TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

45 / 95


 暗号学園ショックで大遅刻。
 日付変更線は跨いでないので許してください。




第43箱「きみの制服は」

 

 

『……その二人に何をしたんだい? 見たところ、かなりの高熱なようだが──やはり、君が持っているスキルが原因なのかな』

 

「そんなことまでわざわざ説明しないと分からないんですか? 球磨川せんぱい。私の主宰する第四関門『完全神経衰弱(パーフェクトメランコリイ)』、それを突破できなかった彼女達には、罰ゲームを受けてもらったというわけです」

 

 赤はこれ見よがしに右手の爪を見せびらかし、丁寧に自分のスキルについて解説し始めた。

 

「安心院(あんしんいん)さんから借り受けた一京分の一のスキル『五本の病爪(ファイブフォーカス)』♡ 引っ掻いた相手を発病させる──つまりは『病気を操るスキル』です♡」

 

『なるほどね、つまり発病させるのも完治させるのも君の指加減次第ってことだ。将来は町病院でも開いたらどうだい? 荒稼ぎできそうじゃないか』

 

「そういう発想しかできねえのかお前はよそれより! 喜々津(ツッキー)ちゃんと与次郎(ジロ)ちゃんは大丈夫なんですよね!?」

 

「友達の心配よりも先に、自分達の心配をしたらどう? これから先、あなた達もあ(・)の(・)磔に加えられることになるんだから」

 

 露骨にめんどくさそうな表情を浮かべた赤は、一度ため息を吐いた後、再び財部に向き直って質問へと答えた。

 

「まあ、そうね。一応質問には答えてあげるけど、大丈夫に決まってるでしょう? 私は安心院(あんしんいん)さんから、この箱庭学園で死人を出さないよう調整しろ、と命を受けているんだから」

 

『こんなでたらめな学校で死人が出ないのは安心院(あんしんいん)さんの計らいによるものだった、と……一体僕達はどこまであの人の掌の上なんだろうね?』

 

「まあ今日はいち委員長として来ているだけですから、役目とかは関係ないんですけどね──で、どうします? やりますか、『完全神経衰弱(パーフェクトメランコリイ)』?」

 

 赤はそう言うと同時に、先ほどまで腰掛けていた机の上にトランプを並べた。その枚数はどう見ても通常のトランプの枚数より多く、目測トランプ二つ分ほどの数に見える。

 

「神経衰弱っていう割には、カードの数がえらく多くありません?」

 

「その通りよ財部ちゃん。完全神経衰弱(パーフェクトメランコリイ)では二(・)組(・)のトランプを使用し、数字だけではなく♤や♧のようなマークまで揃えないと駄目ってルールなの♡」

 

 赤は机の上に並べたトランプを広げ、卓上に満遍なく行き渡らせた。そしてルールの続きを説明し始める。

 

「そして競うのは取ったカードの『枚数』じゃなく揃えたカードの『数字』。手にしたカードが♡の2だったら2点、K(キング)だったら13点。ただしA(エース)は特別なカードだから14点扱い♡」

 

『なるほどねえ。つまりこの場にあるトランプ、全部合わせて416ポイントを取り合って争うってわけだね。2を4ペア取ったとして、8を一組取られたら意味がない、と』

 

「説明しようと思ってたことを先に言うのやめてくれません? 興が削がれるので」

 

『……………』

 

 やけに禊に対して辛辣だが、それもまあ仕方のないことだ。つい忘れがちだが、彼には安心院(あじむ)なじみを封印した前科がある。

 

「あとはそうね……これは普通の神経衰弱と違って完(・)全(・)タ(・)ー(・)ン(・)制(・)よ。だからカードを揃えたとしても、1ターンで取れるのはワンペアが限度ってわけね」

 

 赤はそこまで話すと、一度説明を止めた。一応質問があれば聞いておこうか、という意図での休息である。このタイミングを禊は逃さず、すぐさま疑問を赤へとぶつけた。

 

『赤さん赤さん、今数えてみたらカードが106枚あったんだけど、これってつまりジョーカーが入ってるってことだよね? ジョーカーをめくってしまった場合──』

 

「今から説明するので黙っててください、言いたいことは分かりましたし。ジョーカーはいわゆるシャッフルカード──一枚めくられたらその場に残っているカードは全部位置を入れ替えます。ま、記憶のやり直しになりますね」

 

『とことん嫌われてるねえ……で? ジョーカーを』

 

「揃えてしまった場合でしょう? 一々言わずとも分かってますよ、全く鬱陶しいこと極まりないですね……一度めくられたジョーカーはその場からのけるルールですが、ジョーカーを揃えてしまった場合はプ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)同(・)士(・)の(・)得(・)点(・)が(・)シ(・)ャ(・)ッ(・)フ(・)ル(・)されることになります」

 

「……つまりどんなにポイントで負けてても、ジョーカーを揃えちゃえば文字通りに逆転できるってこと?」

 

「ええそうね。逆に勝ってるプレイヤーからすれば、うっかりジョーカーを揃えてしまえば逆転されると言うわけよ♡」

 

 禊の質問に対して食い気味に答えた赤は、再び右手の爪を見せびらかしながら、禊達へと詰め寄っていく。

 

「さ! ルールの説明は以上! あなた達が勝てばここを通してあげる。負けてしまえばペナルティとして、そこの二人のように苦しむことになるけど♡」

 

「……分かりましたよ、やらせてもらいます。悪平等(ノットイコール)同士、いい試合をしようじゃないですか……で、禊せんぱいはどうします?」

 

『うーん、めんどくさいからもういいかな。神経衰弱の字面は好きだけど、カードゲームはバカラしか嗜まない主義だし──財部ちゃんに丸投げしちゃおうか! 頑張ってね!』

 

 あまりにもあっさりと勝負を投げ出した禊だが、赤も財部もこうなることは予想していた。いつだって彼は適当で曖昧なのだから、むしろここまで真面目にやっていたことが驚きだろう。

 

「オッケー、面倒な人が参加しないと分かったところで──それじゃあ始めよっか。オープン・ザ・ゲーム!」

 

 赤の宣言でゲームは始まった。結果はまだ分からない──とは、到底言えない。

 

 勝負がどうなるかは、すでに分かりきっていた。

 

 


 

 

「──あれ、K(キング)が揃っちゃった。これでもう合計ポイントが208点を越えたから、どう足掻いても私の勝ちだね財部ちゃん」

 

(なんで……なんで!? ポイントで負けたのはまだ分かる……ど(・)う(・)し(・)て(・)カ(・)ー(・)ド(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)を(・)揃(・)え(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)の(・)!?)

 

 圧倒的な勝利。そう言わざるを得ないだろう。赤は多くのトランプを揃(・)え(・)て(・)い(・)る(・)のに対し、財部はそもそもトランプを揃(・)え(・)る(・)こ(・)と(・)す(・)ら(・)で(・)き(・)て(・)い(・)な(・)い(・)のだから。

 

「ま、こんなもんでしょ。でも気を落とすことはないわよ財部ちゃん──同じ悪平等(ノットイコール)とはいえ、能力保持者(スキルホルダー)が無力(ノースキル)に負けるはずがないんだから」

 

 そんな赤のセリフに、たまらずといった風に噛みつく財部。

 それもそうだ。だって財部は、たった今友(・)人(・)を(・)侮(・)辱(・)さ(・)れ(・)た(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

「……与次郎(ジロ)ちゃんや喜々津(ツッキー)ちゃんにも言ったんですか、それ。『無力なんだから負けて当たり前だ』みたいなことを」

 

「さあね、忘れたけど。言ってたらなんだっていうの?」

 

「ッ──だとしたら! 私はあなたを許さない!!」

 

 財部は吠えた。他でもない友のためを思って。与次郎と喜々津のことを想って。自らの恐怖心を抑え込んでまで。

 

「……むしろここは、あなたが『許してください』って言うべきじゃない? 『身の程を弁(わきま)えずに挑戦してごめんなさい』って。素直に謝れば、軽い病気で済ませてあげてもいいのよ?」

 

「嫌です、謝りません。私は人に頭を下げるのが大嫌いなんです──あなたみたいな人に、友達をいじめた人に、私は謝ったりなんかしない!!」

 

 赤の爪で引っ掻かれれば、発病することは知っていた。そしてそれは熱だけではなく、心臓病や癌も例外ではないことも。それでも財部は、友のために怒ったのだ。

 

「あっそー。それじゃあ精々、後悔しながら苦しみなさいな──」

 

 ただ、その気持ちが赤に届くとは限らない。同情して手を緩めてくれるとは限らない。まさか怒りで怯むわけもない。しかし啖呵を切った以上、ここで逃げられるわけもない。

 

 故に財部は、その身で爪を受けることになる。

 

 襲い来るであろう病への恐怖から彼女は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 ──しかし、いつまで経っても体に変わりはない。引っ掻かれた時に来るはずの痛みも、発病するはずである病の苦しみも、財部の体を襲うことはなかった。

 

 恐る恐る、その目を開けると、そこには──。

 

 

「──や、大丈夫? 財部くん」

 

 

 ──自分の代わりに爪で腕を引き裂かれている、球磨川雪(ゆき)の姿があった。

 

「なっ、えっ、雪(ゆき)せんぱい!? どうして……」

 

「どうしても、こうしても……ないよ。私がどれだけ君に嫌われてようと、君(・)が(・)私(・)の(・)後(・)輩(・)な(・)の(・)は(・)変(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)んだから」

 

「ッ……でも……」

 

『まあまあ、せっかく助けて貰ったんだ。ここは下がっておきなよ、財部ちゃん』

 

 雪(ゆき)は高熱の体に鞭打ち、とびきりの笑顔を財部に向けてから、直後に近づいてきた禊の肩を借り、禊と雪(ゆき)は話し始めた。

 

『いやそれにしても、随分と遅かったじゃないか雪(ゆき)ちゃん。十二町さんのところで手こずったのかな?』

 

「ああ、まあそんな感じ……って言うかお兄ちゃん、まったく財部くんを助けようとしてなかったよね……なんで?」

 

『君を信じてたのさ。いつも後輩のために動ける君をね──それに、財部ちゃん。こ(・)れ(・)で雪(ゆき)ちゃんのこと、許してあげてくれないかな?』

 

「それはッ、まあ……いいですけど……というか! これで許さなかったら、私が恩知らずみたいじゃないですか!!」

 

「はは、まあ……それなら、嬉しいな……盾になった甲斐があった。盾になるより、殺陣(たて)でもやる方が性に合ってるんだけど」

 

 雪(ゆき)はそう軽口を叩いてから、赤へと向き直った。旧知の仲であるかのように。

 

「さて、それで……赤さん、久しぶり。ところで後ろの二人の分、私(・)が(・)引(・)き(・)受(・)け(・)て(・)も(・)?」

 

「はあ……久しぶりですね、雪(ゆき)ちゃん。い(・)い(・)で(・)す(・)よ(・)、あなたがいいならね」

 

「なっ……あなたバカなんですか!? ただでさえ私の分の病気を貰ってるのに……」

 

「既に負けたあなたが口を挟まないでくださいよ──それでは」

 

 雪(ゆき)の要求に対して、迷うことなく赤は応じ──ようとしたところで。口を挟んだのは禊だった。

 

『いや、ちょっと待ってよ赤さん。流石の僕とはいえ、妹相手に負債を全部押し付ける外道ではないぜ? 一(・)つ(・)僕(・)に(・)寄(・)越(・)せ(・)よ(・)』

 

「はあ!? いやちょっとお兄ちゃん! せっかく私が格好つけようとしてるのに……」

 

『いや、見たところインフル級の熱だ。それを三つは流石に死ぬぜ? っつーわけで赤さん……ッ!!』

 

「言われなくとも、そう言うのならそうするだけです──私が次に相手するのはどうせあなたでしょう、禊せんぱい。相手を弱らせるチャンスを逃すわけにもいきません」

 

 赤はなんの躊躇いもなく禊と雪(ゆき)へ喜々津と与次郎の病気をそれぞれ移した。雪(ゆき)に至っては二つ重なっていることになり、常人であれば死んでいてもおかしくない。

 

「〜〜ッ……はぁ!! キッツ……!!」

 

『いやあ、それにしても……僕ってやつはつくづくバカだぜ。また一人女の子を好きになっちまって、こうして負わなくてもいい負債を請け負って。貧乏くじを引かねえと気が済まねえのかな』

 

「ええ、大馬鹿でしょうねえ実際。それで? 本気で私と戦うつもりですか? そこに病気を重ねれば──雪(ゆき)ちゃんならまだしも──あなたは死にかねませんよ」

 

『ふふ、意外と優しいんだね赤さん。てゆーかなんで僕が負ける前提なわけ? 案外サクッと勝っちゃって、君は僕に負けた最初の人間として名を残すのさ恥ずかし〜〜!!』

 

 禊は文字通りに追い詰められたわけだが、そこで光ってこその負完全(マイナス)である。赤は不審に思っているかのような表情を浮かべたが、すぐさま気を取り直して席についた。

 

「……ま、いいでしょう。とはいえ私も鬼ではありませんので! ハンデとして後攻めの権利を──」

 

 と、赤が言いかけたところで、突然卓上のトランプ全(・)て(・)に小型のネジが捩じ込まれた。それは一瞬のことであり、目で追うことなど到底不可能な速度であった。

 

『後攻めの権利なんて要らないよ。その代わりこの通り、君のイ(・)カ(・)サ(・)マ(・)は封じさせてもらうぜ』

 

「なっ……い、イカサマ!? それって一体どういうことですか、禊せんぱい!?」

 

『どうもこうもないさ、単純な「す(・)り(・)替(・)え(・)」だよ。あえて右手の恐ろしい爪をこれ見よがしに見せつけた上で! 彼女は左(・)手(・)で(・)カ(・)ー(・)ド(・)を(・)す(・)り(・)替(・)え(・)て(・)い(・)た(・)のさ!!』

 

「なっ、なるほど……確かに私はあの人の右手にばかり注視して、左手なんて気にも留めていなかったです……ミスディレクションに完璧に引っかかって、その上雪(ゆき)せんぱいにまで庇われて……」

 

 財部はそう言いつつ、壁へともたれかかった雪(ゆき)へと目を向けるが、雪(ゆき)はあいも変わらずいい笑顔でサムズアップをしていた。それを見て財部も、少しだけ心が軽くなった。

 

『カードを二組使うのも、ポイント制なのも、ジョーカーという2枚のシャッフルカードも、全てはイ(・)カ(・)サ(・)マ(・)のためさ。違和感を消すための小細工でしかない』

 

「……だからカードを、こうしてネジで固定したと?」

 

『そうなるね。ま、当然めくる時には外して貰って構わないさ。僕はイカサマを反則だとは思ってないが、まあ神経衰弱なんだ、フェアにやろうぜ!』

 

 禊はあくまで余裕の体を崩さない。実際彼にとっては、この程度の逆境など街中で人を見かけるくらいの頻度で起こり得る。

 

 だからこそ、なればこそ。

 負完全(彼)は光るのだ。

 

『ハンデはいらないとはいえ、まあそれだと君の気が咎めるだろう。だから僕が勝った時は、候補生三人を含めて僕達五人の通行権をもらおうかな。当然病気は治した上でね』

 

「……まあ、それでいいでしょう。それじゃあさっさと始めて、さっさと終わらせ──」

 

 

『──そして、もう一つ。』

 

 

逆境だからこそ、負完全(彼)は光るのだ。

逆境でなければ、負完全(彼)は光れない。

 

 

 

 

 

 

 

『もしも僕(ぼく)が

  勝(か)った時(とき)は』

 

 

 

 

 

 

 

『きみの制服(せいふく)は

明日(あした)から 

  裸(はだか)エプロンだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

球磨川禊に、道徳倫理を期待するな。

 

 

 

 






 やっぱパイセンは書いてて楽しいです。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。