TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 アルバイトが増えて週7になりましたがなんとかやれてます。




第54箱「やはり舐めていたらしい」

 

 

「……安心院(あんしんいん)さん、どうしちゃったんだろう?」

 

「空気椅子したい気分だったんじゃないかな……」

 

「んなわけあるかよ……椅子ならこっちにたくさんあるのに」

 

「人吉が変なこと二回も言ったから怒ったんじゃねーの? あひゃひゃ!」

 

 あれから数分経つが、安心院(あんしんいん)さんはぴくりともしない。多分あの空気椅子も、なんかのスキルを使ってやっているのだろう。なんつー無駄な使い方を……。

 

 ちなみにこの数分の間に、宗像くんは赤くんの治療を受けに行った。流石に全身怪我まみれで放置は可哀想だったしね。

 

「なあ、安心院(あんしんいん)さん。どうしてそんなに黙りこくってんだ? そこまで驚かれるようなことを言った覚えはないぜ」

 

「……驚かれるようなことを言っているんだよ、きみは。自覚を持ちなさい。前半は……まあ分かるさ。先人たる英雄達への冒涜でしかなかったが、それでも、巨匠を老害と呼べるアホが、いつだって地球を回してきたというのは事実だからね」

 

「と、なると……()()()()()()ってことか? そんなに驚かれるようなことしたかな……」

 

「十分驚かれるようなことだよ。はっきり言わせてもらうがね……きみの()()は最早自殺となんら変わらないよ。()()()()()()のではなく、()()()()()()()と言っているようなものさ」

 

 うん、そこに関してはぼくも同感だ。実際に(ゆき)ちゃんの自殺を止めるとなった時、ぼくが上手くやらなければ、善吉くんの望んだスキルは()()()()()()()()()()()()()

 

 命の価値が軽くなり過ぎている。

 

「──別に、俺は死にに行くわけじゃねーよ。親友を助けに行く。ただ()()()()なんだから」

 

「その()()()()がいかに難しいことか分かっているのかな。あの子はあれで、僕と似通ったことができる怪物なんだぜ」

 

「怪物だろうが化物だろうが知ったことじゃないね。あいつは俺の親友で、俺はあいつの親友だ。理由なんて他にいらねえよ」

 

 ただし善吉くんは、そこまで悲観的に物事を捉えているわけじゃなさそうだった。この場合はむしろ──なんだろう、()()()

 

「善吉くん、随分と気軽そうだけど……どうしてなのかな? もしかして(ゆき)ちゃんの攻略法、もう見つけてたりする?」

 

「ん? いや、全然そんなことはないけど」

 

「全然そんなことはないんだ……」

 

「いや、なんつーかさ。こっちには(ゆき)を説得できるだけのピースがあって、そこで俺が体を張れば救出確率がアップするってなったら……()()()こうするだろ?」

 

()()はそんなことしないよ……」

 

 何というか、世間ズレしてるというか、天然が滲み出てるというか……ともかく、どうしてかは分からないけど、頭の螺子が数本行方不明らしい。お兄ちゃんに頼んで締め直してもらえ。

 

「でもさ、()()()って別に、()()()()のが役割ってわけでもないだろ。これは俺の捉え方の問題かもしれないけど、()()()()()だっているはずだぜ」

 

「……まあいいさ、僕はきみを止めることはしないよ。なんだかんだといちゃもんを付けてみたけれど、結局のところは()()が一番効果的だ。非効率的だがね」

 

 安心院(あんしんいん)さんはそう言うと(おもむろ)に立ち上がり、善吉くんと同じ目線になってから……突然頭を下げて、話を続けた。

 

()()()()()、人吉くん。僕は全てを知った気でいたけれど、どうやらきみの()()()()()()()()()を、やはり舐めていたらしい」

 

「……安心院(あんしんいん)さん、頭下げるとかできるんだね」

 

「僕のことを何だと思っているのかな。僕だって間違えば、そりゃあ謝るさ。今回に限って言えば、完全に僕の見当違いもいいところだったからね」

 

 へえ、非を認められるのはいいことだね。それにしたって、安心院(あんしんいん)さんが他人に謝るなんて滅多にない事だろうに。

 

「よ……よせよ、頭上げてくれよ安心院(あんしんいん)さん。らしくねーことすんなよ、大体俺は思いついたことをまとまらないままで話しただけで──」

 

「分かっているさ……まとめるのは僕の仕事だ。さしあたって──」

 

 ん? どうしたんだろう安心院(あんしんいん)さん、ゆらゆらと善吉くんに近づいて行って……。

 

 ──なっ!?

 

 

「ごめんなさいの、ちゅう♡」

 

 

 は? えっと、えぇ!?

 

 え? 何してんの?

 

「あなた……てめえ! 私の人吉くんの上唇と下唇に勝手に何を──ぐっ!?

 

「──ふう、こんなもんかな。折角だし、きみも()()()()()()()()()()()()!」

 

 突然の蛮行に激昂する江迎くん! しかし安心院(あんしんいん)さんはすぐさま彼女にも口付け!! 善吉くんと江迎くん、安心院(あんしんいん)さんのキステクに一網打尽!!

 

 あわ、あわわ……なんだこれ、なんだこれ!?

 

「半袖くん! ちっ、痴女だよ! 痴女がいるよ!!」

 

「あひゃひゃ、(そそぎ)あんた慌て過ぎだって! ()()安心院(あんしんいん)さんがやることなんだから、意味があるに決まってんじゃん?」

 

 ああ、まあ……そりゃそうか。いきなりすぎてびっくりして焦っちゃったよ、まったくもう。

 

(そそぎ)ちゃんと半袖ちゃんはどうする? なんならきみ達も──どうしたんだよ(そそぎ)ちゃん、そこまで僕とキスするのが嫌かい?」

 

「いや、嫌っていうか……キスってなんだか、恥ずかしいことしてるみたいで……しかもぼく達、友達同士なんだよ?」

 

「そこまで僕とキッスするのが嫌かい?」

 

「嫌っていうかいやらしくなってるよ!」

 

「それじゃあ、投げキッスならどうだろう」

 

 うん……うん? あれ、()()()()()()()()()()()()()

 

「『いやらしさが消えた』と、今きみはそう思っただろう?」

 

「思ったよ。すごいね、()()が付くだけでこんなに耳触りが良くなるなんて」

 

「投げ 放送禁止用語 

 

「うわああぁぁ絶対ダメだよそれは女の子がそんなこと言っちゃあああぁぁぁ!!!!」

 

「あのさ、話進めないの?」

 

 ああ、そういえば安心院(あんしんいん)さんの話の途中だった──いや脱線させたのも安心院(あんしんいん)さんじゃん。じゃあぼくは悪くないよ。

 

「日本語で遊ぶのはひとまず置いておいて──置き去りにしておいて。今僕は口区間(ドア・トゥ・ドア)というスキルを使い、二人を『あっち側』……分かりやすく言えば、()()()()へと送ったってわけさ」

 

「えっと、それはどうしてなの? わざわざそんなことをするなんて、よっぽどの理由があると思うんだけど」

 

「理由は単純、()()()()()()()()さ。()()()()()()の僕は半ば封印されている身の上だから、()()()()()()じゃないと本気を出せないんだよねえ」

 

 へえ、そういうものなのか。お兄ちゃんが悪いことをしたなあ……。

 

「というわけで『人吉善吉はバカにできない』ということが分かった以上、全力を尽くすのが礼儀ってもんさ。もっとも──」

 

 安心院(あんしんいん)さんはそこで意味深に笑みを浮かべ、過激なことを口にした。

 

アホもバカも、主人公も英雄も、巨匠も老害も、僕の前ではみんな等しく、ただのくだらねーカスなんだけどね──」

 

 


 

 

「あ痛っ……誰だ今俺の頭叩いたの──あれ、ここどこだ……?」

 

 安心院(あんしんいん)によって夢の世界──安心院(あじむ)なじみが根城としている教室へと送られた善吉と江迎だったが、どうやら善吉の方が一足早くに目覚めたらしい。

 

 服装はなぜか()()()()()()()()になっている。隣で未だ眠っている江迎は、あまりキャラ設定に合っているとは言えないイケイケの私服だった。

 

 それをさほど気に止めることもなく、先ほど起こされた時何者かに叩かれた感触を確かに感じたので、()()の出所を探るために、善吉は教室を見回した。

 

 すると自分の右隣に、()()()()()()()()()()()()(ゆき)が、不機嫌なのを隠すこともしない表情で立っていることに気が付いた。

 

「なっ、(ゆき)!? お前、どうしてここにいるんだよ!?」

 

「…………」

 

 善吉は思わず(ゆき)にそう質問したが、(ゆき)から帰ってきたのは沈黙という()()()()()だけだった。

 

 その後(ゆき)は善吉の隣で眠っていた江迎を揺さぶって──扱いの差に善吉は思うところがあったものの──二人とも、(ゆき)に起こされ覚醒した。

 

「えっと、(ゆき)ちゃん? ほら、私だよ、江迎怒江。覚えてない?」

 

「…………」

 

 日頃からよく一緒に遊びに行っていた江迎が話しかけるも、やはり反応は無い。どうやらこのままだんまりを決め込むらしい。

 

 (ゆき)はそのまま教室の隅の方へと移動して、体育座りで座り込んだ。膝に埋めるように顔を伏せたため、その表情を窺い知ることはできない。

 

(ゆき)、本当にどうしてそうなっちまったんだよ……」

 

「どうもこうもないさ。ちょっと不貞腐れて、憂鬱な気分になってるってだけだよ。まったく、思春期ってやつはこれだから困る──」

 

「ッ!? 誰だ!!」

 

 突如として教室内に響き渡った、(ゆき)のものではない声に、善吉は過剰に反応する。そうして声のした方、後ろを振り向くと、そこにいたのは。

 

 およそ三年前、球磨川禊に顔を剥がされる前の──つまりは、()()()安心院(あじむ)なじみだった。

 

「あ、思い出した……! あんた、()()()に会った……!」

 

「やっと思い出してくれたのかい? やれやれ、ここまで長かったねえ。僕は戦挙の庶務戦から待ってたっつーのにさ」

 

 安心院(あじむ)なじみは優しく微笑み、いっそわざとらしく足を組んでから、善吉達に向けて語った。

 

「今の僕は(ゆき)ちゃんと体を共有している状態でね。だけどご覧の通り、あの子は操縦権を放棄してる。外での僕の見た目が負安心モードだったのは、つまりそういうわけなんだ」

 

「なるほど……じゃなくて! それだったらわざわざ、俺達をこっちに呼ぶ理由は──」

 

「いいや、それが()()()()()()()()()()。現状認識もままならないところ勇み足で悪いが、真・フラスコ計画フェイズ1! さっそくスタートだぜ

 

 安心院(あじむ)なじみの提案に、善吉と江迎は困惑した。だってそんなもの()()()()()()()()のだから。

 

「聞いたことがなくて当然さ。だって()()()()()()()()からね。これまでのデータと()()()()()()()()を加味した最新版だ。半纏が善吉くんの言ったスキルを作っている時間を、ただ何もせず無為に過ごすのは無駄でしかないから、さっさと始めちまおうって魂胆さ」

 

「……私達は、いったい何をすればいいのかな」

 

「なあに、そんなに難しいことは言わないさ──真・フラスコ計画フェイズ1、安心院(あんしんいん)さんに勝とう!だ。まあそういうわけで、善吉くんと江迎ちゃん、二人がかりでかかってきなさい」

 

 にやにやと嗜虐的な笑みを浮かべながら、安心院(あじむ)なじみはそう宣言した。即座に善吉と江迎は戦闘態勢に入る。

 

まあ精々頑張りたまえ。()()()()()()()()()()()()()()()()()きみ達ならもしかすると、僕の顔面に一発くらいは入れられるかもしれないぜ?

 

 安心院(あじむ)なじみプレゼンツ、真・フラスコ計画はこうして、あまりにも突発的に始まった。

 

 教室の隅に座り込む(ゆき)は、少しだけ頭を上げて、ただそれをぼーっとしながら眺めていた。

 

 






 ふてくされ(ゆき)ちゃんのイメージは初期の忍野忍みたいな感じです。剣道着を着ていて髪が黒いという違いはありますけどね。ほとんど別人じゃん。

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