TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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第25箱「何も知らないくせに」

 

「人吉先生、如何(いかが)ですか。日之影前会長の怪我の具合は」

 

 八月十五日の昼下がり、生徒会戦挙副会長戦を終えた現生徒会メンバーと、日之影の戦いを応援しにきた生徒達は、戦いの舞台となった新校舎建設予定地の残骸の中にいた。

 

 半袖の正喰者(リアルイーター)によって異常性(アブノーマル)を作り変えられた日之影は、新たな異常性(アブノーマル)である光化静翔(テーマソング)と持ち前のタフネスさで、蛾々丸を()()()()()()()撃破した。

 

「怪我なんて生易しいものじゃないわよ、これは……日之影くん、それでよく生きていられるわね?」

 

「は……頑丈さだけが取り得でしてね。今は無くなっちまいましたが、知られざる英雄(ミスターアンノウン)を喰われてなきゃ、骨折さえしてない自信がありますよ」

 

 そこまで日之影が語ったところで、名瀬が日之影に食ってかかった。一体どのようにして異常性(アブノーマル)を交換──名瀬風に言うのであれば交換(とっかえひっかえ)できたのかが分からなかったためだ。

 

「あー、それな……説明しなきゃいけねーけどなー、口止めされてんだよなー……おっと、そうだ。一つ思い出したことがあった」

 

 そう言うと日之影はめだかの方を向き、再び口を開いた。

 

「これは殆ど確定事項だと考えてくれて構わない。今から俺が言うことは100%その通りになる。突然だが、信じてくれるか?」

 

「無論です。貴方ほどの人がそこまで断言するのであれば、信じない者など居ないとは思いますがね」

 

「そうか……ありがとう、恩に着る。これは()()()()()()()()()()()()なんだが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……成程、分かりました。会長戦までは一週間しかありませんし、早急に候補を決めておくことにします。ありがとうございます、おかげで助かりました」

 

 めだかはそれを聞き、日之影が驚くほどの理解力をもって、情報が誰からのもので、マイナス十三組がどのように動くのかを瞬時に理解し、勝利の余韻に浸ることなくすぐさま会長戦へと意識を向けた。

 

「……お前は強いな、黒神」

 

「貴方ほどではありませんよ。それに、私より強いものなど星の数ほどいます。身近な例を挙げるとすれば……(そそぎ)などはまさしくそのうちの一人ですね」

 

「球磨川妹がか? 俺みたいな隠居生活真っ最中の老人からすれば、あいつがお前に勝っているところなんて……いや、違うな。()()()()()()

 

「ええ、そういうことです──」

 

「はっはっは! (そそぎ)さんのことは今はいいじゃないですか!それよりも日之影先輩の勝利を讃えましょう!」

 

 突然二人の会話に横から割り込んできたのは、つい先ほど『狂犬落とし』のルールに敗れた蛾々丸だった。彼の持つ過負荷(マイナス)である不慮の事故(エンカウンター)によって、一切のダメージは受けていなかったが。

 

「いやー見事でした、完敗でした! この蝶ヶ崎蛾々丸! 一片の悔いなく敗北を認めます! で──それがどうしました? あなたは瀕死なのに私はピンピンしていて、()()()()()()()()()()()()()()

 

 負けたはずである蛾々丸は、勝ったはずである日之影に向かっていっそ清々しく、まるで勝ち誇るかのように言ってのけた。

 

「あなたはルールを利用してこすく勝っただけでしょう。それでどうやって不幸(マイナス)幸福(プラス)にするっていうんです? 思い上がった自己満足は一人でしてくださいよ、英雄さん」

 

 そんな蛾々丸のあまりにもあんまりな台詞を聞いた一般生徒達は、志布志と蛾々丸をこぞって攻撃し始めた。

 

「お前らこそ思い上がってんじゃねーよ! 盗人猛々しいとはこのことだぜ! 改心しようがしまいが関係ない! 次の会長戦で負けて! お前達は箱庭学園から出て行くんだよ!!」

 

「そうよ! あんた達なんてもう怖くないわ!!」

 

 それを聞いて志布志と蛾々丸は肩をすくめていた。彼ら彼女らにとって、忌み嫌われることなんて日常茶飯事だから。

 

(んー……ちょっとまずいかもなこの空気……こうも罵られているところを見ると、めだかちゃんのモチベーションが下がっちまうかも……)

 

 善吉がそんな風に、半ば杞憂じみた憂いを頭の中で巡らせていると、騒ぎの中心に向かって来る、二つの足音が響き──そして一言、たった一言を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のいて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけで、人の海は簡単に割れた。先程まで騒がしかったというのに、まるで声を奪われてしまったかのように、皆一様に口をつぐんでいた。

 

 一声だけで場を支配してしまった球磨川禊は、そのまま割れた人の海の中を進むと、めだかの前で足を止めて、格好付けずに、括弧付けずに挨拶をした。

 

「初めましてめだかちゃん、僕だよ」

 

「……ああ、そうだな。貴様の言葉に──貴様の心に、ようやく会えた気がするよ。(そそぎ)も久しぶり……? 待て、(そそぎ)はどこへ行った?」

 

 めだかは禊の背後にそう声をかけた。しかし、そこに(そそぎ)がいるようには見えない。善吉達は禊の背後を凝視するが、そこに誰かがいるようには見えない。そこには誰もいない。何もない。存在するのは球磨川禊だけで、背後には誰もいない。球磨川禊しかいない。球磨川(そそぎ)なんていない。めだかボックスに球磨川(そそぎ)なんてキャラクターは存在しな

 

改稿。

そこには球磨川(そそぎ)が確かに存在した。

 

「……ああ、そうだな。貴様の言葉に──貴様の心に、ようやく会えた気がするよ。(そそぎ)も久しぶり……どうしたのだ(そそぎ)、そんなに狼狽えて」

 

「めだかくん! ぼっ、ぼくは、()()()()()()()!? まだいるよね!? 覚え、ぼくのこと覚え……覚えてない……? 覚えてるよね? (そそぎ)だよ、ほらあの、球磨川の、お兄ちゃんの……じゃなくて、禊お兄ちゃんの、妹の、(そそぎ)だよ」

 

「当然覚えている……というより、忘れるわけがなかろう。貴様は私の友なのだぞ。見た目や性格が変わった程度で気付けなくなるなんてことはない。安心しろ、しっかり覚えている」

 

「そっか……それならよかった」

 

改稿。

球磨川(そそぎ)は取り乱してなどいない。

 

「……ああ、そうだな。貴様の言葉に──貴様の心に、ようやく会えた気がするよ。(そそぎ)も久しぶりだな。その様子だとどうやら、隠し事をやめるつもりになってくれたか」

 

「うん。みんなみんな、本心を曝け出して戦ってるんだ。ぼくだけ仲間はずれになるのは、少し嫌だなって思って」

 

「ふっ……そうか、それは何よりだ。これからは存分に! やりたいことをやりたいようにするがいい!」

 

 めだかは学園の敵であるはずの(そそぎ)に向かって確かにそう言った。それに反論したのは名瀬でも古賀でも日之影でもなく、(そそぎ)の友人である善吉だった。

 

「ちょっと待てよめだかちゃん。まさかそんな事はねえと思うが、まだ会長戦がある事を忘れちゃいねえだろうな?」

 

「む? そんなわけがなかろう。折角あの(そそぎ)がやりたいことを自分で見つけたのだから、それを止めるわけには行くまい」

 

「相変わらず(そそぎ)への信頼が凄まじいな……おい(そそぎ)!そういう訳みたいだから、会長戦が終わったら二人で飯でも…………どうしたお前? いつもの楽しそうな感じはどうしたんだよ」

 

 善吉はめだかの言葉にやれやれしょうがないなといった感じで返しながら、(そそぎ)の方を向いたが──(そそぎ)はいつも通りの親愛を善吉に向けることは無かった。

 

 代わりに向けていた感情は、怯えだった。

 

「……そっ、それ以上近づかないで……! お願いだから……近づいたら、斬っちゃうからっ……斬るから!! だから……」

 

「悪いんだけど善吉ちゃん、それ以上近づかないであげてくれないかな。()()()()()()()()()()()()()()

 

「……てめーに言われなくても、(そそぎ)が近づくなっつってんだから近づかねーよ。友達が嫌がるようなことはするなって、お母さんから教わったからな」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()(そそぎ)と、いつでも非人道的な手段に打って出られる禊を前にしても、善吉は極めて落ち着いていた。安心院なじみから貸してもらったスキルである欲視力(パラサイトシーイング)を使って、(そそぎ)の視界を覗き見たからだ。

 

(そそぎ)が怖がってるのは、俺と周りにいる一般生徒だけみてえだな……普通(ノーマル)特別(スペシャル)の連中を怖がってるってことか……?)

 

 そんな考え事をしながら善吉が一歩後ずさると、(そそぎ)はあからさまに安心したように息を吐いて脱力した。それと同時に、禊も攻撃の姿勢を取ることを止めた。

 

「そうかい、それならよかった。今ここで君を殺しちゃったら、会長戦とか勝ちとか負けとかそれどころじゃなくなっちまうからね。あまり(そそぎ)ちゃんを怖がらせない方がいい」

 

「カッ……まあそこまでするつもりがねえってことは分かり切ってるけどな。お前は飽きっぽい性格だし、(そそぎ)は無闇矢鱈と刀を振り回すような性格じゃあ──」

 

「君に(そそぎ)ちゃんの何が分かる?」

 

 善吉は禊の突然すぎる豹変と、凄まじい剣幕に呆気に取られ、怖気付いた。先程までめだかに向いていた敵意が善吉に向いた為である。

 

(ぐっ……おいおい冗談じゃねえぞ……!? 球磨川の野郎、前よりもよっぽど負完全(マイナス)になってやがる……っ!!)

 

「『分かり切ってる』だなんて分かったような口を聞くなよ。君たちは(そそぎ)ちゃんのことを殆ど何も知らないくせに」

 

「待て球磨川、それは違うだろう。私達が(そそぎ)のことを殆ど知らないというのは聞き捨てならんな。たった二ヶ月の間であるとはいえ、私達と(そそぎ)は生徒会執行部として共に活動を……」

 

「いいや、違くなんてないさ。だってめだかちゃんが一緒に過ごしたお友達は、球磨川(そそぎ)じゃなくて杵築(ゆき)だろう? 君達が知ってるのは、あくまで作り物の杵築(ゆき)という人格(キャラクター)に過ぎない」

 

 禊はそこで一度息を継ぐと、(そそぎ)の方に一度チラリと視線を送り、何も問題がないことを確認すると再び話し始めた。

 

「そして、今までの球磨川(そそぎ)もまた、被っていた皮の一つってことさ。本当の(そそぎ)ちゃんは、髪が白くて、身長がそこそこ高くて、人混みを怖がって、失敗が多くて、話を纏めるのが下手で、目を合わせて人と話せなくて、何かあるとすぐに涙目になって、いつも下を向いていて、やや猫背気味で、後悔ばかりしていて、人から忘れられることを恐れていて、大真面目に自分が生きているという事実を憎悪している──後から歪んでしまっただけの、普通の可愛い僕の妹だ

 

「っ……!」

 

「だから、そうだな……ここを逃せばチャンスが無くなるから、今のうちに言っておきたいことがある」

 

「……何を」

 

「僕の妹を傷付ける奴は、誰であろうと何があっても絶対に許さない。ただ、それだけだ」

 

 そう言って禊は、辺りに居る全員を睨みつけた後、(そそぎ)に向かって「それじゃあ今日は帰ろうか」と言い、未だに周囲からの視線に怯える(そそぎ)の手を取り、何もなかったかのように去って行った。

 

「──なんだよ、てっきり妹にも同じような接し方なのかと思ってたが……球磨川の野郎、ちゃんとお兄ちゃんじゃねえか……」

 

 去って行く球磨川兄妹の背中を見ながら、善吉はそんな風に独りごちた。そしてそれは、その場にいた全員の総意でもあった。

 

 そして、来たる八月二十二日。

 生徒会選挙を締め括り、箱庭学園の命運がこれにより決まる──一世一代の大勝負、会長戦が始まる。

 

 






 ここまで球磨川くんがマイルドな小説ってあんまり無い気がします。完全に主観ですけどね。

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