暗号学園ショックで大遅刻。
日付変更線は跨いでないので許してください。
『……その二人に何をしたんだい? 見たところ、かなりの高熱なようだが──やはり、君が持っているスキルが原因なのかな』
「そんなことまでわざわざ説明しないと分からないんですか? 球磨川せんぱい。私の主宰する第四関門『
赤はこれ見よがしに右手の爪を見せびらかし、丁寧に自分のスキルについて解説し始めた。
「
『なるほどね、つまり発病させるのも完治させるのも君の指加減次第ってことだ。将来は町病院でも開いたらどうだい? 荒稼ぎできそうじゃないか』
「そういう発想しかできねえのかお前はよそれより!
「友達の心配よりも先に、自分達の心配をしたらどう? これから先、あなた達も
露骨にめんどくさそうな表情を浮かべた赤は、一度ため息を吐いた後、再び財部に向き直って質問へと答えた。
「まあ、そうね。一応質問には答えてあげるけど、大丈夫に決まってるでしょう? 私は
『こんなでたらめな学校で死人が出ないのは
「まあ今日はいち委員長として来ているだけですから、役目とかは関係ないんですけどね──で、どうします? やりますか、『
赤はそう言うと同時に、先ほどまで腰掛けていた机の上にトランプを並べた。その枚数はどう見ても通常のトランプの枚数より多く、目測トランプ二つ分ほどの数に見える。
「神経衰弱っていう割には、カードの数がえらく多くありません?」
「その通りよ財部ちゃん。
赤は机の上に並べたトランプを広げ、卓上に満遍なく行き渡らせた。そしてルールの続きを説明し始める。
「そして競うのは取ったカードの『枚数』じゃなく揃えたカードの『数字』。手にしたカードが♡の2だったら2点、
『なるほどねえ。つまりこの場にあるトランプ、全部合わせて416ポイントを取り合って争うってわけだね。2を4ペア取ったとして、8を一組取られたら意味がない、と』
「説明しようと思ってたことを先に言うのやめてくれません? 興が削がれるので」
『……………』
やけに禊に対して辛辣だが、それもまあ仕方のないことだ。つい忘れがちだが、彼には
「あとはそうね……これは普通の神経衰弱と違って
赤はそこまで話すと、一度説明を止めた。一応質問があれば聞いておこうか、という意図での休息である。このタイミングを禊は逃さず、すぐさま疑問を赤へとぶつけた。
『赤さん赤さん、今数えてみたらカードが106枚あったんだけど、これってつまりジョーカーが入ってるってことだよね? ジョーカーをめくってしまった場合──』
「今から説明するので黙っててください、言いたいことは分かりましたし。ジョーカーはいわゆるシャッフルカード──一枚めくられたらその場に残っているカードは全部位置を入れ替えます。ま、記憶のやり直しになりますね」
『とことん嫌われてるねえ……で? ジョーカーを』
「揃えてしまった場合でしょう? 一々言わずとも分かってますよ、全く鬱陶しいこと極まりないですね……一度めくられたジョーカーはその場からのけるルールですが、ジョーカーを揃えてしまった場合は
「……つまりどんなにポイントで負けてても、ジョーカーを揃えちゃえば文字通りに逆転できるってこと?」
「ええそうね。逆に勝ってるプレイヤーからすれば、うっかりジョーカーを揃えてしまえば逆転されると言うわけよ♡」
禊の質問に対して食い気味に答えた赤は、再び右手の爪を見せびらかしながら、禊達へと詰め寄っていく。
「さ! ルールの説明は以上! あなた達が勝てばここを通してあげる。負けてしまえばペナルティとして、そこの二人のように苦しむことになるけど♡」
「……分かりましたよ、やらせてもらいます。
『うーん、めんどくさいからもういいかな。神経衰弱の字面は好きだけど、カードゲームはバカラしか嗜まない主義だし──財部ちゃんに丸投げしちゃおうか! 頑張ってね!』
あまりにもあっさりと勝負を投げ出した禊だが、赤も財部もこうなることは予想していた。いつだって彼は適当で曖昧なのだから、むしろここまで真面目にやっていたことが驚きだろう。
「オッケー、面倒な人が参加しないと分かったところで──それじゃあ始めよっか。オープン・ザ・ゲーム!」
赤の宣言でゲームは始まった。結果はまだ分からない──とは、到底言えない。
勝負がどうなるかは、すでに分かりきっていた。
「──あれ、
(なんで……なんで!? ポイントで負けたのはまだ分かる……
圧倒的な勝利。そう言わざるを得ないだろう。赤は多くのトランプを
「ま、こんなもんでしょ。でも気を落とすことはないわよ財部ちゃん──同じ
そんな赤のセリフに、たまらずといった風に噛みつく財部。
それもそうだ。だって財部は、たった今
「……
「さあね、忘れたけど。言ってたらなんだっていうの?」
「ッ──だとしたら! 私はあなたを許さない!!」
財部は吠えた。他でもない友のためを思って。与次郎と喜々津のことを想って。自らの恐怖心を抑え込んでまで。
「……むしろここは、あなたが『許してください』って言うべきじゃない? 『身の程を
「嫌です、謝りません。私は人に頭を下げるのが大嫌いなんです──あなたみたいな人に、友達をいじめた人に、私は謝ったりなんかしない!!」
赤の爪で引っ掻かれれば、発病することは知っていた。そしてそれは熱だけではなく、心臓病や癌も例外ではないことも。それでも財部は、友のために怒ったのだ。
「あっそー。それじゃあ精々、後悔しながら苦しみなさいな──」
ただ、その気持ちが赤に届くとは限らない。同情して手を緩めてくれるとは限らない。まさか怒りで怯むわけもない。しかし啖呵を切った以上、ここで逃げられるわけもない。
故に財部は、その身で爪を受けることになる。
襲い来るであろう病への恐怖から彼女は目を瞑った。
「……?」
──しかし、いつまで経っても体に変わりはない。引っ掻かれた時に来るはずの痛みも、発病するはずである病の苦しみも、財部の体を襲うことはなかった。
恐る恐る、その目を開けると、そこには──。
──自分の代わりに爪で腕を引き裂かれている、球磨川
「なっ、えっ、
「どうしても、こうしても……ないよ。私がどれだけ君に嫌われてようと、
「ッ……でも……」
『まあまあ、せっかく助けて貰ったんだ。ここは下がっておきなよ、財部ちゃん』
『いやそれにしても、随分と遅かったじゃないか
「ああ、まあそんな感じ……って言うかお兄ちゃん、まったく財部くんを助けようとしてなかったよね……なんで?」
『君を信じてたのさ。いつも後輩のために動ける君をね──それに、財部ちゃん。
「それはッ、まあ……いいですけど……というか! これで許さなかったら、私が恩知らずみたいじゃないですか!!」
「はは、まあ……それなら、嬉しいな……盾になった甲斐があった。盾になるより、
「さて、それで……赤さん、久しぶり。ところで後ろの二人の分、
「はあ……久しぶりですね、
「なっ……あなたバカなんですか!? ただでさえ私の分の病気を貰ってるのに……」
「既に負けたあなたが口を挟まないでくださいよ──それでは」
『いや、ちょっと待ってよ赤さん。流石の僕とはいえ、妹相手に負債を全部押し付ける外道ではないぜ?
「はあ!? いやちょっとお兄ちゃん! せっかく私が格好つけようとしてるのに……」
『いや、見たところインフル級の熱だ。それを三つは流石に死ぬぜ? っつーわけで赤さん……ッ!!』
「言われなくとも、そう言うのならそうするだけです──私が次に相手するのはどうせあなたでしょう、禊せんぱい。相手を弱らせるチャンスを逃すわけにもいきません」
赤はなんの躊躇いもなく禊と
「〜〜ッ……はぁ!! キッツ……!!」
『いやあ、それにしても……僕ってやつはつくづくバカだぜ。また一人女の子を好きになっちまって、こうして負わなくてもいい負債を請け負って。貧乏くじを引かねえと気が済まねえのかな』
「ええ、大馬鹿でしょうねえ実際。それで? 本気で私と戦うつもりですか? そこに病気を重ねれば──
『ふふ、意外と優しいんだね赤さん。てゆーかなんで僕が負ける前提なわけ? 案外サクッと勝っちゃって、君は僕に負けた最初の人間として名を残すのさ恥ずかし〜〜!!』
禊は文字通りに追い詰められたわけだが、そこで光ってこその
「……ま、いいでしょう。とはいえ私も鬼ではありませんので! ハンデとして後攻めの権利を──」
と、赤が言いかけたところで、突然卓上のトランプ
『後攻めの権利なんて要らないよ。その代わりこの通り、君の
「なっ……い、イカサマ!? それって一体どういうことですか、禊せんぱい!?」
『どうもこうもないさ、単純な「
「なっ、なるほど……確かに私はあの人の右手にばかり注視して、左手なんて気にも留めていなかったです……ミスディレクションに完璧に引っかかって、その上
財部はそう言いつつ、壁へともたれかかった
『カードを二組使うのも、ポイント制なのも、ジョーカーという2枚のシャッフルカードも、全ては
「……だからカードを、こうしてネジで固定したと?」
『そうなるね。ま、当然めくる時には外して貰って構わないさ。僕はイカサマを反則だとは思ってないが、まあ神経衰弱なんだ、フェアにやろうぜ!』
禊はあくまで余裕の体を崩さない。実際彼にとっては、この程度の逆境など街中で人を見かけるくらいの頻度で起こり得る。
だからこそ、なればこそ。
『ハンデはいらないとはいえ、まあそれだと君の気が咎めるだろう。だから僕が勝った時は、候補生三人を含めて僕達五人の通行権をもらおうかな。当然病気は治した上でね』
「……まあ、それでいいでしょう。それじゃあさっさと始めて、さっさと終わらせ──」
逆境でなければ、
やっぱパイセンは書いてて楽しいです。
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