TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 ダイジェストその3です。
 ダイジェストのくせに5000文字を軽々突破しているので、ほとんど通常運行です。




第60箱「茶番でしかないんだけどね」

 

 

 その日はぼくが思っていたよりもあっさりと、避けようもなく逃れようもなく、サンタクロースのようにやってきた。

 

 聖夜祭──12月24日。箱庭学園三代祭の中でも最大のものであり、今年はその中央広場特設会場で、生徒会選挙が執り行われる。

 

 ちなみに今回の選挙での投票箱は、現生徒会の旗印である目安箱──通称、目高(めだか)箱(ボックス)を使用する。

 

 ぼくはあくまでも善吉くんの後援だったので、今回の選挙で特に何かをするわけではない。だから、安心院(あんしんいん)さんの隣に座って選挙を見てる。

 

 ちなみにぼくの一列後ろには名瀬くんがいる。ここ最近一緒に遊ぶことが増えたから、名瀬くんと古賀くんとはすっかり仲良しだ。

 

「それにしても……まさか大刀洗くんが立(・)ち(・)上(・)が(・)る(・)だなんてね。お兄ちゃんが頑張ったから、この状況が実現しているわけだけど」

 

「これでこ(・)の(・)選(・)挙(・)の(・)投(・)票(・)率(・)は(・)1(・)0(・)0(・)%(・)に(・)な(・)る(・)だろうね。なんせ、あの眠り姫の立ち姿なんて、今後一生かかっても見られないんだから」

 

 まあそうなんだけど、それにしたってこれは集まりすぎだ。といっても、これもいくつかある作戦のうちの一つなんだろうけど。

 

「中学生軍団の演説……あんなことされちまえば、人吉の野郎はとんでもなくやりづれーだろうよ」

 

「まあ、そこはさすがに僕の端末(ぼく)であると言わざるを得ないね。詭弁を語らせれば右に出るものはそういないさ」

 

 一人目──ではなく、一(・)組(・)目(・)の立候補者であった女子中学生達のスピーチは、生徒会選挙にあるまじき発言で満ちていた。

 

 まず初めにこの学園は最低だと宣言。この時点で、既にロックが過ぎる。その後、ちゃんと学園の問題点を指摘していたが。

 

 一部のエリート層に支配された絶対王政だとか。

 

 武装した生徒達による取り締まり活動だとか。

 

 特待生と一般生徒の圧倒的な格差だとか。

 

 ことあるごとにバトルを促す競争社会だとか。

 

 破壊される校舎だとか。

 

 崩落する施設だとか。

 

 トラブルに不介入を貫く教師陣だとか。

 

 生徒を実験台としか考えていない理事会だとか。

 

 そして、現状をよしとしている生徒達の意識の低さ。

 

 ──耳が痛いね。確かにそれは言(・)う(・)通(・)り(・)で(・)、その気になれば改善することだってできたはずなんだ。

 

 発言者である鰐塚くんは一般生徒達に向かって言っていたようだけど、これを聞いて反省しなければならないのは、むしろぼく達生徒会の面々だったのではないかと思うよ。

 

 彼女達のマニフェストは、生徒会制度の廃止。

 そしてそれによる、共和制の実現。

 

 多数決を使って物事を決め、多数表に従い小数票を切り捨てる、そんな学園ではなく、どんな物事でもしっかりと、全(・)員(・)が(・)納(・)得(・)で(・)き(・)る(・)結(・)論(・)を導き出すまで話し合いを放棄しない、基本方針は全会一致の学校を作る、ということだった。

 

 つまりは全(・)て(・)の(・)生(・)徒(・)が(・)平(・)等(・)に(・)決(・)定(・)権(・)を(・)持(・)ち(・)、それぞれが学園のトップである学校を作りたい、という……いかにも悪平等(ノットイコール)らしいマニフェストだった。

 

 流石に内容が内容なので、拍手は起きなかったものの、しかしその提案は、一部の生徒達にはとても魅力的に聞こえたことだろう。

 

「中学生とはいえ、流石に悪平等(ノットイコール)──きっちり仕上げてきたね。これは善吉くんのスピーチに相当な説得力がないと、結構厳しいんじゃ?」

 

「僕としてはどっちでも構わねーけどよ、しかし時間をかけて育ててやったんだ、これくらいの逆境は跳ね返してもらわないと困るね」

 

 そしてその会話の直後、善吉くんはステージに上がってマイクのスイッチを入れ、力強い声で話し始めた。

 

「この学園が最低だという件だが基本的には俺も同意見だ。よくぞ言ってくれたと思う!」

 

 乗っかりやがった。でもまあ、後攻めの不利を無くすならこれくらいは言わなきゃね。

 

 その後も善吉くんは好き放題に好き勝手、一般生徒達に向かって言っていった。

 

 目安箱に投書されたお悩み、その数実に5248通。設置した日からとうとう今日まで、目安箱が空だったことは一日たりともなかった。

 

 そのおかげで、学園をお花畑にしたいというめだかくんの願いは、一年も経たずに概ね達成されたということになる。

 

 そうして善吉くんはそこまで語ると、さらに一際強い声で、皆に向けて言ったのだ。

 

「お前ら恥ずかしくないのか」と。

 

 一年生の女の子に寄ってたかって助けを求めて情けなくないのか、強い奴には頼ってもいいとでも思っているのか、とみんなを批判したのだ。

 

 もちろん人によっては、自分のことを棚に上げて散々言いやがって、と思うだろう。が、しかし。そ(・)れ(・)をはっきりと言えないようなら、めだかくんには到底勝てない。

 

 これもやはり耳が痛いけど、しかし善吉くんの勝利を信じている以上、その本心から目を逸らしたり、耳を塞いだりするわけにもいかない。改めなければならないところが、まだまだ沢山ある。

 

 ……まあつまり善吉くんは、助(・)け(・)を(・)求(・)め(・)る(・)人間(ぼくら)こそが、めだかくんにとっての敵だったと言いたいのだ。そう言っているのだ。

 

 どうしてめだかくんは、あ(・)そ(・)こ(・)ま(・)で(・)正(・)し(・)過(・)ぎ(・)る(・)の(・)か(・)。それに対して善吉くんが出した答えは、思っていたよりも単純なもので。

 

 要するに、人(・)助(・)け(・)という形を取ることで、ずっとぼくらと戦っていたのだ。めだかくんにとって、人助けとは楽しいバトルだったのだ。

 

 めだかくんは、人間(ぼくら)に、敵(ぼくら)に勝つために、正し過ぎなければいけなかった。

 

 めだかくんに、そんな危なっかしい生き方をしてもらいたくなくて、めだかくんを変えようとした善吉くんだけど、しかしその実、変わるべきは周(・)り(・)の(・)方(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 だ(・)か(・)ら(・)俺達に、目安箱なんていらない。めだかくん一人に全校の悩みを押し付ける箱なんて、無くしてしまえばいい。めだかくん一人に頼るのをやめればいい。

 

「みんなでめだかちゃんに勝とうよ」と、そう締めくくって、善吉くんのスピーチは終わった。拍手こそ起きなかったものの、恐らく皆考え込んでいるのだ。

 

 自分達が、いかに罪深いことをしてきたのか。

 

「うん、そうだね、こ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)。彼の立候補理由がめだかちゃんなのはもはや周知の事実だし、変に隠さずにそれを前面に押し出したのは、まあ正解だろう」

 

「とはいえさ、肝心のスピーチの内容があ(・)れ(・)だと、マイナス十三組とか特待生クラスからの票はあまり期待できなくない?普通科の票は、中学生達と割れそうだし──」

 

「ん? ああ、そ(・)こ(・)は(・)気(・)に(・)し(・)な(・)く(・)て(・)も(・)い(・)い(・)さ(・)。というかこの時点で、ほとんど結(・)果(・)は(・)決(・)ま(・)っ(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)も(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)」

 

「いやいや、まだ結果が決まったと言うには早えだろ。なんせトリを飾るのはあ(・)の(・)黒神だからな……生徒会制度と目安箱を否定されたとはいえ、あいつのカリスマは半端なもんじゃねーし」

 

「まあまあ、見ていなさい。そうでなくとも善吉くんに授けたスキルがあるんだから、僕達はここでどっしり構えていればいいのさ」

 

 ……やたらと余裕そうだけど、本当になんなんだろう、ここ最近の安心院(あんしんいん)さんは。なんというか……そうだな。

 

 だいぶ前、それこそ戦挙が終わった後くらいに、ぼくが雪(ゆき)ちゃんに感じていた、大(・)人(・)の(・)余(・)裕(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)な(・)に(・)か(・)に──かなり似た雰囲気を醸し出している気がする。

 

 それが何なのかは、ぼくにはいまいち分からないけど……でも、今更ぼくに何かできるわけでもない。大人しくめだかくんの演説を見届けよう。

 

「この調子だと早く帰れそうでほっとしてま〜す。それじゃ、最後の一人──現職! 一年十三組黒神めだかちゃん、トリの演説お願いしま〜す!」

 

 大刀洗くんの気の抜ける司会進行によって、めだかくんが特設ステージの上に、至って真面目な顔をして現れた。珍しくコスプレはしていない。

 

 そしてすうっと息を吸い込んで、いつものように、いつかのように、凛っとした声で、めだかくんは演説を開始した。

 

「……まずは、中学生達と人吉善吉の言葉を重く受け止める。彼らの不満が私の失敗ゆえにあることは、言うまでもない」

 

 へえ、やっぱりここは乗っておくのか。まあめだかくんの性格から考えれば予想はつくけど、自分の失策を認めるってのは、選(・)挙(・)に(・)お(・)い(・)て(・)は(・)不(・)利(・)で(・)し(・)か(・)な(・)い(・)んじゃないかな。

 

 実際のところは分かんないけどね。ぼくは集団心理がどう働くかなんて知らないから、頭の中でぶつぶつ独り言を言うに留めよう。

 

「その意味では両者のどちらかに会長の椅子を、譲ることも私はやぶさかではないのだが──生憎、そういうわけにはいかなくなった。本当に生憎! 残念ながら不本意だ」

 

 うーん、どうしたんだろうめだかくん。安心院(あんしんいん)さんの方を見ながらそんなことを言っているけど、何か見落としでもあったのかな? それか、重大な見逃しとか。

 

 実際どうなんだろう? ここ数ヶ月の間、ぼくは安心院(あんしんいん)さんとよく話し──もとい監視をしていたけど、特に変わったところは無かったような気がするな……ん?

 

 あれ、そういえば。あんまりにも自然すぎて忘れてたけど、安心院(あんしんいん)さんはなんで、負安心モードなのに「却本作り(ブックメーカー)」で封印されっぱなしなんだろう?

 

「慢心操意(テイクオーバー)」って読んで字の如く、意(・)識(・)を(・)乗(・)っ(・)取(・)っ(・)て(・)体(・)を(・)操(・)る(・)ス(・)キ(・)ル(・)のはずなんだけど。

 

 負安心モードで融合するんじゃなくて、雪(ゆき)ちゃんの体を乗っ取るだけにしておけば、胸(・)の(・)封(・)印(・)は(・)取(・)れ(・)た(・)は(・)ず(・)なのに……どうして?

 

 ──ダメだ、分かんないや。

 まあでもいっか、見てからなんとでもなるし。

 

 この距離なら、ぼ(・)く(・)が(・)首(・)を(・)飛(・)ば(・)す(・)方(・)が(・)速(・)い(・)。

 

 おっといけない、めだかくんの演説を聞かないとね。

 

「ともかく私は勝たせてもらう。勝たねばならない。そのために、彼らの言う学園への不満は、私の全力をもって解決させてもらう所存だ。貴様達、それをどうか諒とされたい」

 

 他の候補者がこれを言っても説得力に欠けるだろうが、流石にそこは実績のあるめだかくんの言である。なんというか、言葉に重みがあった。都城くんの「言葉の重み」とは違うよ。

 

「『どうやって』と聞きたいだろうが、細かい政策を語る時間はなさそうだし、今はただいつものようにこう言おう──」

 

 その直後に放たれた言葉に。ぼくは横っ面を木刀でフルスイングされたかのような──否、それでもまだ甘いほどの衝撃を受けた。

 

 

「私は黒神めだかだ。」

 

「見知らぬ他人の役に立つため生まれてきた。」

 

 

 目眩がした。泣いてしまいそうだった。いますぐに謝りたい気持ちになった。

 

 どうしてぼくは、見誤ってしまったのだろう。

 あの子だってまだ、高(・)校(・)一(・)年(・)生(・)の(・)子(・)供(・)なのに。

 

 それなのに、「他人の役に立つため生まれてきた」なんて言って。まるでそれが当然みたいな顔をして。

 

 それじゃあ、まるで。

 

 

 

 

 

「──奴隷みたいじゃないか」

 

 

 

 

 

 ぼくの呟きは、口の中で反響して掻き消えた。

 

 


 

 

 結局一回の拍手も起こることはなく演説会は終わり、続いて全校生徒による無記名投票が実施された。

 

 既に投票を終え、元々座っていた席に戻ってきた安心院(あじむ)なじみと名瀬は、なぜか先ほどから顔を覆って落ち込んでいる雪(そそぎ)を気にしながらも、会話に興じていた。

 

 この場合は、種(・)明(・)か(・)し(・)と言うのが正確かもしれないが。

 

「ところで、安心院(あんしんいん)さんよ。人吉に作ってやった、黒神に勝つためのスキルってやつ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねーか?」

 

「ああ、『愚行権(デビルスタイル)』のこと? あれはね、すごく単純なスキルなんだよ。内容はご都合主義の排除。転じて言えば、主人公補正を拒否する権利ということになるね」

 

「なっ……それってつまり、ただ自分が不利になるだけのスキルじゃねえかよ!?」

 

「そうだよ、頭おかしいだろ? だってつまり、いくつか分かりやすく例を挙げるなら、こういうことになるからね──」

 

 曰く、敵の必殺技がぎりぎり急所を外れない。

 

 曰く、曲がり角で女の子とぶつからない。

 

 曰く、行けども行けども殺人事件に遭遇しない。

 

 曰く、敵の気まぐれで生き残ったりしない。

 

 曰く、「悪運の強い野郎だ」とか言われない。

 

 曰く、敵の妹と知り合えない。

 

 曰く、かつてのライバルが絶体絶命のピンチに通りかからない。

 

 曰く、旅先でばったり友達に出会わない。

 

 曰く、トーナメントで弱い順に当たらない。

 

 曰く、土壇場で逆転の秘策が思いつかない。

 

「──まあつまりは、これまでの英雄像を『あいつらはただ運が良かっただけ』と斬……投げ捨てる、悪魔的なスキルだよ」

 

「もしかして、文化祭の時にあんな著名人三人がブッキングしたのも……」

 

「『愚行権(デビルスタイル)』のせい──もとい、おかげさ。あれがあったお陰で、文化祭にはプロ意識の高い三人が来たんだ。そうでなかったら、生き別れの兄とかが来てもっと物(・)語(・)っ(・)ぽ(・)く(・)なってたはずだぜ」

 

「なるほどな、大体分かったぜ、スキルの全容がよ。安心院(あんしんいん)さんは真・フラスコ計画で人吉を主人公化したが、あのバカはよりにもよって、そのメリットだけを放棄したと……そういうことだな」

 

 名瀬は持ち前の頭脳をフルに活用して、与えられた情報から最短で物事の本質を見抜いた。普通に考えればそんなの思いつくはずがないのだが、なぜかここ最近の名瀬は頭の周りがいつにも増して早いようである。

 

「そうなるね。善吉くんは過性能(プラス)も過負荷(マイナス)も持たない。代わりに、運命や筋書きに縛られない。何(・)も(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)からこそ、何(・)に(・)で(・)も(・)な(・)れ(・)る(・)という愚行権(けんり)を行使しているのさ」

 

「プラスでもマイナスでもない、『持たざる者(ゼロ)』か。なるほど悪平等(あんた)の趣味らしいな──おっと、そうこうしている内に開票が終わったらしいぞ」

 

「そのようだね。とはいえ僕は、善吉くんが勝つことを既に知っているから、こ(・)こ(・)ま(・)で(・)全(・)部(・)茶(・)番(・)で(・)し(・)か(・)な(・)い(・)んだけどね──」

 

 ──きよしこの夜、諸人は数々の奇跡を目撃した。

 

 しかし、人吉善吉と黒神めだかの決着に限っては、人々が奇(・)跡(・)と呼ぶものは、まったく介在しない──。

 

 






 次回からは元に戻ります。

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