小さめの仕掛けに起爆しました。
ようやく一つの真実が明らかに。
めだかと禊は殴り合う。肉体の強さも精神の強さも技術も頭脳も才能も、それら以外の全ても等しく
禊は対等に戦えていることに喜び、めだかは禊と分かり合えたことを喜んだ。真正面から正々堂々、不正や歪んだことなど一切ない、禍根も骨も残さず、ルールや約束に縛られず、運や偶然に支配されずに戦っていた。
これこそ公平。正しく平等。故に二人の打撃は、お互いに深刻なダメージを与え続けていた。このまま戦いが進めば互角の勝負になることは見えている。そうなってくると、ダウンのタイミングやそこから復活するタイミングも大体同じになる。
これは禊が『
仮に二人の戦いが引き分けになったとすると、善吉と
善吉を軽んじているわけではない。単に可能性の問題として、善吉が
叩けるのであれば、できるだけ大人数で叩いたほうがいい。戦いとは質であり、数であり、心であるからだ。味方がいると言う事実は心安らぐし、何より心強い。
禊が『
しかしそれは禊も同様である。肉体面も精神面も、なんだかんだでかなり強いのが球磨川禊という男だ。めだかに『
だからこそしばらく殴り合っていれば、どちらも同じタイミングで膝をつく。本人同士は全てが同じで、変わることなどできないのだから。
しかしそれは、
今までめだかが背負ってきたものは、なかったことになどできない。何より、そんな気にはさせない。
禊とめだかが膝をついたタイミングでちょうど聞こえてきた声は、現生徒会側から上がったわけでも、マイナス十三組側から上がったわけでもなかった。
声の出元は、めだかの背後の校舎の屋上から。
「あらら……黒神さんたらなんだかボロボロじゃありません?」
「どーせいつもの露出癖でしょう。どれだけ脱ぐのが好きなんですか、あの女は」
「しかし相変わらず体張ってるなあ、あいつは」
「ひゃは──バケモン女は手ェ抜くってことを知らないのかねぇ」
「そういえば聞いたか? この戦いは私達を守るための戦いでもあるらしいぞ」
「そうなの? それはとっても感動的ですねー(棒読み)」
「でも、確かに苦戦は苦戦みたいだな。このままだと引き分け──ていうか、黒神のことだから『今のこいつになら負けてもいい』とか思ってんじゃねーの?」
「おいおい、それは困るぞ──一人だけ特別扱いはズルいぜ。よし! ここはどうだ皆の衆、全員で声をそろえて黒神に『あのセリフ』を言ってやるというのは」
「『あのセリフ』? ああ! 一度は言ってみたい『あのセリフ』だな。よかろう! 黒神のことは呼び捨て! 一人称は『俺』、二人称は『お前』で統一だぞ。せーの──」
声が響く。反響して残響して、バラバラなはずのそれらの声援がめだかの耳へと届く。空気を震わせるほどの応援がめだかの血となり肉となる。
これが普通の応援ならば、禊もさして気にすることはなかっただろう。日之影の副会長戦の際は、もっと多くの生徒が応援に駆けつけていたし、マイナス十三組だって禊が呼べば応援に駆けつけるだろう。
しかし、今目の前で起きている事態は
と、その時、困惑する禊達の目の前に二人の『
阿久根高貴と。
喜界島もがなだ。
「……高貴ちゃん、久しぶりだね……後ろの彼ら、恐らくは異常選抜十三組の連中なのだろうけれど……集めたのは君なのかな」
「お久しぶりです、球磨川さん。いいえ、確かに声は掛けましたが、一度は断られてしまいました。だから、連中は連中で思うところあって、
なるほどね、と禊は思いつつも、しかし諦めることはしなかった。めだかが立ち上がり拳を構えたのを見て、禊もまた立ち上がり、拳を構える。互いに既に限界だ。繰り出せて残り二発──いや、一発がいいところだった。
「
「愚問だな球磨川。実に貴様らしい、愚かな問いだ。しかし私は貴様のそんなところが、今も昔も大嫌いで大好きだったぞ……さあ、やろうか球磨川。私は、貴様にぶつける最後の一撃に──」
「兄妹愛で軽く螺子伏せてやるよ。」
その言葉と同時に、禊もめだかも飛び掛かる。作戦も謀略もない、ただ相手の顔面目掛けて真っ直ぐに拳を伸ばす。ガードは捨て、ただ相手を倒すことだけを考える。そうして一瞬の後、互いの拳が顔面に到達し──。
禊の拳はめだかの頬を掠め、そのまま空を切った。万感の想いは、確かにかの生徒会長に、誰よりもヒーローみたいな女の子に、ほんの少しとはいえ──届いた。兄弟愛、だけではない。その他様々な想いを乗せた拳は、黒神めだかの頬に傷を付けるに至った。
対して。学園生徒の想いを乗せためだかの拳は、もろに禊の顎に入り、ここ三年で一番のクリーンヒット。人の想い──だけではない。きっと愛だけでなく、愛も友情も、全てないまぜにした拳だった。
かくして、殴り飛ばされた勢いそのままに禊は地面を転がった。そして地面に倒れ込んだまま禊は体を大の字に広げ、小さい声で呟いた。
「…………めだかちゃん、最後に一つだけ、言っておきたいことがある。僕もいつかあんな風に、君のピンチに駆けつけてきてもいいかな」
「もちろんだ──這い上がれ、球磨川禊。貴様に助けられるその日を、私は楽しみに待っている!!」
「……そっか、そうかあ……うん、そうだね、そうさせてもらうよ」
直後、校舎から歓声が飛ぶ。
ついに学園の敵である球磨川禊を退治し、学園に平和が訪れるからである。それだけではなく、めだか相手に健闘した禊に対しての歓声も飛んでいた。
しかしそこに待ったをかけたのは、選挙管理委員会副委員長である長者原だった。
「禊さま、お疲れのところ申し訳ないのですが……禊さまが明確に負けたと宣言していない以上、『人間比べ』のルールとしては決着がついたとは見做されません。さて、如何でしょう。禊さまは黒神さまに──」
「僕の負けだよ。大敗だ。ああちくしょう、悔しいなあ、幸せだなあ! ちゃんと負けられたのなんて初めてだ!」
「──
長者原が放ったその一言は、場の空気を一変させるには十分すぎた。めだかと禊は納得した顔をしているが、周囲にいる人間は何が何だか分かっていない様子だった。
食ってかかったのは、名瀬夭歌。
そして疑問を呈したのは、人吉瞳である。
「ちょっと待てよ長者原くん。ウチの生徒会長は球磨川の旦那をぶちのめして、それではっきり勝敗がついたんだろ? それもたった今!! それなら戦挙戦の決着はついてんだろーが。これ以上何をするって?」
「……球磨川くん、なんだかみんなの様子がおかしいみたいだけれど……君の負け……でいいんだよね? ようやくちゃんと負けられたところに水を差すようで悪いんだけど──っ!?」
瞳が見た禊の表情は、それこそ今までに見たどんな表情よりも分かりやすいものだった。
怒りだ。
「……ちょっと待てよ、お前ら。
禊は問う。渾身の怒りを込めて。しかし長者原とめだかと半袖を除き、全員が
「あー……杵築だっけ? あいつも大概だよな。気づいたらマイナス十三組にいたし……滅茶苦茶やったんだろ?
「なんか楽しそうだった
「正直引くな。
「少し本気で調べたら出てきたよ。どうやら彼女、色々な大会を荒らして回ってた
「武人の風上にも置けないねー……
「
「……やめろ」
実の兄の心のことなど考えずに。
「思い出したけど、今も人吉庶務と戦ってるんだっけ?
「うーわそれありえる。
「知り合いの奴から
「わたくしが
「……やめろ……!」
次々と罵詈雑言が飛び交う。一つ一つ取り上げると戯言でしかないのだが、
まるで、
そして、決定的な一言が放たれる。
誰が言ったのかは定かではない。だけど確かにそう言った。妙に響いて聞こえたその言葉は、もれなく全員に行き届いた。もちろん、めだかや半袖、そして禊にも。
「……長者原くん」
「なんでしょうか、禊さま」
「僕はさっき負けを宣言したから、会長戦には関係ないんだよね?」
「……そういうことに、なりますね」
「ありがとう。なら、これで遠慮なくやれる。さて、それじゃあ十三組のエリート諸君には一つだけ、質問がある──誰から入れ知恵された? 答えろよ」
禊は戦挙戦の最中でも一度も見せなかった、全身全霊の
「……今立ってるみんなは、
禊の言葉に、立っている人間は全員口を閉じた。
静寂を一番最初に切り裂いたのは、やはりめだかだった。
「球磨川、一体どういうことだ。確かに何も知らない者からすれば、
「
禊は一度目を伏せ、しばらくしてから再びめだかに向き合った。そして、
「
「……なるほどな、それが
「そういうことさ。ほとんど無意識的なもののようだけれど──さっきは大勢が『いなくなってくれないかな』と思っていたから、みんなの記憶から消えかけていたみたいだね……ほら、副会長戦の時もそうだっただろう?」
思い返せばあの時、大勢の生徒に囲まれた瞬間、
「……待て、もしや、突然
「十中八九。だって僕は別に強制していないからね。きっと
「憶測に過ぎないけどね」と言ってから、禊はさらに言葉を続ける。
「それはそれとして、このままだと善吉ちゃんが危ない。
「──ッ!! 行くぞ貴様達!!
一度落ち着いたはずの事態は、再び緊迫の様相を取り戻す。決着はまだ、どちらに転ぶか分からない。
──もっとも。
どちらに転んだところで、結局は何も変わらねーんだけどさ。
一体、どこの誰が『マイナス十三組の方がいい』なんて望んだんでしょうかね。
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