ぼくと雪ちゃんは打ち合い続ける。斬り結び続ける。時々雪ちゃんがスキルを使うが、それは事前に察知して避けるか相殺する。
都合一分少々こうしているわけだけど、未だにお互い疲れの色は見えない。安心院さんを通して「却本作り」で封印されているから、結構辛いはずなんだけどな。
ああ、いや……あれは確か、雪ちゃんを教室空間に閉じ込めておくための封印にしたんだっけ。じゃあ雪ちゃんの性能は落ちてないのか。それにしたって、随分強くなってるけど。
火花が散るのではないかと思うほどに甲高い音が響き渡り続ける。刀が熱を帯びているように感じられる。きっとこれはぼくの心を表している。
思えば、こうして雪ちゃんと打ち合ったのは初めてな気がする。そうなるとこれは、初めての姉妹喧嘩だ。
こんなこと思っちゃいけないのかもしれないけど、それでも。
楽しくて仕方がない。
笑うのが止められない。ぼくだって相当に強いはずだけど、それでも雪ちゃんの体に傷は付けられなかった。
それがたまらなく嬉しい。ここまで長い間斬り結んでいるのに、まだお互いに立っているのが嬉しくてたまらない。
側から見れば、ぼくと雪ちゃんの剣戟は目で追うのがやっとだろう。残像が捉えられればまだマシな程の速度でも満足せず、ぼく達はさらに刀を振るう速度を上げた。
次第に、雪ちゃんの柔肌に赤い線が走る。初めは一つだったけど、二つ三つと増えていき──直後。ぼくは、雪ちゃんの額を刀でなぞった。
一般的に、額からの出血は派手に吹き出る傾向にある。それを利用して血液で目を潰し、一瞬攻撃が緩んだ隙に、ぼくは本気で全力で思いっきり雪ちゃんを蹴り飛ばし、壁にめりこませた。
「ふうっ。これで諦めてくれれば話は早いんだけど」
「そう簡単に行くもんでもねえだろ、っていうか……あれ、雪は大丈夫なのか?」
おっと、気付かないうちに善吉くんがこっちに来てた。ということは、そろそろめだかくんも来るかな?
「雪ちゃんはこの程度なら10秒せずに復帰してくるよ。だから多分そろそろ──来るね」
瞬間、雪ちゃんが瓦礫の中からぶっ飛んでくる。狙いはぼくの首か、焦りすぎだよ。
「んなっ、速っ……」
「善吉くんは下がってて! ぼくが打ち合うから、その間に目を慣らしておいて欲しいな!」
そう言うと、雪ちゃんは面白いくらいにつまらなそうな顔をした。あはは、そんなに怒んなくてもいいじゃん!
ひとまず、再び刀で斬り合うか。何を焦ってるのか分からないけど、ぼくの急所ばっかり狙ってくるから、守りやすくて助かるよ。
もしかして、めだかくんが来る前にぼくを片付けたいのかな。多分そうなんだろうけど、それにしたって──なんというか、過剰に焦ってる。
ちらっと善吉くんの方を見る。すると、彼はちゃんと攻撃を喰らわない場所まで退避して、ぼく達のスピードに目を慣らしていた。そういえば「欲視力」があるから、案外ぼくの視界をジャックしてるのかも。
……やっぱりおかしい。なんというか、今の雪ちゃんには覇気がない。さっきまでは、確かに──。
「はきはきしてた。でしょ?」
「ッ!? ちょっと、ビックリさせないでよ! いきなり喋られたりしたら──」
待った。なんでこのタイミングで喋った? 理由があるはずだろ。さっきまで喋らなかったんだから、何かしらの罠を仕掛けていると考えた方がいいね。
例えばそう、会話することで発動するスキルとか……いやでも、そんなのがあったら初めから使ってるか。そっちの方が話が早いだろうし。
となると……気が動転すると発動するスキル? うん、どちらかというと、こっちの方がしっくりくるな。まあスキルなんて初見殺しがほとんどだから、見てから対処するしかないんだけど。
……どうしてこんなに長時間考え事が出来てるんだ?
「ふう、やっとかかってくれたね、長時間視線を合わせると動きを止めるスキル『停視線』に。とりあえず、これで一人」
やばい。動けない。身じろぎの一つすらも出来ない。動け、体を動かせ! 死ぬ気で!!
「……………………ダメだ、動かない」
……ちょっとこれ、大ピンチかも。
ぼくは刀が振り下ろされるのを見ていることしかできない。善吉くんの声が遠くから聞こえるけど──しかし、さっきぼくが遠くまで行かせてしまった。
間に合わない。
「私も混ぜろ!!」
しかし直後、めだかくんが黒神ファントムCSVで突っ込んできて、雪ちゃんを殴り飛ばした。
それと同時に、ぼくの拘束も解除される。ぷはー、息できなくて困ってたんだよ。
「ありがとうめだかくん、助かったよ!」
「雪、貴様あんな大口を叩いた割には、雪にいいようにやられているではないか。私が来るのがあと数秒遅れていたら、首が飛んでいたぞ?」
いやー、不甲斐ないね。ぼくってば搦手に弱いからさ、どうしてもああいう不意打ちは食らって覚える形になるんだよね。
「めだかちゃん! 雪! 大丈夫か!?」
「無問題っ! めだかくんが来てくれたからね、百万人力だよ!」
「うむ、先ほどは情けない姿を見せたがな、今までの私とは一味違うから、存分に頼るといい! それはそうと、善吉。作戦は覚えているな?」
「……おう。俺は手筈通り、このまま待機する──ただ! 本当にヤバくなったら助けに入るからな!」
まあまあ、これ以上ヤバい事態にはさせないから、安心して見ててよ。
「さて、それじゃあめだかくん。共闘と行こう」
「ああ。共に雪を改心させようではないか!」
「……放っておいてよ」
ぼく達は相変わらず無傷の雪ちゃんの方を見ながら、剣と拳を構えた。
その後約10分ほど斬り合い、殴り合い、蹴り合い。めだかくんが怪我をしたら即座にぼくが書き換えて直すのを繰り返した。
既に阿久根くんと喜界島くんは教室空間に入ってきているが、意外にも雪ちゃんが粘るのでまだ出番はない。
そんな中。先ほどから観察しながら戦っていためだかくんが、突如として口を開いた。
「──やはり分からんな。雪、貴様何故死にたいのだ?観察すればするほど、考察すればするほどそれが分からん」
その質問で雪ちゃんの意識が揺らいだ隙を狙って、ぼくが雪ちゃんを4mほど吹き飛ばした。
どうやら雪ちゃんの集中力がようやく切れてきたらしい。作戦フェーズ1「神経を衰弱させよう!」はここでおしまい。
ここからはフェーズ2「死亡志望理由を聞き出そう!」の時間だ。
「……安心院さんから、聞いてないわけ?」
「うん。だってあの人、秘密主義だもの。だからぼく達は雪ちゃんが死にたい理由が分かんない。教えて?」
当然そんな質問に、雪ちゃんが返してくれるはずもない。どうせあの子のことだから、また変なスキルを使って攻撃してくるはず。
そうさせないための阿久根くんだ。
ちょっと危ない役だけど──そして、嫌われ役だけど──彼は快諾どころか、むしろ自分からその立ち位置を志願してくれた。
なんでも、宝探しの時に色々話して、ようやく友達と迷いなく言えるところまで仲良くなったから、体を張ってでも死なせたくないらしい。
雪ちゃんは後ろに立っている阿久根くんに気が付いていない。それだけ注意力が落ちているということだ。
そして今、仕込んだ結果が表れる。
「雪さん、折角だし話してあげたらどうだい? そこの所、実は俺も気になっていた所なんだ」
「ッ、あっ阿久根くん!? 一体いつから……」
阿久根くんに後ろから肩を突然ぽんと叩かれ、そして声をかけられて──明らかに動揺した。
「めだかくん、見逃してないよね?」
「ああ、やはり思った通りだ」
どうやらめだかくんも、雪ちゃんが自殺しようとした原因は、他人ではなく雪ちゃんにあるということに気が付いたらしい。
まあ事前に分かってはいたんだけど、念のためね。それで阿久根くんの役割だけど、当然これで終わりじゃない。
「……どうしたんだい、雪さん。俺はこんなに無防備だよ? あの二人みたいに、斬ろうとはしてくれないのかい?」
「えっ、でも……だって阿久根くんは」
「そうだね、異常なスキルとかは持ってない──から、俺は斬れないのか? あんまり俺を舐めないでくれないか」
「──えっ……?」
阿久根くんの雰囲気が一瞬で変化する。というよりかは、逆行した。
「俺だって生徒会の一員で、俺だって誇りってものがあるんだよ。それをきみは、踏み躙るのかな」
「そっ、それは違うよ! そういうつもりじゃない! だから、だから阿久根くん、普段の優しいきみに──」
「別に俺は普段から優しいわけではないよ。むしろ俺の本性はこっち……破壊臣の方だ。勝手にきみが期待する人格像を他人に押し付けないでくれ」
「ぇ、う……ごめん、なさい……」
……阿久根くんの役回りは、汚れ役だ。必要なことだからしょうがないけど、それでもやっぱり申し訳ない。
「いや、別に俺は謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ、そうだな……最初に言った通り、そこまでして自殺しようとする理由を教えて欲しい」
「……ごめん、それだけは無理。これは私の問題で、私だけが抱えているべきだから──」
「嘘つき。そうやって逃げてるだけでしょ!」
阿久根くんの方を向いて話している雪ちゃんに、辛辣な言葉を放ったのは、喜界島くんだった。
喜界島くんには特に役回りはない。本人が言いたいことがあるらしいから連れてきた。
同年代で女の子の友達からの本音は、神経が衰弱した今の雪ちゃんにはかなり響くはずだから、来てくれて助かったというのが本音だけど。
「喜界島、くん……」
「いっつもそう! まるで『私はなんでも知ってる』みたいな顔して隠し事して! 少しくらい共有してくれたっていいじゃん!」
「でも」
「でもじゃない! もっとわたし達のこと信じてよ! もっと頼ってよ! わたし達は同じ生徒会の仲間でしょっ!!」
半泣きになりながら、喜界島くんは大声で叫ぶ。その言葉は今までのどんな攻撃よりも、恐らくは威力のある一撃だった。
「……雪ちゃんから見て、わたし達ってそんなに弱いかな……? 隣に立たせてよ、肩を並べさせてよ、背中を守らせてよ……」
「違う! 違うの、そうじゃない、そうじゃなくて! 信用してるよ、信頼だってしてる! でも──でも! どうすればいいかなんて分かんないんだよ!!」
「そういう言い訳みたいなのはもういいからさ、早く教えてくれないかな? 一体きみが、どうして死のうとしているのかを」
直後、空気が凍った。計算通りに。
「……今、なんて言ったんだよ、鶴喰鴎……!」
「へえ、初対面のはずなのに私のことを知ってるんだ。ということは、安心院さんが言っていた世界の知識ってのはどうやら本当みたいだね」
「──ッッ!!」
鴎くんの挑発で、雪ちゃんは本日何回目かのボロを出した。さて、この一手でめだかくんの観察と考察が終わるかな?
「……終わった?」
「ああ、抜かりなく、な──」
──これでフェーズ2「死亡志望理由を聞き出そう!」は、ある意味クリアしたことになる。次はフェーズ3「事実確認をしよう!」だ。
どういう結果が出るかは、ぼくには分からない。だけどまあ、碌な物ではないんだろうな、という考えだけが頭を占めていた。
めだかくんが雪ちゃんの目の前まで進む。雪ちゃんはめだかくんの方を潤んだ目で睨みつけながらも、攻撃する様子はない。
「雪。貴様──禁止令を決断しているな」
その言葉を聞いた雪ちゃんは。
「──ぅあ、あー……はは、バレちゃった」
まるで、壊れてしまったかのように笑った。
hr
──ぼくは転生者だ。
転生前の世界には「めだかボックス」という、魅力的なお話があった。
超人の生徒会長と、それに振り回される普通の男の子を中心としたお話だ。
他にも、魅力的な人がたくさんいた。
心優しい破壊臣。
守銭奴の水泳部エース。
性格の螺子れた負完全。
彼ら彼女らが紡ぐ物語は、とっても綺麗で、輝かしくて。ぼくはそれに憧れた。
だけど、どんなに憧れても、その物語の輪の中に、自分は存在していなかった。
物語は物語でも、夢物語。
まるで悪夢を見ているようだった。
みんなみたいに、綺麗な人になりたかった。
なれなかった。
だから自分に絶望して死んだ。
だから世界に絶望して死んだ。
自分が存在しない世界を知っている。
自分が存在しなくても、世界はいつも通りに回る。
55kgの考える葦が、54.987kgの物言わぬ肉塊になっただけ。
ぼくが死んだ世界は、ぼくが生存している世界よりもスムーズだと知っている。
知っているのに、関わってしまった。
その先には後悔しかないと分かっていたのに。
ぼくには、なんにもできないのに。
自分で考えて動いても、失敗して事態を悪化させるだけ。ずっとそうだった。例外はなかった。
お母さんには毎回それで怒られたし。
「もう言われたこと以外は何もしないで」って言われた。
だからぼくは、何もしない方がいいんだ。
「産まなければよかった」って言われた。
だからぼくは存在しない方がいいんだ。
きっと、生まれなければよかった。
そう思っていたときに、ぼくは死んだ。
多分、お母さんにやられちゃったのかな。
それとも、他の誰か?
どうでもよかった。
なんでもよかった。
育ててくれたのに、恩返しできなかった。
殺人犯にしてしまったことが申し訳なかった。
ぼくを産まなければ、お母さんはもっと楽しい生活を送れていたのだろう。
ごめんなさい。
こんな風に謝って、許してもらえたことなんて一度もなかったね。
そして、突然転生した。
昔憧れたあの世界に転生した。
奇跡だと思った。
それ以上に、また頑張らなくてはいけないのかと思った。
だけど、雪ちゃんに必要とされた。
ぼくと同じように、もともと世界には存在していない人だったけど、ついでだしこの際、もう一度死ぬ前に人助けをしてみるのもいいかな、と思った。
──心が、爽やかだった。
頼られたのは初めてだった。期待されたのは初めてだった。必要とされたのは初めてだった。望まれた結果を出せたのは初めてだった。家族に褒められたのは初めてだった。愛されたのは初めてだった。前を向けたのは初めてだった。存在理由を見つけたのは初めてだった。生きていていいと思えたのは初めてだった。
そこで気が付いた。
きっとぼくは、人を助けるために転生した。
きっとぼくは、人を助けるために生まれた。
家族を。
友人を。
隣人を。
赤の他人を。
助けるために。
ぼくを使って欲しい。それがぼくの存在意義だから。
そう思っていた。
ある時、時期としては、めだかちゃん達と出会う直前。
雪ちゃんが完全にぼくに身体を明け渡した。
「ぼくは周りの人に怖がられちゃうから」と言って、それ以降表に出てこなくなった。
違う。
違うよ。
違うんだ。
そうじゃない。
ぼくを置いていかないで。
ぼくをひとりにしないで。
寂しいよ。
怖いよ。
ぼくだけの人生に意味なんてないんだ。
誰かの人生の中にいるぼくに意味があるんだ。
ぼくを使ってよ。
一人じゃどうすればいいのか分からないよ。
分からなかったから、ぼくはいろんな所で助けを求めた。
めだかちゃんと善吉くんに。
安心院さんに。
お兄ちゃん──球磨川くんに。
遠すぎて、誰かも分からない人に。
ぼくはどう動けばいいのか、聞いて回った。
マイナス十三組の側に付いた時だって、ぼくは別にどっちに行ってもよかった。
だけど、望まれたから。
──こうやって、責任を擦りつける自分が嫌いだ。
力を持っても、技術を得ても。
結局ぼくは、何も変わっていなかった。
自分で動くのが怖くて前に進めない意気地無し。
そのくせその場に居続けると不安になる根性無し。
だからといって性格を改善することもしない能無し。
誰かにとっての何者かであろうとしたぼくは。
なんでもなかった。
なんにもなかった。
何者でもなかった。
何者にも、なれなかった。
筋書きを中途半端になぞり、中途半端に破る、中途半端な人間。
それがぼくだ。
やはりこっちの世界でも、ぼくは何も成し遂げられなかった。
むしろぼくが存在したせいで、筋書きはめちゃくちゃに拗れてしまった。
ぼくの助けなんてなくても、みんな立派に自立して、自分達で考えて行動していた。
自分が醜く見えた。
人助けに価値を見出すなんて、なんて醜悪なのだろう。
生徒会のみんなは、見返りなんて求めていなかった。
ぼくだけは、私利私欲で人助けをしていた。
醜い。
醜悪。
常々思っていた。
存在するべきではなかった。
虚無であれ、虚無となれ。
痕跡すら残さず消えていけ。
人々の記憶から失われていけ。
死ね。
死ね。
今すぐに死ね。
無価値。
無意味。
無駄の極み。
みんな、お前なんていなくても上手くやる。
自分のことすらできないくせに出しゃばるな。
お前の生きている価値は、もう存在しないのだから。
だから、まあ。
ぼくの人生を、言葉で言い表すのなら。
ぼくの世界は平凡だった。
ぼくの未来は退屈だった。
ぼくの現実は適当だった。
自分で何もしてこなかった。
他人に任せてばっかりだった。
生きる理由すらも他人任せ。
諦める理由すらも他人任せ。
だから、せめて最後くらいは。
華々しく、自決することにしたのでした。
以上、内心の吐露、終わり。
この心だけは、地獄の底まで持っていく。
これだけは、正真正銘、ぼくのものだから。
ぼくが自分で決めた、ぼくだけの心だから。
「禁止令──それって」
「ああ……俗に言うトラウマ・ブロックに似た物だ。幼少期の頃に得た経験などを基に、『存在するな』という風に思い込むことによって、自らを守るために作用する機能だよ」
「あはは、まあ、そうだね。多分正解だよ」
めだかくんの説明を受けて、雪ちゃんは諦めたように笑っていた。
「思い返せば、雪は初め、生徒会に入ることに乗り気ではなかったな。あれは『属するな』という禁止令か。あとは──『重要であるな』といったところか。雪……貴様、どうして」
「どうしてって言われてもね。私はそういう性格なんだよ。それじゃダメ?」
「ダメだ。納得できん。少なくとも、友人を見殺しにする理由にはならん」
「そうだよ! そういうことなら、わたし達に相談してくれれば……」
「ごめんね、もがなちゃん。私はそれでも、きっといつか自殺するよ。私自身がね、みんなに迷惑をかけ続けることを許せないんだ」
そんな風に雪ちゃんは宣う。ぼくは、胸を握り潰されたような感覚に陥りながら、その言葉を聞いた。
だって、この世界に存在していることが、雪ちゃんの苦しみなら。
雪ちゃんが苦しんでいるのは、あの子に頼ったぼくのせいだ。
ぼくが、弱かったから。
雪ちゃんが傷ついた。
ぼくは、その間なにしてた?
さっきまで、ぼくは。
雪ちゃんと戦えることを楽しんでた。
あんなに、苦しんでたのに?
──最低だ。
「雪さん、今からでも考え直せ。きっとお兄さんも──」
「悲しまないよ。悲しませない。私が自殺する時、『改稿斬昧』で全世界の人間から私の記憶を消すからね。今は安心院さんが全力で私を封印しているから、できないけど」
ぼく達の勝利条件は、雪ちゃんの自殺を阻止すること。逆に敗北の条件は、封印を解除する隙を与えること。
雪ちゃんは「却本作り」の理屈をしっかり理解しているから、時間をかければ解除できてしまうらしい。
それを安心院さんは、全力で抑えてる。だけどそれも時間の問題だそうだ。
「……私はきみの考え、気に入らないね。被害者ヅラしないでもらえない?」
「きみのその挑発が、実は私に対する優しさから来ていることも知ってるよ、鴎くん。きみは私に怒って欲しくて、そんなことを言っているんだよね」
もはや何を言っても暖簾に腕押しだ。あとはただ死ぬだけ、みたい諦めきった、やけにさっぱりとした顔して雪ちゃんは立ってる。
「……雪。本当にお前が死ぬつもりなら、俺達はお前のことを、死んでも止めなきゃいけねえ」
「善吉くんも、ごめんね。ここまで色々と大変だったでしょう。庶務戦の時は、散々斬ったりしちゃってごめんね。幻滅したよね」
「おい、雪」
「汚らしい死体を見せてごめんね。穢らわしい心で関わり合ってごめんね。でもこれからは、そういうこともなくなるから」
「雪!!」
「今までみんな、こんな私に優しくしてくれてありがとう! できれば私のことなんて忘れて、いっぱい幸せになってね! みんな大好きだよ!」
雪ちゃんが刀を振り回した。
なんでもないように。
遊んでるみたいに。
「ッ──善吉くんっ!!」
範囲内全部斬るスキル「打ち斬り」敵の体勢を斬り崩すスキル「危険体」先端から斬り裂くスキル「小手裂きの勝負」刀を盗み取るスキル「窃刀罪」全身くまなく斬るスキル「一視同刃」一振りの重さを二倍にするスキル「鍛冶場の馬鹿力」斬った相手が犯した罪の数だけ切断するスキル「人科千件あれば愛も地に堕ちる」斬ろうと考えた部位がいつの間にか斬れているスキル「刀行逆施」刀傷に病原菌を流し込むスキル「一寸裂けば病み」常に切れ味を最高の状態で保つスキル「初心に太刀返る」手で触れた刀身を瞬時に修復するスキル「元の鞘を手中に収める」先の先を取るスキル「先々恐々」過程を斬り落とすスキル「人の噂も一刀両断」刀の真価を引き出すスキル「刃事は棺を蓋わずとも定まる」窮地に陥ると刀の切れ味が増すスキル「剣が峰に仁王立ち」剣の動きを完璧に見定めるスキル「試剣官」斬撃がその場に留まり続けるスキル「虎は死して皮を留め人は死して傷を残す」斬撃に鎌鼬と雷電が追従するスキル「風刃雷刃」斬った物体が朽ち果てるスキル「腐れ縁は斬り離せず」攻撃を刀で受け流すスキル「細工は流刀仕上げを御覧じろ」急所を斬られたと錯覚させるスキル「寸断殺陣」刀身が燃えるスキル「発火傷」斬られた数だけ動きが鋭くなるスキル「斬って反省斬られて感謝」必ず鍔迫り合いに持ち込めるスキル「至れり鍔迫り」音の刃を放つスキル「斬響時間」相手に割腹を強要するスキル「腹を割って斬り離す」斬撃無効化のスキル「剣もほろろ」七刀流のスキル「七剣抜刀」ありえない斬り方をするスキル「剣士の一生は重荷を負うて今は無き道を斬り拓くが如し」斬れば斬るほど威力が上がるスキル「乱刀騒ぎ」刀に触れると勇気が湧くスキル「鼓舞道」攻撃権を持ち続けるスキル「基本的刃剣」斬り結んだ刀剣が持ち上がらなくなるスキル「上段抜き」最高の斬撃を繰り出すスキル「精神一刀何事か成らざらん」無闇矢鱈と斬りまくるスキル「斬虐」体内から斬るスキル「獅子心中の武士」悪感情の重みを刀に乗せるスキル「坊主憎けりゃ袈裟斬り」剣を引き寄せるスキル「剣引力」音を立てるように斬ると切れ味が上がるスキル「剣々諤々」傷からの出血を増やすスキル「裂き染め」斬った相手の冷静さを奪うスキル「堪忍袋の緒を斬り結ぶ」物理法則を斬るスキル「守破理」刀を受けた物体の経験値を減らすスキル「荒刀無稽古」光速で斬るスキル「電光切火」常識を斬るスキル「大根で正宗を斬る」声で斬り刻むスキル「言の刃」刀が薄くなってしなるスキル「剣先三寸」必ず斬撃が当たるスキル「見敵斬殺」全力を出し続けるスキル「死刀の果てに」何でも斬れるスキル「無想剣」
──危なかった。
あと少し善吉くんを呼ぶのが遅れていたら、全員やられてた。
「善吉くん! 怪我はない!?」
「──おう、なんとかな……雪が書き換えて治してくれてなきゃ、今頃やられてただろうけど」
「なるほど。これが安心院さんが言っていた善吉のスキルか。いやしかし……善吉。貴様は後で説教だ」
そりゃあそうでしょ。善吉くんの第二のスキル──「無盾」は、ぼくがいなかったらただの自殺スキルだ。
その効果は、範囲内の攻撃を全部引き受けるスキル。雪ちゃんの全体攻撃からみんなを守るためだけのスキルだ。
「愚行権」の影響を受けて何も持っていない善吉くんだからこそ、「無盾」で全てを守ることができる。
守る手段がないからこそ、守れる。
まさに矛盾。
攻撃された方にも精神的なダメージは残るというデメリットはあるけど、みんなこの程度でくたばるほど柔ではないし、これ以上のダメージを受けても余裕がある。
ただし、ぼくの腕が限界になって、「却説遣い」を使えなくなろうものなら、このスキルは死ぬためのスキルに早変わりする。
そうなれば、終わりだ。
「あれ、もしかして善吉くん、また成長したの?」
「まあな。それもこれも全部、お前を助けるためだ」
「ありがとう。嬉しいよ。だけどその努力は、もっと他の人に向けてあげて」
「ッ──! 俺はッ! お前に向かって話しかけてんだよ!!」
しかし、やはりと言うべきか、善吉くんの叫びは雪ちゃんの心には届いていないようだった。
「被りを気にして50個でダメなら、被りを恐れずにもっと増やせばいいでしょ。私のアイデアが尽きればみんなの勝ち、みんながダウンしたら私の勝ちだね」
大丈夫──惑わされるな。
安心院さんと戦った時は、50個が限度だったらしいから、今の雪ちゃんが使ってくるなら──。
多分、100個。
「それじゃ、行くよ! 私の人生最後の全力、ちゃんと見ててね!」
「善吉、雪、貴様達にかかっている。任せたぞ」
「くそっ……お前、マジで後で覚えとけよ……!」
めだかくんの言葉にぼく達二人は頷き、そうして阿久根くんと喜界島くん、鴎くんの方を見てアイコンタクトを取り──。
その時はやって来た。
心が清い者を燃やすスキル「勧善燃焼」毒にかかった気にさせるスキル「毒所懐」二度燃やすスキル「再火葬」相手の隙を逃さないスキル「隙こそ物の上手なれ」限界を見誤らせるスキル「偽装天蓋」心底驚かせるスキル「二階から目潰し」無数の氷を射出するスキル「組織氷」怪我をでっち上げるスキル「被害空想」運次第で攻撃を防ぐスキル「賽攻砕」戦いが好きになるスキル「戦争欲」愚かであるほど強くなるスキル「愚人礼賛」触れた物質を融かすスキル「融解犯」代謝を操作するスキル「自己汗血」存在感を薄くするスキル「潜入観」調子を上げさせないスキル「不愉快痛快」地面に刺した刀から放電するスキル「剣土重雷」攻撃する相手を間違えるスキル「攻防にも腕の誤り」数段飛ばしで強化するスキル「破階層」言葉で銃撃するスキル「言論弾幕」基礎だけ忘れるスキル「初心忘るる」攻撃を見逃さないスキル「避陰者」真剣味が欠けるスキル「軽口喧嘩」物事がごく稀に矛盾するスキル「爆発率」独りよがりのスキル「好敵勝手」大量に取り立てるスキル「過剰接収」既視感偽造のスキル「いつか見た気味」ひとりぼっちのスキル「孤独壇場」斬る場所を設定するスキル「刀走経路」険悪になるスキル「無礼行」前後不覚に陥るスキル「上を向いて歩こう」偽物で誤魔化すスキル「仮鳥風月」考えすぎのスキル「弄弄解誤」見る物全てが新鮮なスキル「旅は未知連れ」際限無しに増殖するスキル「億万兆者」勝手に体を入れ替えるスキル「転身乱満」瞬時に百回斬るスキル「百切附刀」機械に置き換えるスキル「機機械械」手首を刈り取るスキル「拍手伐採」聞く耳を持たないスキル「お前の事情なんて知らない」無駄に脱力させるスキル「過消力」なんでも刺し貫くスキル「傷刺全般」反撃を受けないスキル「八方塞ぎ込み」気づいた時には捕まっているスキル「元の黙網」音速の矢を放つスキル「口音矢の如し」弾道が予測できないスキル「螺旋怪弾」やりすぎるスキル「喧嘩越」怪我の治りが遅くなるスキル「後遺傷」全員気絶するスキル「玉石昏倒」石頭のスキル「頭垂れ石を砕く」腕だけ斬り離すスキル「無い腕は振れない」
水で斬るスキル「水霧」視線を斬るスキル「それは既に見斬った」集中を斬るスキル「仕斬り直し」回転しながら斬るスキル「斬り斬り舞い」何度でも張り切るスキル「斬った貼った」焼き斬るスキル「焼き討ち首」しょうがなく斬るスキル「未必の殺意」思いを断ち切るスキル「誠に斬念ながら」筋肉を斬るスキル「腹筋を割く」中途半端に斬るスキル「端切者」斬り傷が広がって全身斬るスキル「生傷が断絶しない」声を斬るスキル「声斬性」光を斬るスキル「斬光」派手な装飾とともに斬るスキル「豪華剣乱」攻撃の間を斬るスキル「間斬れもなく」斬り傷を黄金に変化させながら斬るスキル「手斬れ金」骨まで斬るスキル「斬骨剣」心を斬るスキル「斬心の構え」時間を斬るスキル「斬間時穏」一般常識を斬るスキル「異常式」表皮を斬らずに真皮だけ斬るスキル「裏斬り者」動きを止めずに最後まで斬るスキル「動体死力」原子を斬るスキル「分断原子」噛み斬るスキル「刃口噛密」ゆっくり斬るスキル「鈍ら刀」人の願いを斬るスキル「切実な」視線の動きで斬るスキル「鋭い眼光」刀身を伸ばして斬るスキル「伸刃一如」足首を斬るスキル「悪脚非道」手首を斬るスキル「斬手刑」臓器を斬るスキル「肝刃要」刀剣の峰で斬るスキル「ざっくばらん」物質の硬さに関係なく斬るスキル「斬るも斬らぬも」距離を無視して斬るスキル「一閃光年」触れたものを斬るスキル「勝手に斬れた」血飛沫で斬るスキル「血刀罪」斬れるわけがない所を斬るスキル「不透明な斬り傷」斬らなくていい所を斬るスキル「お切開」左右で同じ場所を斬るスキル「左右対傷」どう動いても斬るスキル「引いて駄目なら押してみな」何でも刀にして斬るスキル「諸々刃の剣」指に力を溜めて斬るスキル「溜指斬り」轟音と共に斬るスキル「閃刀機」自動で斬るスキル「無心経」残像で斬るスキル「斬軌無限」背後を斬るスキル「斬る影もない」空気で斬るスキル「刀気圧」悲鳴で斬るスキル「金斬り声」捻じ斬るスキル「捻斬れ者」次元ごと斬るスキル「紙千斬り」
剣を操るスキル「剣刀使」槍を操るスキル「槍力戦」斧を操るスキル「斧装勢力」盾を操るスキル「盾備に抜かり無し」弓を操るスキル「翔弓疾」炎を操るスキル「炎中模索」水を操るスキル「水側の域を出ない」雷を操るスキル「雷火前線」光を操るスキル「机上の光論」闇を操るスキル「闇身を飼う」銃を操るスキル「銃は弓よりも強し」杖を操るスキル「自動操杖」槌を操るスキル「槌加重撃」鎌を操るスキル「鎌よ鎌よも裂きのうち」拳を操るスキル「拳力を握る」人を操るスキル「人生操談」物を操るスキル「物操な世の中」心を操るスキル「信ずる者は掬われる」体を操るスキル「憎体言語」無を操るスキル「無手空拳」植物を操るスキル「木々たちはどう生きるか」大地を操るスキル「地属器官」岩石を操るスキル「石の礫」金属を操るスキル「鉄筋精財」毒素を操るスキル「毒身貴族」引力を操るスキル「蛮勇引力」斥力を操るスキル「あいつの隣の席は嫌だ」重力を操るスキル「動超圧力」摩擦力を操るスキル「袖擦り合うも他生の愛縁」弾性力を操るスキル「爪弾きもの」魂を操るスキル「怨霊注意」神秘を操るスキル「神美眼」権力を操るスキル「独りぼっち」機械を操るスキル「機械全知」空想を操るスキル「きっと明日こそは」血を操るスキル「血操を変える」肉を操るスキル「肉稀口」骨を操るスキル「一目散骨」臓器を操るスキル「反行臓器」意識を操るスキル「本当に使えない」視覚を操るスキル「見て見て効いて」聴覚を操るスキル「聴亜音速」触覚を操るスキル「触指が動かない」嗅覚を操るスキル「嗅死に一生」痛覚を操るスキル「痛れり突くせり」数を操るスキル「数砕度」世界を操るスキル「あれもこれも欲しい」時を操るスキル「時折柄」空間を操るスキル「逢わせ鏡」命を操るスキル「命隷権」
普遍的な攻撃のスキル「普平普満」一方的な攻撃のスキル「不攻勢」技巧的な攻撃のスキル「達人の業」効果的な攻撃のスキル「弱り目に効き目」猟奇的な攻撃のスキル「無惨無惨」決定的な攻撃のスキル「断決力」革新的な攻撃のスキル「全刃未到」高圧的な攻撃のスキル「頭誤無」典型的な攻撃のスキル「何度も見た」周期的な攻撃のスキル「攻周回」奇跡的な攻撃のスキル「奇跡の一枚」受動的な攻撃のスキル「跡責め」間接的な攻撃のスキル「業武委託」対照的な攻撃のスキル「逆裏見」破滅的な攻撃のスキル「後は荒野となれ剣山となれ」流動的な攻撃のスキル「千剣万火」恣意的な攻撃のスキル「まだ足りない」抽象的な攻撃のスキル「曖昧猛攻」直線的な攻撃のスキル「全速斬進」曲線的な攻撃のスキル「曲がりなりにも」感覚的な攻撃のスキル「怪我した気がする」努力的な攻撃のスキル「罅の積み重ね」積極的な攻撃のスキル「攻機進旺盛」近代的な攻撃のスキル「細菌の論理」古典的な攻撃のスキル「古代攻刻」未来的な攻撃のスキル「流光最先端」発展的な攻撃のスキル「発想の展換」圧倒的な攻撃のスキル「蹂躙徒色」偶発的な攻撃のスキル「偶然の産業廃棄物」副次的な攻撃のスキル「奴隷は幾度刺す」芸術的な攻撃のスキル「美力ながらも」多元的な攻撃のスキル「味方を変えれば」機械的な攻撃のスキル「機爆装置」義務的な攻撃のスキル「君と戦いたくない」暴力的な攻撃のスキル「暴戦一方」殺人的な攻撃のスキル「殺試合」精神的な攻撃のスキル「断交する」実験的な攻撃のスキル「物は試し」挑発的な攻撃のスキル「口発挑」瞬間的な攻撃のスキル「見閲禁止」好意的な攻撃のスキル「愛の教鞭」道徳的な攻撃のスキル「慟哭倫理」徹底的な攻撃のスキル「徹底好戦」計画的な攻撃のスキル「黄泉通り」野生的な攻撃のスキル「爪銃桿」露悪的な攻撃のスキル「悪く思うな」運命的な攻撃のスキル「天に身を任せ」永続的な攻撃のスキル「永銃剣」虚無的な攻撃のスキル「放棄星」致命的な攻撃のスキル「死向の玉座」
「──げぽっ」
──読み違えた。
聞いてない。数が多い。捌ききれない。むしろぼくと、善吉くんと、めだかくんが捌かれた。
ぼくのせいだ。100個の時点でもう次はないと思って気を抜いた。そのせいで次のスキルに対応しきれなかった。
もう間に合わないと判断して、ぼくは「却説遣い」で善吉くんの「無盾」と同じようなことができるようにぼく自身を書き換えた。
しかしそれでも対応できず、すかさずめだかくんが「完成」で「無盾」をコピー。そこまでやって、なんとか凌ぎ切ることには成功した。
だけど、凌ぐ事しかできなかった。喜界島くん、阿久根くん、鴎くんに伝わった精神的ダメージの肩代わりまではできていないから、三人はもう動けないし、ぼく達三人は傷が付いていないところを探す方が難しい。
もう一つの誤算。ぼくが思ったより打たれ弱かったこと。
今までぼくは、攻撃を受ける前提で戦ったことなんてなかった。全部弾くか避けるかしてきたから、
言い訳だ。
醜い、言い訳だ。
「──これで私の勝ち。そろそろ封印の解除も終わるし……よし、ピッタリ終わり!! これでおわかれ、だね」
「……雪、話を、聞け……!!」
めだかくんが乱神モードを使って回復しながら、雪ちゃんにそう語りかける。しかしもう聞く耳を持っていないようだった。
「聞かないというのなら、無理やり──」
しかしめだかくんは一番念入りにやられていた。なんとか足を踏み出そうとしたけど、直後に転けちゃった。
雪ちゃんが刀を首筋に突きつける。とてもいい笑顔で。
──これで、お別れなの?
こんな終わり方なの?
こんなに、呆気なく?
まだやりたいことがいっぱいあるよ。
一緒に学校行事を回ろうよ。
一緒に色々な場所に行こうよ。
一緒に遊んで回ったりしようよ。
一緒に美味しいものを食べようよ。
──置いて、いかないでよ。
ぼくの女々しい感情は、雪ちゃんには伝わらない。
ぼくを助けてくれる人は、もういない。
雪ちゃんの体に、刀が刺さるのを見ている事しかできなかった。
「──だれか、たすけて……」
いつかのように、誰かに助けを求めたぼく。
だけど、その声は虚しく、空を斬って。
──ざくり、と。
体を貫く音がした。
──雪の体には、刀ではなく。
巨大なマイナス螺子が刺さっていた。
『や、久しぶり、雪ちゃん。元気だったかい?』
「──おにい、ちゃん?」
負完全は、妹を見捨てない。