TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 ギリ間に合いませんでした。
 ごめん。




第16箱「取り返しがつかないけど」

 

『えー、それではこれより、マイナス十三組の合同ホームルームを開始します。議長は暫定的にこの僕、球磨川禊が務めますね!』

 

 どうも、球磨川雪(そそぎ)だ。私は今何をしているかというと、お兄ちゃんがホームルームを取り仕切っているのを、椅子に座って眺めている。私以外は全員ガラケーでのリモート参加だ。時代先取りしすぎだろおい。

 

 いやーそれにしても、一応マイナス十三組ってかなりの人数がいるはずなんだが……ここまで誰も来てないと逆に面白いね。まあ学校に嫌な思い出がある人が多いんだろ、多分。

 

『いやーそれにしても、十三組の教室をたまり場にするというのはナイスアイディアだったよ、不知火ちゃん。おかげで教室には困らなそうだ』

 

「……いやあ、思いついたこと言っただけですよあたしは。あひゃひゃ!」

 

『……さて、雪(そそぎ)ちゃん。この学校に登校している十三組生は……』

 

「うん、二人で間違いないよ。現生徒会長の黒神めだかくんと、前生徒会長の『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』こと日之影(ひのかげ)空洞(くうどう)くんだけだよ。冥利くんは病院にいるしね」

 

 今頃はめだかくんが日之影くんに手を貸してくれって頼み込んでる頃かなあ。だとすれば日之影くんはめだかくんの誘いを断って、この教室に一人で突入してくる頃だと思うんだけど──。

 

 

「お前が球磨川だな」

 

 

 ──気づかなかった……いや、後(・)ろ(・)を(・)取(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)気(・)づ(・)け(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)……! これが『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』──ヤバっ、叩きつけられっ……!

 

 

 


 

 

「なんだ、黒神から聞いた話によればお前は今まで散々ヤベー事をしてたみたいだから、この程度でどうにかなるはずがねえと思ってたが……俺の独りよがりな思い違いだったか」

 

『違う違う、思い違いじゃなくて人違いさ。めだかちゃんが言ってたのは僕の方だと思うぜ、日之影くん。もっとも! 雪(そそぎ)ちゃんも球磨川だということに変わりはない──』

 

「ああそうなの? よかったぜ人違いじゃねーじゃねえかそれじゃあよ。二人ともぶちのめしてハッピーエンド! 学園には平和が戻るってわけだ」

 

 日之影は禊を黒板に押し付けながら、拳を握ってそう言った。言うまでもなく、雪(そそぎ)は教室中央の床にめり込んでいる。文字通りに。

 

『うわぁおっ、猛烈ゥ──』

 

「今からお前を五十回殴るからよー、五十回歯を喰い縛りなー。あせーの、拳破(けんぱ)拳破(けんぱ)──」

 

 日之影は拳をぎゅっと握り込み、そして。

 禊の肉体に、拳をぶち込んだ。

 

 

「拳々破(けんけんぱ)ァッ!!」

 

 

 日之影の渾(・)身(・)か(・)ら(・)は(・)程(・)遠(・)い(・)拳打は五十回禊の体を打ち付け──る事はなく、たった八回で禊を押し付けている壁の方を破壊してしまった。破壊した勢いそのままに、禊の体は隣の教室の黒板前まで飛んでいく。

 

「おおーっと、本気で手加減したつもりだったんだが、たったの八撃で壊れるとは黒板って奴は相変わらず脆いぜえ。もちろんお前は黒板より頑丈なんだろう? マイナス十三組、球磨川禊!」

 

「お兄ちゃんに何すんだ斬り刻むぞデカブツ」

 

「おっと残念! そ(・)れ(・)も(・)黒(・)神(・)か(・)ら(・)聞(・)い(・)て(・)る(・)よ(・)!」

 

 突然起き上がり、背後から血(・)ま(・)み(・)れ(・)の(・)ま(・)ま(・)日(・)本(・)刀(・)を(・)構(・)え(・)て(・)飛(・)び(・)か(・)か(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)雪(そそぎ)を、日之影は何の苦もなく避けた上に、強烈なカウンターまで叩き込んで見せた。

 

「がはっ……! ちょっと、女の子のお腹本気で殴るとか……性癖歪んでるんじゃないの……!」

 

「斬りかかってきたのはそっちだろー? それに俺は全然本気なんかじゃないし、歪んでるのはお前らマイナス十三組の連中だよ」

 

「ハッ! そういう決めつけは良くないんじゃないの!? 大体私達はまだ何も……」

 

「何(・)を(・)し(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)か(・)は(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。それだけで俺が動くには十分なんだなこれが! 俺は黒神ほど甘ちゃんじゃねーからよー、危ない奴らは殴って黙らせるに限るね」

 

 近接戦闘においては高千穂や古賀さえも凌駕すると、めだかがそう評価する日之影の戦闘能力は伊達ではない。

 

 ただまあ、腕っぷしだけでどうにか出来るのであれば、中学の時点でめだかがケリをつけていた。

 

「つまりだ、俺はお前らをボコる理由がある。元英雄としては、こんな明確な学園のピンチを見過ごしておくわけにもいかねーからな。まあ泣いて謝るっていうなら考えなくも──!?」

 

 先ほどまで気絶していたかのように見えた禊は、感(・)激(・)の(・)あ(・)ま(・)り(・)涙(・)を(・)流(・)し(・)な(・)が(・)ら(・)立(・)ち(・)上(・)が(・)っ(・)た(・)。

 

『……僕はこんな風に僕を叱ってくれる人をずっと待っていたんだ』

 

「なっ、お前……」

 

『僕の間違いを命懸けで正してくれる人を心から待っていたんだ』

 

「…………」

 

『本当になんて嬉しいんだろう、お陰で目が覚めた! これで改心したぞ。ありがとう! きみには本当に感謝するよ』

 

「そりゃ、どうも──」

 

 

『だからこの痛みの恨みは』

 

『日之影くんに迷惑をかけないように』

 

『きみとは何の関係もない

 その辺の誰かに何かして

晴らすとするね』  

 

 

(……おいおい黒神、こ(・)こ(・)ま(・)で(・)とは聞いてなかったぜ流石に……)

 

 日之影の動揺も無理はない。本気ではなかったとはいえ、たったの八撃しか殴っていなかったとはいえ、それでも立ち上がってきたこともそうだが……問(・)題(・)は(・)そ(・)の(・)後(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 日之影が驚いたのは、禊が雪(そそぎ)に螺子を捩じ込んだからだ。

 

『さて、雪(そそぎ)ちゃん。気分はどうかな?』

 

「あー、最高だよ最高最高……私はこ(・)っ(・)ち(・)側(・)だったって事を思い出したよ、ありがとうお兄ちゃん」

 

 先ほどまでとは、高(・)千(・)穂(・)の(・)真(・)似(・)を(・)し(・)て(・)い(・)た(・)時(・)と(・)は(・)纏(・)う(・)空(・)気(・)が(・)違(・)う(・)。それこそ別人と呼んで差し支えがないほどには。

 

(ッ……なるほど黒神が言ってたことはこういうことかよ! 球磨川妹はそ(・)の(・)時(・)一(・)番(・)意(・)識(・)し(・)て(・)い(・)る(・)相(・)手(・)の(・)特(・)徴(・)を(・)模(・)倣(・)す(・)る(・)ってのは! ……それなら!)

 

「さっさと叩き潰しちまえばいいだけだよな!」

 

 立ち上がったばかりの雪(そそぎ)の体は、日之影の渾(・)身(・)の(・)パンチで吹き飛ばされる。常人であればその時点で骨が折れるなり、内臓が破裂するなりして意識を失う所だが……生憎、雪(そそぎ)は既に常人(ノーマル)ではない。

 

「……少し流された? おいおい球磨川妹、お前今ど(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)俺(・)の(・)一(・)撃(・)の(・)威(・)力(・)を(・)流(・)し(・)た(・)?」

 

「そんな事どうでもいいでしょ。ねえ日之影くん絶対私の情報仕入れてから来てるよね? そうじゃないとこんなに執拗に私を狙う理由がないもんね。日(・)之(・)影(・)く(・)ん(・)は(・)お(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)よ(・)り(・)私(・)を(・)優(・)先(・)し(・)て(・)る(・)よ(・)ね(・)?」

 

「……ああ、俺はお前達球磨川兄妹の情報を仕入れてからここに来ているさ。それこそ、ついさっき仕入れたばっかりだがよ。で、だからどうしたってんだ?」

 

「んふ、んふふ……やっと、やっとだよ。やっと私を見てくれる人が出てきた! やっぱり向(・)こ(・)う(・)側(・)じ(・)ゃ(・)ダ(・)メ(・)な(・)ん(・)だ(・)! 闇の中だからこそ! 闇に身を堕としたからこそ!! よ(・)う(・)や(・)く(・)希(・)望(・)の(・)光(・)が(・)見(・)え(・)て(・)き(・)た(・)!!」

 

「……お前、何を」

 

「……あーいや、違うか? 善吉くん達と離れた途端にこうなったって事は……別に過負荷(マイナス)でいることが条件ってわけでもないのかな……いやそれにしても、ちゃんと敵として認識されてる……? どうしてこのタイミングで……」

 

『雪(そそぎ)ちゃん、まーた悪い癖が出ちゃってるぜ? 日之影くんは僕達の初めてのホームルームを文字通りにぶち壊して台無しにしちゃったんだし、そもそも彼は部外者だ。さ、一緒に追い出しちまおうぜ』

 

「……確かに、考えるのは後でもできるしね! よーし、何発も殴られて腹が立ってるし、私のお腹を殴った拳から順番に斬り刻んであげるよ!」

 

 思考の海へと沈みかけていた雪(そそぎ)は、禊の一言であっけなく意識を浮上させた。日之影からすれば、楽になるかと思っていた仕事が結局何も変わっていなかったようなものなので、やや消沈気味だ。

 

「……無理だな球磨川兄妹。お(・)前(・)達(・)は(・)俺(・)に(・)殴(・)ら(・)れ(・)た(・)恨(・)み(・)を(・)覚(・)え(・)て(・)お(・)く(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)い(・)」

 

『……へぇ?』

 

「俺の異常性(アブノーマル)は『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』、誰も俺を目視することはできず、誰も俺を記憶することはできない!」

 

『だってさ雪(そそぎ)ちゃん。「全(・)て(・)を(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)す(・)る(・)」という点においては、日之影くんの異常性(アブノーマル)と僕達の過負荷(マイナス)って結構近いと思うんだけど』

 

 禊は自分と雪(そそぎ)が負った怪我、またそれにより破壊されてしまった制服を修復したあと、両手に螺子を構えながら、妹である雪(そそぎ)に問いかける。

 

「そうだねお兄ちゃん。ただ、お兄ちゃんの「大嘘憑き(オールフィクション)」や私の「改稿斬昧(オールリヴィジョン)」は、日之影くんの異常性(アブノーマル)とは違って取り返しがつかないけど──」

 

 雪(そそぎ)は周囲に散らばった黒板の破片や机と椅子の残骸などに刀を振り下ろした争った形跡ひとつない教室で刀を中段に構えて日之影に切先を向けた。

 

(な……なんだ? この場の全てが螺(・)子(・)曲(・)げ(・)ら(・)れ(・)て(・)、何もかもが斬(・)り(・)変(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)いくようなこの感覚──! これは確かに異常どころじゃねえ!)

 

 日之影は球磨川兄妹のあまりのプレッシャーに思わず飛びずさる。このままでは何(・)を(・)さ(・)れ(・)る(・)か(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)が(・)、何(・)か(・)を(・)さ(・)れ(・)る(・)気(・)が(・)し(・)た(・)か(・)ら(・)。

 

 しかし球磨川兄妹が日之影に飛びかかろうとした瞬間……二つの人影が飛び出して、それぞれの肘の骨をへし折りながら床に叩きつけて押さえ込んだ。

 

 禊の方を押さえ込んだのは蝶ヶ崎(ちょうがさき)蛾々丸(ががまる)、一方雪(そそぎ)の方を抑え込んだのは志布志(しぶし)飛沫(しぶき)だった。当然、どちらも過負荷(マイナス)を抱えている。

 

「……転校二日目にいきなり本気を出すとか勘弁してください球磨川先輩。あなた世界を滅ぼすつもりですか──いや、そのつもりなんでしょうけれど」

 

「おいおい妹さんよお、命拾いしたなあんた? さっきまでの感じだったら、あたし間違えて首の骨折っちまってたかもよ?」

 

『いやー、庇ってくれて、ついでに腕を折ってくれてありがとう蛾々丸ちゃん! 危うく全てをお(・)じ(・)ゃ(・)ん(・)にしちゃうとこだったよ!』

 

「志布志くん……だよね、初めまして! そしてありがとう! 腕が折れてれば剣は振るえないもんね!」

 

 日之影には何が何だか分からない。地面に叩きつけられて腕まで折られているのに、それでもお礼を言う奴らの心理なんて。

 

「……ハッ! 助けが来るだなんて意外だな! 過負荷(マイナス)にもチームワークとかあったのかよ」

 

『当然あるとも。なんたって僕達は週刊少年ジャンプの愛読者なんだぞ!』

 

 

『ぬるい友情・

 無駄な努力・

  むなしい勝利』

 

『それが僕達マイナス十三組のモットーだよ』

 

『さて、日之影くん。四対一になったけど、続ける?』

 

 

 その問いに対して、日之影は即答した。

 

「いや、帰る。じゃあな」

 

 途端に、日之影の姿は誰にも認識できなくなってしまい、結果教室には静寂が訪れた。

 

『……さ、続きをやろうか』

 

「そーだねー……なんか呆気なかったな」

 

 その結果過負荷(マイナス)達もやる気を失い、最終的には戦意なんてものは失われてしまった。

 

 ホームルーム、継続。

 

 






 少しずつ分かってきたことも増えてきましたね。
 着地点は一体どこなんでしょう。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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