TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 ド寝坊かまして今日で終わらせる予定が一日後回しになりました。




第64箱「私が話したら」

 

 

『──ここまで全部、きみの筋(・)書(・)き(・)通(・)り(・)かい?』

 

「おや、どうしてそう思うのかな。僕はこれでも誠心誠意──」

 

『すっとぼけんなよ。完(・)治(・)な(・)ん(・)て(・)し(・)て(・)な(・)い(・)く(・)せ(・)に(・)』

 

「バレてた? まあこんな嘘に騙される方が阿呆ってやつさ。それより球磨川くん、可愛い妹を助けなくていいのかい? なんだか大変なことになってるけど」

 

『どうせそれも予想済みなんだろ。そうやって僕を煽って、やる気を無くして帰らせようとしている』

 

「どうだろうね。僕のことだから、案外善意でアプローチをかけているかも──ッ!?」

 

『──そんなに僕達のことを登場人物(キャラクター)だと思っているのなら、見せつけてあげるよ。最低の人格(キャラクター)を』

 

「おいおい、イラついたからって女の子の頭をぶん殴るなんて──行かれちゃったか……ふう。完(・)治(・)し(・)て(・)な(・)い(・)フ(・)リ(・)も疲れるよ。こうでもしないと、球磨川くんってば本当に何もしなさそうだったからねえ」

 

 ま、せいぜい頑張れよ、甘ちゃんめ。

 

 


 

 

 雪(ゆき)の胸に、マイナス螺子が──「却本作り(ブックメーカー)」が螺子込まれる。

 

 勝利目前での再拘束。全く予想していなかった球磨川禊の登場。普段と変わりないへらへらとした笑み。

 

 見慣れているはずなのに、なぜだかそれが、ひどく不気味に感じられた。

 

『や、久しぶり、雪(ゆき)ちゃん。元気だったかい?』

 

「──おにい、ちゃん?」

 

『うん、お兄ちゃんだよー。正真正銘、本物の球磨川禊さ。ところで雪(ゆき)ちゃん、派手にやったねえ。まさかめだかちゃんすらもダウンさせるとは、さすが僕の自慢の妹だ』

 

 禊は未だ呆気に取られている生徒会の面々+鴎を見ながらそう言った。普段と変わらない調子で、飄々として。

 

「……お兄ちゃん、どうして、ここに」

 

『ど(・)う(・)し(・)て(・)? ちょっと待っておくれよ雪(ゆき)ちゃん! まさか言うに事欠いて、僕がここにいる理由が分からないって言うのかい!?』

 

「えっと、いやっ! そうじゃなくて!」

 

『違くないなら嘘なんか吐かないでよ』

 

 ぐるん、と擬音がしそうな程に、気持ち悪い動きで振り向いた禊は雪(ゆき)に二(・)本(・)目(・)の(・)「却本作り(ブックメーカー)」を(・)螺(・)子(・)込(・)ん(・)だ(・)。

 

「ぁがっ──まっ、待って! お兄ちゃん待って! もう嘘は吐かないから!」

 

『そう? それならいいんだ、僕は嘘ってやつがこの世で一番嫌いでね、嘘を吐かれると頭に血が上っちまうのさ』

 

 明らかな嘘だ。しかし今の雪(ゆき)には、それにわざわざツッコむ気力なんて残っていない。

 

 二本の「却本作り(ブックメーカー)」は、それほどまでに強力だ。

 

『ところで雪(ゆき)ちゃん、僕達のことを生(・)ま(・)れ(・)る(・)前(・)か(・)ら(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)んだってね。安心院(あんしんいん)さんがそう言っていたけど、あれって本当なの?』

 

「……えっと、それは、そうだけど……」

 

『そうだけど?』

 

 禊が雪(ゆき)の顔を覗き込む。瞳には何も映っていないような気がした。

 

「っ、そうだけど! あれがあったからこそ、私は今まで生きる理由を──」

 

『生(・)き(・)る(・)理(・)由(・)ね。随分と大層な言葉を使ったもんだけど──それ、そんなに必要?』

 

「──え?」

 

『だってさ、考えてもみなよ。「生きる理由」って要するに、自(・)分(・)を(・)型(・)に(・)は(・)め(・)る(・)言(・)葉(・)でしょ。自分の価値を定めた負け犬の遠吠えだ』

 

 禊はへらへらと笑う。

 

 嘲り笑う。

 

『おめでとう雪(ゆき)ちゃん! や(・)っ(・)と(・)負(・)け(・)犬(・)の(・)世(・)界(・)へ(・)来(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)ね(・)! きみもようやくこっち側になったようで嬉しいよ』

 

「なっ、負け……私は! そういうつもりで『生きる理由』って言葉を──」

 

『それじゃあ一体どういうつもりなのかな』

 

 禊は三本目の「却本作り(ブックメーカー)」を螺子込んだ。

 

「っ、ぉ……」

 

『「生きる理由」だとか「死にたい理由」だとか、そんな言葉を大して不幸でもないくせに使うな』

 

 禊は四本目の「却本作り(ブックメーカー)」を螺子込んだ。

 

『きみは生存競争という勝負事から逃げているだけだよ。その点雪(ゆき)ちゃんは過負荷(マイナス)以下だね、だからさっきの言葉は訂正するよ』

 

「えぅっ、げほっ……そんな、ことは」

 

『いいやあるね。過負荷(マイナス)は勝負から逃げない。勝ち負けは別として、だけどね。その点雪(ゆき)ちゃん、果たしてきみはどうなのかな』

 

 ここまでのことをしているのに、禊の表情には一切の変化がなかった。少なくとも、妹に対する態度ではない。

 

 雪(ゆき)がこ(・)こ(・)ま(・)で(・)の悪意(マイナス)を浴びたのは、前世を合わせたとしても初めてのことだった。

 

『いつまでそうやって逃げ続けるんだい? 僕達人(・)間(・)は争わなければ生きていけないんだから、いつかは立ち向かわなきゃいけねえんだぜ』

 

「でも、もう私は、責任とか、そういうのには疲れちゃって……」

 

『へーえ。さっきまで「生きる理由」とか言ってた割に、随分しょうもないこと言うんだね』

 

「なっ──!?」

 

 言葉の端々から滲み出す悪意が教室に充満していく。雪(ゆき)は、心を見透かされているような気分になった。

 

 自らがいかに小さい人間であるかの証明を延々と聞かされ続けるのは、もはや拷問と言って差し支えない。

 

 言葉尻を取られ、揚げ足を取られ。ありとあらゆる発言を悪意のフィルターに通して解釈されるのは、どうやら思っていたよりも苦痛であったらしく、雪(ゆき)は目に見えて怒りを滲ませ始めた。

 

「ッ、おっ……お兄ちゃんに! 一体私の何が」

 

『聞いてないから分かるわけないじゃん。そういう言葉は分かってもらう努力をしてから言えよ』

 

 禊は雪(ゆき)の言葉を遮ってそう語る。まるで正論を──実際正論を言っているのだが、隠そうともしない悪意のせいで台無しだった。

 

『なんだっけ──禁止令? 他人にくっつかないと生きていけない菌糸類の雪(ゆき)ちゃんにしては面白いこと言うね。よかったじゃん、死ぬ理由にするにはちょうどいい言葉があって』

 

「──ッ!! こ、のっ……!!」

 

 雪(ゆき)は「却本作り(ブックメーカー)」を外そうともがく。しかし安心院(あじむ)なじみですら解除に三年かかった封印が、そう簡単に解けるはずもない。

 

 それどころか、むしろ。時(・)間(・)を(・)か(・)け(・)る(・)ご(・)と(・)に(・)封(・)印(・)は(・)強(・)固(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)い(・)く(・)有様であった。

 

「うぅぅ……なんで……!」

 

『な(・)ん(・)で(・)って、そりゃあそうさ。僕だって可愛い妹を虐めたりしたくはないんだぜ? だけどほら、その妹が死ぬというのなら、お兄ちゃんの僕はそれを止めなきゃいけない。死んででも──』

 

 禊は雪(ゆき)の手を慈しむように持った。そして、自らの手を、雪(ゆき)の指の方へと滑らせていき──。

 

 

『殺(・)し(・)て(・)で(・)も(・)』

 

 

 

 

そのまま指を、反対方向に螺子曲げた。

 

 

 

 

 雪(ゆき)の体温が下がる。それなのに汗が出た。果たして正常な呼吸が出来ているのか、それすらも雪(ゆき)には分からない。

 

「ひ、ぃっ……いた、痛(いだ)いぃ……!」

 

『えぇっ!? どうしたんだい雪(ゆき)ちゃんその怪我は! ちょっと見せてみなさい、僕が治して』

 

「やめてっ!!」

 

 雪(ゆき)は咄嗟に手を引き、禊から逃げるように離れた。しかしそれをみすみす見逃す禊ではなかった。

 

 いつだったか、黒神真黒や阿久根高貴に対して行(おこな)ったように、ずいと顔を寄せて近づいた。

 

『どうして僕を避けるのかな、僕らは頭に螺子を螺子込んだ仲じゃないか。忘れちゃったのかい? 悲しいなあ、寂しいなあ』

 

「どっ、どうして! どうしてここまで酷いことを、そんな簡単に──」

 

『僕って昔からこうだけど。生まれてから今まで、僕がこ(・)の(・)ス(・)タ(・)ン(・)ス(・)を崩したことなんてなかったよね。というか「どうしてここまで酷いことを」って──きみが言えたことじゃないでしょ』

 

 禊は雪(ゆき)の肩を掴んでぐいっと引っ張り、先ほど雪(ゆき)自身が作り出した惨状を無理矢理目の当たりにさせられた。

 

『これを見ても、まだそんなことが言えるのかい? 嬉々として大手を振って刀を振っていたのに、自分がやられたら被害者振るわけ?』

 

「そんな、そんなつもりじゃ」

 

『どういう腹づもりだったのかは知らないけど、それにしたって雪(そそぎ)ちゃんをあそこまで傷だらけにするのは違うでしょ。家族に対して取る仕打ちじゃないよね』

 

「……お兄ちゃんだって──」

 

『大切な妹を傷つけた奴を、親愛なるライバルを傷付けた奴を、こんな僕のことを慕ってくれていた後輩達を傷付けたやつを、今(・)の(・)僕(・)が(・)許(・)す(・)だ(・)な(・)ん(・)て(・)思(・)わ(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)だ(・)』

 

 禊は五本目の「却本作り(ブックメーカー)」──ではなく、至(・)っ(・)て(・)普(・)通(・)の(・)螺(・)子(・)を(・)螺(・)子(・)込(・)ん(・)だ(・)。

 

「がッ!?」

 

『妹だったら攻撃されないと思った? 自分がこのままタダで死ねると思った? 甘えよ。』

 

「……ごめん、なさい。もうしま──」

 

『今更謝られても困るなあ。謝るだけで許されるなら警察はいらないぜ? それに、その甘さは僕好みじゃない』

 

 体が血に染まる。死なない程度に、死にたくなる程度に、雪(ゆき)の体に螺子が突き刺さる。

 

「やめて……お兄ちゃん……」

 

『ところで雪(ゆき)ちゃん、僕達はこ(・)れ(・)で(・)も(・)僕達なりに一生懸命考えて生きてるんだぜ? それなのに、考えなしに人生を斬り変えられると困るんだよね』

 

「…………ごめんなさい、許して、もうやめて……」

 

『神様ごっこは楽しかったかな? 偶然手に入れた力を思う存分振り回すのは気持ちよかった? 僕達のことを上から目線で見下して、自分の好きに扱うのは面白かった?』

 

「…………」

 

『黙ってないでさ、もっとお話しようぜ? 僕は怒ってるんじゃなくて理由を聞いてるだけなんだから』

 

「──私が話したら、許してくれる……?」

 

『知らねえよ。僕に聞かれても困る。だって、僕は当事者じゃない──だから』

 

 


 

 

 その言葉を皮切りに、突如として雪(ゆき)の体の怪我が完(・)治(・)した。

 

『「大嘘憑き(オールフィクション)」。雪(ゆき)ちゃんの怪我を、そして……全員の怪我を、なかったことにした。』

 

 禊の背後には──黒神めだかと、人吉善吉が。

 

 そして雪(ゆき)の背後には、球磨川雪(そそぎ)が立っていた。

 

「めだか、ちゃん? それに、善吉くんも……」

 

『雪(ゆき)ちゃん、きみが謝るべきは僕じゃない。きみが傷付けた全ての人間だ』

 

「……いいの?」

 

『僕はきみを一生許さないよ。何があっても、絶対に許さない。僕の数少ない宝物である妹を奪おうとした罪は重いからね──その代わりに、きみも、きみを傷つけた兄を……僕のことを、どうか許さないでほしい』

 

「……うん。分かったよ、お兄ちゃん」

 

 ──最後の戦いは幕を閉じた。

 

 ここからの話は、全て後日談でしかない。

 

 






 なんか球磨川くんが乱暴してるけどちゃんと理由があります。
 それと、次回で黒神めだかの後継者編は終わりです。

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