TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

29 / 95


 この前ネットで調べて知ったのですが、「枯れた樹海(ラストカーペット)」の一件って有名なんですね…‥。




第29箱「俺の大好きな」

 

 

 時はほんの少し遡り、めだかと禊が互いに殴り合い始めた頃。相も変わらず善吉は(そそぎ)に斬り刻まれ続けていた。

 

「諦める?」

 

「……まだだ」

 

 手を伸ばせば手を。足を伸ばせば足を。一息つこうとしたなら喉を。目を瞑ったなら目を。頭を使ったら頭を。心が折れそうなら心臓を。斬って斬って斬り刻む。

 

「諦める?」

 

「…………まだだ」

 

 頭から爪先に至るまで、ありとあらゆる部位を斬って斬って斬り落とす。血飛沫が飛ぶ。教室は赤く染まるが、「却説遣い(ブックマーカー)」の効果によって善吉と(そそぎ)は未だ無傷だ。

 

 死んでは生き返り、生き返っては逝き還る。冒涜的で暴力的な最高速の輪廻から善吉は抜け出せなかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 生き返った直後で周りの状況を把握出来ていない善吉の首を目掛けて(そそぎ)の刃が振り下ろされる。当然今回も今までのように、善吉の首は斬られた。

 

(……やっぱりそうだ、あまりにも一瞬すぎて気づかなかったが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 再び生き返った善吉の首に刃が振り下ろされる。が、今回は以前までのように首を落とされることはなく、首の薄皮一枚を斬っただけで終わった。

 

「途中からなんとなく気付いちゃあいたが……(そそぎ)お前、実は却説遣い(ブックマーカー)』は使ってねえな?

 

「……バレたか。まあいいや、丁度いい。ぼくだってこんな借り物のスキルを使うのにも飽きてたしね」

 

 そんな風にあっけらかんと(そそぎ)は言ってのけると、どこかの誰かから借りてきたスキルの説明を始めた。

 

「そうだね、使ってないよ。今までのは幻覚を見せるスキル錯視策に溺れる(イリュージョニスト)によるものさ。お兄ちゃんがめだかくんを倒した幻覚を見せたのもこっちだし、真正面から斬っていたように見せたのもこのスキルだよ」

 

未来を見通す者(イリュージョニスト)だなんて、とんだ皮肉だけれど」と(そそぎ)は呟き、そして再び善吉へと切先を向けた。善吉はそれを見て拳を構え、迎撃態勢を取る。

 

 そうして互いに戦闘態勢をとっていたのだが、突然(そそぎ)は善吉から目を逸らして刀を下ろすと、心底どうでも良さそうに、澱んだ言葉を吐き出した。

 

「──もう勝負とかどうでもよくない? どうせめだかくんが勝って終わるんだしさ、ぼくたちはもうやめにしようよ」

 

 暗い言葉だった。雪のように真っ白な髪の毛や、一見凛としている表情立ち振る舞いからは想像もできないほどに、軽薄で重い、薄暗く湿った言葉。

 

 なるほど確かに(そそぎ)の言う通りである。正攻法ならばまだしも、スキルを駆使して刀を振るう(そそぎ)を倒すことは容易ではない。それこそ、めだかクラスでもなければ。

 

 対する善吉は、すでに斬られた回数を数えるのをやめていた。それ程までに、二人の間には実力差がある。努力の差がある。才能の差がある。

 

 善吉が血反吐を吐くほどの努力を重ねる凡人だとすれば、(そそぎ)は死ぬほどの努力を積み重ねる天才だ。戦闘に対するセンスや勘、そして何より実践経験の差が大きすぎる。赤子の手を捻る大人、軽く捻られる赤子。二人の関係は大体そんな感じだ。

 

 だから善吉は、その言葉を聞いてこう返すのだ。

 

 

──いいや、まだだ。」

 

 

「……どうして? 半袖くんは確かに言ったよ、『全力出してみろ』って。でもさ、善吉くん。ぼくは君の心を折りたいとか壊したいとか、そういうことがしたいわけじゃないんだよ」

 

 訝しげな表情を向けながら、(そそぎ)は首をすくめた。とことんやる気を削ぎ落とすようなセリフしか吐かないが、それでも善吉は闘志を納めることはなかった。

 

「どうしてって、そりゃあ……俺はお前の親友だからな。だからお前を救ってやりたい。めだかちゃんのようにはいかないかもしれないけど、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「善吉くん、さっきから勘違いしているようだけどさ……ぼくは一度でも君に『助けて欲しい』なんて言ったかな。自分勝手に人を助けて、自分が勝手に悦に浸りたいだけでしょ」

 

「否定はしねえよ。極論この世界ってのは自己満足で成り立ってんだからな。めだかちゃんだって『人を愛している』って理由で生徒会やってる側面もあるし……俺だって大体同じだよ」

 

 善吉は構えた拳を下に下ろすと、(そそぎ)に向かって一歩進んだ。(そそぎ)はそれを見ても何も反応しない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どうにかして力になってやりたい、その苦しみの半分でもいいから背負ってやりたいって気持ちになる」

 

「余計なお世話っつうんだよ、そういうのは。ぼくは救われたいなんて思ってないし、そもそも悲しんでも苦しんでもいない。だから善吉くんがやってるのは無駄なことだ」

 

「救われる準備のできていない奴は、逆説誰にも救えない──そういうことが、つまりお前は言いたいわけだな?」

 

「……お好きなように捉えなよ。どうせ、そのうちそんな甘いことを言ってる余裕もなくなる──」

 

 直後、善吉の目の前から(そそぎ)の姿が消え、背後に立つ。そして再び刀を振り下ろしたが、今度は善吉の首に刀が近づくことはなかった。

 

 (そそぎ)の手から刀が離れたから。

 

「……意外と、やれるもんだな……()()()()

 

「んなっ……!? どうして無刀取りを……いやそれより、なんで()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 無刀取りついでに(そそぎ)とすれ違った善吉はその言葉に振り返ることはなく、依然として前を向きながら(そそぎ)の問いに答える。(そそぎ)からは善吉の表情を窺うことはできない。

 

「いや、さっきからずっと考えてたんだ。お前が言うには幻覚を見せられるスキルである『錯視策に溺れる(イリュージョニスト)』で幻覚を見せられるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってな」

 

「……で、だから? 何が言いたい……いや、言わなくていいよ。どうせぼくにとってはどうでもいいこと──」

 

(そそぎ)。お前今、どんな顔してるんだ?」

 

 (そそぎ)の呼吸が止まる。大丈夫、大丈夫。きっと鎌をかけているだけ。だから落ち着いて答えれば大丈夫。バレないはず、バレていないはず。もしバレていても、彼女から借りた『錯視策に溺れる(イリュージョニスト)』でなんとかなる。

 

「……どんな顔って、普通の顔だよ。いつもみたいにすました顔して善吉くんの首を斬っているだけさ。ぼくにはそれくらいしか能がないから」

 

「……ああそうかよ、そうか。それならこっちにだって考えがあるぜ。それもとびきりのやつがな。これはちょっと揚げ足取るみてえで言いたくなかったんだけどな」

 

 善吉はそこで一度息を吸い込み、そして吐き出し、何度か深呼吸をすると、意を決したかのように言葉を放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ……そうか、そうだね、そういえばそうだった……卑怯だね、善吉くん。君の言葉のおかげで、ぼくは罪悪感に押しつぶされそうだよ」

 

「ごめんな、(そそぎ)。だけど今は悠長なことは言ってられねえ。もう俺の中で答えは纏まってはいるが、それでもお前の意思を無視して俺の意思を押し通すわけにはいかねえ。だから、(そそぎ)

 

 一呼吸、その後、一言。

 

「俺に本当のお前を見せてくれ」

 

「……分かったよ。剣士として、一度吐いた言葉には責任を持たなくちゃならない」

 

 (そそぎ)はそう呟くと今までのような目にも止まらぬ速度ではなく、ゆっくりと首に刀を当て、震えた息を吐きながら、静かに刀を引いた。

 

校正。

全ては元に戻る。

 

 先ほどまでの強気な姿勢は消え去り、(そそぎ)は再び恐怖に支配された。善吉がその場で振り返るとそこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何かに怯える(そそぎ)がいた。

 

「……笑ってよ。散々偉そうなことを言っておきながら、自分のことを傷つけなければ満足に戦えないぼくを笑いなよ。全部自分のせいなのにぐだぐだと自分の心に嘘をついて、善吉くんに八つ当たりしてるぼくを嘲笑ってほしいんだ」

 

「……ありとあらゆる全ての事象を塗り潰し、書き換え、自分の思い通りにしちまう過負荷(マイナス)……それがお前の、(そそぎ)過負荷(マイナス)──『却説遣い(ブックマーカー)』なんだな」

 

「その通りさご名答!! 『却説遣い(ブックマーカー)』を使った時点で話は斬り変わる!! 知ってるかい善吉くん!!慣用句でも言われているように、()()()()()()()()()()()()!! はは、笑えちゃうよ。あー虚しい。もういいよぼくの負けで」

 

 あまりにもテンションの落差が激しすぎる(そそぎ)の口から放たれた言葉に、善吉は耳を疑った。まさかあの(そそぎ)が自分から「負けでいい」と言うとは微塵も考えていなかったからだ。

 

「いいやダメだ、こんな形じゃ終わらせてやらねえ」

 

「善吉くん……もういいよ、もういいんだよ。君のことを何百何千と斬り刻んだぼくが言うのもなんだけれど、ぼくはもう誰とも戦いたくないんだよ。本当はぼくなんかいない方がいいんだから」

 

「……聞き捨てならねえな。誰がいない方がいいって?」

 

「ぼくだよ。球磨川(そそぎ)さ。だってそうだろう? ぼく一人がいなくたって、世界は今日も明日も、きっと一週間経っても一ヶ月経っても一年経っても、一生かかったって変わるはずがないんだ。みんなぼくにそう言ったんだから」

 

「そうかよ、()()()()()()()()……なるほどな。一体どれくらいの人数がそう言ったのかは分からねえがよ、それでも一つだけ、自己肯定感激低なお前に言ってやりてえことがある」

 

 善吉は(そそぎ)へと向かって二歩三歩と肉薄し、凄まじい剣幕で(そそぎ)の肩を掴んだ。当然(そそぎ)は肩を強張らせ、善吉から目を離さずにいる。

 

 勢いよく肩を掴んだ善吉はそのままの勢いで思い切り息を吸い込み、やや怒鳴り気味に、大きい声で心の内に潜む本音をぶちまけた。

 

「いいか(そそぎ)!! この世に存在しちゃあいけねえ奴なんてのはただの一人も存在しねえんだよ!!」

 

「っ……い、いいやいるね!! ぼくがそうだ!! このぼくが生き証人だ!! ぼくがいるせいでお兄ちゃんは強くなっちゃったし、めだかくんは他人に頼る頻度が増えてる!! 阿久根くんと喜界島くんに至っては仕事が減っちゃって忙しくなくなってるし、善吉くんだって身体能力が上がっちゃって……」

 

「……お前、それ本気で言ってんのか? どう考えてもいいことづくめじゃねえかよ

 

 その言葉を聞いた(そそぎ)は一瞬だけ「しまった」と言いたげな表情を浮かべたが、しかしすぐさま取り繕った。今の今まで前世の知識に関連することは一度も漏らさなかったのに、勢いで漏らしてしまいかけたからだ。

 

 借り物の、前世の知識。

 ()()()()()()()()()()()

 

「っ、本気も本気だよ!! だって、だって、ぼくはいちゃいけないんだよ!! みーんなそう言ってたんだ!! 『いなくなれ』『さっさと消えろ』って!!」

 

「いいやここにいなきゃダメだね!! 絶対に許さねえよ勝手に消えるとかそんなの!! 俺だって悲しむしめだかちゃんだって阿久根先輩だって喜界島だって悲しんじまうぜ!! それに何より、お前の兄貴はそれこそ絶望に沈んじまうだろうが!!」

 

「なんで!? なんなのもう、なんでだよ!! ぼくはもう生きていたくないんだよ!! さっきから言ってるでしょずっと!! なんでぼくを否定するんだよ!?」

 

「お前が!! 俺の大好きな、親友の球磨川(そそぎ)を否定するからだろうが!!」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

「──意味が、意味が分からない! どうして」

 

「意味が分からねえんだったら何回だって言ってやるよ! 俺の大好きな親友の球磨川(そそぎ)を全否定する奴がいるから、俺はそれを全否定し返してるんだろうが」

 

「いや、でも──」

 

「そもそもお前は自己肯定感が低すぎるんだよ。それだったらこっちにも考えがある。お前が(そそぎ)の悪いところを一つ挙げたら、俺は(そそぎ)の良いところを十個挙げてやる」

 

 あまりにも滅茶苦茶な物言いに、戦うなんて空気ではなくなってしまった。というより、戦うことを考える余裕がなくなっただけなのだが。

 

「いや、でも、ほら、ね? ……『大好き』だなんて他の人に聞かれたら、誤解を招くかも」

 

「誤解? いや、誤解もなにも、本心だけど。俺はお前に、嘘をつきたくない」

 

「──ッ!?」

 

 (そそぎ)は顔を真っ赤にして俯く。若干意味は違うが……実質片思い中の相手に告白された、ようなものだ。まともに相手の顔を見れなくなるのも、そして思考がまとまらなくなるのも無理はない。

 

「お前がいなくなっちゃうとさ、生きていけない……ってのは大袈裟だけど、だけどさ──俺は寂しいよ。お前には生きていて欲しいんだ

 

「……でも、ぼく、ぼくは……生きて──生きていても、いいのかなあ。中学校の頃からずっといなくなれって言われ続けていたけど、こんなぼくでも、いるだけで話が拗れて、何でもかんでも好き勝手にできちゃう化け物でも──/──こんな僕でも、この世界に生きていていいのかな」

 

「生きてていいんだ。生きていて欲しいんだ。だから(そそぎ)、『いなくていい』なんて思うのはやめ──ぇ、?」

 

 ぐさり、と。

 善吉は背中からお腹にかけて何か熱いものが通り抜ける感覚を感じ、自分のお腹の辺りを凝視した。

 

 何かは分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──刀。恐らくは、(そそぎ)のもの。善吉の背中から腹へと突き抜け、そのまま(そそぎ)の胴体を貫通している。

 

「ッ……(そそぎ)、お前……()()()()()()()……?

 

「当然。視覚的情報がないと変わったことが分かりづらいだろうからね、僕の優しさの表れさ。さて、善吉くん。君は(そそぎ)ちゃんを救いたいんだったよね?」

 

 いつの間にか()()()()()()()()()()()()()()に変わっている(そそぎ)は善吉に一方的に話しかけ、勝手に物語のあらすじを変えてしまった。

 

「物事の一つの面しか見ないで事を決めようとするのは君の悪い癖だぜ、善吉くん。ちょっとした小細工みたいなものだけれど、ぜひ自分の目で体験してみるといい。(そそぎ)ちゃんの気持ちが分かるはずだぜ」

 

「っおい待て、お前は一体どこの誰なん

 

改稿。

人吉善吉は球磨川(そそぎ)を追体験する。

 

 以下、回想。

 

 真実だけで語られているとは、限らないがね。

 

 






 二週間書かないと文章能力って落ちるもんですね……なんとかリハビリしなければ。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。