TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 (そそぎ)ちゃんの過負荷(マイナス)をようやく出せます。
 実はこの小説、この過負荷(マイナス)を思いついたから書き始めたんですよね。
 若干無理矢理感はありますが、広い心で受け入れていただければ嬉しいです。




第26箱「ぼくを救ってくれるんでしょ?」

 

 

 七月十七日、リコール発動及び生徒会戦挙開催決定。

 

 七月二十五日、庶務戦。

 

 八月一日、書記戦。

 

 八月八日、会計戦。

 

 八月十五日、副会長戦。

 

 そして八月二十二日、会長戦当日である。

 

 もはや慣れ親しんでしまった控え室に、いつものように現生徒会メンバーとマイナス十三組メンバーは集まっていた。全員が揃って整列し、互いに向かい合ったところで長者原の司会進行が始まった。

 

「それではお時間になりましたので、生徒会戦挙会長戦を執り行います。生徒会側から出馬されるは黒神めだか様、新生徒会側から出馬されるは球磨川禊様でございます」

 

 長者原がそう宣言し終えた直後、名瀬と善吉は禊がいる方向を一瞥してから話し始めた。

 

「チッ……なんだかんだで会長戦までもつれ込んじまったし、球磨川の旦那は以前よりよっぽど最悪(マイナス)過負荷(マイナス)になっちまったようだが……善ちゃん、この状況をお前ならどう打破する?」

 

「どうするもこうするも……打破するだけなら、そりゃあまあ簡単なことですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……いやまあ、そりゃあそうなんだが……球磨川の旦那が暴力に屈するかって言われると、是非を付けるまでもないんだよなー……ほら、あれだ。なんだかんだで似た物同士なんだよな、我らが生徒会長と球磨川の旦那は」

 

「ええ。だから球磨川は、圧倒的な力で押さえつけるのではなく、同じ立場に立ってその上で勝たないと負けを認めないはず……そこはめだかちゃんなら問題無いはずです。それよりも、この場合問題なのは……」

 

 善吉は刀を抱きしめながら禊の背中に隠れている(そそぎ)の方を向き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「日之影先輩が言うには、どうやら会長戦は二人出馬するらしいじゃないですか。もし本当にそうなった場合、出てくるのはきっと(そそぎ)です。志布志や蝶ヶ崎とは違って、()()()()()()()()()()()()()()

 

「成程な……そりゃあ確かに厄介だ……で、善ちゃんよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「勿論!!」

 

 善吉は気合いを入れるため、自分の両頬を思い切り叩いてから大きな声を出した。突然善吉が大声を出したので、(そそぎ)は「ひぅっ」と小さい声で鳴き、更に縮こまってしまった。

 

「……善吉ちゃん、静粛に頼むよ。あまり大きい声を出されると、耳がキーンとして何も聞こえなくなっちまう。命乞いとかもね」

 

「分かってる分かってる……今のは俺が悪かったよ、100%な。ごめんな、(そそぎ)

 

「いっ、いや、ぼくが悪いから大丈夫。ちょっとの大声でびっくりしちゃったぼくが悪いんだから」

 

「……よろしいでしょうか。それでは禊さま、恒例のくじ引きでございます。会長戦のルールを決めていただきますので、用意された十三枚からお好きなカードをお選びください」

 

 話が途切れたタイミングを見計らって、ひと段落ついた瞬間に長者原は司会進行を迅速に努めた。くじ引きを促された禊は、一切の迷いなしに『人』と書かれているカードを選択した。

 

『人』のカードの裏には、何も書かれていなかった。

 

「『人』のカードはジョーカー、いわゆるワイルドカードでございます。会長戦の『人』のカードに限り、現生徒会長に()()()戦挙のルールを決めていただくことになるのでございます」

 

「……敵側の出す条件に無条件に従って戦う羽目になるわけだ。やれやれ、最後の最後で僕らしいカードを引いちゃったなあ」

 

「……球磨川」

 

 

よかった。不利(そう)じゃなきゃ、   

 過負荷(ぼく)が勝ったことにはならない

 

 

「……異存はないようだな。ならば会長戦のルール、好きに決めさせてもらうぞ」

 

 めだかはそう宣言すると、まるで以前から決めていたかのように、すらすらと会長戦のルールを決め始めた。

 

「名付けて『人間比べ』。ステージは箱庭学園全域──スタートはたった今この場所から。ファールはなし──武器を使おうと何をしようと構わない。タイムアップもなし──決着がつくまで永遠に戦い続ける」

 

「そしてルールはただひとつ」

 

 

 

 

 

負けたと  

思った方の

負けだ」 

 

 

 

 

 

「裏をかくも変えるもない、これ以上に禍根の残らんルールは他にあるまい」

 

 めだかはそう言い、凛とした表情を浮かべた。現生徒会メンバーからは驚愕の表情が見て取れるが、そこに異を唱えた……否、補足を加えた者が一人いた。

 

「はいはーい! 皆様方ー! こちらに注目してくださーい!!」

 

「……不知火、貴様……これから私と球磨川が真剣勝負をしようという時に……そもそも戦挙戦を仕切るのは長者原二年生であって……」

 

「あひゃひゃ! 残念ながらこっちには()()()()()()()()()()大刀洗(たちあらい)斬子(きるこ)さんからの委任状がありまーす!!」

 

「ッ!?」

 

 そう言って半袖は、わざとらしく、極めて大きな動作で大刀洗からの委任状をかざした。当然その場にいる全員から驚きの声が上がる。

 

「なっ……マジかよおい、あいつ一人で選挙管理委員会を相手取ってたっつーのかよ。それも一ヶ月間? そんなん立派に一つの戦いじゃねーか」

 

「ええ……不知火はああいう奴ですよ。そしてあいつが表立って動いたってことは──()()()()()()()()()()()()()()()()()この場合はめだかちゃんが決めた『人間比べ』のルールじゃなく、もっと根本的な所でしょうがね」

 

「あひゃひゃ、人吉だいせーかい!! それじゃああたしからは、大刀洗委員長からの伝言を伝えさせてもらいますねー!!」

 

 半袖はそれまで善吉たちへ向けていた視線を球磨川兄妹の方へと向け、万が一にも聞き間違えたりすることの無いよう、大きくゆっくり、伝言を口にした。

 

『会長戦で人のカードが選ばれた場合、現生徒会側と新生徒会側は、それぞれ二名ずつ出馬させなければならない』そうです。なんでも、生徒会長一強ではなく、それをサポートできる生徒がいないと()()()()()()()()()()()()()()()()()だとか」

 

 ま、つまるところは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と──そういうことらしいですよ? 半袖はにひっと楽しそうに笑いながら、そんな言葉を口にした。

 

「……成程な、合点がいった。日之影前会長が言っていた匿名の一般生徒とは貴様のことだな」

 

「あひゃひゃ、何のことでしょう……さて、それじゃあお嬢様、球磨川先輩。もう一人ずつ、出馬する生徒を決めてもらいましょうか

 

 前提は覆った。現生徒会側に漠然と漂っていた勝利ムードは、一瞬にして霧散した。それもそのはずだ。その瞬間、誰もが同じことを考えていた。なぜなら、だって、それなら──。

 

(そそぎ)ちゃん、行けるね?」

「お兄ちゃんの頼みなら。」

 

 ──こうなることは分かり切っていた。二人組で戦うなんてルールにしてしまえば、禊は(そそぎ)を選ぶはずだということは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかしそれでも、めだかの顔に諦めのムードは漂っていなかった。微塵も不安など感じさせない、自信に満ちた凛とした表情を浮かべていた。そしてめだかも、有無を言わせぬ雰囲気で宣言した。

 

「善吉、行けるな?」

「おうよ、頼まれずともな!」

 

 善吉もめだかの問いに勢いよく答える。こうして『人間比べ』は、二人組でのタッグ戦へと一瞬で様変わりした。善吉は半袖の方を振り向き、一言お礼を述べた。

 

「ありがとな、不知火。(そそぎ)を救うチャンスを俺にくれて」

 

 半袖は何も言わず、善吉に向けてにやりんっと笑った。それから(そそぎ)の方を向き、アドバイスを一つ与えた。

 

(そそぎ)。相手は生徒会なんだ、どんなお願いでも叶えてくれるはずだよ。だからさ、遠慮とかやめてみな。あたしからお前に贈る、ただ一つのアドバイスだよん。あひゃひゃ!」

 

「……そう、だね。やってみる」

 

「よろしい! 頑張れよ、(そそぎ)! あひゃひゃ!」

 

 そこまで場が動いたところで、禊が突然めだかに向かって腕を伸ばした。見る限りでは、それは握手の構えのように思える。

 

「さて……それじゃあ始める前に、スポーツマンシップに則って握手でもしようか。恨み骨髄だろう僕に対して、フェアなルールの提示をしてくれたことへの感謝も込めてね。せめていい試合をしようね、めだかちゃん」

 

「ああ、そうだな────ッ!?

 

 握手を返そうと禊に歩み寄っためだかに対して禊が取った行動は、当然の如く敵対行動だった。めだかの全身に巨大なプラス螺子が殺到する。

 

「フェアなルールの提示をありがとう。僕は君の、そういうところが一番嫌いだ!」

 

「ッめだかちゃん!! くっそ球磨川の野郎……不意討ち! 闇討ち! 騙し討ち! あいつやっぱなんも変わっちゃいねえ!!」

 

 善吉はあまりにもスポーツマンシップに反する禊の所業に苦言を呈した。だがしかし、この場にいる人間にそれを咎める者はいない。既に『人間比べ』は始まっているからだ。

 

「不意討ち闇討ち、それに騙し討ちだって上等さ。僕は僕のまま、過負荷(マイナス)のままでめだかちゃんに勝たなきゃ意味がないんだから」

 

「……そうか、それはとても嬉しいな。貴様の本気が、貴様の本音が、私は嬉しい」

 

 先ほど全身に螺子を螺子込まれたかのように思えためだかだったが、その全てを掴み、あるいは噛み、先制攻撃をノーダメージで回避していた。禊もそれが当然だと思っているのか、さして驚きもしていない。

 

「……奇襲されたのになんで笑ってるのさ、変な子だね」

 

「ああ──私も不謹慎だと思っていたが、しかし破顔せずにはいられない。中学一年の夏休みから足掛け三年、つまり体感時間で三億年! 球磨川!」

 

「…………」

 

「私は貴様と戦える日を三億年待ったぞ!!」

 

「そうかい。きっと、僕もだよ──」

 

「恨みも怒りも今はない! 現生徒会にもマイナス十三組にも選挙管理委員会にも、感謝しかない!!

 

 今まで散々な目に遭わされたというのに、先ほども不意討ちを食らったばかりだというのに、それでもめだかは凛としながら、全てに向けて感謝を口にした。

 

「……本当に変な子だ。もちろん僕は、きみのそういうところも嫌いだよ。だから遠慮なく使わせてもらうぜ。僕の禁断(はじまり)過負荷(マイナス)──

 

 

「『却本作り(ブックメーカー)』を。」

 

 

 禊が手に持ったのは、先程までのプラス螺子とは違い、先端が鋭く尖ったマイナス螺子──即ち『却本作り(ブックメーカー)』だった。めだかと禊は互いに飛び出し、凄まじいスピードで撃ち合い始めた。

 

(そそぎ)ちゃん、僕はめだかちゃんとやり合ってるから、善吉ちゃんの方は頼んだぜ」

 

「任せてお兄ちゃん。それじゃ、頑張ってね」

 

「頑張る。」

 

 その言葉を皮()()に、めだかと禊は控え室を飛び出し、戦いながら時計台を駆け上がって行ってしまった。(そそぎ)と善吉は、未だに控え室で互いに向き合っている。

 

「……それじゃあ善吉くん。ぼくたちはぼくたちで好きにやろうぜ。好きなことを、好き勝手さ」

 

「……? (そそぎ)お前、俺のことを怖がってるんじゃなかったのか?その割にはなんか、やけに落ち着いて見えるんだが……」

 

「これから戦うってのに怖気付いていられるかよ。恐怖さえ闘志に変えてるってだけさ」

 

 (そそぎ)は独自の理論を展開し、善吉のことを怖がってはいるが、怖気付いているわけではないことを伝えた。普段の善吉なら「何を言ってんだ?」となるところだっただろうが、今日ばかりはそうはならなかった。

 

「成程な……ま、いいや。こっちは別に、めだかちゃん達みたいに鎬を削って戦う必要は──」

 

「そろそろかな」

 

「──? そろそろって一体何がだ?」

 

「いやほら、上でお兄ちゃん達が戦ってるでしょ。だからそろそろ決着が……来るね」

 

 (そそぎ)がそう言うと同時に、はるか上空からそこそこの重さの物体が校舎を破壊しながら落下し、善吉達がいる控え室で丁度止まった。

 

「ぐっ……! 早えなオイ!! もう決着ついちまったんじゃ……ねーか……? ()()()()()()? お前、どうしたんだよ。球磨川の野郎は……」

 

「やあ善吉ちゃん。ショックかい? 可愛い幼馴染が呆気なくやられて」

 

 ()()()()()()()()()()()禊は善吉の肩を後ろからポンと叩いた。善吉はあまりに理解不能な状況に思考が一瞬飛びかける。が、しかし、そこは精神力でなんとかカバーした。

 

(考えろ考えろ考えろ!! めだかちゃんが気絶している以上、起きるまでは俺一人で凌ぐしかねえ!! 一体全体どんなからくりでめだかちゃんを倒したのかは分からねえが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! ここでやられるわけには行かねえ!!)

 

 時間にして約0.05秒。善吉の人生においては間違いなく最速の思考速度であったし、思いついたことを行動に移すまでにかかった時間もまた、彼の人生において最速だった。

 

 ──()()()()()()()()

 

 

「──隙を見せたね

 

 

「えっ?」という声を出す時間すら与えられず、善吉の首に刃が食い込んだ。そのままするっと流れるように通り抜け、善吉の視界が反転し、刀は鞘に収まった。

 

「……うそつき」

 

改稿。

人吉善吉は斬られた記憶を

保持したまま復活する。

 

「ぐっ……(そそぎ)お前……遠慮なくバッサリ行きやがって……!」

 

「戦いは始まってんだぜ、隙を見せる方が悪いだろ。さ、善吉くん。()()()()()()()()()()()()()?」

 

 (そそぎ)の声色からは、諦めの感情が聞いて取れる。視線は右下辺りに向いているし、いつもより声も小さかった。善吉は一度斬り殺されたというのにも関わらず、そんな(そそぎ)を見て更に奮起した。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 多分お前の過負荷(マイナス)かなんかを利用して、俺に幻覚でも見せてたんだろうけどよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「惜しいね、落第だ、善吉くん。()()()()()のではなく、()()()()()のさ。私の始まり(ぼくの終わり)過負荷(マイナス)──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『却説遣い(ブックマーカー)』で。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会戦挙会長戦、決着は未だ付かず。

 しかし、決着が付くまではそう長くもない。

 勝鬨を上げるのは、果たしてどちらか。

 

 






 改稿斬昧(オールリヴィジョン)却説遣い(ブックマーカー)も一応意味がある名前です。
「改稿斬昧」は略して「改斬」になるので「改竄」になる、みたいな感じです。

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