TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 大学の課題が全然終わらずピンチでしたが、何とか5,000文字書き切りました。過去一焦りましたが、何とか連続投稿継続です。よかった。




第14箱「全然平等じゃない」

 

 

 やあ。マイナス十三組に入ることにした球磨川雪(そそぎ)だ。以後よろしく……はい、自己紹介おーわり。さて、みんなに別れを告げてから数十分して、私は理事長室で呑気にお茶なんか啜ってるわけだが……。

 

「……えっと、杵築雪(ゆき)くん……君は」

 

「球磨川雪(そそぎ)です。そっちは実は偽名なんですよ」

 

「そうですか、これは失礼……ということは、禊くんと君は兄妹関係にあるということでよいのですかな?」

 

「そういうことになりますねー。ほら、お顔も瓜二つでしょ?自慢なんです」

 

 私は理事長室にいた。ちなみにお兄ちゃんは部屋の前でぱったり出会った半袖くんとお話してる。ついさっきまで一緒にいたんだけど、理事長の袴くんがタイマンで話したいっていうからそうしてる。

 

「さて……それでは雪(そそぎ)くん、君にも一応聞いておきましょうかねえ……どうすれば世界は平和で平等に──」

 

 うーん、まあこの手の質問は来ると思ってたから、事前に返答は決めてある。悪者っぽく、お兄ちゃんに寄せる感じで答えればOK。

 

「馬(・)鹿(・)ど(・)も(・)を(・)斬(・)り(・)捨(・)て(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。欲望を制御できる人間だけを残せば犯罪も闘争も起きませんよ」

 

「……あなたも、十分に不十分……ということですか。いやはや、こんな逸材を見逃していたとは……やはり私も耄碌していた、ということでしょうな」

 

「いえいえ、私が本気で隠してただけですからお気になさらず」

 

 よし、これで私もマイナス十三組行きが確定した。お兄ちゃんと同じクラス……今から楽しみだ。よーっし、頑張るぞー!!

 

 そう息巻いて理事長室を出たが……お兄ちゃんはいなかった。代わりにそこにいたのは、食べかすを口の周りに付けた半袖ちゃんだ。もう、ダメでしょ女の子がそんな食べ方しちゃ……よし、拭き終わった。

 

「……杵築? 何でここに……」

 

「おひさ、半袖ちゃん。それともう杵築雪(ゆき)じゃなくて球磨川雪(そそぎ)だから、そこんとこよろしく」

 

「……まさか、さっきまであそこにいたのは……」

 

「そ。私のお兄ちゃん! 格好よかったでしょ?」

 

「…………………………そうだね」

 

 あれ? 思ってたより反応が鈍いな……あんなにかっこいいお兄ちゃんと話せば多少は感化されそうなものだけれど……。

 

「ま、いいや。じゃあま(・)た(・)明(・)日(・)教(・)室(・)で(・)ね(・)! ばいばい!」

 

「……全部、バレてんだね。あひゃひゃ! やっぱ杵築……じゃないや、雪(そそぎ)、お前本当面白いよ! 大好きだぜ!」

 

「ありがとう! 私も半袖くんの事が大好きだぜ!」

 

 そう言ってお互いに手を振りながらその場を後にした。後になって思ったけど、あれが俗に言う『仲が良すぎて気持ち悪い』って奴だったのかも。

 

 


 

 

 翌日。

 

「えっと……お兄ちゃん、もう一回言ってもらってもいいかな? もしかしたら聞き間違いかもしれないからさ」

 

『えー? まったく雪(そそぎ)ちゃんはお茶目だなあ。君が僕の言う事を聞き逃すわけないだろう? 僕は知ってるぜ、僕が雪(そそぎ)ちゃんを大好きなように、雪(そそぎ)ちゃんも僕のことが大好きだって事をさ』

 

 いやまあ、確かに大好きだけどさ……それにしたって、そ(・)り(・)ゃ(・)あ(・)な(・)い(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

 

『生徒会室に突撃して辞表を出してくるだけじゃん。そんなに難しいことじゃあないだろう?』

 

「お兄ちゃんにとっては簡単かもしれないけど私にとっては滅茶苦茶難しいんだよ! そこまで面の皮厚くないから!」

 

 昨日裏切っておいて今日平然と生徒会室に突撃? 阿久根くんかめだかくんあたりに制圧されて終わりそうな気がする。それに今頃は善吉くんのお母さんである人吉(ひとよし)瞳(ひとみ)こと合法ロリがいるはずだ。

 

 ……縫合格闘技で雁字搦めに拘束される気しかしないんだけど。

 

「はあ……まあお兄ちゃんの頼みだから行くけどさ……どっちにしろ、生徒会は辞めるつもりだったしね。嫌な事を後回しにするのもそれはそれで面倒臭いし……よーし逝ってくる」

 

『逝ってらっしゃい、雪(そそぎ)ちゃん。君ならやれるさ』

 

 うーわ、世界一信用ならねえ応援。ま、私にとってはそれが一番極上の応援なんだけどね。

 

 


 

 

「……杵築さん、来ないね……やっぱり、本当にあの人の下(もと)に行っちゃったのかな……」

 

 喜界島は誰に向けてでもなく、一人呟く。生徒会室には雪(そそぎ)を除いた四人のメンバーと瞳がいたが、全員が全員重い表情をしていた──というわけでもなく。

 

「雪(ゆき)……じゃない、雪(そそぎ)が球磨川の妹だろうが何だろうが、俺たちの友達だってことには変わりはねえ。まああいつのことだから、いつの間にかふらっと帰ってきてるだろ」

 

 善吉だけは、極めて普段通りを装(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。実際のところ、未だに内心では困惑が渦巻いているが、それはそれとして友達を信じるのが彼の信条だからだ。

 

 しかし、今そんな事を考えていてもどうにもならない。なぜなら昨日、既に決定的な一言を放ってしまったから。悪いのは善吉だ。

 

 だから雪(そそぎ)は悪くない。

 

「えー? 昨日は散々『お前は間違っている』とか言ったのに? それは今更すぎるし、虫が良すぎない?」

 

「「「ッ!?」」」

 

「やっほ。約束通り会いに来たぜ、みんな♪」

 

 雪(そそぎ)は突然音もなく現れ、副(・)会(・)長(・)席(・)に(・)座(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。扉も窓も開いていないにも関わらずである。

 

 生徒会の面々が呆気に取られている間に、雪(そそぎ)はそのままの勢いで話し続ける。

 

「いやー、それにしても善吉くんのお母さんって若いね! 初めまして、瞳くん! 私は球磨川雪(そそぎ)って言います! よろしくね!」

 

「ッ……初めまして、だよね。どうして私の名前を知っているのかは知らないけれど……お兄様は元気かな?」

 

「ええ、そりゃあもう。今朝も昨夜も元気でしたし、多分それ以前もこれ以降もずーっと元気だと思いますよ。そういう人ですから」

 

 と、そこまで話したところで善吉がたまらず口を挟む。世間一般で言う、いわゆる言い訳のために。

 

「雪(そそぎ)! 確かに俺はお前に間違ってるって言ったさ! だけど、どう考えたってそうだろ!? だってお前は確かに、め(・)だ(・)か(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)に(・)斬(・)り(・)か(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)! 友達に本気で日本刀を振るう奴のどこが間違ってないって──」

 

「それ私だけに言うの?」

 

「……え?」

 

「いや、だからさ。それ私だけに言うの? なんで? 私になら何言ってもいいと思ってない? 確かに私は球磨川禊の妹だけどさ、それ以前に球磨川雪(そそぎ)っていう個人なんだけど。色眼鏡かけて私が悪者だって決めつけるのやめてよ」

 

 善吉は呆気に取られてしまった。だって、雪(そそぎ)が何故こんな事を言っているのか、本(・)気(・)で(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)。

 

「阿久根くん、君なら私の言いたい事分かるよね?」

 

「……さあ、俺には何が何だかさっぱり……」

 

「あれー? めだかくんが実の姉であるくじらくんをぶん殴った事はみんなに伝えないんだ。へー、めだかくんは特別だからね、しょうがないよね」

 

「ッ!? 杵築さん、君はあの時気絶してたはずだ! どうしてそれを……」

 

「論点ずらさないでよ。私は今、ど(・)う(・)し(・)て(・)め(・)だ(・)か(・)く(・)ん(・)は(・)良(・)く(・)て(・)私(・)は(・)ダ(・)メ(・)な(・)の(・)か(・)っ(・)て(・)話(・)を(・)し(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)ぜ(・)」

 

「……やめろ、雪(ゆき)。その件に関しては反論の一つもない。悪いのは貴様が敵だと決めてかかった私たち生徒会だ」

 

 めだかは目を瞑りながら、ため息を堪えるようにしてそう言った。一触即発の空気ではあったし、確かにそれは最善手だろう。し(・)か(・)し(・)そ(・)れ(・)は(・)相(・)手(・)が(・)普(・)通(・)で(・)あ(・)れ(・)ば(・)の(・)話(・)だ(・)。

 

 雪(そそぎ)はもう、普(・)通(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。

 

「もー、みんなして何なの杵築とか雪(ゆき)とかさあ。私は球磨川雪(そそぎ)なんだって。どうみたって球磨川禊の妹で、どうしたって球磨川禊の妹なんだよ」

 

 だからさあ。

 

「私が私である事くらい認めてよ」

 

 考えるまでもなく、言うまでもなく、雪(そそぎ)の理論は崩壊している。壊滅的なまでにぶち壊れている。しかし、そ(・)こ(・)に(・)は(・)何(・)故(・)か(・)説(・)得(・)力(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

「……で、雪(そそぎ)。貴様は一体、昨日の今日でここに何をしに来たのだ?」

 

「あーそれね、完全に忘れてた。はいこれ受け取って♪」

 

 そう言って雪(そそぎ)が取り出したのは……。

 

「辞表……なるほど、本当にそれで……貴様はそれでいいのだな、雪(そそぎ)」

 

「うん、もちろん! こうなっちゃった以上、だらだら代理の副会長であり続けるのも不義理っつーか……不平等な事でしょ。それこそえこ贔屓ってやつさ」

 

「…………」

 

「そんなの、全然平等じゃない」

 

「……それも、そうだな」

 

「だから! これは私なりのせめてものけじめ! 球磨川雪(そそぎ)である以前に、剣士である私が通すべき義理ってやつだ!」

 

「そうか、それでは只今から生徒会の敵であるということになるし、球磨川が何を企んでいるか聞かせてもらおうか」

 

「ッ……めだかちゃん! そ(・)れ(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)中(・)学(・)の(・)二(・)の(・)舞(・)だ(・)!!」

 

 めだかは即座に改神モードになり、雪(そそぎ)を壁に叩きつけた。そ(・)れ(・)ほ(・)ど(・)ま(・)で(・)に(・)、め(・)だ(・)か(・)は(・)禊(・)に(・)関(・)し(・)て(・)の(・)情(・)報(・)を(・)欲(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)。

 

「っ痛(た)……友達にする事じゃないよねこれ? どう思うみんな?」

 

「友達である以前に貴様は球磨川雪(そそぎ)なのだろう? ならば球磨川が何を企んでいるかも知っているはずだ。あいつのせいで全校生徒が不幸を被(こうむ)りかねないのであれば、今ここで情報を聞き出しておくのが上策──」

 

「これ、私悪くないよね。先に攻撃してきたのはめだかくんの方だもんね。正当防衛だよね。このままじゃ殺されちゃうかもしれないもんね。悪くないよね。ね、私悪くないよね。悪いのは先に攻撃してきためだかくんだよね。そうだよね、みんな?」

 

 まるで呪詛のような言葉を吐いているのに、先ほどから恨み節のような事を言っているのに、自分勝手なことしか言っていないのに、そ(・)こ(・)に(・)は(・)確(・)か(・)な(・)好(・)意(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

(なんなんだ……前の杵築と、今の雪(そそぎ)はそこまで変わってないはずなのに……好意のベクトルは同じはずなのに! 前(・)と(・)寸(・)分(・)違(・)わ(・)な(・)い(・)好(・)意(・)な(・)の(・)は(・)ど(・)う(・)い(・)う(・)事(・)だ(・)!?)

 

 善吉達がそんな事を考えているうちに、絶え間なく空間は歪んでいく。めだかが発する圧で、雪(そそぎ)が撒き散らす負のオーラで、その場の空気はどんどん重くなる。

 

「私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。悪いのは私の好意を裏切っためだかくんだ。だから私は悪くない」

 

「いいや、悪いのは貴様だ。先にこちらの信頼を裏切ったのは貴様だ。だから、私は悪くな──」

 

「二人ともそこまで! 喧嘩はダメ!」

 

 一触即発の空気の間に飛び込み、二人の仲裁を買って出たのは偉大なる母、人吉瞳だった。流石の二人も、瞳を巻き込むことには躊躇があるらしく、大人しく矛を収めた。

 

「めだかちゃん、らしくもなく怒っちゃダメ! それに、若(・)干(・)影(・)響(・)を(・)受(・)け(・)て(・)い(・)た(・)し(・)──雪(そそぎ)ちゃんも、売られた喧嘩は簡単に買っちゃダメだよ? 女の子なんだし、あまり喧嘩っ早いのは感心しないな!」

 

「……瞳くんがそういうなら、当然私としては矛を収めるつもりだけれど……めだかくんはどうする?」

 

「当然私も収めよう。それより……雪(そそぎ)、すまなかったな。私としたことが、自分のことばかり考えて勝手に決めつけてしまった。本当にすまなかったな」

 

「いやいや! 間違ってたってことを分かってくれたなら私は全然それでいーんだよ! こちらこそごめんね? 勝手に生徒会辞めることにしちゃって」

 

「ああ、別に構わんさ。元はと言えば私たちが無理を言って加入させたのだし、引き留めるのは些(いささ)か往生際が悪かったな」

 

 先ほどまで殺し合いにでも発展しかねない空気感だったというのに、一度お互い冷静になってしまえば、そこにいたのは二人の仲のいい女友達だった。この変わり身には、流石の生徒会メンバーも唖然としていたようだが。

 

「そんじゃ! これからは私はのんびり学園での生活を過ごすことにするよ! これからも頑張って! 陰ながら応援してるぜ!」

 

 雪(そそぎ)はそう言って生徒会を、そして生徒会室を後にしていった。当然、こんなものでさっぱりとしたお別れができるはずもなく。

 

「雪(そそぎ)……一体何を考えてるんだよ……」

 

 生徒会室には、未だ重苦しい空気が漂っていた。

 

 






 こうして見ると喧嘩売りにきたようにしか見えませんよね。めだかちゃんたちの反応もやむなしな気がします。

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