乗っ取ってくるヤツには負けない』

 

 『血の繋がりがなくても、生まれた世界が違っても紡いだ絆は途切れはしない。リュウカ、君は間違いなく私の素敵な娘だよ』

 

 

 ママの言いつけを思い出してみれば、あの時マーヤがそばにいてくれたのは僥倖と言えたでしょう。

 もし一人でいた場合、高熱からの自我消失……重篤化していたでしょうから。

 事故直後のあの時が一番リュウカ(わたし)が“死”に近づいた時期と言えましょう。

 

 冗談じゃありません。憑依転生主人公は他の小説でやってください。

 

 前世の話はジャンル別に本へまとめて、すぐ参照できるように記憶の本棚に仕舞っています。

 なんだかんだ、読んでて面白いものですしね。

 それでも時折『私』が強く出る事があります。

 

 

 


 

 

 

 ヴァルキューレ警察学校の生徒は、基本的に実家を離れて学校敷地内にある学生寮へ入寮する。

 もちろん有事の際にすぐ出場できるように……という理由であるが、リソースは有限である。

 少なくない数の生徒は家や近郊に借りたアパートなどから通っている。

 本部勤めのリュウカとマーヤもその通学組である。

 

 親バカを発揮した養母が『家賃高すぎて入る人いないんでしょう?』と家主を札束で叩いて購入した、学校近くに建つ高層マンションの一室が彼女の家だ。

 間取りは2LDKだが一人で住むにはかなり広く、駐車場まで付属している。

 

 「おはよー……」

 「おはようございます」

 キッチンで塩鮭の切り身を焼いていると、もう一つの部屋からフラフラとマーヤが姿を現した。

 最初は一人で住んでいたが、今現在はルームメイトとのトラブルを期に寮を出た彼女を居候させている。

 「ねむいよー」

 ブツブツ呟きながらゴロンとソファーに寝転がるマーヤに、気付けのミルクティーが差し出された。

 カップを受け取らずにそのまま口をつけ、気怠そうな顔で一気に飲み干す。

 「あー……何でもできる親友に甘やかされてダメ人間になるー」

 「変なこと言ってないでちゃんと起きてください」

 

 

 朝食を済ませ身支度を整えると、登校までそれなりに時間が余るのでダラダラと過ごす。

 元々二人が早寝早起きなのもあるが、不測の事態に対処できるよう余裕を持って行動しているからだ。

 相変わらずデマゴギーを撒き散らすクロノススクールの番組からテレビのチャンネルを変えると、ヴァルキューレ警察学校への転入学者を募集するCM*2が流れていた。

 

 「……確か、本部にもまとまった数の物好きが入ってくるんだよね?」

 「ええ。公安局はゼロ、ほぼ全員が警備局か交通局へ振り分けられています」

 「カンナ局長かシャーレとのコネ目当てで入ってきた子がいたそうだね。ご愁傷さま」

 「今更“カンナ親衛隊”に入るのは敷居が高いでしょう」

 湯呑を傾け、ほどよい温度の緑茶を胃の中へ流しこむ。

 

 

 ヴァルキューレ警察学校において、どういう方法で新入生の配属先を決めるのか?

 一般的な警察組織なり公的機関なら、まず全員に共通の教育を施したのち、一定の条件を満たした希望者に改めて専門の訓練を施す。

 数百・数千の人間を一度に捌く以上は徹底した効率化が求められるので、各種手続きの単純化という点でも望ましい。

 ヴァルキューレも基本的には同じである。

 

 だがヴァルキューレ警察学校は女子だけが入学可能な女学校であり、在席期間はほんの数年しかない。

 男女の区別なく採用し長く勤める事ができる一般の警察と比べて、経験者も単純な人員数も常に不足している。

 加えて新年度は最上級生が卒業した直後なので、各部門は大量の定数割れを起こしている状態である。

 

 ゆえに警察組織ではあるが人材をえり好みする余裕はなく、入学試験に合格したのであれば素行に関係なく入学させる(採用する)

 入ってきた新入生は最低限の仕事ができるように速成教育が施され、入学してからごく短期間で警察官としての業務に就くのだ。

 その配備前の生徒を各部門へ振り分けるにあたり、一人でも多く確保しようと警備局を中心に水面下で激しい争いが繰り広げられる。

 人気があるのは当然ながら、入学試験の座学・実技の成績が良い者だ。

 

 

 空になった湯呑を預かり、マーヤはシンクへ向かいながら話を続ける。

 「……問題は、生活安全局からの引き抜きがあるって事だね」

 「前にカイザーを“しょっぴいた”時、射撃下手なのを承知でキリノを警備局に引き抜こうとしてましたしね」

 リュウカはソファーから立ち上がると、壁に掛けてあったストラップに腕を通して胸の下でバンドを留めた。

 「公安局がシャーレと提携したのに焦ってるように見えるよ」

 「命令に忠実なのは良い事ですが、そのせいで最近はいいトコなしですからね」

 棚の上に置いてあった特徴的な外観の中型拳銃≪首狩りウサギ≫のスライドを引き薬室に装填された弾を確認すると、安全装置をかけてショルダーホルスターへ収める。

 湯呑を洗い終えたマーヤも同じように出勤(登校)準備を始めた。

 「そこそこ腕の立つ二年生五人引き抜いて、一年の新人二人入れるとか勘定が合わないよ」

 「相次ぐ身内の不祥事で、警備局長の脳が壊れたのでは無いでしょうか? 真面目な方ですし」

 「まあ、本人が望んでたからいいんじゃない?」

 マーヤはヒップホルスターを提げたベルトを腰に巻くと、体の左側に回したそれにロングバレルのハンドガン≪マインド&ポジティブ≫を差しこんで上着を着込む。

 

 

 

 生活安全局は連邦生徒会・交通室の管理下にある公共交通機関の治安維持という、きわめて重要な任務を帯びている。

 だが現実には小さな子供から犯罪者、はてには身内に至るまで『落し物探しや交通整理しかできない落ちこぼれ』と見下しバカにしている。

 リュウカとマーヤが所属する本部所属の生活安全局もまた同じであり、その一方で引き抜きによる定数割れを起こしている。

 所属する生徒の数も公安局を除けば最も少ないとされる。*3

 

 なぜこのような認識の齟齬が生じているのか?

 理由は驚くほど簡単で、『荒事は場所を問わずすべて警備局か公安局の職域』のうえ『キヴォトスは凶悪犯罪が日常的に起きている』からである。

 

 ヴァルキューレ警察学校は人手のみならず慢性的な予算不足に悩まされており、制式装備の更新はおろか諸事情で一時は弾薬不足にまで陥っている。

 執行隊の装備を万遍なく充実させる事など端から不可能である。

 そのため『犯罪対応はすべて警備局の仕事』という認識が生まれるほどに任務と権限を集約し、そして予算と人員も同じように警備局へと優先的に回しているのだ。

 特殊部隊である公安局は言わずもがな。

 

 もう一度記すが、鉄道施設内の警備は生活安全局の担当である。*4

 しかし列車強盗などは公安局、駅敷地内の暴動には警備局が出張ってくるため“やる事がなく”むしろ邪魔者扱いされる。

 その役割が一般人にまるで認知されていないのはこれが原因だ。

 

 更に人員は問題児や劣等生などの“余りもの”を中心に必要最低限の人数しかなく、回される銃火器も他の部門で使われなくなった二線級か骨董品である。

 オモチャの銃*5で遊ぶ感覚で実銃による撃ち合いが行われるキヴォトスにおいて、“その程度”は戦闘員と見做さない風潮がヴァルキューレ内部にはあった。

 

 

 『そもそも、ろくな武器だって持っていないだろうに……何を根拠に勝てると? ……自分の腕前ぐらい、分かっているものだとは思ったがな?』

 

 『……すみませんが、先生。 彼女たちは基本的に戦闘員ではなく、平和ボケした生活安全局の所属です』

 

 『エリートとそうでない生徒の間には、到底埋められない隙間があるんですよ』*6

 

 シャーレの先生(プレイヤー)がRABBIT小隊、そしてカンナと初めて会った、『カルバノグの兎編1章』2話。

 手柄欲しさに真っ先に駆けつけたキリノとそれについて来たフブキ、そして先生へと彼女がぶつけた言葉。

 単にカンナが心が擦れてしまった皮肉屋であるだけではない。

 このヴァルキューレ裏事情を知ったならば、なるほどここまで生活安全局とその生徒を肯定する先生に対して、彼女が徹底的に見下した態度を取るのも当然のことなのだ。

 

 ただ、どうもこのやり取りは現実では少し異なるらしい。

 原作の先生と“この世界での先生”の違いが現れたのだろう。

 

 

 

 「(というより、原作の先生が社会人としてだらしなさ過ぎではないでしょうか?)」

 ショルダーバッグを背負ったマーヤが外に出てから、家の中の戸締まりを再度確認し扉の鍵をしっかりと掛けた。

 「それじゃ行こうか」

 「車運転します?」

 「やめとくよ。まだ眠いから」

 

 エレベーターで地下駐車場へと降り、割り振られたスペースに停められた青いシティカー(ダイハツ・トレヴィス)へと乗りこむ。

 「忘れ物は?」

 「ないよ」

 シートベルト着用。

 「銃は?」

 「持ってるよ」

 エンジン始動。

 「晩ごはん何がいいですか?」

 「ミートボールパスタ」

 「……結構面倒なリクエストですね」

 パーキングブレーキ解除。

 アクセルペダルを優しく踏み、徐行運転で駐車場内を進み地上へ続く通路を登ってゆく。

 

 公道へ出ると制限速度を守りながら、車は警察学校へ向けて走り出した。

 「では身内からもバカにされる仕事に行きましょうか」

 「リュウカ、もしかして機嫌悪い?」

 「この間の警備局の連中を思い出したら腹が立ってきまして」

 

 正当な評価を貰うことのない、落ちこぼれ(エリート)の一日が今日も始まる。

 

*1
他作品で例を出すと『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』の主人公と同じ

*2
PV3では電車内に『カッコイイ制服が着られますよ!』という謳い文句の広告が貼られていた。

*3
メインストーリー4-1-3 フブキ「じゃあ、うちの生活安全局にでも来たら?編入試験も難しくないし、数もそれほど多くないし」

*4
鉄道車両内の警察権は運行者であるハイランダー鉄道学園の管轄と思われる。

*5
10歳以上対象のエアソフトガンやフックトイ、スポンジ弾を発射するトイガンなど

*6
以上、メインストーリー4-1-2 カンナの発言

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。