TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 今までが長すぎたので短く感じるかもしれませんが、今回は5,000文字です。普通ですね。




第69箱「いざ尋常に」

 

 

「剣道ってのはね、ある種ス(・)ポ(・)ー(・)ツ(・)的(・)な(・)要素を持つ武道なんだよ。バラバラで全くの別物になっちゃった流派だとかを、一つのルールに落とし込んで、みんなで研鑽して……だから、きみみたいに独自の流派を扱うってのは難しいことなんだよ、贄波くん」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「ぼくは剣道家で、きみは剣術家──で合ってるかな? 合ってるよね。その間は近いようで、その実正反対だったりするんだぜ。だって、剣道は敬意をもってやるものなのに、剣術は殺(・)意(・)を(・)突(・)き(・)詰(・)め(・)る(・)ものなんだから。ぼくは剣術少し齧っただけだから、その辺曖昧だけどね。異論はある?」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「ないってことでいいのかな。それじゃあ話の続きだよ。流派によってまちまちだけれど、やっぱり人身を斬ることを目的とした剣術は見切りやすいよね。防げるかどうかは別として──ほら、薩摩の示現流の蜻蛉の構えとか、かなり分かりやすいじゃない」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「ああいう風に、剣術はどうしても殺意が見え隠れするんだよ。自分から踏み込んで、相手を殺す気概を持って危害を加えるわけだ。ただね、一端の剣道家であるぼくから言わせてもらえば、やはり剣術と剣道の相性は悪いよ」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「だってさ、ぼくは別に殺(・)し(・)合(・)い(・)を(・)し(・)て(・)る(・)わ(・)け(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)んだもん。殺そうとしてるのはきみの方だけ。だからぼくは見(・)て(・)か(・)ら(・)刀を返して技を返せばいい。とんだ独り相撲だよね、扱うのは刀だけれど」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「そうそう、刀といえば──なんだっけ、七刀流の死地天抜刀だっけ? びっくりしたよ、いきなり手ぇ刺すんだもの。しかも六本も……大丈夫だった? 治ってないようなら治してあげるけど」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「大丈夫そうだね。結局治る傷と治らない傷の違いは分からなかったけど……まあいいや、当たんなきゃ意味ないし。斬ったものは治らないし、なんかいつまで経っても船(・)も(・)沈(・)ま(・)な(・)い(・)し……不思議な能力だねえ」

 

 贄波くんは何も答えない。

 

「『却説遣い(ブックマーカー)』が何故か効果を成さないから、ぼくとしても心苦しかったけど、こうしなくちゃいけなかったんだよ。ごめんね? でも、先に善吉くんに酷いことしたのはそっちだから、ぼくは悪くないよね」

 

 贄波くんは何も答えない。

 その代わりに、後ろで見ていた名瀬くんが突然話しかけてきた。

 

「雪(そそぎ)、そ(・)ろ(・)そ(・)ろ(・)だ。一旦離れろ」

 

「ん、ありがとう名瀬くん──それじゃ、仕(・)切(・)り(・)直(・)し(・)といこうか」

 

 ぼくは名瀬くんの言葉に従って血(・)ま(・)み(・)れ(・)で(・)う(・)つ(・)伏(・)せ(・)に(・)倒(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)贄波くんから離れた。

 

「……ぼくもさ、手加減とかはしてないんだよ。だからしっかり怪我もしてるだろうし、痛いものは痛いと思うんだけど」

 

「『痛いものは痛い』? いいや、それは違うよ球磨川雪(そそぎ)──痛くない。だ(・)か(・)ら(・)、痛くない。」

 

「はあ……もう4(・)回(・)目(・)だよこのくだり。そろそろ大人しく倒されて欲しいんだけど」

 

 直後、無(・)傷(・)の(・)贄波くんはゆらゆらとおぼつかない感じで立ち上がり、刀を構えた。だけどやっぱり、最初ほどの綺麗さではないなあ。

 

「……斬(・)る(・)。お前だけは、絶対に斬る」

 

「一回でも当ててから言いなよ。弱く見えるぜ?」

 

「──斬るッ!!」

 

 挑発もしてみる……けど、あんまり効果はない。贄波くん、その辺はすごいしっかりしてるんだよ。見習わなきゃね。

 

 七刀流ではなく、普通の一刀流で贄波くんは迫ってくる。頭に血が上っているというわけではないだろうけど、しかしそれでも読み易い。

 

「足狙い、首狙い、顔狙い──陰険道が一周回って馬鹿正直になっちゃってるよ」

 

「る斬!」

 

 おっと、危ない危ない……たまーにガード不可の斬撃が来るのがヤバいな。気を抜いたらすぐにやられちゃうよ。

 

「る斬る斬斬るる斬斬る斬るる斬る斬る斬る斬る斬る斬斬る斬るる斬る斬斬るる斬斬る斬るる斬る斬る斬」

 

 首狙いガード不可足狙いガード可首狙いガード可腹狙いガード不可膝狙いガード可腕狙いガード不可──んふっ、んふふ……楽しいなこれ。

 

 今まで使ってない神経を使ってる感覚だ。脳の裏が熱い。生きててよかった、剣道やっててよかった! だってほら、こんなに楽しいんだもん!

 

 っ、と……違う違う、楽(・)し(・)む(・)だ(・)け(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)ダ(・)メ(・)だ(・)よ(・)な(・)。

 楽しめるけど、真剣にならなきゃね。

 

「でもっ、まだまだぁッ!!」

 

「ッ……ぐぅっ!?」

 

 それでも、ぼくはなんだか楽しくなっちゃって、大声を出しながら贄波くんに向かって思い切り刀を振り下ろした。上段から思い切り行ったので、反射でガードした贄波くんの刀はへし折れている。

 

 そのままの勢いで、刀が贄波くんの肩あたりからするりと入っていく。さっきまでも散々やっていたことだけど、よくよく考えると女の子にやることじゃないよね。

 

 今ぼくの目の前にいるのは一人の剣士だから、そんなこといちいち気にしないけどね。それに、どうせ斬り捨てたとしても──。

 

「痛くない。だ(・)か(・)ら(・)、痛くない。」

 

 ほらね、またすぐに復活してくる。根性半端ねー、ぼくならあそこまではやらないかなあ。

 

 いやはや、それにしても……る(・)斬(・)と斬(・)る(・)かあ。十中八九ここがタ(・)ネ(・)だろ。普段から周りにキャラ濃い人が多すぎて気付かなかったけど、「るきるき」って何? って話だしね。

 

 斬る、る斬……それ以外にも、「だから」ってのが気になるな。「痛くない。だ(・)か(・)ら(・)、痛くない」って、別にだ(・)か(・)ら(・)で繋げる必要はなくない?

 

 ……探ってみるか。

 

「あのさあ、ぼくとしてはさっさと終わらせて、善吉くんの怪我とぶった斬られたヘリを書き変えて治したいんだよね。そろそろ諦めてくれない?」

 

「治す? い(・)い(・)や(・)無(・)理(・)だ(・)ね(・)、だって私が斬ったんだ、治るわけがない──だ(・)か(・)ら(・)、治らない。」

 

「……ふ〜〜ん、あっそう。それならそれで、別のやり方を探すだけだけどね」

 

 確定かな。だ(・)か(・)ら(・)という言葉がカギになるっぽい。物事の状態を確定させる能力と見ていいだろう。

 

 痛くないのだから、順(・)当(・)に(・)考(・)え(・)れ(・)ば(・)怪我をしているはずがない。

 

 斬痕が即座に治るわけがないのだから、順(・)当(・)に(・)考(・)え(・)れ(・)ば(・)治せるはずがない。

 

 どうやら贄波くんは言葉を──順(・)接(・)を使うらしい。それだと最初に船とヘリをぶった斬ったことに説明がつかないけど……まあ能力が二(・)つ(・)あ(・)る(・)とかでしょ。逆説とかかな?

 

 ほら、刀だと絶対に斬れない物体だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)斬れる、みたいな。「斬る」を逆(・)に(・)し(・)て(・)「る斬」……みたいな。まあこっちはほとんど使ってないだろうし放っておこう。

 

「……名瀬くん、どう? もしかしてだけど、もう分(・)か(・)っ(・)た(・)?」

 

「おう、そりゃあもうバッチリだぜ。つーかむしろ、ここまでヒントを出されて外す方が難しいだろうがよー」

 

「そうなのですか?」

 

「えーっと……うん?」

 

 江迎くんと鰐塚くんはまだ分かってない感じかな? まあでも、実際戦ってみないと難しいかもな。しゃーない、推理披露といこうか。

 

「贄波くん、ぼくはきみの能力を順接・逆説を使うものと推理したんだけど、どうだろう」

 

「……そうだね、正解だよ。私の言葉(スタイル)は順・逆接使い……で? 分かったから何か変わるのかな。バレたってことは、隠(・)さ(・)な(・)く(・)て(・)も(・)い(・)い(・)って意味だけど」

 

「そんなに凄まないでよ、ハ(・)ッ(・)タ(・)リ(・)効(・)か(・)せ(・)た(・)い(・)で(・)す(・)って言ってるみたいに見えちゃうぜ? 嘘ってのはもっとさらっと吐かないと」

 

 だ(・)か(・)ら(・)勝(・)て(・)る(・)とか、だ(・)か(・)ら(・)攻(・)撃(・)が(・)当(・)た(・)ら(・)な(・)い(・)とか、そういうのを使ってこない時点でお察しだ。きっと使えない理由があるんだろう。

 

「そうでしょう、贄波くん? 大方きみがイメージできることしか『だ(・)か(・)ら(・)』で接続できないとか、そういう感じで」

 

「……面白い推理だったよ、小説家にでもなったらどうかな──そして、それを聞いた上で。それでも私は、それを否(・)定(・)す(・)る(・)よ(・)」

 

 ……あれ? いや、そうでもないと説明が付かないんだけどな。でも贄波くん、強がってるようには見えないし……まさかわ(・)ざ(・)と(・)言葉(スタイル)使(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)わけでもないだろうし──。

 

「不思議で仕方ない、って顔をしてるけど……おい、球磨川雪(そそぎ)。お前今何年生?」

 

「えっ? えっと、高校一年生だけど……それがどうかしたの?」

 

「それじゃあ私が二年先輩ってことだな。敬え、後輩ちゃん」

 

「えっと、はい……?」

 

 うーん、どうしたんだいきなり……というか、18歳なんだ贄波くん……いやまあ、よく見たら制服着てるから、ぼくが気づかなかっただけなんだけど。

 

「私が言葉(スタイル)を使わない理由、剣士として一流のお前に教えてやる──なんでか分かる?」

 

「……そんなの、使用するのに条件があるからなんじゃ……」

 

「違うな、全然違う。お前、それでよく人(・)間(・)や(・)れ(・)て(・)る(・)な(・)。いい友達を持ったこと、感謝しなよ」

 

 なんなんだよいきなりこいつは。人格否定? まっすぐ育った自覚はないけど、他人に貶される謂(いわ)れはないよ。

 

「後輩ちゃん、お前本当に私(・)を(・)人(・)と(・)し(・)て(・)見(・)て(・)る(・)か(・)? そこでお前の戦いを観戦してる人吉善吉を傷付けたからって、私が先にお前達に攻撃したからって、明(・)確(・)に(・)敵(・)と(・)見(・)な(・)す(・)の(・)は(・)ま(・)だ(・)早(・)い(・)んじゃないの」

 

「でも、実際問題きみは敵でしょう。さっきだって、めだかくんを追いかけるやつを斬る係だって、そう自己紹介してたじゃん」

 

「はあ? あんなの信じてたの? 信じられなーい、もっと私の内心を読んでよ、内面を読んでよ」

 

 こ、こいつ……なんで真剣な顔してこんなこと言えるんだよ!? ギャグなの!? 本気なの!? すっごく分かりづらいんだけど!!

 

「──結局、何が言いたいのかな。こうして喋って時間稼ぎでもしようってんなら、今すぐ斬り伏せるだけだけど」

 

「……結局のところ、私が言いたかったのなんてたったの一言なんだよ。さっきまで散々斬(・)ら(・)れ(・)た(・)のもそのために必要なことだったしね──」

 

 贄波くんはそう言うと、先程までとは比べ物にならない威圧感で構え直した。気を衒(てら)ったことなんて一つもせず、妙な動きをするでもなく──剣道の中段の構えを取った。

 

 ──なるほどな、ここからが贄波くんの真骨頂──小細工抜きの全力というわけだ。

 

「黒神めだかを追いかけて来た奴をる斬係の私は、さっきまでの斬り合いで殺された。だから今ここにいるのは、た(・)だ(・)の(・)剣(・)士(・)の(・)贄波生煮だ」

 

「…………ははっ」

 

 ……なんだよ畜生、そういうことかよ。

 

 散々斬りまくってたぼくが馬鹿みたいじゃないか。それならそうと、はっきり言えばいいのに──いや、はっきり言うためには、斬られなきゃいけなかったのかな。

 

 その辺り、難しいところだけれど。

 悪くない。

 

「剣の道に名を連ねるものとして、一度お前と戦ってみたかった。私がここに残ったのは、実際のところ、そんな女々しい感情によるものだよ」

 

 言葉(スタイル)を必要以上に使わなかったのは、きっと使(・)い(・)た(・)く(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)。きっと贄波くんは、ぼくと真正面から、正(・)々(・)堂(・)々(・)戦(・)い(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)。

 

 ──ああ、嬉しいなあ。こんなに嬉しいことがあっていいのかな。贄波くんはきっと、ぼくのことを認めてくれているんだ。剣士として、これに勝る喜びはない。

 

「だ(・)か(・)ら(・)、私と戦って欲しい。正々堂々、真正面から、小細工抜きで、真剣勝負をして欲しい。」

 

 なんだよ、真っ直ぐじゃん。さっき不意打ちをかました奴と同じだとは思えない──どころか、むしろぼくなんかより、よっぽど剣(・)士(・)じゃん。

 

 はあ。しょうがないな、一回だけだよ?

 

「箱庭学園第百代生徒会執行部第二庶務職 球磨川雪(そそぎ)。」

 

「黒神めだかの婚約者その5 贄波家代表 贄波生煮。いざ、尋常に──」

 

 

「勝負。」

 

 

 ぼくと贄波くんは、守りを捨てて飛び出した。

 

 


 

 

 ぼくと贄波くんの勝負の結果を、わざわざ語るような野暮なことはしない。なんというか、あれは誰にも渡したくなかった。

 

 教えたくもないし、伝えたくもない。ぼくと贄波くんだけの公然の秘密ということにしておきたかった。我ながら、子供っぽいとは思うけどね。だけど、譲れない。

 

 ただ……そうだな。一つだけ言えることがあるとするならば。

 

 贄波くんがただの剣士だと宣言するまで、ぼくは贄波くんのことを疑っていた。どうせ言葉(スタイル)を使って不意打ちしてくるだろうって。

 

 だけど、そんなことはなかった。それどころか、自分のアドバンテージを捨ててまで、ぼくとの真剣勝負を選んでくれた。

 

 剣士としての腕では、間違いなくぼくの勝ちだ。だけど、人(・)間(・)の(・)出(・)来(・)では、きっと贄(・)波(・)く(・)ん(・)の(・)方(・)が(・)上(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 つまるところ、ぼくが何を言いたいのかなんて、きっと分かりきっているだろうけれど、しかしそれでも、これだけは言わせて欲しい。

 

 

 

 

 

──また、勝てなかった。

 

 

 

 

 






 贄波ちゃん、すっげー勝手に動く……なんかいきなり正々堂々し始めたので、もうそのまま突っ切ることにしました。
さらっと言葉(スタイル)が増えてますが気にしないでください。

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