今回から話の進みが元に戻りますが、それにしたってはっちゃけすぎました。
「箱庭学園第百代生徒会選挙〜、お待たせしました! 投票結果を発表しま〜す!」
……どうやら、ぼくがあまりの恥ずかしさと情けなさに、頭を抱え、もとい顔を覆っていた間に開票作業は終了したらしい。
結果がどうなるかは、正直ぼくには分からない。だけどまあ、
どうやら壇上の善吉くんとめだかくんもそう思っているらしく、「いつでも受けて立つ」だの「またやろう」だの言っていた。
……だけど、
「随分と余裕そうだね、
「おいおい
ふーん……まあいいや、信じてあげよう。やはりこれも、今更疑ったところでどうにもならないことだけど。
「投票率は100%でした〜。そして最多得票は〜」
そうこうしているうちに結果発表の時間だ。しょうがない、善吉くんを慰める準備でもしておくか──。
「支持率62%、人吉善吉くんでした〜。おめでとうございます頑張ってね〜!」
「はあっ!?」
「そこ〜うるさいよ〜」
「あっ、ごめんなさい!」
いっけね、バカみたいにでかい声出ちゃった。いや、でも……これは叫んじゃってもしょうがなくない? しょうがないよね。ぼくは悪くないよね。
いや、つーか……めだかくんが善吉くんに負けたのはまだ分かるとして……中学生達にも負けてるのは予想外すぎるだろ。
しかも、めだかくんの支持率は2%だ。
いや、いやいやいや……滅茶苦茶にも程があるだろ。2%……2%? なんだそれ、
夢でも見てるみたいだ。
この場合は、悪夢のほう。
「
「
いつの間にか隣に来ていた半袖くんの質問にも、
対して壇上の善吉くんは口を大きく開け、まさしく「唖然」としていた。何が起こったのか、理解できていないらしい。ぼくもまだできてないけど。
と、なると、次に気になってくるのはめだかくんの反応だが……正直なところ、予想がつくから見たくない。絶対に、何があっても、何をされても見たくない。
……だけど、ここで目を背けたら、今度こそ友達じゃいられなくなる。ぼくはめだかくんから目を背け続けて生きるのは嫌だ。
意を決してぼくはめだかくんの顔を見たけれど……ああ、やっぱりか、という感想しか出なかった。
かたかたと体を震わせ、生徒会長の腕章を外そうとし、無様に転んだめだかくんを、ぼくは──
赤子が成人の手を捻る異常事態。
拍手なんて起こるはずがない。歓声など上がろうはずもない。ただただ、
「……めだかちゃんの敗因を分析するならば、彼女の人間離れが度を越してしまったということかな。あの子は強くなりすぎた。人の上に立つには重すぎるほどに──それに、幼馴染をああも簡単に切り捨てるやつには、生徒会長なんかになって欲しくないよね」
真黒くんは、得意の解析でそう判断したらしい。妹に対して、あまりに辛辣なような気もするけど……しかし、言っていることが間違っているとも思えなかった。
そこに待ったをかけたのは、意外にも名瀬くんではなく、
「……まあ概ねその通りなんだろうけど、しかしその分析には愛がないよ、きみらしくもない──少なくとも、僕好みの解釈とは言えないな」
「それじゃああなたは、一体どんな風に考えてるの?
「そんな顔をするなよ、雰囲気が辛気臭くなる。それで僕の考えだが……箱庭学園に通う生徒達はついに、めだかちゃんを解放してあげたんだって」
先ほどの善吉くんのスピーチ。あれのおかげでようやく生徒達は、自分達の罪深さに気付き、めだかくんに頼りっきりになるのをやめたのだと、そう言った。
それと、今でも鮮明に、頭の裏にこびりつくあの言葉。「見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた」という、
あれに対する、生徒達のアンサー。「人助けなんかしなくたって私達はあなたが好きだ」という感謝の気持ち──愛を、この投票結果は表している。
……もっとも。
愛とか思いやりとか気遣いとか優しさとか感謝とかお礼とか心尽くしとか、その手の感情は。
一方的に、他人に送ることができる感情は。
数が集まれば、ただの残酷な暴力なんだけど。
……当然、めだかちゃんにそんな機微が伝わるはずがない。こいつは別に見返りを求めて、人助けをしていたわけではないのだから。
むしろ今はただ、大好きな
人を幸せにすることだけが生きる目的だった黒神めだか。そのためには幼馴染さえ見限った黒神めだか。しかし今、彼女はその目的を見失った。
そう、十三年前──俺と初めて出会った時のように。
「……なあ、善吉」
俺の足元で、まるで子供のように震えながら、地面に手と膝をついているめだかちゃんが声を上げた。しかしその声も震えていて、いつものような凛々しさは感じられない。
「なあ善吉、教えてくれよ善吉。はははは教えてくれ──私は一体、何のために生まれてきた?」
まるでいつかの焼き直しをするかのように、めだかちゃんは俺に向かって
今のめだかちゃんは突如暗闇に放り出された子供だ。寒空の下に捨て置かれた小動物のように頼りない存在だ。
──ふと、球磨川禊がついこの間、俺に放った言葉が脳裏に浮かんだ。
めだかちゃんが哀れだと思った。だがそれ以上にチャンスだと思った。告白するなら
ここで告白しろ、人吉善吉。でなければ後悔する。ここで一言、心のこもった言葉を掛ければいいだけだ、簡単だろ。
「お前はもう戦わなくていいんだよ」と言え。
「これからは普通の女の子として、俺と一緒に生きていこうぜ」と言え。
そうするだけでいい。後悔しなくて済む。
そうするだけで──。
……そうだ、そうだよ、後悔が
でも、失敗は
さっきは──演説では、みんなを責めるようなことを言ったけど、根本的な原因が俺にあることは間違いないんだ。
もちろん今回は失敗しないように頑張ればいいのかもしれない。その結果めだかちゃんは、最高の恋人になるのだろう。
平凡に生きて、平凡に育って、平凡に遊んで、平凡に学んで、平凡に喜んだり、平凡に怒ったり、平凡に哀しんだり、平凡に楽しんだりして、平凡に慎ましく生きていくのだろう。
それじゃ、ダメだ。
そんなめだかちゃんを、俺は──。
「……めだかちゃん」
めだかくんの質問を受けて何かを考え込んでいた様子の善吉くんは、しばらくしてから意を決したかのような表情を浮かべ、めだかくんに向かって語りかけた。
ともすれば、先ほどの演説よりも力を込めて。
力というよりは、心が込められていたかもしれない。
「──何のために生まれてきたかを教えてくれるやつなんかいない。お前の生きる目的なんて、俺が知るか!」
善吉くんは、めだかくんの質問を切り捨てた。馬鹿正直に、真正面から質問を無視した。
「その答えは自分で見つけるしかねーんだ。生徒会長でなくなったお前はまずはその辺から始めろ。きっと観察じゃ足りねーんだ。目的なんてもんは見て聞いて触って、
必死に、まるで自分のことかのように、善吉くんは言葉を紡ぐ。未だに落ち込んでいるめだかくんを勇気付けるかのように。発破をかけるかのように。
「その結果もしも同じ結論に辿り着くのならば、やっぱりみんなを幸せにしたいと思うなら、そのために戦い続けたいと思うなら
きっとこれは、善吉くんなりの
「だけどめだかちゃん! 見知らぬ他人の役に立つために生まれてきただなんて、そんな寂しいことだけは二度と言うな!」
善吉くんはめだかくんと顔を合わせながら、最後の言葉を口にした。
「ここにいる
その言葉を聞いて、皆が頷く。
それをきっかけに、めだかくんの目に光が戻る。
そして、
「……生徒会長としての、私の最後の仕事だ。フラスコ計画の凍結を私の名で取り消そう。黒神真黒・名瀬夭歌を統括に再任し、以降同計画は生徒会執行部の管理下に置く」
「ッ!!」
ほう、フラスコ計画の凍結を解除……これまた思い切った行動に出たね。ということは、普段の調子が戻ってきたということだ。なんだか嬉しいな。
めだかくんが言うには、善吉くんのような
当然、非人道的な実験はご法度とし、生徒会の監査は継続的に
そして、その後。善吉くんに向けてめだかくんは謝罪をし、自らの過ちを認めた。これにより、二人の禍根には完全に決着がつき、一件落着となった。
「いやー、残りは
「おいおい、こんなことで喜ばれちゃ困るぜ。ここまでは既定路線、むしろここからが不確定要素のオンパレードなんだから──差し当たって」
……頭を、指さした?
「何してんの、
めだかくんの叫び声。隣には
必死な表情、声音。何か問題が? 視線、ぼくの隣。
クラウチングスタートの姿勢、改神モード──まさか、黒神ファントム?
理由……間違いなく
──
自殺……。
自殺。
自殺!?
黒神ファントムは……ダメだ間に合わない! だからこその声かけ! 意図に気づくのが遅れた──後悔は後でしろ! ぼくがもたつくと
ぼくが斬るか? いやそれもダメだ、最悪勢い余って殺しかねない──となると、
正直賭けだけど、これでダメなら間に合わない……から!
ぼくはそうやって、半ば祈るかのように刀を振るい──直後、乾いた銃声が鳴り響いた。
現時点で生徒会が関わっている箱庭学園の生徒、意外と多いんですよね。全員の名前載せるの結構大変でした。
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