TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 何度でも言いますが、この小説はその場のノリと屁理屈9割で構成されてます。

 今回は屁理屈の方です。




第31箱「大復活ってわけだ」

 

 

「──俺は雪(そそぎ)に、間違ってるって言うよ」

 

善吉は安心院なじみの表情を見た。

その表情は──。

 

「……へぇ、そうかい」

 

 何(・)も(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。喜色も憤怒も悲哀も楽観も、その表情には浮かんでいなかった。そこにあったのは妙な威圧感と、ほ(・)ん(・)の(・)一(・)瞬(・)の(・)諦(・)念(・)だけ。

 

「あーあそうかい、そうかそうか、善吉くんはそっちを選ぶわけね……ま、別に強制はしないさ。君はやってみたいと思ったことをやって、言ってみたいと思ったことを言えばいい」

 

「……おう。なんつーか、悪いな。折角助言までしてくれたのに、無下にするような形になっちまって」

 

「いや、気にしなくていいさ。大方君のことだから『自分の力だけでやらないと意味がない』とか思っているんだろう?構わないよ。僕は君の決断を尊重する」

 

 安心院なじみはその居住まいを一度正すと、それからにへらと笑い、教(・)室(・)の(・)前(・)の(・)方(・)の(・)扉(・)を(・)凝(・)視(・)し(・)始(・)め(・)た(・)。

 

「いやーそれにしても……僕としてはまさか成功回避のスキル『席を蹴るが価値(アンチサクセス)』と同時に、判断を失敗するスキル『二者択逸(ディフレクトディストラクト)』を使っていたのにそっちを選ばれるとは思っていなかったよ」

 

「ん……? スキルがなんだって?」

 

「いいや、特に何も? それよりも、ほら。お客さんが来たみたいだぜ」

 

 なぜかニコニコと笑っている安心院なじみに促されるまま、善吉は彼女の視線の先──教室の扉の方を見た。

 

 

扉(・)は(・)何(・)か(・)で(・)断(・)ち(・)斬(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 

 後ろから、気配がする。誰が入って来たか分からないのに、善吉にはそれが誰なのか、何となく分かってしまう。き(・)っ(・)と(・)彼(・)女(・)だ(・)、と。

 

 中学3年の頃に転校して来て、めだかちゃんに斬りかかったあいつ。咎めようと思っていたら、次の瞬間には泣き出していたあいつ。知らず知らずのうちに、親友と断言できるまでの関係性になっていたあいつ。超人然としているようで、異常(アブノーマル)の片鱗を見せる一方で、その実過負荷(マイナス)で、誰よりも普通の人間なあいつ。

 

 善吉は席を立って、一度深呼吸してから振り返る。今度こそあいつに、本音を言い合える相手を作るために、善吉は覚悟を決めた。

 

「そそ……あれ?」

 

 しかし、勢い勇んで振り返ったはいいものの、そこにいたのは安心院なじみだけだ。それも、首に刀が添えられている状態で。

 

 いや、それはおかしいだろう。雪(そそぎ)が来ているのであれば、ちょうど球磨川禊と同じくらいの身長のやつがいるはずで──。

 

「……善吉くん、下だよ下」

 

 どこからともなく声がしたので、善吉は訝しみながらもその声に従って下を見た。

 

 そこにいたのは、何だか久しぶりに見る気がする、身長がおおよそ1(・)4(・)0(・)数(・)c(・)m(・)で(・)あ(・)る(・)、刀(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)雪(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

「まったくもう善吉くんったら、上昇志向なのは君の美点でとっても素敵なところだけどさ、たまには足元見ないと、人を救う前に、きみ自身が掬われちまうぜ?」

 

「…………お前、まさか」

 

 雪(そそぎ)かと思ったが、ど(・)う(・)に(・)も(・)そ(・)う(・)は(・)思(・)え(・)な(・)い(・)。よく見るとその表情は自信に満ち溢れているし、何より発(・)声(・)の(・)仕(・)方(・)が(・)や(・)や(・)違(・)う(・)。普段の雪(そそぎ)が他人に同調する話し方であるのに対し、目の前にいる彼女は自(・)信(・)に(・)満(・)ち(・)溢(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「そ(・)の(・)ま(・)さ(・)か(・)だ(・)よ(・)。や、久しぶり善吉くん、会いたかったぜ。君(・)に(・)会(・)う(・)の(・)は(・)時(・)計(・)台(・)ぶ(・)り(・)か(・)な(・)?(・)」

 

 本来ならば影も形もない、それなのにやたらと自己主張の激しい、彼女の正体は──。

 

 

「杵築(きつき)雪(ゆき)、18話越しの大復活ってわけだ。」

 

 

 そう言い放つと、雪(ゆき)はパチリとウィンクしてみせた。

 

 


 

 

「いやいやいやいや納得いかねえぞオイ!? お前は……え? 雪(そそぎ)になった……じゃない、本当は雪(そそぎ)だったはずだろ!?杵築雪(ゆき)は偽名って言ってたよな!?」

 

「んふふ、いい驚きっぷりだね善吉くん。いやなに、雪(そそぎ)ちゃんからしたら、まあ雪(ゆき)ってのは偽名になるだろうね」

 

 雪(ゆき)は悪戯っぽく、んふふと笑うと、善吉の質問に丁寧に答え始めた。しかし言っていることはひどく曖昧な上に、やや難解である。

 

 なんてね。わざと難しく話してみただけだよ。善吉くんは分かってないだろうし、もう少し柔らかく行こうか。

 

「分かってないって顔だね。おっけー、もうちょい砕いて説明しよっか。雪(そそぎ)ちゃんが那智梛(なちなぎ)達に虐められてたのは知ってるでしょ?」

 

「おう……それは、えっと……そこの名前も知らない奴に見せられたから知ってるけどよ」

 

 あれ? 自己紹介もしてねえのかこの人外(おんな)。人のこと乗っ取っておいて随分と悠長なこった。

 

「こいつの名前は安心院なじみ。気軽に安心院さんって呼んでやってくれ」

 

「安心院さんと呼んでくれたまえ」

 

「お、おう……ていうか雪(ゆき)、いつまでその安心院さんに刀を突きつけてるつもりなんだ? 話を聞く限りだと雪(そそぎ)を助けたいと思ってたらしいし、手荒くする必要は……」

 

 そ(・)れ(・)が(・)あ(・)る(・)ん(・)だ(・)よ(・)、善吉くん。こいつはとんでもない奴なんだ。本当のことも確かに言ってる。だけどそれ以上に、つ(・)い(・)て(・)い(・)る(・)嘘(・)の(・)タ(・)チ(・)が(・)悪(・)す(・)ぎ(・)る(・)んだ。

 

「……まあ、それは後に話すとして、だ。とにかく雪(そそぎ)ちゃんは那智梛(なちなぎ)達に虐められたことによって、ひどく心を痛めたわけだ。事態の収拾にお兄ちゃん……球磨川禊の手を煩わせたこともあってね」

 

「ああ、なるほど……やけに自己評価が低かったのは、『球磨川の野郎に迷惑をかけちまった』っていう罪悪感から来るものでもあったわけか」

 

 おー、しばらく会わないうちに大分頭の回転が速くなってる。やっぱ原作キャラは違うね、かっこいいぞこの野郎。

 

「ま、それもある……で、ちょうどその時に、雪(そそぎ)ちゃんは過負荷(マイナス)に目覚めたわけだ。『却説遣い(ブックマーカー)』という、現実を彼女にとって都合よく書き換える過負荷(マイナス)に」

 

 その時についうっかりお兄ちゃんを自分から遠ざけちゃったみたいだけど……まあこれは言わなくてもいいか。善吉くんには関係ないことだしな。

 

「ま、それは置いておいて……どうして私がまた杵築雪(ゆき)を名乗ってるのか教えるとするよ」

 

「そう! それなんだよ! 一人称も『ぼく』から『私』に戻ってるし!」

 

「ま、そんなに大した理由やトリックや、それこそレトリックがあるわけでもないんだけどね。本当に単純なことなんだよ。いかにも虐められた中学1年生が考えそうなことだ」

 

 手酷く虐められた子供が考えることなんて、大抵は性格から推測すれば手に取るように分かる。強気な子ならやり返そうとするだろうし、弱気な子なら塞ぎ込んだりもするだろう。

 

 雪(そそぎ)ちゃんの場合は後者だった。いくら剣道が強くても、年頃の女子にありがちな暴(・)力(・)を(・)伴(・)わ(・)な(・)い(・)陰(・)湿(・)な(・)虐(・)め(・)に(・)は(・)弱(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

「雪(そそぎ)ちゃんはね、辛(つら)さから逃れようとしたんだよ。そして同時に、罪悪感を感じなくてもいい、都合のいい友達が欲しかったんだ」

 

「……そりゃあ、中1の頃にそうなったんなら誰だって考えることじゃねえのかよ。普通に考えたら、誰だって虐めの辛(つら)さからは逃れたいはずだろ」

 

「うん、そうだね。その点に関しては特に問題はなかった。善吉くんの言う通りにね。この場合問題だったのは……そ(・)う(・)思(・)い(・)至(・)っ(・)た(・)頃(・)の(・)雪(そそぎ)ち(・)ゃ(・)ん(・)は(・)そ(・)れ(・)を(・)実(・)現(・)で(・)き(・)る(・)力(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)こ(・)と(・)だ(・)」

 

「──おい、まさか雪(ゆき)、お前は……」

 

「私は、私という存在は、杵築雪(ゆき)は、球磨川雪(そそぎ)が自分自身に『却説遣い(ブックマーカー)』を使ったことによって生まれた、もう一つの人格なのさ」

 

 ふう、ネタバラシ完了。いやースッキリした! まあ「実はその時に元男の転生者の魂が乗り移っちゃった!」なんて言えるはずもないから、所々ぼかしてはいるけれど……。

 

「……えっと、善吉くん? どうしてそんなに悲惨な顔をしてるのさ。驚くところだぜ、ここは。『だから時々言うこととかやることが全然別の方向に行ってたのかー』って」

 

「……いや、なんでもねえよ。その話を聞いた瞬間に、雪(そそぎ)を救う役割を雪(ゆき)に任せようとした自分に呆れてただけだ」

 

「君は相変わらず責任感強いねぇ……私が見るに、そんな理由じゃなさそうだけど……まあいいよ。暴かれたくない胸の内にずけずけと入り込んで乱暴に暴くような真似はしたくないからね」

 

 おい、聞いてるかよ安心院なじみ。お前に向けて言ってんだぜこれは。勝手に人の体を奪った上に過去を他人に伝えた挙句、わざわざ映像化までして見せちゃってるんだから。

 

「じー」

 

「おや、どうしたんだい雪(ゆき)ちゃん。僕は君の存在を悟らせないためにわざわざ雪(そそぎ)なのか雪(ゆき)なのか分からないように発音をしてやってたのに、お礼の一つもなしに睨みつけるっていうのかい?」

 

「ごめんなさいねどうもありがとう。どうせ安心院さんのことだから、私の存在を善吉くんが悟ると面倒だから誤魔化してただけだろうけど」

 

「………」

 

 うわ笑み深めやがった。悪役ムーブ似合いすぎだろこの女……それならこっちも味方ムーブかますしかないな。

 

「善吉くん。なんだか傷付いてるところ悪いんだけど、実はあんまり時間ないんだよね。このままだと雪(そそぎ)ちゃんはまた勝手に絶望して勝手に妙なことをやらかすかもしれない。だから……」

 

「分かってるよ。これからどうすればいいのかも、今からお前がどうするつもりなのかも」

 

 ……まじか。私の知ってる善吉くんなら立ち直るまでにもう少しかかってたんだろうけど……男子三日会わざれば刮目して見よとはよく言ったもんだぜ。

 

「雪(ゆき)。ここを……お(・)前(・)に(・)任(・)せ(・)て(・)も(・)い(・)い(・)か(・)?」

 

「とーぜん!! そのためにわざわざこんな所まで来たんだ、存分に頼ってくれよ!!」

 

 善吉くんは一度深呼吸をしてから、一度息を吐き出すと、もう一度大きく息を吸い込んだ。そして私の背中を思い切り叩いた後に、大声で叫んだのだ。

 

「ここは頼んだぜ、雪(ゆき)!!」

 

 善吉くんの足音が徐々に離れてゆく。その音は教室の扉を出たあたりで、突然パタリと聞こえなくなった。

 

後に残ったのは、刀を向けられている安心院なじみと、安心院なじみに刀を向けている私と、背中から伝わるヒリヒリとした痛み。そして感じる善吉くんの想い。

 

 ……善吉くんってば、剣道の試合前のお約束、覚えてくれてたんだ。なんだよ、照れくさいな、あー恥ずかしい。

 

 顔が紅潮しているのは恥ずかしいからだろうか。それとも緊張から? もしくは興奮から? 理由なんて挙げればキリがないけれど、今は顔とかどうでもいい。

 

「……善吉くんに言わなくてよかったのかい? 僕(・)が(・)雪(そそぎ)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)過(・)去(・)を(・)捏(・)造(・)し(・)て(・)い(・)た(・)こ(・)と(・)を(・)」

 

「そこはなんだっていいんだよ。この場合は雪(そそぎ)ちゃんが虐められていたことが分かってるかどうかが重要なんだ。暴力の有無は関係ない」

 

 久しぶりだな。安心院さんとこうして対峙するのは。今の私がど(・)こ(・)ま(・)で(・)や(・)れ(・)る(・)の(・)か(・)……ただ、戦う理由はそれだけってわけでもない。

 

「ふーん、相変わらず君の考えていることはよく分からないな、雪(ゆき)ちゃん。僕たちが争う理由がどこにあるんだい? 刀を下ろしてくれないかな。僕と君が争うことほど無意味なこともないと思うんだが」

 

「争う理由ならあるさ。改竄した記憶の中でとはいえ、私(・)と(・)お(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)大(・)事(・)な(・)雪(そそぎ)ち(・)ゃ(・)ん(・)を(・)無(・)意(・)味(・)に(・)傷(・)つ(・)け(・)た(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)。斬刑くらいは大人しく受け入れろよ」

 

 結局のところはそれに尽きる。雪(そそぎ)ちゃんと別人であることを周知するため、善吉くんを説得するため、自分の実力を測るため……なんだかんだと色々な理屈をこねくり回してここに来たけれど、正直に言ってしまうと、まあ要するに「ムカついたから一回斬らせろ」ってことだ。

 

「……君がそうしたいならそうすればいいさ。いいよ、斬ればいいさ。ただし、斬(・)れ(・)る(・)も(・)の(・)な(・)ら(・)ね(・)」

 

「上等だ、安心院なじみ。雪(そそぎ)ちゃんに泣きながら謝るまで、徹底的に惨殺して、斬殺してやるよ」

 

 ──いざ、尋常に。

 

 

「死会(しあ)おうぜ!」

「戯(じゃ)れようか°」

 

 

開戦。

 

 

 






 このネタをやるためだけに最初からずーっと雪(ゆき)だの雪(そそぎ)だの、丁寧にルビを振ってたんですね〜〜〜〜!!!!

 実はこれマジで、最初から二人いる伏線は張ってました。
 現在進行形で剣道やってるのに「昔取った杵柄」って言ってたりとか。
 暇があったら探しに行ってみてね。

 それと明日は12時に投稿する予定だったんですが、ずらすのもアレなので20時に投稿します。お楽しみに。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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