TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

28 / 95


 小さめの仕掛けに起爆しました。
 ようやく一つの真実が明らかに。




第28箱「答えろよ」

 

 

 めだかと禊は殴り合う。肉体の強さも精神の強さも技術も頭脳も才能も、それら以外の全ても等しく(なら)された二人は、笑い声を上げながら楽しそうに戦った。

 

 禊は対等に戦えていることに喜び、めだかは禊と分かり合えたことを喜んだ。真正面から正々堂々、不正や歪んだことなど一切ない、禍根も骨も残さず、ルールや約束に縛られず、運や偶然に支配されずに戦っていた。

 

 これこそ公平。正しく平等。故に二人の打撃は、お互いに深刻なダメージを与え続けていた。このまま戦いが進めば互角の勝負になることは見えている。そうなってくると、ダウンのタイミングやそこから復活するタイミングも大体同じになる。

 

 これは禊が『大嘘憑き(オールフィクション)』を捨てて、『却本作り(ブックメーカー)』を取ってきたからこその恩恵、そして弊害であろう。

 

 仮に二人の戦いが引き分けになったとすると、善吉と(そそぎ)の戦いに全てが託されることになる。現生徒会側からすれば、それだけはなんとしても避けたい事態だった。

 

 善吉を軽んじているわけではない。単に可能性の問題として、善吉が(そそぎ)に勝てるかと問われると、それはいささか怪しい部分が残るからである。

 

 叩けるのであれば、できるだけ大人数で叩いたほうがいい。戦いとは質であり、数であり、心であるからだ。味方がいると言う事実は心安らぐし、何より心強い。

 

 禊が『大嘘憑き(オールフィクション)』を失った以上、めだかが突然なかったことにされるような事態は起こり得ない。だから普通に戦っていれば勝つことはあっても、負けることはないはずだ。

 

 しかしそれは禊も同様である。肉体面も精神面も、なんだかんだでかなり強いのが球磨川禊という男だ。めだかに『却本作り(ブックメーカー)』が螺子込まれている以上、どちらもタフであることに変わりはない。

 

 だからこそしばらく殴り合っていれば、どちらも同じタイミングで膝をつく。本人同士は全てが同じで、変わることなどできないのだから。

 

 しかしそれは、()()()()()()()()()()

 

 今までめだかが背負ってきたものは、なかったことになどできない。何より、そんな気にはさせない。

 

「おー、やってるやってる」

 

 禊とめだかが膝をついたタイミングでちょうど聞こえてきた声は、現生徒会側から上がったわけでも、マイナス十三組側から上がったわけでもなかった。

 

 声の出元は、めだかの背後の校舎の屋上から。

 

「あらら……黒神さんたらなんだかボロボロじゃありません?」

 

「どーせいつもの露出癖でしょう。どれだけ脱ぐのが好きなんですか、あの女は」

 

「しかし相変わらず体張ってるなあ、あいつは」

 

「ひゃは──バケモン女は手ェ抜くってことを知らないのかねぇ」

 

「そういえば聞いたか? この戦いは私達を守るための戦いでもあるらしいぞ」

 

「そうなの? それはとっても感動的ですねー(棒読み)」

 

「でも、確かに苦戦は苦戦みたいだな。このままだと引き分け──ていうか、黒神のことだから『今のこいつになら負けてもいい』とか思ってんじゃねーの?」

 

「おいおい、それは困るぞ──一人だけ特別扱いはズルいぜ。よし! ここはどうだ皆の衆、全員で声をそろえて黒神に『あのセリフ』を言ってやるというのは」

 

「『あのセリフ』? ああ! 一度は言ってみたい『あのセリフ』だな。よかろう! 黒神のことは呼び捨て! 一人称は『俺』、二人称は『お前』で統一だぞ。せーの──」

 

 

 

 

 

そんな奴に     

負けてんじゃねえぞ

黒神っ!

 

お前を倒すのは   

この俺だああ   

ああああっ!!」 

 

 

 

 

 

 声が響く。反響して残響して、バラバラなはずのそれらの声援がめだかの耳へと届く。空気を震わせるほどの応援がめだかの血となり肉となる。

 

 これが普通の応援ならば、禊もさして気にすることはなかっただろう。日之影の副会長戦の際は、もっと多くの生徒が応援に駆けつけていたし、マイナス十三組だって禊が呼べば応援に駆けつけるだろう。

 

 しかし、今目の前で起きている事態は()()()()()()

 

 と、その時、困惑する禊達の目の前に二人の『特別(スペシャル)』が現れた。「どうやら連中、間に合ってくれたみたいだね」と言いながら、五体満足で現れた二人の名前は──。

 

 阿久根高貴と。

 喜界島もがなだ。

 

「……高貴ちゃん、久しぶりだね……後ろの彼ら、恐らくは異常選抜十三組の連中なのだろうけれど……集めたのは君なのかな」

 

「お久しぶりです、球磨川さん。いいえ、確かに声は掛けましたが、一度は断られてしまいました。だから、連中は連中で思うところあって、()()()()()()()()()()なんですよ」

 

 なるほどね、と禊は思いつつも、しかし諦めることはしなかった。めだかが立ち上がり拳を構えたのを見て、禊もまた立ち上がり、拳を構える。互いに既に限界だ。繰り出せて残り二発──いや、一発がいいところだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。極論にはなるけど、中学時代の高貴ちゃんだって同じようなものだからね……さあ、さっさと終わらせようぜめだかちゃん──君は最後の一発に何を乗せる?

 

「愚問だな球磨川。実に貴様らしい、愚かな問いだ。しかし私は貴様のそんなところが、今も昔も大嫌いで大好きだったぞ……さあ、やろうか球磨川。私は、貴様にぶつける最後の一撃に──」

 

 

「学園全生徒の想いを乗せる。」

「兄妹愛で軽く螺子伏せてやるよ。」

 

 

 その言葉と同時に、禊もめだかも飛び掛かる。作戦も謀略もない、ただ相手の顔面目掛けて真っ直ぐに拳を伸ばす。ガードは捨て、ただ相手を倒すことだけを考える。そうして一瞬の後、互いの拳が顔面に到達し──。

 

 禊の拳はめだかの頬を掠め、そのまま空を切った。万感の想いは、確かにかの生徒会長に、誰よりもヒーローみたいな女の子に、ほんの少しとはいえ──届いた。兄弟愛、だけではない。その他様々な想いを乗せた拳は、黒神めだかの頬に傷を付けるに至った。

 

 対して。学園生徒の想いを乗せためだかの拳は、もろに禊の顎に入り、ここ三年で一番のクリーンヒット。人の想い──だけではない。きっと愛だけでなく、愛も友情も、全てないまぜにした拳だった。

 

 かくして、殴り飛ばされた勢いそのままに禊は地面を転がった。そして地面に倒れ込んだまま禊は体を大の字に広げ、小さい声で呟いた。

 

「…………めだかちゃん、最後に一つだけ、言っておきたいことがある。僕もいつかあんな風に、君のピンチに駆けつけてきてもいいかな

 

「もちろんだ──這い上がれ、球磨川禊。貴様に助けられるその日を、私は楽しみに待っている!!

 

「……そっか、そうかあ……うん、そうだね、そうさせてもらうよ」

 

 直後、校舎から歓声が飛ぶ。

 

 ついに学園の敵である球磨川禊を退治し、学園に平和が訪れるからである。それだけではなく、めだか相手に健闘した禊に対しての歓声も飛んでいた。

 

 しかしそこに待ったをかけたのは、選挙管理委員会副委員長である長者原だった。

 

「禊さま、お疲れのところ申し訳ないのですが……禊さまが明確に負けたと宣言していない以上、『人間比べ』のルールとしては決着がついたとは見做されません。さて、如何でしょう。禊さまは黒神さまに──」

 

「僕の負けだよ。大敗だ。ああちくしょう、悔しいなあ、幸せだなあ! ちゃんと負けられたのなんて初めてだ!」

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 長者原が放ったその一言は、場の空気を一変させるには十分すぎた。めだかと禊は納得した顔をしているが、周囲にいる人間は何が何だか分かっていない様子だった。

 

 食ってかかったのは、名瀬夭歌。

 そして疑問を呈したのは、人吉瞳である。

 

「ちょっと待てよ長者原くん。ウチの生徒会長は球磨川の旦那をぶちのめして、それではっきり勝敗がついたんだろ? それもたった今!! それなら戦挙戦の決着はついてんだろーが。これ以上何をするって?」

 

「……球磨川くん、なんだかみんなの様子がおかしいみたいだけれど……君の負け……でいいんだよね? ようやくちゃんと負けられたところに水を差すようで悪いんだけど──っ!?」

 

 瞳が見た禊の表情は、それこそ今までに見たどんな表情よりも分かりやすいものだった。

 

 怒りだ。

 

「……ちょっと待てよ、お前ら。()()()()(そそぎ)()()()()()()()()()()()()()()()。答えろ

 

 禊は問う。渾身の怒りを込めて。しかし長者原とめだかと半袖を除き、全員が(そそぎ)のことを聞くまで忘れていたようだった。そしてようやく(そそぎ)を思い出した面々は次々に恨み言を口にする。

 

「あー……杵築だっけ? あいつも大概だよな。気づいたらマイナス十三組にいたし……滅茶苦茶やったんだろ? ()()()最初からそのつもりで生徒会にいたんだよ」

 

「なんか楽しそうだった()()()じゃん? 庶務の人吉だっけ? あいつのことも殺そうとした()()()な」

 

「正直引くな。()()()今までやりたい放題やって生きてきたんだろ」

 

「少し本気で調べたら出てきたよ。どうやら彼女、色々な大会を荒らして回ってた()()()

 

「武人の風上にも置けないねー…… ()()()人を傷つけることを喜ぶよーな奴なんだよ」

 

()()碌でもない人間なんでしょうや。おんなじ学校に通ってた奴は可哀想やんね」

 

「……やめろ」

 

 (そそぎ)のことを思い出した連中のうち、(そそぎ)との関わりが薄かった連中は口々に愚痴を口にする。生徒会メンバーの気持ちなど、マイナス十三組の気持ちなど、知り合いの生徒の気持ちなど考えずに。

 

 実の兄の心のことなど考えずに。

 

「思い出したけど、今も人吉庶務と戦ってるんだっけ? ()()()()()()彼に嫌がらせをすることだけが目的だったとか?」

 

「うーわそれありえる。()()それだよ絶対それだ! じゃないと説明つかないもんね、あの意味不明な行動」

 

「知り合いの奴から()()()()()()()、中学の時から本物の刀振り回してたらしいよ……危険人物すぎないか?」

 

「わたくしが()()()()()()彼女、人を傷つけて大笑いしていた()()……まともではないのは確かなようですね」

 

「……やめろ……!」

 

 次々と罵詈雑言が飛び交う。一つ一つ取り上げると戯言でしかないのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()──そんな、戯言。

 

 そして、決定的な一言が放たれる。

 

 

 

「あーあ、学園やめてくれないかなー。」

 

 

 

 誰が言ったのかは定かではない。だけど確かにそう言った。妙に響いて聞こえたその言葉は、もれなく全員に行き届いた。もちろん、めだかや半袖、そして禊にも。

 

「……長者原くん」

 

「なんでしょうか、禊さま」

 

「僕はさっき負けを宣言したから、会長戦には関係ないんだよね?」

 

「……そういうことに、なりますね」

 

「ありがとう。なら、これで遠慮なくやれる。さて、それじゃあ十三組のエリート諸君には一つだけ、質問がある──誰から入れ知恵された? 答えろよ

 

 禊は戦挙戦の最中でも一度も見せなかった、全身全霊の過負荷(マイナス)を十三組のエリート連中──の中でも、(そそぎ)を誹謗中傷した者だけにぶつけた。すると(そそぎ)と関わりが深い連中以外、ほとんど地に倒れ伏してしまった。

 

「……今立ってるみんなは、(そそぎ)ちゃんのことをちゃんと思い出したかな。まさかとは思うが、(そそぎ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな事を誰かに言われていたりはしないだろうね?

 

 (そそぎ)ちゃんが眠っている間は、誰からも認識されなくなるだとか──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 禊の言葉に、立っている人間は全員口を閉じた。()()()()()()()()()()()()()()。聞いたことがないことを信じることなんて、まさかできるはずもない。

 

 静寂を一番最初に切り裂いたのは、やはりめだかだった。

 

「球磨川、一体どういうことだ。確かに何も知らない者からすれば、(そそぎ)は生徒会を裏切ったように見えるだろう……しかしそれでは、(そそぎ)のことを皆が忘れていたことの説明がつかない」

 

()()()()()()。誰かに入れ知恵された十三組の連中が、こぞって『いなくなってくれないかな』と考えたからだよ。(そそぎ)ちゃんは昔からそうだった──」

 

 禊は一度目を伏せ、しばらくしてから再びめだかに向き合った。そして、(そそぎ)の本当の本質を口にする。

 

(そそぎ)ちゃんは、人の思いに応えようとする。それが(そそぎ)ちゃんの意思でも、そうでなくても」

 

「……なるほどな、それが(そそぎ)異常性(アブノーマル)……いや、話を聞く限りだと過負荷(マイナス)か。しかも、恐らくは後天的なものなのだろう?」

 

「そういうことさ。ほとんど無意識的なもののようだけれど──さっきは大勢が『いなくなってくれないかな』と思っていたから、みんなの記憶から消えかけていたみたいだね……ほら、副会長戦の時もそうだっただろう?」

 

 思い返せばあの時、大勢の生徒に囲まれた瞬間、(そそぎ)は皆の記憶から消え掛かっていた。何者かに唆された生徒達が(そそぎ)の排除を望んだからである。

 

「……待て、もしや、突然(そそぎ)がマイナス十三組側に寝返ったのは……()()()()()()()?」

 

「十中八九。だって僕は別に強制していないからね。きっと(そそぎ)ちゃんが生徒会に所属しているよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「憶測に過ぎないけどね」と言ってから、禊はさらに言葉を続ける。

 

「それはそれとして、このままだと善吉ちゃんが危ない。(そそぎ)ちゃんも自分が忘れられかけた事は分かっているはずだ──最悪の場合、死ぬより酷い目に逢ってるぜ

 

「──ッ!! 行くぞ貴様達!! (そそぎ)を止めに行く!!

 

 一度落ち着いたはずの事態は、再び緊迫の様相を取り戻す。決着はまだ、どちらに転ぶか分からない。

 

 ──もっとも。

 

 

 どちらに転んだところで、結局は何も変わらねーんだけどさ。

 

 

 






 一体、どこの誰が『マイナス十三組の方がいい』なんて望んだんでしょうかね。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

雪ちゃんの過去編、いる?

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。