TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 今回やたら長いです。
 書きたいことが多かったので。




第24箱「あいつらに勝ちたい」

 

 

 さて、八月十五日の球磨川(そそぎ)と/安心院なじみだぜ。/今日は副会長戦、つまり蝶ヶ崎くんと代理の日之影くんが『狂犬落とし』というルールで蹴落とし合う日だ。

 

 そのはずだ。そのはずなんだ。なんだけど……蝶ヶ崎くんが正気のままだ。どうしたんだよお兄ちゃん……まさか煽りのキレが落ちてるとかじゃあないだろうな?

 

 私は悲しいよ。子供の頃は二人で夜な夜な罵詈雑言しりとりをして遊んだというのに、まさか蝶ヶ崎くんを怒らせられないほどまで落ちぶれていたとは……残念だ。

 

 ……しょうがない、事情を聞いてから私が怒らせるしかないか。

 

「蝶ヶ崎くん蝶ヶ崎くん、お兄ちゃんから何か暴言とか吐かれてない?」

 

「おや、(そそぎ)さん……いえ、特にお兄さんからは暴言を吐かれたり暴行を働かれたりはしていませんね。こんな僕たちにも非常によくしてくれていますよ。いいお兄さんを持ちましたね」

 

「そうなんだよ(わたし)のお(にい)ちゃんってば世界一(せかいいち)かっこよくて世界一(せかいいち)可愛(かわい)らしくて世界一(せかいいち)(やさ)しくて世界一(せかいいち)過負荷(マイナス)(だれ)がどこからどう()ても世界(せかい)(もっと)素晴(すば)らしくて(ほこ)らしくて尊敬(そんけい)されるべき人格(キャラクター)なんだよね人物(じんぶつ)()間違(まちが)いだから()にしなくていいよ本当(ほんとう)深読(ふかよ)みしなくていいからね絶対(ぜったい)だよ絶対(ぜったい)だからね約束(やくそく)だからね。それでお(にい)ちゃんのいい(ところ)大体(だいたい)7932(ちょう)1354(おく)4152(まん)3222()あって(わる)(ところ)大凡(おおよそ)4925(ちょう)9165(おく)2611(まん)0643()あって()わせて全部(ぜんぶ)で1(けい)2858(ちょう)0519(おく)6763(まん)3865()くらいあってね、さっき(はな)したこと以外(いがい)だと(たと)えば──

 

「……いつまで話すつもりなんですかね」

 

 よし、段々蝶ヶ崎くんがイラついてきたぞ。今は堪忍袋の尾が切れるか切れないかの瀬戸際だろうな。よし、この辺で話は斬り上げて、堪忍袋の尾を斬りにかかろう。安心院さーん、多分また私死ぬけどいい?

 

 まあ君がいいなら構わねーが……本当にお兄ちゃんのことが大好きだねえ。大方僕に散々やられてる球磨川くんを見に行こうって魂胆だろう? 君の内心なんてお見通しだぜ。心の内側にいるからね。

 

 ……まあそれもあるし、誰かが蝶ヶ崎くんの理性を失わせなきゃいけないからね。まさか志布志ちゃんに任せるわけにもいかないでしょ。だから私がやんなきゃね。

 

「そういえば蝶ヶ崎くんって私がやるお兄ちゃんの物真似見たことあるっけ? 自分でも中々の完成度だと思ってるから、是非見てもらいたいんだけど」

 

「いや、見たことはありませんね……見せてくれるというなら是非お願いします。これでお兄さんの話はおしまいにして下さいね」

 

「分かった。それじゃあ行くよ。お兄ちゃんが言いそうな挑発の言葉を吐くから、採点でもなんでもしてみてよ。ふう……蛾々丸ちゃん

 

お前    

 なんだか』 

 

 

トランプとか

武器にして

戦いそうな

    顔だよな)』

 

 

 

 

 

 …………どうだろう。

 うまく行くかな?

 

 

「なんっ……でそこまで! 的確に人を傷つけるセリフが言えるんだよお前達はあああああっ!!」

 

 よっし完璧。蝶ヶ崎くんの見た目が大人しめな感じからスーパーでサイヤ人な感じに変わってるし、間違いなく理性は吹き飛んだでしょ。

 

 さて、死ぬか。

 

 蝶ヶ崎くんに向かって斬りかかって……はい受け止められたね。ん? 何か言い遺すこと? うーん……どうしようかな……あっ、そうだ。

 

「半袖くんに『暴食は程々にね』って伝えておいて〜」

 

「OK!!」

 

 元気が良くて何よりだっえっちょっと待って折角刀があるんだから頭を踏み潰すのはかんべっ──────。

 

 


 

 

「いったた……全くもう、女の子の顔を踏み潰すなんて酷いな蝶ヶ崎くんは……」

 

 さて、そんなことはどうでもいいとして……うん、いつもの教室だね。髪の毛の色も元に戻ってるし、そもそも私の目の前に安心院さんがいるし、それに血塗れでボコボコにされてるお兄ちゃんもいる。つまり作戦は成功だ。

 

『……(そそぎ)ちゃん? どうしてこんな所に……』

 

「おいおい球磨川くん、こんな所だなんて酷いじゃないか。僕は僕なりに気に入ってるんだぜ? こんな所でも」

 

「こんな所って言っちゃってんじゃん」

 

 あーそうそう、一応ここに来た経緯くらいは説明しておこうかな。お兄ちゃんも私のことが気になっちゃうだろうし、安心して本音をぶちまけてもらうためにもね。

 

「それで私がここに来た理由だけど、蝶ヶ崎くんが正気のまんまだったから私が怒らせて──ッ!?」

 

『正気のまんま? ()()()()()()()()。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっと、その……お兄ちゃん、そんな怖い顔しないでよ……私、嘘ついてないよ? だから、怒んないでよ……」

 

 私にとってお兄ちゃんに、球磨川禊に本気で怒られるというのは……いや、球磨川禊に限った話ではない。みんなに本気で怒られると、嫌悪感で自分が嫌になる。ただでさえ嫌いなのに。

 

『……いや、(そそぎ)ちゃんに怒るなんてのはお門違いだね。どうやら僕はかなり焦っているみたいだ。ごめんね』

 

「いやいやいや! 私なんかに謝ることなんてないよ! お兄ちゃんはいつもみたいに、好きに振る舞っていてくれればそれでいいんだから!」

 

 本当にそう思う。直前まで気付いていなかった私が悪いんだから。だからお兄ちゃんは悪くない。さて、そろそろお暇するか。

 

 

 

 

改稿。

球磨川(そそぎ)を認識する事はできない。

 

 

 

 

「お話は終わりかな? さて、それじゃあ(そそぎ)ちゃん。ここから先は君も部外者になるわけだが……なんだ、もういなくなっちゃったんだ」

 

『……それで、安心院さん。僕の過負荷(マイナス)を早く返してくれないかな。(そそぎ)ちゃんの手前がっつくことはしなかったが、僕にだって多少のプライドはある。妹に張る見栄だけはね』

 

「まだ諦めがつかないみたいだね。それならばもう一度かかってくるといいさ。心優しい僕が貸してあげたスキルである手のひら孵し(ハンドレットガントレット)を下敷きにした大嘘憑き(オールフィクション)は確かに恐ろしいスキルだ。だから──」

 

「7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と」

 

「4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)

 

「合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ僕にだって、ひょっとしたら勝てるかもしれないぜ」

 

 安心院さんは息を吐くついでみたいに、いとも容易くそう言ってのけた。どうも、実況の球磨川(そそぎ)だ。過負荷(マイナス)で色々悪さをして隠れている。

 

 その後お兄ちゃんと善吉くんと私に貸し出しているスキル3つ分を差し引いて「勝つなら今が大チャンスだぜ」的なことを言っていたが……戯言だ。勝てるわけがない。

 

『……やれやれ、ものには限度ってものがあるんだぜ、安心院さん。少年ジャンプのバトル漫画じゃないんだからさ』

 

「はは、少年漫画? 今は過負荷(マイナス)をどうするかっていう下劣な話をしているんだからさ、そんな高尚過ぎる話をいきなりされても困っちゃうな」

 

『へえ、高尚ねえ……ちなみに僕はそんなに難しいことを考えながら漫画を読む文化圏の人間じゃないんだけど、安心院さんは少年漫画から何を学んだのかな?』

 

()()()? いいや違うね、夢見てんじゃねえよ。()()()()()()()()()のさ。最後に勝つのは友情・努力・勝利ではなく、能力のある奴だという極めて残酷な現実をね

 

『…………』

 

「能力があるから友達ができて」

 

「能力があるから努力ができて」

 

「能力があるから勝利できる」

 

「そんな救いのない現実を」

 

「僕としては見ていて忍びないんだよ」

 

『……ご丁寧に、どうも』

 

「ま、これは勝ち組である僕の価値観だ。負け組の球磨川くんは、一生少年漫画でも読んでいればいいさ」

 

 ……かなり手厳しいが、こうでもしないとテコでもお兄ちゃんは動かないだろう。それも、安心院さんでもない限りは絶対に。私には同じことはできない。

 

『……はっはっは! そうだねその通りだ。僕らが何をしようがめだかちゃんに勝てるわけないよね! あーあ馬鹿馬鹿しい。らしくもなく頑張っちゃったな恥ずかしー! さーて、負け犬の僕は負け犬らしく、大人しく家に帰って少年漫画でも──』

 

 

「待てよ。」

 

 

『…………待て、と言うと?』

 

「僕なんかに言いたいことを言わせるなよ。好きな物を侮辱されたんだぜ、少しくらい怒って言い返してみたらどうなんだ、腰抜け野郎」

 

『……言い返すことなんてないよ。能力者(プラス)無能力者(マイナス)に勝つのは世界の現実であり真実だ』

 

「球磨川くん、追い詰められたらそうやって格好つけて煙に巻きたがるのは君の悪い癖だぜ? (そそぎ)ちゃんはもういなくなったんだからさ。兄の矜持とかそういうのは一旦置いておいて、格好つけずに、括弧つけずに言ってごらん?

 

さあ、お兄ちゃん。私に本心を聞かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつらに

  ()ちたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格好(かっこう)よくなくても

(つよ)くなくても 

(ただ)しくなくても

(うつく)しくなくても

 可愛(かわい)げがなくても

  綺麗(きれい)じゃなくても

 

格好(かっこう)よくて   

(つよ)くて(ただ)しくて

 (うつく)しくて可愛(かわい)くて

    綺麗(きれい)連中(れんちゅう)()ちたい

 

 

 

才能(さいのう)(めぐ)まれなくっても

(あたま)(わる)くても    

性格(せいかく)(わる)くても   

おちこぼれでも   

はぐれものでも   

出来(でき)(そこ)ないでも」  

 

才能(さいのう)あふれる     

(あたま)性格(せいかく)のいい   

(のぼ)調子(ちょうし)でつるんでる

 できた連中(れんちゅう)()ちたい

 

 

 

友達(ともだち)ができないままで

友達(ともだち)ができる(やつ)に 

()ちたい」    

 

 

努力(どりょく)できないままで 

努力(どりょく)できる連中(れんちゅう)に 

()ちたい」    

 

勝利(しょうり)できないままで

勝利(しょうり)できる(やつ)に 

()ちたい」   

 

 

(なに)もできないままで

 (なん)でもできる連中(れんちゅう)

()ちたい」   

 

不幸(ふこう)なままで

(しあわ)せな(やつ)

 ()ちたい!

 

 

 

(きら)われ(もの)でも!」 

 

(にく)まれっ()でも!

 

やられ(やく)でも!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

主役(しゅやく)()れるって

証明(しょうめい)したい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ああ、これはまずい。こんなのを、こんな言葉を聞いてしまったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あまりに滅茶苦茶であまりに支離滅裂であまりに自分勝手であまりに荒唐無稽。括弧が付かなくなったところで、何を言いたいのかなんて到底分からない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ちょうどお兄ちゃんもはじまりの過負荷(マイナス)を返してもらったみたいだ。正直言って、本心を曝け出すことほど怖いことなんてない。もし否定されてしまったら、もし呆れられてしまったら、()()は今度こそ全てを投げ出してしまうかもしれない。

 

 でも、きっと大丈夫。勘だけどそんな気がするんだ。

 

 今度こそ、きっと。

 

 ()()()()()()()

 だから、安心して、行ってらっしゃい。

 

 (そそぎ)ちゃん。

 

 


 

 

 禊は唇を拭いながら、安心院と対峙していた。彼女のことをやや睨みつけながら、半ば吐き捨てるように台詞を口にする。

 

「……とにかく、返してくれてありがとう。これで、僕は僕になれる。お礼に君には、不幸が幸福を凌駕する、歴史に残る衝撃映像を見せてあげるよ」

 

「そうかい、楽しみにしておくよ。抵抗も対抗も、あまり意味がないことだとは思うけどね……ん? どうしたんだい球磨川くん。言いたいことは言い切っただろう?さっさと行ったらどうなんだい?」

 

「うん、言い切ったさ。()()()()()()()()()()

 

 禊がそう言うと同時に、安心院の真隣に(そそぎ)が姿を現した。安心院はその存在に気が付かなかったせいか、かなり驚愕しているように見える。

 

「……いや、マジかよ。てっきり(そそぎ)ちゃんは帰ったもんだと思ってたんだが」

 

「……実際、そのまま帰ろうと思ってたけどね。だけど、お兄ちゃんのあんな台詞を、本心を聞いちゃったら……ぼくもちょっとだけ、隠すのは──()()()()()、やめてみようかなって思って」

 

 (そそぎ)の表情は重苦しいものだ。これから本当の自分を曝け出そうというのだから、そうなるのも無理はないことだろう。

 

「お兄ちゃん、ぼくの頼み、聞いてくれる?」

 

「当然。可愛い妹の頼みなんだ、僕に叶えられることならなんだって叶えてあげるさ。いい加減僕も、そっちの(そそぎ)ちゃんじゃなく、本当の(そそぎ)ちゃんに会いたいと思ってたからね

 

「……お見通しっぽいね。敵わないなあ──その通りだよ、お兄ちゃん。ぼくのこと、嫌わないでいてくれる?

 

「当然。(そそぎ)ちゃんがどうなっても、僕は君を好きでいるよ。お兄ちゃんだからね」

 

「……そっか。うん、そうだよね。それじゃあ、見てて」

 

 そう言った次の瞬間(そそぎ)が自分の体に刀を刺すと、140数cm程しかなかった(そそぎ)の身長は禊と同じくらいの高さに変化した。髪の色は吸い寄せられるような黒から一切の汚れを寄せ付けない白一色になり、長めに伸びた髪がなびく。明るい性格は鳴りを顰め、自信がなくなったために少々猫背気味だ。

 

「やあ、久しぶりだね。(そそぎ)ちゃん。気分はどうだい?」

 

「……えっと、えっとね、なんて言うんだろう、これをどうやって言い表せばいいのかな。怖いよ。寂しいよ。虚しいよ。まっ、また無視されるんじゃないかって、また何も遺せないんじゃないかって、また、いなっ、いなかったことに、されるんじゃないかなって、不安で不安で仕方がない。今だって、本当の姿を見せたことをすっごく後悔してる」

 

 (そそぎ)の視線は右へ左へと忙しなく動いている。今まで自分を偽り続けてきた弊害か、自分を言い表すことに慣れていないためだ。禊はそんな痛ましい姿を見て、すかさず(そそぎ)を抱きしめた。

 

「大丈夫、大丈夫だよ、(そそぎ)ちゃん。僕がいる。僕がついてる。普段色々と台無しにしてきた僕だけど、君のことだけはなかったことになんてさせない。それにさ、きっともう、覚悟はできてるんでしょ?

 

「……うん、うんっ。すっごく怖いよ。本当に、今すぐにでも死んでしまいたいくらいに怖い。また結果を残せなかったらと思うと、腹を割りたくなる。だけど、お兄ちゃんは覚悟を決めたんだ。だったら、私だって勝ちたいよ。借り物の言葉じゃなくって、作り物の思考じゃなくって、紛い物の容姿じゃなくって──」

 

「ぼくのままで、あいつらに勝ちたい」

 

 (そそぎ)の表情は依然として不安に満ちている。しかし、そこには僅かな希望も見て取れる。視線は前を見据え、揺れ動いてはいなかった。

 

「うん、それじゃあ行こうか。一緒にめだかちゃん達に勝利して、バッドエンドを迎えに行こうぜ」

 

「うん……あっ、安心院さん。本当にありがとうね、色々と。それじゃあぼく達は頑張ってくるから、応援しててね」

 

「うん、行ってらっしゃーい……行っちまったか。いやー、(そそぎ)ちゃん、まさか本心を曝け出すとはね。わっはっは、心底──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失望したぜ。」

 

 

 

 

「いやー、君だけは分かってくれてると思ってたんだけどな。勝ちとか負けとか、そういうのは全部どうでもいいことなんだってことを」

 

 教室に残された安心院は、誰もいない空虚な空間に向かって、そう一人呟いた。

 

 そこにあったのは静寂と、寂寥感だけだった。

 なんちゃって。

 

 







 例の台詞を見ると
「僕はお前なんかに屈したくない。」
「お前なんかに負けたくない!」
「お前なんかに負けないんだ!!」
 って続けたくなる呪いにかかってます。
 助けてください。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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