TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 (ゆき)ちゃんがいつまで経っても空気。




第44箱「僕はただ好きなだけさ」

 

 

 第四関門(2)完全神経衰弱(パーフェクトメランコリイ)。特殊なルールで(おこな)われるこのゲームで、禊と赤の勝負は存外白熱していた。

 

「螺子でカードを固定することですり替えは封じたけど……これってどう動くのが正解なのかしら……」

 

「変にジョーカーを取って、先行してしまうのも……はぁ、まずい気がするよね……」

 

「いや(ゆき)先輩、あなたこのゲームのルール知りませんよね? それに私達の分まで病気を背負っちゃってるんだから、安静にしておいた方がいいと思いますよー」

 

 財部・喜々津・与次郎は熱を一手に引き受けた(ゆき)を介抱しながら、禊がどう動くべきなのかについて考察していた。

 

「いやそれにしても、体温42℃は……大丈夫なんですか、(ゆき)先輩? もし死んじゃいそうなら、私今からリタイアでも──」

 

「ああ、いや……だいじょぶだよ、与次郎くん。わたしってさ、ほら……剣道やってるから」

 

「それは理由になってない気がするけどにゃー……まあ平気でしょ。赤さんがその辺の調整ミスるとは思えないし」

 

(ゆき)せんぱいも心配だけど、禊せんぱいも心配……あの人、今までに勝ったことないんでしょ? もしも負けちゃったら──」

 

 禊の身を案じ、財部はそう口にしかける。しかしそれに待ったをかけたのは倒れている(ゆき)と、禊本人だった。

 

「まあまあ、安心しなって財部くん(安心院(あんしんいん)さんだけに)……ほら、見なよお兄ちゃんを」

 

『そうだよ、こういうのは先輩に任せておけばいいのさ……ほら、今だって♡の8が揃ったところだからね』

 

「……なんて言うか、意外と戦えてますね、禊せんぱい。っていうか、それより! (ゆき)せんぱいは別に安心院(あんしんいん)さんじゃないんですから、あの人の殺し文句を奪わないでください!!」

 

「ええ……? いいじゃん別に、私が使ったって……」

 

 先ほどまで庇われた財部はそこそこ、いやかなり落ち込んでいたのだが、(ゆき)が軽口を叩き続ける上、兄である禊も気にした様子がないので段々と普段の調子を取り戻しつつあった。

 

「……解せませんね。先ほどからあなたへかけているプレッシャーに動揺しないのはともかくとして、愛する妹にかけた病にまで動揺しないとは……あなた、とことん欠落しているんですね」

 

『え? ああ、ほら。病は気からって言うだろう? それよりも、意外と簡単だね、このゲーム。まさかこんなに簡単にカードが揃うとは……ま、不完全な僕に対して、完全を冠するなんて片腹痛いぜ』

 

 凋落している負完全(マイナス)に対して、挑発は意味を為さない。赤はこの辺りでようやくそのことに気が付いた。

 

 しかし気が付くのに遅れたとはいえ、赤は箱庭学園保健委員会の委員長である。すぐさま思考を切り替え、球磨川禊に安定して勝つための方策を考え始めた。

 

(さっきから揃えるカードがランダム、つまり高得点札(ハイカード)狙いではない……その割にジョーカーを恐れている様子は無いとなると、まさかこの男、場にある全てのカードを覚えているとでもいうの?)

 

「……♤の4と♡のA(エース)、ハズレよ」

 

『じゃあ僕の番だね。えーっと、もう最初の方のカードは忘れちゃったんだけど、確かこの辺に♡のA(エース)があった気がするんだよな──』

 

(やけにわざとらしい口振りね──ッ、まさか、この男──!?)

 

 その瞬間赤は、カードをめくろうと伸ばされた禊の手を思い切り掴み、そして()()()()()()()()()()()()()を凝視した。

 

 手の中には、()()()()()()()()()()。それに勘づいた赤は、次いで場のトランプに刺されたネジを確認する──と、どうやらネジは、()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 

「ふぅ、危うく騙されるところでしたよ。まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

『ははは、よく気づいたね。いやほらさ、このゲームって数だけじゃなくマークまで覚えなきゃいけないでしょ? そんな面倒なことやってられるかよ』

 

「なっ、ほらイカサマですよイカサマ!! (ゆき)せんぱい、禊せんぱいのイカサマ見て元気出してくださいあなたあの人のああいうところ大好きでしょ!!」

 

「うぐっ、ぅ……たっ、財部くんやめてぇ揺らさないで死んじゃう」

 

 禊のイカサマ封じによるイカサマ。その無法さにさしもの赤も動揺を隠しきれなかったが、すぐさまいつもの無表情に戻り、平静を取り戻した。

 

『まさかこれを()()()()だなんて言わないだろうね? もし言っちまうようなら、ここから先はそれこそ無法だぜ』

 

「言いません──が。当然これから螺子は全部同じ規格のものに変えてもらいますよ。それくらいはいいでしょう?」

 

 赤の要請に禊も(渋々)応じ、それからゲームは再開。この時点で禊は20ポイント近くリードしていて、勝ち筋は十分あった。

 

 しかし螺子を統一した直後、禊は驚くほどカードを揃えられなくなる。結果として赤にすぐさま追い抜かされてしまい、逆転を許すこととなった。

 

 タネはごく単純なものである。螺子を変える際、赤はどさくさに紛れてカードをしっちゃかめっちゃかに入れ替えたのだ。

 

 イカサマ封じを利用したイカサマ──封じを利用したイカサマである。その殆どが場外戦。ここに来て二人の戦いは、あからさまにイカサマ合戦の様相を呈していた。

 

 そして、30分が経過し──。

 

 


 

 

「♢のK(キング)──これが揃ったことにより、私の総ポイントは208点を越えました。あなたが今何点か知りませんが、これで私の勝ちですね、禊先輩!」

 

 赤はそう宣言し、安堵のため息をこぼす。混沌よりも這い寄る過負荷(マイナス)に勝利した安心、裸エプロンを逃れたことによる緊張の緩和などが、一気に彼女の頭を巡ったからだ。

 

「ど、どうしましょう(ゆき)先輩……このまま私達、ここで脱落しちゃうんですか!?」

 

「落ち着きなよ与次郎(ジロ)ちゃん、ここで(ゆき)先輩に頼るのは、にゃんていうか……恥知らず?」

 

「とっ、とりあえず! 負けちゃったなら負けちゃったで、早く(ゆき)せんぱいを保健室まで……!!」

 

 候補生三人組は慌てふためき──喜々津だけは違ったが──もう禊が負けてしまったと考え、撤退の準備を固めていた。

 

 しかしそこに再び(ゆき)が待ったをかける。

 

「いいや、もう少し待ちなよ、もう少しの辛抱だ……お兄ちゃんなら、ここから大どんでん返しを繰り広げてくれるだろうぜ──!!」

 

「はあ、あのねえ(ゆき)ちゃん。あなたはルール説明の時ここに居なかったから知らないだろうけど──」

 

『──いいや、まだだよ赤さん。僕はまだ負けてなんかいない。気付いていないのかい? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

「──ッ!! ……そういえば、そうでしたね。それで? だからなんです? 私がジョーカーを揃えることはあり得ない。それともまさかあなたはこの状況で、自力でジョーカーを二枚引こうとでも言うんですか?

 

『言うよ。道化師(ジョーカー)は僕の友達なんだ。きっと友のピンチに駆けつけてくれるだろうぜ』

 

「……言ってろ、誇大妄想」

 

 そう言いつつも赤は、このターンからジョーカー潰しに打って出た。ポイントでの勝ちは確定しているから、白地図を塗りつぶすかのように、まだめくっていないカードをめくっていく。

 

 1ペア。また1ペア。少しずつ、身を削ぐように削っていく。

 

 が、しかし。その願いも虚しく、カードが残り8枚になるまで減ったというのに、ジョーカーが一枚も出ることはなかった。

 

「残り8枚中の2枚がジョーカー……!」

 

「これならもしかしたら、もしかするかも!」

 

「言ったでしょ? 私のお兄ちゃんは()()()()()()

 

 場に残ったカードは残り8枚。そしてそのうち、いまだに引かれていないカードは5枚。そこから禊はカードを2枚選んで引くが──。

 

『うーん、そろそろ引けるかと思ってたんだけど。どうやら友達だと思っていたのは僕だけみたいだ。悲しいことだが、それはそれとして赤さん。君のターンだぜ』

 

「ぐっ……こんな、こんなことが……」

 

 禊はやはりハズレ──この場合は♧の7を引いた。当然そのカードを揃え、場に残ったカードは残り6枚。その内ジョーカーの可能性があるカードは、4枚

 

 震える手で赤はカードをめくる──そこに書かれた数字は♤の9だった。

 

 つまりここから赤は、めくられていないカード3枚の中からジョーカーを探し出し、めくらなければならない。ここで安牌のカードに逃げてもいいが、それはみすみす禊に3分の1の確率を明け渡すこととなる。つまり──。

 

 

3分の1の確率で、赤の明日は裸エプロン!!

 

 

 赤は今更後悔し始めた。関門の番人を安請け合いしたこと。後輩の悪平等(ノットイコール)達を少々とはいえいじめたこと。財部に対して暴言を吐いたこと。頼まれたとはいえ、(ゆき)に病気を移し替えてしまったこと。

 

 

 そして、負完全(マイナス)の相手をしてしまったこと。

 

 

「……禊せんぱい、提案があります」

 

断る。』

 

「この勝負引き分けってことにしませんか? 関門は五人とも通してさしあげますから……」

 

嫌だ。』

 

「もちろん皆さんの病気の治療はしますし、なんだったら身体(からだ)の悪いところ全部治しますし……」

 

もう遅い。』

 

「……堪忍してください、私が悪かったです……」

 

 

僕は悪くない。』

 

 

 禊は立ち上がって、赤を見下すような姿勢を取った。先ほどまで熱で気怠げだったのが嘘のような速度で指を指し、赤を急かす構えを取る。

 

『ハリーアップ!! ただし今なら特別に、ナースキャップの着用だけは認めよう──』

 

 もうどうにもならない状況まで赤は追い込まれてしまった──が、しかし。この状況を打ち破る者がいた。

 

「この辺にしておきましょうよ禊せんぱい!! 許してあげましょ! ねっ!」

 

 禊の背中に飛び込みそう言ったのは、他でもない財部その人だった。バカにされたというのに、彼女は赤を助けるために動いたのだ。

 

 悪平等(ノットイコール)としてではなく、人として。

 

『……財部ちゃん?』

 

「お願いします、もうやめてあげてください……でないともう、あなたを先輩と呼べなくなる……」

 

『……オッケーそうしよう。僕と(ゆき)ちゃんへの治療と通行権、それと謝罪だ赤さん。僕と(ゆき)ちゃんにじゃあなく、君が無力と軽んじたあの子達に謝ってくれ』

 

 禊は振り返って赤に背を向け、机から離れる。その背中には、先輩としての自負が乗っかっているように見えた。

 

『あの子達は僕の、かわいい後輩なんだ──』

 

 完全神経衰弱(パーフェクトメランコリイ)、決着。

 

 


 

 

「んー、さっすが悪平等(ノットイコール)! 身体のだるさが嘘みたいに消えちゃったよ! すごいね赤さん!」

 

「……悪かったわね、二つも病気を押し付けて。それから悪平等(ぼく)達。イベントに必死になるのもいいけど、あまり使命を忘れないようにしなさいよ。変に黒神ちゃん達と仲良くなりすぎないようにね」

 

 心の傷までは治せないんだから、と赤がそう締め括ったところで。悪平等(ノットイコール)達と同様に病気を治してもらった禊が近づき、赤へと声をかけた。

 

『ねえねえ赤さん。悪平等(ノットイコール)同士の会話に割り込んで悪いんだけど、今のうちにこれを返しておいてもいいかな?』

 

「はあ、返す? 一体私に何を──ッ!?

 

 禊が赤に手渡したのは──螺子の穴が空いていない、二枚のジョーカーのカードだった。

 

『いやーやっぱり友達だねえ、この子達! いつの間にか僕のポッケに潜り込んでいたんだよ』

 

「なっ……いつの間に……」

 

「ねー、だから言ったでしょ、みんな? 私のお兄ちゃんは()()()()()()って!」

 

「ッ(ゆき)ちゃん……まさか、()()()に!」

 

 (ゆき)()()()()()()()()。既にジョーカーのカードを抜き取っていたのだ。場に到着した瞬間に、何の迷いもなく。

 

 そして支えるために肩を組んだ時、ひっそりと禊にジョーカーを渡していたのだ。赤に気取られることなく。

 

(ゆき)せんぱい……あなた、本当になんなんですか……!?」

 

「そ、底が知れないですね……」

 

「女には秘密があるんだよ、財部くん、与次郎くん。私と仲良くなれれば、もしかすると分かっちゃうかもしれないぜ?」

 

 財部も、与次郎も、喜々津も、そして赤も──驚きを隠せない。そんな芸当が果たして出来るだろうか?

 

 否。しかし、実際目の前で起きている。

 

「……こうなるのを見越して、この宝探し(トレジャーハンティング)を進めていたんですか。土壇場で(ゆき)ちゃんが助けに入るのも、ジョーカーを抜き取って私の心を折るのも、必要以上に凄んで財部ちゃんが止めに入るのも、全部、計算通りだったと──」

 

『計算? あはは、何それ。計算なんて人生で一度もしたことないよ。僕は自分の妹を、()()()()()()()()()()()()()()()()(ゆき)ちゃんを信じただけさ。彼女に賭けたと言ってもいい』

 

 禊は(ゆき)の方を向き、一度手を振る。(ゆき)はそれを見て黄色い声を上げ、自らの兄が決めるところを決めるのを見届ける覚悟を決めた。

 

『どうやら期待されているようだし、最後は格好付けさせてもらおう──僕はただ好きなだけさ。スリルとリスクで神経を削る、分の悪い賭けってやつがね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また()てなかった。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 球磨川先輩、ちょっと好きすぎる。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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