漆黒の花嫁衣裳編です。
最初は飛ばし気味で行きます。
第66箱「幸せになる前に」
「奴らだ! 奴らが現れたぞ! 野球部に甚大な被害! たった二人に三軍から一軍までの試合、全てでコールド負けを喰らいました!」
「サッカー部はより悲惨です! 一軍チームが90分で200点取られてます!!」
「馬鹿な! 奴らは時の流れを操れるというのか!?」
「こちらバスケ部、ありえません! こちらの得点がなぜかマイナスだし、奴らの得点は4桁目に突入しています!! 我々は一体奴らに何をされたのですか!?」
「一体何なんだ奴らは! 超人か!? 化物か!? いや違う! 奴らは、奴らは……!」
「……と、いうことらしいよ、善吉くん──人吉生徒会長」
うーん、何というかこの呼び方、慣れないなあ。前までは対等な立場だったから気安く名前で呼び合えたけど、今となってはそういうわけにもいかないよね。
「……あのなあ、
「あ、そう? それじゃあ遠慮なく善吉くんと呼ばせてもらうけど……どうする? あの
「まあ一応、クレームが来てるわけだし……無駄だとは思うけど言っておくか。それと
「うん、バッチリ伝えておいたよ。
だって、あの二人は。
めだかくんと、
やっとぼく達と同じ、
「おや、たったの牛6頭豚4頭でギブアップか。意外と少食だな、
「んなこと言われてもこっちは胃袋が小さいんだよ、めだかちゃん……!」
というわけで食堂からどうも、球磨川
いやー、自由っていいね! 生徒会は辞めたし、ここ最近はやりたいことを全部やることにしているんだけど、その過程でめだかちゃんとかち合うことが多いんだよね、何でだろ?
おかげさまで、めだかちゃんとはすっかりライバル的な関係に落ち着いてしまった。野球やサッカーでどちらが多く点を取れるか勝負したり、今みたいに大食い対決をしたり。
ま、一度だって勝てたことはないんだけどね。たまに惜しいところまで行ったりもするけど、大抵の場合は逆転されて負けちゃう。
今回──大食い勝負はボロ負けだった。「
「私はまだ腹が減っているから、もう少しだけ食べようかな──米良先輩! 牛と豚を三頭ずつ追加お願いします!」
「どこが
めだかちゃん、食べ盛りが過ぎるなあ。見てるだけで私は戻しちゃいそうだし涙が出そうだよ、絶対にそんなことしないけど。
いやしかし、それにしても……会長の任期中は願掛けで肉断ちしていたらしいけど、それであの頑強さだったとはたまげたね。
──まあ、
でもこの知識に頼りっきりになるのはもうやめたんだ! 辛くても怖くても、自分で考えることだけはやめないって、みんなと約束したからね!
そういうわけで、私こと球磨川
「ってことで、鴎くん。水取ってきてくれない? お腹たぷたぷでもう動けなくって」
実は隣に鴎くん座ってたんだよね。
クリスマス以降、鴎くんともちょくちょく遊びに行ったりしてるんだよね。ほら、私って話合わせるの得意だからさ、向こうも遠慮なく話しやすいみたい。
「お前……本当遠慮なくなったよね。もっと遠回しに言ってくれないと、大人な私としては困っちゃうんだけど」
「遠回しより最短距離の方がいいじゃん! めんどくさいの、本当に嫌いなんだよね〜。ま、遠回りこそが最短の近道とも言うけれど」
「あんたも
そんないきなりツンデレみたいなことを言われても。
……ありがとね。
水を取りに行ってくれてた鴎くんが帰ってきた後、すぐにめだかちゃんは鴎くんのお父さん──
黒神家の跡取りとして、めだかちゃんには七人の婚約者が
それらの婚約者達は黒神家の七つの分家から選ばれた者であり、
ここまではあくまでも前座。
ここから先が、梟博士が死んだ理由の説明。
ことが起こったのは三年前──めだかちゃんの中学進学を受けて、梟博士を含む七人の婚約者が一堂に会することとなった。
その宴の名は「漆黒宴」。
黒神になるということは、世界に冠たるということ。普通であれば血で血を洗う、醜い争いになるはずだった。
しかし優勝者であった梟博士だけは、当時中学生だっためだかちゃんのことを、妻ではなく娘として愛してくれた。だというのに、ほどなく何者かに殺害されてしまった。
……
何だかスッキリしたような顔をしていたけど、めだかちゃんはまだまだ語り足りないことがあるらしく、場所を変えて話を続けようとしていた──ところで。
さっきからご飯を作ってくれていた孤呑ちゃんと飯塚くんの方を向くと、そこにはうさみみスク水で槍を持ち、二人を血まみれにして、調理済みの肉を喰っている侵入者の姿が──。
──ある、
しかし知っている以上、そうはさせねーよ。
飯塚くんと米良くんの二人を、突き刺そうとしている槍を持つ手を私は掴んだ。思っていたよりも簡単に止まったけど、しかし……何だろうな。やけに自信満々だ。
めだかちゃん達もようやく侵入者に気がついたようで(私も知識がなければ気付かなかっただろうけど)、あからさまに動揺し、敵意を向けていた。
ついでに飯塚くんと孤呑ちゃんは「
「……まあ落ち着いてくださいよ。別に侵略戦争しに来たわけでもないので安心してください」
「音もなく私達の背後を取るとは……貴様、一体何者だ?」
「私ですか? 名乗るほどのものではありませんが……ま、勿体ぶるほどの者でもありません。私は月氷会の
武器子ちゃんはニヤリと笑いながらそう言った。それにしても、そうだな。スク水にうさぎコスはキャラ濃すぎない?
名前だってそうだ。武器を個人で所有している武器庫、だから武器子。名は体を表すって言うけど、それにしたって表しすぎだ。
総じて、嫌いじゃない。
悪くない。
「球磨川
「そういうことね。それじゃあ……はい、豚一頭どうぞ。飯塚くんと孤呑ちゃん渾身のお肉だから、味わって食べてね」
「……なるほど、これはなかなか──まるで
まあ、流石に私のことを調査くらいはしてるか。基本先回りしたい(と思っている)こともバレてるらしい。バレたところで何も問題ないけどね。
ただ……私が
「……貴様、
「あー、めだ姉……月氷会って何? 私だって名前は知ってるけど、もしかしてこいつらが漆黒宴の主催?」
「うむ、月氷会とは『月下氷人会』の略──そして月下氷人とは言うまでもなく、『仲人』を意味する四字熟語だ」
「そっか、漆黒宴って一応は結婚式扱いなのか。だったら仲人が必要だよね」
私は知らないふりをしてそう呟く。もうこういうムーブに意味はないし、やる必要もないんだけど、なんか癖になっちゃってさ。
めだかちゃん曰く、月氷会は
非効率だからこその楽しみとか、そういうのもあるでしょうよ。
「……私新入りなので、三年前のことはよく知らないんですけど──今日はまさにその漆黒宴のことでお邪魔しました。ぱんぱかぱーん!
「なっ……第二回、だと!? ふざけるなよ、貴様達は梟博士の死から何も学んでいないのか……!?」
めだかちゃんは拳を握り込みながら、飛び出したい気持ちを抑えているかのようにやや前傾の姿勢になった。以前のめだかちゃんなら、即座に飛び出していただろうなあ。
「……私が口を挟むことでもないと思うけど、大人として口を酸っぱくして言わせてもらおうかな。第二回と言っても、参加する面子って結局は以前私の父親に負けた人達だよね? そんな敗者復活戦みたいな結婚を取り持つって、果たしていい仲人と言えるのかな?」
「弟くん……」
「そうだそうだ! やーいポンコツ! スク水ウサ耳破廉恥女ー!!」
「……ゆっきー、ちょっと黙ってて……」
鴎くんに怒られちゃった。ちなみにゆっきーってのは私のあだ名ね。んふふ、いいでしょ。
「ポンコツでも破廉恥でも、お好きに呼んでくださいよ。私別に、あなたに興味があるとかではないので──それと、前回の敗者六人も全員死んでるので心配無用ですよ、お構いなく☆」
「なっ……!? っ、は……!?」
うん、そりゃあ困惑するよな。無理矢理決まった婚約者候補だけど、それなりに面識はあるわけで。一応は見知った仲だった人達が六人まとめて死んでることが発覚するとか、流石にめだかちゃんでも驚く。
「というわけで前回の参加者全員死亡をもって、綺麗さっぱり後腐れなくリセット! 我々月氷会はそれぞれの家から
「……ということは、きみはめだ姉やゆっきーじゃなくて、むしろ私に会いにきたってわけ? 鶴喰家の隠し子である私に」
「ええ、そうですね、そうなりますね。人を幸せにするために、世界を発展させるために、
武器子ちゃんはそう言いながら漆黒宴の招待状を鴎くんに渡し、それを鴎くんが受け取ったのをしっかりと確認してから、再び離れていった。
……私の間合いから離れるために、わざと大きく動いたな。
「ところで黒神さん、確か……『何も学んでいないのか』、でしたっけ? いえいえ、私達も流石に反省しましてね。優勝者が殺害されるような『事故』大事件は二度と起きてはいけないものです」
ちょっと見過ごせないから斬ったけど……人が殺されたのにわざわざ「事故」なんて言い方しなくてもいいじゃんね。意地悪うさぎめ。
「故に今回は漆黒宴終了後、年齢差・法律に縛られず即座に結婚式を執り行いたいと思います──つまり、黒神めだかさん。宴が終わればあなたには学園を辞めて、
「……そうか、なるほど、まあ私はあくまで
「まさか不満はありませんよね? 黒神家の人間としてその程度の覚悟はあるはずですし、人死にを避けたいのはあなたも同じでしょうし」
「ああ、不満などあろうはずがない。うぶなねんねでもあるまいし、二十になったら家庭に入るという約束が、たかが四年早まるだけのことだ」
めだかちゃんは静かに語った。
これまでの十六年、実家の恩恵をたっぷり
黒神グループを大きくすることは大切だから家同士の繋がりは不可欠だし、自分で相手を選ぶような贅沢が許されるとは思っていないこと。
今の箱庭学園には不安要素はないし、後を任せられるものがたくさんいること。だから、これから先は社会人としてより多くの人を幸せにしていくのに異論はないこと。
そして、それらを全て飲み込んだ上で。
めだかちゃんは薄く微笑みながら、見知らぬ人間との婚約を明確に拒絶した。そして、私の方を向きながら、確かにこう言ったのだった。
「
言われなくても。
つーわけで、友達に信じられちゃった。親友に頼られちゃった。それなら、
差し当たって、武器子ちゃんの槍をぶっ壊そうと思うけど……意外とあの人強いんだよなあ。私が止めなければ、飯塚くんと孤呑ちゃんを音もなく仕留められるくらいには。
──相手が強いなら。真正面から相手するのは悪手。だから
笑え、笑え。
親友に、かっこいいとこ見せてやる。
『ところでさ、その結婚式って披露宴はあるの?』
「ッ!?」
私がお兄ちゃんのモノマネをしながら、
「……生憎ですがね、披露宴なんかやってる間に殺人沙汰になったりしたら困るんですよ。だから──」
『えー!? 私はめだかちゃんの友人代表としてスピーチをしたいんだけど……まさかそれもさせてくれないの? 漆黒宴って思ったよりもちゃちい宴なんだね! 器小さーい』
とりあえず
「……兎洞武器子、だったか。生憎私は友と青春を謳歌するので精一杯でな。しかし、もしも仮に私の
「なっ、めだ姉……それって!」
「ああ、心配するなよ弟くん。婚約者なんぞ一人残らず蹴散らしてやる。私は未だ青春中、恋に恋して、親交を深めたいお年頃なのだ──それに、貴様別に私と結婚したくないだろう?」
「いや、そりゃまあそうなんだけど……!」
んふふ、強気に出るねえめだかちゃん。やっぱりあの子はそうじゃなくっちゃ……これなら、武器子ちゃんも認めるしかないだろう。だってめだかちゃんは、
「……そこまでして、学園に残りたいんですか? あなた、幸せになりたくないんですか!?」
「私は幸せになる前に、まず
……よしっ、これで掴みは上々だね! あとは、そうだな。めだかちゃんに助けてって言われたから、私もついていこーっと。
「ふう。と言うわけで武器子ちゃん、私もついて行っていい? 友人代表として」
「……あなたは、連れてこないでくれと上から言われているんですよ。だから何があっても──」
「このスク水斬り取って丸裸にしてやろうか」
「──上の人間に、確認してみます……」
それで良いんだよそれで。よーし、それじゃあ気を取り直して頑張るか!
──
というわけで、着いて行くのは
前みたいに一件落着まで毎日投稿とはいきませんが、出来るだけやってみます。
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