TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

74 / 95


 叶野戦、まだ続きます。




第72箱「ネタを変えるしか」

 

 

 俺は再び氷絶(アイスタンク)を身に纏い、()()()()()()()()()、叶野へ向かって突進する。

 

「ほほ、またその雅な鎧どすか。ほんま心が痛みますわ! そんな格好ええもんを何度も砕くなんて!

 

 案の定、というよりも思い通りに、叶野は俺に向かって()()個の()礫を投げてきやがった。このままだったら鎧は砕かれ、さっきの二の舞になるだけだろうな。

 

 が、しかし。俺は先ほどいつの間にか握っていた石を()()()()()()()だ。推測が正しければ、この鎧は砕かれない。

 

「安心しな、肉体はどーか知らねーけど、お前の心はもう痛まねえ……?」

 

 ──なんだ? 予想通り、石礫がぶつかっても鎧は砕けなかったが……()()()()()()()……どころか、もうぶっ倒れてんじゃん、俺。

 

 まさか三つ目? いや、流石にそりゃあ無えだろ。安心院(あんしんいん)さんや(ゆき)の奴ならまだしも、一人の人間が三つも言葉(スタイル)を持っててたまるかっつーの。

 

「ほほ、随分とお疲れみたいやわ。さっきまであんなにいい威勢やったのになあ、もう動けんのやない?」

 

 叶野は意地の悪い笑みを浮かべながら、そんなことを口にしやがった。しかも同時に体は余計に怠くなるし、このままじゃ俺は動けねえ。

 

 ま、そんなことは俺にとって、大した問題じゃねーんだけど。

 

「……うるせーな、そんなことよりもあんた、大事なことを一つ忘れてんじゃねーのかよ」

 

「はて、なんのことやろ? 悪足掻き時間稼ぎは大いに結構やけども、そんなことしなはるなら」

 

「あー、違う違う。いやまあ、時間稼ぎっつーのは大正解なんだけどよ……俺は別に動かないでもスキルが使えるんだぜ。距離取ったからって、動けないからって、俺のことを()()()()だ」

 

 俺はそう言い、()()()()()「火めくり」……シンプルな火球を生成した。俺の読みが正しいのかどうかが、これではっきりする。

 

 そして、数瞬の後──叶野は「火めくり」を()()()()。かき消すのではなく、打ち消すのでもなく……額に冷や汗を滲ませながら、確かに回避した。

 

 まず一つ目はクリアだ。そして今から、()()()()()()

 

「……叶野、お前は『漢字を使っている』な?」

 

「……面白い読みやねえ、確かに説得力はあるわあ。小説家にでもなりはったら──」

 

OK、それが()()なんだな

 

 俺は最大火力の「業火絢爛」……火のドームを作る技を使って、叶野の周辺の水を()()として、奴を囲った。

 

「火っていうのはよー、周囲の温度を()()()()()()んだわ。つまりお前は今、少しでも息を吸おうもんなら──喉が焼ける

 

 俺の予想では、二つ目の言葉(スタイル)喋れなければ使えない。やたらと皮肉たっぷりにお話ししてくれた辺り、これは間違いないはずだ。

 

 戦闘中に皮肉を使って相手を煽るのは、よっぽどの理由がないとする必要がねーからな。理由なくやってんなら、そいつはただの救いようがないバカだ。

 

「……ま、お前はそうなったらそうなったで、一つ目の言葉(スタイル)を使うだけなんだろうがよ」

 

「あの……名瀬先輩。俺たち、何が何だか分からないんですけど、説明してもらってもいいですか……?」

 

「んー? なんだよ善ちゃん、お前分からなかったわけ? かーっ、しょうがない会長サンだぜ全くよー。まあしょうがねーから詳しいところまで説明してやるけど」

 

(本当に根はいい人だなこの先輩……)

 

 なーんか変なこと考えてやがるな。まあいいや、どうやら(そそぎ)の奴も言葉(スタイル)に興味津々らしいし、分かりやすく説明してやるとしよう。

 

「叶野遂はな、()()()使()()()()。例えばさっき、石礫で俺の『氷絶(アイスタンク)』を砕いただろ? あの時に投げてた石、よくよく数えてみると()()()だったんだよな。右手で九個、左手で十個。虎居ちゃん、『九』と『十』と『石』で、果たして何ができるかな?」

 

「……(くだく)、ですよね。それが一体……って、まさか!?」

 

「まあそーいうことだよ。俺の皮膚を切り刻んだのは『石』で『皮』を(やぶる)ってことだし、『哀炎気炎』を少しの水で掻き消したのだって、『炎』を『(みず)』で(あわく)しただけなんだよ」

 

「つまり『漢字を使う』っていうのは、文字通りに意味を表現するための漢字を使って、自由自在に組み合わせて……意味の方を変えちゃうってこと!?

 

 江迎も中々読解力が上がってきたじゃねーの。次からは自分で気付けるようになれよな、お前も生徒会のメンバーなんだから。まあそれは全員に言えることだけどよ。

 

「いや、しかし名瀬先輩。氷が一瞬で解けたのは? あれは一体、何の漢字を組み合わせて……」

 

「あー、あれな。『氷点下』だよ。『氷』から『点』が『下』りれば、ただの『水』だ」

 

「……そ、そういうのもありなの?」

 

「へー、言葉(スタイル)って奥が深いんだねえ、生煮くん」

 

「奥が深い? おいおい後輩ちゃん、こんなもんで言葉(スタイル)の底を覗いたつもりになってんじゃないよ。むしろ()()()()()なんだから」

 

 ……なんで贄波の奴が先輩風吹かせてんだ。そんでもって(そそぎ)もどうしてそんなに懐いてるんだよ。やっぱあれか? 剣道やってる人間同士、通じちまうところがあんのか?

 

 (そそぎ)が何かやらかすとな、球磨川の旦那から俺に対して苦情が入るんだよ。『監督不行届なんじゃないの?』とか言ってな。そんなに心配ならてめーが付きっきりでいりゃあいいだろーが。

 

「っと、そんなこと考えてる場合じゃねーな……あーしんど、立つのがやっとだぜまったくよー」

 

「名瀬せんぱい、先程から随分とお疲れのようですが……どうしたんですか? まさか『凍る火柱(アイスファイア)』の発動には体力を消費するとか……?」

 

「あーいや、そういうわけじゃねーのよ。これはただ、叶野の()()()言葉(スタイル)にしてやられたってだけでさ」

 

 俺はなんとか立ち上がりながら、鰐塚の質問にそう答える。あー、だる。言葉(スタイル)の性質の割には直接的に効果が出るのが納得いかねーんだよな。

 

 いや、それも含めての()()()なのか?

 

「二つ目って、贄波くんの『順接』と『逆説』みたいに使い分けてる、ってことだよね。『漢字』と、あとは……わざとらしかったし、大人か子供に関連すると思うんだけど」

 

「いーや、そいつが違うんだよ(そそぎ)。大人だの子供だの、あまりにもわざとらしかったから、俺もてっきりそうかと思ってたんだが……さっき()()()()()()()()()ことで違うと確信したぜ」

 

 思い返せば、俺がやけに子供っぽくなった──変な失敗をするようになったのだって、俺が叶野に()()()()と言った直後。

 

「うちが大人の魅力に溢れとるゆうことやろ?」と、あいつがそう返してきたからだ。直後に、俺からは大人っぽさの一切が消滅した。

 

「考えて察するに、叶野遂が使用する二つ目の言葉(スタイル)は──皮肉使い』。皮肉を相手に投げかけることによって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()言葉(スタイル)だ」

 

「じゃ、じゃあ……突然名瀬先輩の体が切り刻まれたのは、『漢字使い』と『皮肉使い』の合わせ技だったと……そういうことですか?」

 

「まーそうだろうな。『石にも気付かんくらい頑丈』ってのがそうだったんだろ……実際に俺の肌はその直後、突如として出現した石に、頑丈とはまったく()()の存在みたいに傷付けられたんだから」

 

見事どすこれは皮肉やなくて本音やから、安心しいな

 

「ッ!? あいつ、どうしてまだ……!?」

 

 突如として俺達の会話に割り込んできたのは……まあ当然ながら、叶野遂その人だった。

 

 ……ま、一応復活してくる予想はしといたけどよー。まさか()()()も使えるとはな。しかしそれにしたって、()()()()()()()()ってのはどういうことだ?

 

「『業火絢爛』、やったっけ? そんなに漢字を使ったらあきまへんえ──『火』と『業』で(かん)』。燃料やった水は、とっくのとうに乾いてはりますわ」

 

 常用漢字外でも行けるのかよこいつ、とんでもねー応用範囲じゃねーか。

 

「『漢字使い』の方は的中みてーだな。ま、これに関してはさっき説明した通りだがよ」

 

「せやね。うちは『漢字使い』の叶野遂。婚約者(うちら)六人の中で、最も応用が幅広い女や。ほんまええ読みやったわ……せやけどうちの漢度は、こっから先が難読どすえ」

 

「はいはいそうですね。で、俺は二つ目の言葉(スタイル)、つまりは『皮肉使い』の方に、お前が火傷していない理由があると読んだんだが……どうだ?」

 

「『皮肉使い』? ほほ、そんな品のないことせえへんわ。うちは『皮肉使い』やのうて建前使いどす。火傷した部分は『うちの肌荒れててなあ』言うて、()()()()()謙遜したら、見ての通り綺麗さっぱりやわ」

 

 あくまで()()と言い張るのも皮肉の一種か。建前っつーのはつまり、相手の何かしらに不満がある時、それとなく使うもんだからな。

 

「つまりお前は、二つの言葉(スタイル)を、さながら建前と本音のように使い分ける……()()()()()()()っつー認識で合ってるんだよな?」

 

「ほほ、まあうちの事をどう認識しはっても構わんけどな──あんたはん、()()()()()()()? そんなに嬉しそうに()()()()()()()()──」

 

 叶野はそう言うと、俺に向かって、まるであっかんべをするように舌を出した。舌の上に書かれている漢字は、漢字の「漢」でもなく、皮肉の「皮」ですらなく、ましてや建前の「建」でさえなく──。

 

 

 

 

 

 

 (いやみ)」。

 

 

 

 

 

 

()()を変えるしか無いやんか。」

 

 

「……お前、本当にいい性格してんな……」

 

「そらどうも、ありがとさん。よう言われるわあ」

 

 ──どうやら俺は、致命的に選択を失敗したらしかった。

 

 






 叶野戦、まだまだ続きます。
 一体いつまで続くのか。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。