ヴァルキューレ警察学校・生活安全局オフィス。
この日業務にあたる生徒が全員集められ、“生活安全局長”から転入生の紹介がなされた。
周囲からの扱いは散々であるが、生活安全局もれっきとした警察の執行隊である以上、最高責任者である生活安全局長が存在する。
ところがこの生活安全局長、『ブルーアーカイブ』には全く姿を現さない。*1
そのため作中で生活安全局が組織的に行動した際は『シャーレの部員だから』と一年生にも関わらずキリノ・フブキのコンビが音頭を取っていた。
そんな状態なので“生活安全局長は存在しない”という認識も一部のユーザー間でみられるが、ヴァルキューレ全体の扱いの悪さを考えると無理もない。
「(まあ“落ちこぼれの集まり”ですから、どうせ権力欲だけはあるタイプでしょう)」
リュウカはボンヤリと考えながら、並行して転入生ふたりの顔と名前を頭に叩き込んだ。
「お二方は本日付で生活安全局で働く仲間に加わります。くれぐれも宜しくお願いしますね」
この二人は警備局が先輩生徒を五人も引き抜き、その代わりとしてねじ込んだ“余りもの”だ。
座学の点数は良好だが、実技は素人に毛が生えた程度でしかない。
銃を日用品として持っているからといって、全員がその扱いに長けている訳ではないのだ。
「──それでですね。オートマチック式の制式拳銃をお持ちの方、一旦“後輩”に貸してあげてください」
指し示された生徒は丸腰だった。
普通なら制式拳銃を収めたホルスターを提げているか、ライフルなりライアットガンを持っているはずである。
局長からの突然すぎる要請に、話を聞いていた生徒たちがざわめき出す。
「……失礼、なぜでしょうか?」
「私たちは散々バカにされていますし、前にキリフブちゃんがやらかした*2せいで白い目すら向けられております」
生活安全局長『天田ミヤビ』は眼鏡の奥の瞳で、じろりとキリノとフブキを見た。
「……が。それはそれであって、いざと言う時は銃を使って犯人を制圧しなけれはなりません」
「お、お恥ずかしい限りです……」
「あー。そんなこともあったねぇ」
痛い所をつかれたキリノは気まずそうに顔を俯かせ、フブキは他人事のようにコーヒーを飲んでいる。
「ですがレオナちゃんは銃種に関する適性が尖りすぎて長物が使えないうえ、在庫がある
ミヤビは『試しに3号拳銃でテストをさせたが、キリノに毛が生えた程度だった』と語り、引き合いに出された当人を含む全員が青ざめた。
「ああ。そういう事ですか」
合点がいった様子のリュウカを見て、ミヤビは『レオナ』と呼ばれた転入生に“銃の経験”を話すように促した。
「……H&KのUSPエキスパート」
少々目つきが悪い元ゲヘナの一年生は、不機嫌そうな顔でそう一言述べた。
その隣にいるもうひとりの生徒は苦笑いしながら、割り当てられた第14号制式ライフルを掲げた。
「ふーん? でもそれなら、ミヤビ局長が持ってる銃を貸せばいいんじゃないの〜?」
フブキが横から口を出し、ミヤビが腰に提げている第17号ヴァルキューレ制式拳銃を指差す。
これは
ただ予算申請の都合で『これは17号と同じ銃です』と言い訳するために、“第26号ヴァルキューレ制式拳銃”の名を与えられていないらしい。
「誰か転入生に貴重な銃を譲ってくれる、優しい先輩はいらっしゃりませんかー?」
彼女はそれを無視して周囲に呼びかけるが、ほぼ全員の視線が自分へ向いたことに気付いた。
キリノですら反応に困って顔を右へ左へ向けているのを見て、ガックリと肩を落としてホルスターごと銃を差し出した。
そもそも、万年金欠のヴァルキューレがなぜ弾の規格が異なる『自動拳銃』と『回転式拳銃』の両方を未だに運用しているのか?
当然ながら使用する弾薬の種類、できるなら銃そのものを統一した方が維持運用訓練の手間が省ける。
実のところ上層部である連邦生徒会・防衛室の“マトモな”行政官も、この状況を“金の無駄である”という判断を下している。
そこで数か年に渡る長期計画で、警察学校の制式拳銃を自動拳銃へと統一するための準備を進めていた。
第3号制式拳銃用の弾薬や交換用部品の調達数を徐々に減らしていき、ちょうど本年度から生活安全局向けの拳銃を置き換え始める予定であった。
ところがその直前に連邦生徒会長が失踪、キヴォトス全土がこれまでにない程の治安悪化に見舞われてしまう。
これを重く見た警察学校は警備局の大幅増員を決定、人が増えたぶん当然不足する装備品も同様に緊急調達を行った。
ところでそのお金はどこから出てきたのか?
年度予算というものは昨年度の支出を基に決定されるものであるため、既にそれに基づいて今年度の予算が出されている。
財務室を説得するほど時間的猶予もなく、また腐敗役人だらけの防衛室にそこまでのやる気もない。
そこでやむを得ず不足分として第3号制式拳銃を置き換えるための予算を流用したのだ。
“所詮は生活安全局だから拳銃は旧式のリボルバーで十分”という、職務上拳銃が主力装備となる部門へ対する差別的意識がなかったとはいえない。
が、とにかくヴァルキューレ警察学校には金が無い。こうするより他なかったというのが実情である。
いま生活安全局で運用されている自動拳銃は、昨年度までに運良く回ってきたごく少数しかない。
これでも学校本部だからまとまった数が揃っているのであり、各地の分校や駐在所にいる生活安全局生徒からすればやっかみの対象である。
「管内パトロール第一陣の編成以外は、すべて当初の予定通りです。それとリュウカちゃんは大事なお話がありますので後ほど来てください」
ミヤビが手を叩いて朝礼を終わらせると、生活安全局の生徒は一斉に持ち場についた。
……
十数分後。
「それで局長、どのような要件でしょうか?」
今日のリュウカ・マーヤ組は内勤である。
しかし仕事がなければBD教材による自己学習をしなければならないため、意外と暇ではないのだ。
ミヤビは机上の封筒を開いて中の書類を取り出すと、椅子に座ったままそれをリュウカに手渡した。
「一年生の中でキリノちゃんとフブキちゃんがシャーレでの名声と活躍を持ってくるなら、貴女は生活安全局としての実績を担っています」
シャーレに所属していると、どうしても貢献度はそちらへ吸われてしまうらしい。
ゆえに二人の戦闘における評価は、第三者にとっては“シャーレ部員として先生の指揮下に入った上でのもの”と判断されやすい。
「警備局から何度も勧誘があったのに、よくぞ断ってくれました」
「私は“お巡りさん”でいたいので。警備局にも公安局にも興味はありません」
そう言いながら書類の文面に視線を向けて……目を見開いた。
「期待せずに申請していましたが……局長、宜しいんですか?」
ミヤビの顔を見下ろすと、見事なしたり顔を向けられた。
「頑張っている子に少しでも報いるのも管理職としての仕事です。……まぁ今回は貴女が正攻法だけで頑張ったからこそ、どうにか申請が通ったものでもありますが」
“我ながらいい事言ったな!”と勝手に満足しているミヤビに、横から書類を盗み見したマーヤが詰め寄った。
「ちょっと局長! ボクの分はないの!? リュウカの
ミヤビは好き勝手言う後輩を前に、ぷるぷると身を震わせながら眼鏡を外して椅子から立ち上がる。
「……マーヤちゃん」
脳天に拳骨が落とされた。
「フブキちゃんと同じ枚数の始末書! それで打ち消しです! この大バカ!」
「ぼ、暴力はいけない……」
「おおお……まだあたまいたい」
「自業自得じゃないですか」
皆さんこんにちは、夢月リュウカです。
マーヤの頭の上にコユキのようなたんこぶが見えますが、気のせいでしょうか?
朝礼後にミヤビ局長から渡された書類の内容は、ずばり『私物銃器の業務時間内携行・使用許可』です。
ヴァルキューレの生徒は基本的に、学校から貸与された制式装備を勤務時間外でも携帯します。
許可なく改造を施しさえしなければ、管理はその生徒に一任しプライベートでの使用も許可するという決まりなのです。
フブキが自分の制式ライフルの手入れを怠って性能低下を招いていたり、ストーリー内での表現こそありませんが『兎編2章』で謹慎中のカンナ局長が制式拳銃を所持しているのはこのためです。
本件はそれとは逆に、私物の銃器を警察学校の業務中に使っても良いというものです。
もちろん何でもいいという訳ではありません。
生徒の素行調査と銃器のデータベースへの登録は当然ですが、『種類はハンドガンのみ』とか『使用弾は学校で使用されているもの』という決まりがあります。
ヴァルキューレ警察学校で使われている拳銃弾は地球では一般的に9mmルガーとも言われている『9x19mmパラベラム』と、第3号拳銃用の『.38スペシャル*3』の二つ。
需要が国の歴史に深く関わっている.45口径、ボディアーマー対策用の.40口径や.357SIGは予算や扱いやすさの問題で採用されていません。
そもそも人種を問わずキヴォトス人の肌を銃弾では貫通できませんので、大口径によるストッピングパワー! とか貫通力とかは関係ないのです。
近所の弁当屋で昼食を買って学校へ帰る途中、銃の件を話題に駄弁ります。
「それで? 登録はいつもの≪首狩りウサギ≫にするのかい?」
「新しく銃を組もうと考えています」
「その心は?」
「あの銃はキヴォトス製ではないので、あまり公務で使いたくないのですよ。それに.45口径ですから弾の規格も合いませんし」
9mm弾にコンバートする事もできますが、実用性を考えるなら弾が少なすぎます。
それに万が一何かのトラブルが起きて、あれを学校に没収されるような状況が起きたら困ります。
あれはママが入学祝いに買ってくれた大事なものなんです。
いい機会ですし、普段使い用として
学校の裏門側から入っていくと、警備局の生徒が何やらコンテナを台車で……あれ? ハヤホさんじゃないですか。
「なにやってるのハヤホ」
マーヤが率先して話しかけています。
彼女は警備局に対してあまりいい印象を持っていないのですが、ハヤホさんは訓練所のときにお世話になったので別なようです。
「……はぁ。見ての通り、廃棄予定の銃を倉庫に運ぶところよ」
「そういうのは一年生の仕事じゃないのかい?」
「ジャンケンで負けたのよ」
相変わらずのユルさですが、これはひょっとすると“掘り出し物”が見つかるかもしれません。
「少し中を物色しても?」
「別に構わないけど……生活安全局がゴミ漁りしてるとか言われるわよ?」
「お宝が眠ってるかもと考えたらコラテラル・ダメージですよ」
台車を壁際に寄せてコンテナの蓋を開いて、マーヤと手分けして中身を検めていきます。
耐久性は平均的なものしかありませんので、凶悪化著しい犯罪者との戦いで壊れてしまう事も珍しくありません。
部署で再起不能と判断された銃はこのようにまとめて倉庫へ運んだのち、使える部品を除いた上で廃棄処分となるのです。
ただ廃棄は現場の判断ですし、人を急に増やしすぎたせいで警備局生徒の質にはかなりのムラがあります。
修理すればまだ使えるのに、そういった“見る目が未熟な人”がうっかり捨ててしまった銃が今回の狙い目です。
「真っ二つですね……何があったのですか?」
アサルトライフルが機関部の辺りから切断されています。
某盗賊の十三代目じゃあるまいし、銃器を刀剣で斬り落とすなんてマネはできません。
いるとするなら異世界人かチート使いの転生者に違いありません。
「強盗が盗み出したとかいう、ミレニアム系の企業が造った移動式裁断ロボットにやられたのよ」
ハヤホさんは不愉快極まりないといった様子で舌打ちしました。
「結局頼んでもいないのに
ああ……事件現場がよその学園の自治区ではなくD.U.だったから、セミナーは大して遠慮せずにC&Cを派遣したのですね。
正義実現委員会やゲヘナ風紀委員会のような、公的かつ大規模な軍事組織ではないからこそできる芸当でしょうけどね。
「あったよ! まだ使えそうな銃が!」
「よしでかした! ……という訳で、貰っていきますね?」
とかなんとか話してる間に、マーヤがかろうじてハンドガンをひとつ見つけてくれました。
「……使える使えないに関係なく、手続きは自分でしなさいよ?」
心底呆れた顔を向けられました。
ノーとは言わないのが本当に優しいです。ハヤホさん。
(次回に続く)