今までが長すぎたので短く感じるかもしれませんが、今回は5,000文字です。普通ですね。
「剣道ってのはね、ある種
贄波くんは何も答えない。
「ぼくは剣道家で、きみは剣術家──で合ってるかな? 合ってるよね。その間は近いようで、その実正反対だったりするんだぜ。だって、剣道は敬意をもってやるものなのに、剣術は
贄波くんは何も答えない。
「ないってことでいいのかな。それじゃあ話の続きだよ。流派によってまちまちだけれど、やっぱり人身を斬ることを目的とした剣術は見切りやすいよね。防げるかどうかは別として──ほら、薩摩の示現流の蜻蛉の構えとか、かなり分かりやすいじゃない」
贄波くんは何も答えない。
「ああいう風に、剣術はどうしても殺意が見え隠れするんだよ。自分から踏み込んで、相手を殺す気概を持って危害を加えるわけだ。ただね、一端の剣道家であるぼくから言わせてもらえば、やはり剣術と剣道の相性は悪いよ」
贄波くんは何も答えない。
「だってさ、ぼくは別に
贄波くんは何も答えない。
「そうそう、刀といえば──なんだっけ、七刀流の死地天抜刀だっけ? びっくりしたよ、いきなり手ぇ刺すんだもの。しかも六本も……大丈夫だった? 治ってないようなら治してあげるけど」
贄波くんは何も答えない。
「大丈夫そうだね。結局治る傷と治らない傷の違いは分からなかったけど……まあいいや、当たんなきゃ意味ないし。斬ったものは治らないし、なんかいつまで経っても
贄波くんは何も答えない。
「『
贄波くんは何も答えない。
その代わりに、後ろで見ていた名瀬くんが突然話しかけてきた。
「
「ん、ありがとう名瀬くん──それじゃ、
ぼくは名瀬くんの言葉に従って
「……ぼくもさ、手加減とかはしてないんだよ。だからしっかり怪我もしてるだろうし、痛いものは痛いと思うんだけど」
「『痛いものは痛い』? いいや、それは違うよ球磨川
「はあ……もう
直後、
「……
「一回でも当ててから言いなよ。弱く見えるぜ?」
「──斬るッ!!」
挑発もしてみる……けど、あんまり効果はない。贄波くん、その辺はすごいしっかりしてるんだよ。見習わなきゃね。
七刀流ではなく、普通の一刀流で贄波くんは迫ってくる。頭に血が上っているというわけではないだろうけど、しかしそれでも読み易い。
「足狙い、首狙い、顔狙い──陰険道が一周回って馬鹿正直になっちゃってるよ」
「る斬!」
おっと、危ない危ない……たまーにガード不可の斬撃が来るのがヤバいな。気を抜いたらすぐにやられちゃうよ。
「る斬る斬斬るる斬斬る斬るる斬る斬る斬る斬る斬る斬斬る斬るる斬る斬斬るる斬斬る斬るる斬る斬る斬」
首狙いガード不可足狙いガード可首狙いガード可腹狙いガード不可膝狙いガード可腕狙いガード不可──んふっ、んふふ……楽しいなこれ。
今まで使ってない神経を使ってる感覚だ。脳の裏が熱い。生きててよかった、剣道やっててよかった! だってほら、こんなに楽しいんだもん!
っ、と……違う違う、
楽しめるけど、真剣にならなきゃね。
「でもっ、まだまだぁッ!!」
「ッ……ぐぅっ!?」
それでも、ぼくはなんだか楽しくなっちゃって、大声を出しながら贄波くんに向かって思い切り刀を振り下ろした。上段から思い切り行ったので、反射でガードした贄波くんの刀はへし折れている。
そのままの勢いで、刀が贄波くんの肩あたりからするりと入っていく。さっきまでも散々やっていたことだけど、よくよく考えると女の子にやることじゃないよね。
今ぼくの目の前にいるのは一人の剣士だから、そんなこといちいち気にしないけどね。それに、どうせ斬り捨てたとしても──。
「痛くない。
ほらね、またすぐに復活してくる。根性半端ねー、ぼくならあそこまではやらないかなあ。
いやはや、それにしても……
斬る、る斬……それ以外にも、「だから」ってのが気になるな。「痛くない。
……探ってみるか。
「あのさあ、ぼくとしてはさっさと終わらせて、善吉くんの怪我とぶった斬られたヘリを書き変えて治したいんだよね。そろそろ諦めてくれない?」
「治す?
「……ふ〜〜ん、あっそう。それならそれで、別のやり方を探すだけだけどね」
確定かな。
痛くないのだから、
斬痕が即座に治るわけがないのだから、
どうやら贄波くんは言葉を──
ほら、刀だと絶対に斬れない物体
「……名瀬くん、どう? もしかしてだけど、もう
「おう、そりゃあもうバッチリだぜ。つーかむしろ、ここまでヒントを出されて外す方が難しいだろうがよー」
「そうなのですか?」
「えーっと……うん?」
江迎くんと鰐塚くんはまだ分かってない感じかな? まあでも、実際戦ってみないと難しいかもな。しゃーない、推理披露といこうか。
「贄波くん、ぼくはきみの能力を順接・逆説を使うものと推理したんだけど、どうだろう」
「……そうだね、正解だよ。私の
「そんなに凄まないでよ、
「そうでしょう、贄波くん? 大方きみがイメージできることしか『
「……面白い推理だったよ、小説家にでもなったらどうかな──そして、それを聞いた上で。それでも私は、それを
……あれ? いや、そうでもないと説明が付かないんだけどな。でも贄波くん、強がってるようには見えないし……まさか
「不思議で仕方ない、って顔をしてるけど……おい、球磨川
「えっ? えっと、高校一年生だけど……それがどうかしたの?」
「それじゃあ私が二年先輩ってことだな。敬え、後輩ちゃん」
「えっと、はい……?」
うーん、どうしたんだいきなり……というか、18歳なんだ贄波くん……いやまあ、よく見たら制服着てるから、ぼくが気づかなかっただけなんだけど。
「私が
「……そんなの、使用するのに条件があるからなんじゃ……」
「違うな、全然違う。お前、それでよく
なんなんだよいきなりこいつは。人格否定? まっすぐ育った自覚はないけど、他人に貶される
「後輩ちゃん、お前本当に
「でも、実際問題きみは敵でしょう。さっきだって、めだかくんを追いかけるやつを斬る係だって、そう自己紹介してたじゃん」
「はあ? あんなの信じてたの? 信じられなーい、もっと私の内心を読んでよ、内面を読んでよ」
こ、こいつ……なんで真剣な顔してこんなこと言えるんだよ!? ギャグなの!? 本気なの!? すっごく分かりづらいんだけど!!
「──結局、何が言いたいのかな。こうして喋って時間稼ぎでもしようってんなら、今すぐ斬り伏せるだけだけど」
「……結局のところ、私が言いたかったのなんてたったの一言なんだよ。さっきまで散々
贄波くんはそう言うと、先程までとは比べ物にならない威圧感で構え直した。気を
──なるほどな、ここからが贄波くんの真骨頂──小細工抜きの全力というわけだ。
「黒神めだかを追いかけて来た奴をる斬係の私は、さっきまでの斬り合いで殺された。だから今ここにいるのは、
「…………ははっ」
……なんだよ畜生、そういうことかよ。
散々斬りまくってたぼくが馬鹿みたいじゃないか。それならそうと、はっきり言えばいいのに──いや、はっきり言うためには、斬られなきゃいけなかったのかな。
その辺り、難しいところだけれど。
悪くない。
「剣の道に名を連ねるものとして、一度お前と戦ってみたかった。私がここに残ったのは、実際のところ、そんな女々しい感情によるものだよ」
──ああ、嬉しいなあ。こんなに嬉しいことがあっていいのかな。贄波くんはきっと、ぼくのことを認めてくれているんだ。剣士として、これに勝る喜びはない。
「
なんだよ、真っ直ぐじゃん。さっき不意打ちをかました奴と同じだとは思えない──どころか、むしろぼくなんかより、よっぽど
はあ。しょうがないな、一回だけだよ?
「箱庭学園第百代生徒会執行部第二庶務職 球磨川
「黒神めだかの婚約者その5 贄波家代表 贄波生煮。いざ、尋常に──」
ぼくと贄波くんは、守りを捨てて飛び出した。
ぼくと贄波くんの勝負の結果を、わざわざ語るような野暮なことはしない。なんというか、あれは誰にも渡したくなかった。
教えたくもないし、伝えたくもない。ぼくと贄波くんだけの公然の秘密ということにしておきたかった。我ながら、子供っぽいとは思うけどね。だけど、譲れない。
ただ……そうだな。一つだけ言えることがあるとするならば。
贄波くんがただの剣士だと宣言するまで、ぼくは贄波くんのことを疑っていた。どうせ
だけど、そんなことはなかった。それどころか、自分のアドバンテージを捨ててまで、ぼくとの真剣勝負を選んでくれた。
剣士としての腕では、間違いなくぼくの勝ちだ。だけど、
つまるところ、ぼくが何を言いたいのかなんて、きっと分かりきっているだろうけれど、しかしそれでも、これだけは言わせて欲しい。
贄波ちゃん、すっげー勝手に動く……なんかいきなり正々堂々し始めたので、もうそのまま突っ切ることにしました。
さらっと
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