TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 お久しぶりです。




第19箱「親友として」

 

 

 先ほどから蹴られ続けている雪(そそぎ)は、カウンターを喰らう度に呻き声を発しながら吹き飛んでいた。時折何か……骨が折れるような音も聞こえていたが、しかしそれでも善吉は攻めを緩めなかった。

 

「……雪(そそぎ)、降参する気にはなったか?」

 

「いいや? まだまだ、全然。だってお兄ちゃんが私の晴れ舞台を見に来てるんだよ? それに、やられっぱなしは性に合わないから……ねっ!」

 

「チッ……! いい加減、俺だってこんな事したくねえんだよ!」

 

 何度蹴り倒そうが、雪(そそぎ)は向かってくる。何度蹴り飛ばそうが、雪(そそぎ)は諦めない。蹴られて蹴られて蹴られて、それでも斬りに行く。

 

 声を上げなかろうが、息を潜めようが、雪(そそぎ)が過負荷(マイナス)である以上そんなことは関係ない。その身から溢れ出す過負荷(マイナス)が善吉に雪(そそぎ)の居場所を教えてくれる。

 

「……ぐ、いや、降参は、しない……! 痛いけど、すっごく痛いけど、それでも……! 負けたくない! 負けるわけには、いかない……!」

 

「……頼む、降参してくれ。これ以上お前を蹴りたくない。これ以上、友達を……傷つけたくないんだよ」

 

「傷つくとか! 傷つかないとか! そういうんじゃないんだよ……! 善吉くん知ってるでしょ、私は試合がしたくてもさせてもらえないんだよ! だから! だから!! 私はマイナス十三組に入ってでも戦いたかったんだ!!」

 

「雪(そそぎ)……だけど」

 

「だけどじゃない! だって善吉くんは、善吉くん達は私が敵になったら、それを容赦なく、正々堂々、真正面から受け止めてくれるはずだ! そう、思ったんだよ……そうだよね?」

 

 雪(そそぎ)は縋るように、善吉にそう問いかけた。その声からは、その気迫からは、過負荷(マイナス)なんて微塵も感じなくて。

 

「私と戦え、人吉善吉!! 目を背けるな!! お前は誰と戦ってるんだ!!」

 

 善吉は、現実から目を背けることをやめた。罪悪感に目を瞑ることをやめた。耐えられなかったからではない、覚悟を決めたから。

 

 

 ──目線の先には、無傷の雪(そそぎ)が立っていた。

 

 

「……は? いやお前、さっきまであんなに……」

 

「忘れちゃったの? 私って演技得意なんだよ。骨が折れた演技も、血反吐を吐く演技もお手のものさ。当然それは、裏(・)斬(・)っ(・)た(・)ふ(・)り(・)もね」

 

 善吉の困惑も無理はない。確かに蹴り倒したはずだ。確かに骨が折れていたはずだ。無(・)傷(・)で(・)あ(・)る(・)は(・)ず(・)が(・)な(・)い(・)の(・)だ(・)。

 

「……いや、そんなわけない。いくらお前が攻撃を受け流すのが得意だからって、俺の渾身の蹴りを無傷でやり過ごせるはずが無え。雪(そそぎ)お前……俺(・)が(・)見(・)て(・)な(・)い(・)間(・)に(・)何(・)し(・)て(・)た(・)?」

 

「いやだなあ善吉くん。生徒会のみんなにでも聞いてみれば、そんなことは一発で分かることだと思うよ? 訳ありとはいえ私は一応敵側にいるわけだしね。味方からの情報の方がよっぽど信用出来るでしょ?」

 

「……ああ、そうさせてもらうよ! 師匠! 雪(そそぎ)の奴は……ぁ?」

 

 善吉は振り向きながら、大声で名瀬に雪(そそぎ)の動向を聞いたが……返事は返ってこなかった。

 

 否、返(・)事(・)は(・)返(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)い(・)る(・)。聞(・)こ(・)え(・)て(・)い(・)な(・)い(・)だ(・)け(・)で(・)。

 

「なッ……雪(そそぎ)お前マジで何を……!?」

 

「いやー、こっから先はみんなに聞かれると困っちゃうからね。私がマイナス十三組にいる理由とか、一応善吉くんにだけは話しておこうと思って。友達だしね」

 

「……カッ! だったら今、降参を宣言してからの方がいいんじゃねえのか? 当然お前には一定の信頼は置いてるが、マイナス十三組にいる以上信用は出来ねえからよ」

 

「えー? 折角断ち斬ったのに……」と言いつつ、雪(そそぎ)は禊の方をチラリと確認すると……ため息を吐きながら刀を一度振った。するとその瞬間、善吉の耳には名瀬の叫び声が飛び込んできた。

 

「人吉! 目を瞑れ!! 今すぐに!!」

 

「はあ……? 一体どうして……」

 

「降参しまーっす! 降参降参! まだ高一だけど降参しまーっす! なあんちゃってえええ!! あはははははは!!」

 

「ほら、雪(そそぎ)だってこう言ったんだから、庶務戦はここでおしまいじゃ……」

 

「そいつの目的はお前を殺すことだ!! だからやられる前に──」

 

「なあんだ、バレてたの」

 

 先ほどまでと何ら変わりない楽しそうな声色で雪(そそぎ)は呟く。いつの間にか善吉の背後に立っていた雪(そそぎ)は、手に持った刀を振り、善吉の足の腱を斬った。

 

「ッ……がぁッ……! 雪(そそぎ)、テメェ……!」

 

「ごめんねー? お兄ちゃんにやれって言われててさー。私だって友達を斬るなんて心苦しいんだよ?」

 

「お前……何なんだ!? なんでそんな簡単に、今まで友達だった奴の足を斬れるんだよ!?」

 

「人のこと散々蹴っといてそれ言う? 別に私だって無傷だったわけじゃないんだぜ? むしろ血まみれの骨折れまくりだったんだけど。足の一本くらい斬ってもいいでしょ別に」

 

 善吉は唖然とした。どう見たって雪(そそぎ)は無傷で健康体だというのに、どうして平然と嘘をつけるのか分からなかったから。分(・)か(・)り(・)た(・)く(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)。

 

「うーん、そろそろネタバラシしちゃってもいいかな? お兄ちゃん、もう平気そう?」

 

『うん、別に構わないよ。めだかちゃんの愉快な顔も見れそうだしね』

 

「長者原二年生! 降参を宣言したというのに善吉に攻撃を加えるのは反則ではないのか!?」

 

「いえ──そもそも雪(そそぎ)さまが降参を宣言した時点で勝敗は決しているのです……庶務戦は現生徒会の勝利です」

 

「だからこそだよ、めだかくん。ここから先は個人的な喧嘩だからね、選管は手を出さないってわけ」

 

『ついでに金網もかなり下がってるからね、飛び降りて助けようものなら善吉ちゃんはハブの牙で蜂の巣にされるってわけさ』

 

 球磨川兄妹を除く全ての人間が、あまりにも勝利を度外視した作戦に唖然とした。だってそれでは、つまり。

 

「球磨川貴様……雪(そそぎ)ごと善吉を死なせようというのか!? 実の妹にそんなことをさせるのか!?」

 

『いやいや待ちなよめだかちゃん。解任請求(リコール)に対して戦挙を提案したのは君の方だろう? 大人しく生徒会を譲り渡してくれれば死人なんて出なかったのにね』

 

「ッ──! それはそう、だが……!!」

 

「それにそもそもさー、誰(・)が(・)死(・)ぬ(・)っ(・)て(・)?」

 

「っそうか! 先(・)ほ(・)ど(・)ま(・)で(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)治(・)癒(・)能(・)力(・)を(・)使(・)え(・)ば(・)、ハ(・)ブ(・)に(・)噛(・)ま(・)れ(・)た(・)く(・)ら(・)い(・)の(・)怪(・)我(・)で(・)あ(・)れ(・)ば(・)治(・)療(・)で(・)き(・)る(・)と──」

 

「あーいや、微妙にどころか180度反対だよ、めだかくん。もしかしたら君はまだ、私のことを君に比肩し得る異常者(アブノーマル)だと思っているのかもしれないけどさ」

 

 

『ぼくは、負完全(マイナス)なんだよ。』

 

 

『だからもう、期待するのはやめて欲しいかな』

 

『だってそうだろう?』

 

『そんな治癒能力みたいな前向きなものが』

 

『ぼくみたいな部外者(ゆらぎ)から生まれるわけがないだろう』

 

『ぼくはただ善吉くんに蹴られたという現実を』

 

『斬り刻んで「断ち斬った」だけさ』

 

『原作(すべて)を改悪(つまらなく)する』

 

『それがぼくの「改稿斬昧(オールリヴィジョン)」だ』

 

 

 ──あまりにも負完全(マイナス)な雪(そそぎ)の言葉を聞いた善吉は、その場から動けなくなってしまう。雪(そそぎ)はへたり込んでしまった善吉に向かって一歩ずつ足を進めていった。

 

『善吉くん、そんなに怯えないで。確かにぼくはお兄ちゃんの真似をしているけれど、君にそんな曇った顔はしてほしくないんだ。ぼくの晴れ舞台だしね』

 

 雪(そそぎ)は善吉の顔に右手を添えて、すーっと線を引くように、右目から左目へと指を進ませた。

 

『だから、さ。もう怖がらなくていいように、辛い現実を見なくて済むように、晴天も曇天も雨天も気にしなくて済むように、暗転させることにした』

 

『つまり、君の視る力を断ち斬った』

 

『善吉くん。現実など見ず、地獄だけを見て逝ってくれ』

 

 善吉の視力はあっけなく奪われた。しかしそれでも、善吉はなおも立ち上がる。状況としては何も変わっていないのだから、きっと自分がまだ戦えると信じて。

 

 ──しかし、そんなはずもなく。

 

(くっそ……! これが、見ない(プラス)と見えない(マイナス)の違いだってのかよ……! 体(・)が(・)震(・)え(・)て(・)言(・)う(・)こ(・)と(・)を(・)聞(・)か(・)ね(・)え(・)……!)

 

 なんとか立ち上がって雪(そそぎ)に向かって殴りかかるが、勢いを失ったパンチが届くはずもなく、ことごとくあしらわれ、無様に金網に這いつくばった。善吉は震えの余り立ち上がることもできなくなりそうだったが、その時、善吉の師匠である名瀬が叫んだ。

 

「怯えてんじゃねえぞ善吉! 聞けばそいつが過負荷(マイナス)だと自覚したのはつい最近らしいじゃねーか! ビ(・)ビ(・)る(・)こ(・)た(・)あ(・)ね(・)え(・)ん(・)だ(・)よ(・)! 本当に全てを断ち斬れるんだったらそもそもこんな勝負は成立しねえ! お前の足元の金網だけ斬り取っちまえば終わりなんだからな! だからそいつには何らかの目的があるはずだ! 考(・)え(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)放(・)棄(・)す(・)ん(・)じ(・)ゃ(・)ね(・)え(・)よ(・)!!」

 

「……名瀬先輩……」

 

 名瀬のアドバイスにより、善吉も少しだけ冷静さを取り戻した。しかし雪(そそぎ)はすぐさま追い討ちをかける。

 

『そんなことをしたらつまらないからに決まってるでしょ。まあそうだね……善吉くんがみっともなく怖がってるのが見たいってのはどう? あーでも、怖がらせるのが目的なら視力を戻してあげるってのもありかな?』

 

「なっ……!」

 

『あれー? さっきまで散々目を瞑ってた癖に、治してもらえるとなると即座に飛びつくの? なっさけなーい。恥ずかしいねえ、善吉くん』

 

 雪(そそぎ)はここぞとばかりに善吉を煽り倒す。あまりの恥辱に善吉の顔は真っ赤に染まっていた。

 

『さ、善吉くん。ぼくを蹴りまくったことを謝っておくれ。君がぼくを間違ってるって言ったこと、実は意外と根に持ってるんだぜ?』

 

「……………………」

 

『さあさあ、謝るだけでいいんだよ。誤ってるのが善吉君だったって認めるだけで、永遠に暗闇の中で地獄を見続ける生き地獄は見なくて済むんだからさ』

 

「…………断る」

 

 しかしそれでも、善吉は折れなかった。雪(そそぎ)の魅力的で退廃的な提案には乗らなかった。心はまだ、腐っていないから。

 

「き(・)っ(・)と(・)、き(・)っ(・)と(・)さ(・)。お(・)前(・)に(・)も(・)何(・)か(・)そ(・)う(・)な(・)っ(・)ち(・)ま(・)っ(・)た(・)理(・)由(・)が(・)あ(・)る(・)と(・)思(・)う(・)ん(・)だ(・)。本(・)当(・)の(・)お(・)前(・)は(・)い(・)つ(・)も(・)み(・)た(・)い(・)に(・)底(・)知(・)れ(・)な(・)く(・)て(・)、だ(・)け(・)ど(・)ち(・)ょ(・)っ(・)ぴ(・)り(・)頼(・)り(・)に(・)な(・)る(・)奴(・)の(・)は(・)ず(・)な(・)ん(・)だ(・)よ(・)」

 

『……何それ、めだかくんの真似? なんだよそれ、善吉くんらしくもない──』

 

「なあ雪(そそぎ)。俺(・)ら(・)し(・)さ(・)っ(・)て(・)な(・)ん(・)だ(・)? それともお前は、俺は肝心な時に逃げ出す臆病者って言いたいのか? そうじゃねえだろ! 本当のお前は、友達を進んで侮辱するような奴じゃないはずだ!!」

 

『ッ……善吉くんに何が分かるの!? 私だってこんなことしたくない! 私は悪くない、悪くないんだよッ!!」

 

「いいや違うね! お前が悪いし、お前が抱えてる悩みに気づけない俺も! みすみすお前を手放しためだかちゃんも! いいようにお前を扱う球磨川の野郎も! この戦挙に関わる全員が悪いんだよ!」

 

「ッ──!」

 

「だから俺は、親友としてお前を止めるよ」

 

 そう言うと善吉はめだかの方を振り向き、大声で今までの思い出を語り始めた。

 

「めだかちゃん! 楽しい高校生活だったなあ! 入学式! 新入生代表の挨拶で、お前はいきなりぶちかましてくれたよなあ! 日之影先輩とも実は最初はモメてたしな! そうそうたる先輩方を向こうに回しての生徒会選挙! ありゃあ燃えたぜ懐かしい! 目安箱を設置してからは休む暇もなかった! 一学期だけで二百件以上は悩みを解決したか? 花の世話を全部俺と雪(そそぎ)に押し付けやがって! 阿久根先輩との柔道対決! 喜界島との水泳対決! 雪(そそぎ)との剣道対決! 一人は今や敵になっちまったが、それでもみんな頼れる仲間だった! 風紀委員会との抗争! 時計台地下の視察! 忘れようもないほど大変だった!!」

 

「善、吉……」

 

「いろいろあったけど、今となっては全部いい思い出だ」

 

 善吉は息を途切れさせることなく、一気にそこまで言い切ると、先ほどまでとは一転、穏やかな表情になってめだかに語りかけた。

 

「好きだぜ、めだかちゃん」

 

 直後善吉は震脚を使い、リングを一気に底まで押し下げた。当然、二人の体にはハブが巻き付き、そして噛み付く。当然のことながら、雪(そそぎ)は自分に対して「改稿斬昧(オールリヴィジョン)」という欠点(マイナス)を使おうとし──善吉にその手を掴まれ、結局使うことはできなかった。

 

「その欠点も、俺が受け止めてやる。なんてったってお前は俺の親友だからな、一緒に死ぬには悪くない相手だ。さ、ちょっくら地獄にでも旅行に行こうぜ、雪(そそぎ)!」

 

「善吉くん……ごめん、私、私……親友にこんな、ひどいことを──」

 

 言葉を言い切る前に、善吉は雪(そそぎ)の体を抱きしめた。当然のことながら、雪(そそぎ)は困惑している。

 

「えっと……善吉くん? どういう……」

 

「ははっ……いや何、お前から先に謝ってくれたんだ。だったら許さないわけにはいかないし、俺も謝らなきゃな。ごめんな雪(そそぎ)。間違ってるなんて言った俺が間違ってた。よし、これで仲直り。生きてるうちに仲直りできて良かった」

 

 直後、二人の体はハブに包まれ……しばらく経って残ったのは、全身が傷跡まみれになった善吉と雪(そそぎ)の姿だった。

 

 庶務戦、決着。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室にて対峙するは、二人の外道。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、人外(ノットイコール)。

調子はどうだい?」 

 

 

「やあ久しぶり、欄外(ヴァリアブル)。

最高潮って感じさ」 

 

 

 

 

球磨川雪(そそぎ)と、安心院(あじむ)なじみ。

旧(・)知(・)の(・)仲(・)で(・)あ(・)る(・)人外と欄外は、今語らう。

 






 そういえばバイト増やしたんですよ。
 小説を書く時間の確保が難しくなりました。アホか。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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