なんか会話文がやけに多くなっちゃった。
でもまあしょうがないので許してください。
「うへえ、鍋島くんってそんなことまでしてくるの? ルール無用では絶対戦いたくないなあ……よくあの人の下で頑張れたね」
「そうなんだよね。中学校時代、破壊臣と呼ばれていた俺だけど──流石に反則王と戦うのは一苦労だったよ。それはそれとして、負けるのが悔しかったから頑張ったけどね」
やっほー、球磨川
時計台内部っつーと、やっぱり思い出すのはフラスコ計画を阻止した時だよね。高千穂くん、今どこで何してるんだろ? 久しぶりにお話ししたいんだけどな。
で、阿久根くんと一緒に、落ち着き払って徒歩で移動してるわけだけど──お話が面白いのなんの!
話題の提供・発展をやってくれる上に、こちらが聞き取りやすいように、なおかつうるさすぎない声量で話してくれる。しかもオチまで付けてくれたりするし、話し相手として最適だ。
「そういえばだけど、私と阿久根くんってそんなに話したことないよね? 試練の扉を二人で殴打しまくったのが記憶に新しいけれど」
「ああ、あの時ね……そういえば
「もー、そんなわけないでしょ! 普段は剣道場で日向くんを始めとした剣道部員連中に稽古付けてあげてるだけだって!」
「へえ、生徒会業務で忙しいだろうに、元気一杯だね。ちなみに生徒会に所属している場合、部活には入れないはずだが──」
「そこも問題ナシ、だよ! あくまで外部顧問って形で、ちょくちょく稽古をつけてあげてるだけだからね」
その甲斐あってか、最近はみんな凄く強くなってきてるんだ。箱庭学園剣道部が全国大会で優勝する日も近いかもしれない。
もちろん調子に乗らないよう適度にボコボコにしてるけどね。文句は私から一本取ってから言いなさい。
「そういう阿久根くんはどうなの? 最近また鍛え始めたらしいけど、成果は出始めたのかな」
「ぼちぼちって感じだね。『
「えっ? 私たちを見てって……そんなに何かやった覚えもないけど」
「いいや、そうでもないさ。君達二人は生徒会の中でも最も活発に活動しているだろう? ほら、生徒達の悩みを解決するために」
ああ、なるほど、そういうこと。つまりあれだ。私たちが努力する姿を見て、俺も努力を重ねるぞ! ってなったと。
「そういうわけだね?」
「まあそうだね。厳密に言うのであれば、自分にできる限りのことをやり尽くそう、と……そう思ったんだ。さ、そろそろ時計台に着くよ、
「あっ、本当だ。いつの間に──いや、きっと阿久根くんのお話が面白かったから気づかなかったんだね。人を笑顔にする仕事が向いてるんじゃないかな?」
「人を、笑顔に──そうか、そうだね……それがいいかもな」
「でしょう? 阿久根くんならやれるさ」
……さて、それじゃあ時計台に入るとするかな。ここからは、出来るだけ慎重にやらないとね。
それから、私たちは暗号文の示す通りに、時計台の内部に入った──まではよかったものの。
「うーん、やっぱりお兄ちゃんたちはいないか。私が茫然自失に陥っていなければなあ、間に合ったかもしれないんだけど」
「いや、そう気に病むことはないさ──それよりも、だ。今は目の前の第二関門、『移動図書館』とも呼ばれている箱庭学園きっての才媛、
「あら、意外と驚かないのね。ぅ私クラス──つまりは委員長クラスがいちレクリエーションに出てくると知った時、さっきまでここにいた子達は目を剥いていたのだけれど」
十二町矢文。箱庭学園の図書委員長であり、
いや、それにしても──「ぅ私」ねえ。すんごい一人称。今まで生きてきてそんな一人称の人と出会ったことないよ。いやまあ、探せばギリいるかもだけど……。
「『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい』(夏目漱石『草枕』)──考えすぎでも考え無しでも、意地っ張りでも意気地無しでも、この第二関門は簡単に突破できるものじゃないわよ」
「……それで、十二町さん。あなたは俺達に、一体どんな勝負を仕掛けるっていうのかな?」
「第二関門は読書対決──逆スフィンクスゲームとでも言おうかしら。あなた達二人が適当な本を選んで、そこからぅ私に
当然ながらこの勝負、十二町くんが圧倒的に有利だ。なんせこの人はここにある本の全てを知っているのだから──全てを覚えているのだから。
腕に覚えがあるのだ。
差し当たっては……阿久根くんにヒントでも出しておくとしようか。多分彼なら一発で気付くはず。
「はいはーい! 質問してもいいですか?」
「『ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか』(宮沢賢治『銀河鉄道の夜』)──恐れを知らずに質問するのはいいことだわね。ただし、相手に恥をかかせちゃいけないわよ?」
「当然そりゃそうさ。お兄ちゃんじゃないんだから、そう簡単に神経を逆撫でするようなことは言わないって。それで、えっと……これって出題するのは、
「
「うん、私からは以上だよ──それで、阿久根くん。どうしたんだい? さっきからやたらと考え込んでいるようだけれど」
ほとんど心配はしていないが、念のための質問によるヒント掲示──もとい、
「──いや、なんでもないさ。ただどの本から問題を出そうかと考えていたところでね。ところで
「
ほんとは先攻の方が好きだけど、私としては阿久根くんに先に行ってもらいたい。常に人の先を行くような人だからね。
「そうかい、それじゃあ俺は先に行かせてもらうよ。ま、そもそもここを突破できるかは分からないんだけどね」
「話はまとまったかしら? それじゃあ早速クイズを出して頂戴──ああ、それと! 言い忘れていたのだけれど、出題は何度でもしていいわよ。ただし、一度出題するごとに何か一つ、持ち物を賭けてもらうけど!」
「へえ、それは中々スリリングだね。まあこの際なんだ、俺も楽しんでやってみることにしよう」
そう言った阿久根くんは一つの小説を手に取り──それを開くと、制服の上着を脱ぎながら、十二町くんへと最後の確認を
「俺が選んだ本は『羅生門』。芥川龍之介による名作だ。そして俺は、制服の上着を賭けに出す。さて、それでは出題しよう。準備はいいかな、十二町さん」
「うん、構わないよ。胸が高鳴るね、心が躍るね。一体ぅ私に向かって、どんなクイズを出してくれるのかな」
「そうかい、それじゃあ遠慮なく。『羅生門で老婆の着物を盗んだ下人の男は、その後どこへ向かったと考えられるか?』──今回の場合は『帝国文学』に発表された当初のものでなく、大衆に向け分かりやすく『鼻』に収録された方を対象としよう。さあ、思うままに答えてほしい」
うへえ、頭の良さそうな質問……といっても、この程度ならよくある質問だよね。それにおそらく、
私だったら、読んだまんま京都と答えてしまうだろうなあ……というか誰でも答えに詰まりそうなクイズだったが、それでも十二町くんは澱みなく、迷いなく答えを口にした。
「『
「……なにか根拠はあってのことかな?」
「『私は不幸にも知っている。時には嘘によるほかは語られぬ真実もあることを』(芥川龍之介『侏儒の言葉』)──と、芥川は晩年そう語っていたけれど、この回答に関しては嘘でも出鱈目でも、ましてや誤魔化しているわけでもないわよ」
どこか色気のある笑みを浮かべてそう答えた十二町くんは、阿久根くんに向けて再び話しかける。その様子にもまた、澱みはないように見えた。
「芥川が『今昔物語集』を取材し、そこから着想を得た作品を数多く世に出していることは周知の事実だけれど、それはこの『羅生門』にも言えることなの」
「
「ええ、まあそうなるわねえ。『今昔物語集』本朝世俗部巻二十九『羅城門登上層見死人盗人語第十八』の最初の一文に『摂津の国辺より、盗せむが為に京に上ける男の』と書かれているのだから、この男は盗みを働くために上京していると読むべきよね」
ほへー、そうなんだ……阿久根くんも苦しげに頷いているようだし、一般的ではないにしても、読書家なら知っていて然るべき知識なのかな? 私は知らないけど。
「
完璧な理論武装……いやこれは厳しいな。私がこのやり方をしても言いくるめられて終わりな気がする。それでドツボにハマって最後には……身ぐるみ剥がされてそうだな。羅生門の老婆よろしく。
だがしかし、あの阿久根くんがこの程度で折れるかどうかと聞かれれば、まあ100人中100人が「NO」と言うだろうな。だってほら、現に彼は
「……ええ、そうですね。出典の『今昔物語集』の方まで押さえているとは、流石に図書委員長の名は伊達じゃない──が、不正解だ」
「──へえ? まあそれならそれでいいけど、それならぅ私に不正解を認めさせてみなさいな。ま、生半可な理屈ではぅ私の理論をひっくり返せないと思うけどね」
「いいや、俺はひっくり返しませんよ。だって貴女は、既にひっくり返っているんですから!」
阿久根くんは十二町くんにビシッと指を差しながら、勢いよく、威勢よくそう宣言した。原作で阿久根くんがどう動いたのかは知らないけれど、多分こんな感じだったんだろうな。
「いいですか、十二町さん。俺は『羅生門』から出題したんです。『
「……なるほど。そうね、そうだったわね──ぅ私としたことが、初歩的なミスを犯してしまったわ。変に捻れた考えをしてしまったのがよくなかったわ。全く、尾を引く
うーわ、お兄ちゃんの影響が少なからず出てたのか! そしてそれを読んでいた阿久根くんは、わざと
「さて、これで俺は通行権をゲットした、ってことでいいのかな? 十二町さん」
「ええ、構わないわよぉ。でも最後に一つ、阿久根くんの考える下人の行き先を教えて欲しいのだけれど」
「『地獄』だよ。蛇を魚と偽って売っていた女。その女の死体から髪を抜いて
阿久根くんは真剣な表情でそう語る。私としてはここで話が終わりかと思っていたのだが、どうやら本題はここからのようだった。
「地獄に落ちると言ったけれど、恐らく盗みを働いた時点で、下人は既に地獄にいたよ。一度悪事を働いたんだ、どれだけ取り繕おうと──悪であることは、一生心に傷として残る。生きている限り続く地獄、まあつまりは生き地獄というわけだ」
そこまで語った阿久根くんは突如として表情を緩め、続きを語る。
「でもまあ、どうしようもない悪人でも変われるって、つい最近知っちゃったからね……だからこの問題は悪問だったかもしれない。真正面から勝負しているようで、その実搦手ばかり……俺もまだまだだな」
「いいえ、そんなことはないと思うけど? だってそれは言い換えれば、
「──それもそうか。いい加減変わらなくちゃいけないね……じゃあ
おっと、いきなり私の心配にシフトしたな。先ほどまでとは表情もまた違い、時計台に着く前までのような笑みを浮かべている。人当たりのいい感じだ。
「まあ任せときなって。一応秘策みたいなものがあるんだよね、私には。あっ、もちろんスキルじゃないよ? 使ったらつまんなくなっちゃうから」
「そうかい? それじゃあ遠慮なく行かせてもらうよ」
阿久根くんはそう言うと、私に背を向けて歩き出し、先へと進んでいった──多分だけど阿久根くん、私が突破するまで見えないところで待ってるつもりだよなあ……さっさと終わらせるに限る。
……よし、多分もう聞こえないはず。
「さて、それじゃあ十二町くん──早速だけど出題させてもらうよ」
「ええ、いいわよ。今回は偏見も深読みも一切なしの本気で行くから、せいぜい頑張って──」
「『 著しく不適な単語が羅列されたタイトル 』で主人公が言った 人によっては不快と感じる単語 の正式名称は?」
「ちょっと
「えっちな本のタイトルとその内容だけど?」
「確かに『本ならなんでもいい』とは言ったけどそういうのはダメでしょう!? それにあなたまだ16歳なのに!!」
ふはは、狼狽えてる狼狽えてる。ミステリアス系美人さんが慌てふためいているところからしか取れない栄養素があるからねえ、関門突破ついでに欲も満たせる!
「一石二鳥──ってとこかな」
「何をいきなり妙なことを言ってるのよ!!」
「いいや、別に──それで、答えられないなら通ってもいい? できる限り早く阿久根くんに追いつきたいし……」
「っ……はぁ、もういいわ……行ってらっしゃい
よっしゃ。待ってろ阿久根くん。
この時期のめだかボックスならこういう展開やるかもなって思って……これも許してください。
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