TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 叶野戦、ラストです。
 X(旧Twitter)でふざけてやった企画のせいで、5月中にあと140,000文字書かなければいけなくなったので頑張ります。




第73箱「俺はあいつの」

 

 

「あー、ほんまに嫌やわあ。最近の子供ゆうんは、目(・)上(・)の(・)人(・)間(・)を(・)立(・)て(・)る(・)ことを知らへんのやろか?」

 

「嫌」と書かれた舌を見せたまま、叶野は俺に向かってそう言った。明らかな変化、皮(・)肉(・)から嫌(・)味(・)へのシフト。それに気付かない俺じゃねえ。

 

 が、しかし。その言葉を聞いた瞬間、俺(・)の(・)身(・)体(・)は(・)戦(・)闘(・)機(・)の(・)翼(・)へ(・)叩(・)き(・)つ(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

「なっ、ぅぐっ……!?」

 

「ほほ、なんや、やれば出来るやないの。年(・)上(・)のうちが這い這いの姿勢でいるのを見て、う(・)ち(・)の(・)立(・)場(・)を(・)立(・)て(・)る(・)た(・)め(・)に(・)もっと低い目線になってくれるなんて、ほんま殊勝な心掛けやわあ」

 

「っ……それがどうしたよ! こんなもん王土くんの『言(・)葉(・)の(・)重(・)み(・)』に比べりゃあ軽いもんだぜ!」

 

 俺は立ち上がりながら、そう啖呵を切る……当然立ち上がりながらも、叶野の言葉(スタイル)について考えてはいた。

 

 まさか、三つ目の言葉(スタイル)を持っているのか? 「嫌味使い」みてーな……いや、やっぱりそれは考えづらいな。

 

 そう考えた根拠として挙げられるのは二つ。まず一つ目は嫌(・)味(・)と(・)皮(・)肉(・)は(・)両(・)立(・)し(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)。思うに、言葉(スタイル)というのは言(・)葉(・)の(・)意(・)味(・)を重視する傾向にある。それは贄波の逆説・順接からも推測できる。

 

 二つ目。今の今まで使(・)わ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)理(・)由(・)が(・)ね(・)え(・)。皮肉よりも嫌味の方が直接的な分、戦略的にも考えるのは楽だ。わざわざ分かりづらい方を使う理由はない。

 

 この二つから推測に推測を重ねた結果、俺の脳内で弾き出された答えは……嫌味の方は言葉(スタイル)じゃねえ。あくまで他の言葉(スタイル)の発展系だということ。

 

 だったら、勝てない理由はない。

 

「ったく……さっきからバカスカ翼に叩きつけてくれたおかげでよー、揚力が不安定になってんだわ。バトルもいいけど、もうちょっとこっちへ来てバランスを取れよ、叶野の」

 

「なんや、暴れるな言うんどすか? ほほほ、そらあかうわ、あかん言われたらやりとうなりますなあ──それが!『傾(かぶく)』!! ちゅうことどす!」

 

 叶野は半ば叫ぶように、声高らかにそう言い放ち、自分が足場にしている戦闘機の翼を数回蹴りやがった。それと同時に、戦闘機自体があり得ないほど揺れ、俺は空中に投げ出された。

 

 なるほどなー、「傾(かたむく)」と「傾(かぶく)」は同じ漢字だから、あいつが傾(かぶ)いたことによって戦闘機が傾(かたむ)いたってことかよ。音読み訓読みまで使い分けできんのな。

 

 俺は空中で対流現象を利用し、飛行しながら考える。生徒会の面々は俺が投げ出されて面食らってるだろうが、今が考え事するには一番いい時間だからな。

 

 考えるべきは、「嫌(いやみ)」について。まあこれに関しては「漢字使い」の応用だろ。

 

「女」である叶野が、二つ以上の漢字を組み合わせる──つまり「兼(かねる)」ことによって、「嫌(いやみ)」となる訳だ。

 

 こっちの方は問題ない。嫌味ならこ(・)っ(・)ち(・)が(・)イ(・)ラ(・)つ(・)か(・)な(・)き(・)ゃ(・)効(・)果(・)は(・)出(・)な(・)い(・)。志布志とやった時みてーに、あくまで冷静(クール)に頭を保てばいいだけだからな。

 

 ただなあ、問題は「建前(皮肉)」の方なんだよなあ。建前はこっちがどう受け取るかじゃなくて、発言した側の言ったことが全てだからなあ。話(・)を(・)聞(・)い(・)た(・)時(・)点(・)で(・)ア(・)ウ(・)ト(・)だ。

 

 あーあ、俺も黒神みてーに話(・)を(・)聞(・)か(・)な(・)い(・)──乱神モードみたいな形態変化がありゃあよかったんだけどなー。いやまあ、無いものねだったってしょうがねーんだけどよ。

 

 ……そろそろ追いつけなくなるな、早いところ戻るとするか。そろそろ戻らないと、雪(そそぎ)の奴が勢い勇んで戦闘機の外に出ちまう。後輩に後を任せるのは本意じゃねえ。これは俺の戦いだから──

 

「なっ!!」

 

「っ……随分と元気よく帰って来はるやないの! 危うくやられてまう所やったわ!」

 

 俺は対流現象──体の周囲の空気を変化させることによって気流を作り出し、戦闘機の上へとダイナミックに着地した。

 

「結構な勢いで帰ってきたからには、そのままの勢いで攻撃しねーとな!!」

 

 そんなことを言いながら、俺は叶野を殴り付けるために駆け寄る。「拳(こぶし)」と読もうが「拳(けん)」と読もうが、意味は全く変わらないからだ。

 

 が、しかし。俺の予想に反して俺の体は動き、ぶち込んでやるつもりだった拳はな(・)ぜ(・)か(・)頭(・)上(・)に(・)挙(・)げ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。まるで、横断歩道を渡るときみてーに。

 

「……お前まさか、誤(・)読(・)まで使えるのかよとんでもねーな」

 

「ほほ、察しがええ子やね、その通りどす。『拳』ゆう字と『挙』ゆう字は、よう似てはりますわあ」

 

「っ、てめえ……今も『皮肉』を使いやがったな? 突然頭(・)ん(・)中(・)に(・)も(・)や(・)が(・)か(・)か(・)っ(・)た(・)み(・)て(・)ー(・)になったから、知らねーとは言わせねえぞ……!」

 

 くっそ、「漢字」はまだいい、こっちの対策次第でどうにかなるんだからよ……ただ、「皮肉」が全く防げねえ……!

 

 雪(そそぎ)の「却説遣い(ブックマーカー)」による治療が弱体化していると聞かされた今、あれを頼るのはリスキー過ぎるから、鼓膜を破るような真似は絶対にできねーし……。

 

「敵を目の前にして考え事かいな? そらまた、随分と余(・)裕(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)は(・)る(・)んやなあ」

 

「──ッ、お前またっ……!!」

 

 やられた、完全にしてやられたッ……! 心(・)の(・)余(・)裕(・)を(・)奪(・)わ(・)れ(・)た(・)っつーことは、「漢(・)字(・)」を(・)的(・)確(・)に(・)対(・)処(・)出(・)来(・)な(・)く(・)な(・)る(・)じゃねーかよ……!!

 

「あら、棒立ちなんかしたらあかんわ。だって、うちが持っとる『夥(おびただしい)』量の鋭い鎌──刺したい放題になってまうわあ」

 

 叶野はそう言い、俺の体に向けて夥しい数の鎌を投擲した。そしてそ(・)の(・)全(・)て(・)が俺に命中する。鎌は深々と体に刺さってしまい、この調子だと凍らせて止血も出来なさそうだった。

 

「夥(おびただしい)」だけに、成「果」も「多」かったってか? いい加減にやかましいぞこの野郎。

 

「……ぐふっ……叶野の、てめえ『漢字』『皮肉』『嫌味』と、さっきからやりたい放題だろーが……『嫌味』は『漢字』の応用みてーだがよ……」

 

「あら、気が付いてはったの。まあええわ、バレたところでなーんも問題あらへんから。現に、あんたはんはうちの策から抜け出せとらんみたいやし」

 

「漢字」で意表を突き、「皮肉」で冷静さを奪って、「嫌味」を確実に決める……よく出来たサイクルだぜ、本当によ。

 

「ま、ともかく……ここらで降参するのをおすすめしたりますわ。あんたはんみたいな奴はうち好いとるし、うちとしてはあんたはんらに漆黒宴の邪魔さえされんかったらそれでええんや。命までは取らんし、悪い提案やないやろ?」

 

「……痛みで頭が冴えてきたから質問させてもらうんだがよ、お前らなんでそ(・)ん(・)な(・)に(・)命(・)を(・)か(・)け(・)て(・)ま(・)で(・)黒神めだかと結婚したいんだ? 別にあいつと結婚しなくても、お前らは十分裕福で幸せだろうに」

 

「まさかあんたはん、うちらが『黒神グループの後釜』とかを狙ってると思ってはりますの? そうやとしたら、そもそも漆黒宴の目的を完全に取り違えてはりますわ。ま、無理もおへん。黒神めだか自身も勘違いしてたみたいやしな」

 

「……表現が遠回しで一々分かりにくいんだわ。俺の認識だと漆黒宴は、分家が本家に入籍するための宴なんだがよ」

 

「前(・)の(・)漆(・)黒(・)宴(・)では確かにそうやったわ。せやけど今回の漆黒宴の目的は、黒神めだかの血──もっと言えば、黒(・)神(・)め(・)だ(・)か(・)の(・)産(・)み(・)の(・)母親(おや)の(・)血(・)を手中に収めることなんよ」

 

 ……これはまた、中々に面倒くせぇ事情がおありのようで何よりだぜ。叶野が懇切丁寧に語ってくれたおかげで、実はさっきから後ろで騒いでた連中も静かになりやがった。

 

 ま、無理もねえか。俺だって驚いてるし、頭を冷静(クール)に保ってなかったら、絶句の一つでもしてただろうな。

 

「おっと、喋りすぎたわ。どうもうちは口が軽くてあかん……まあ、何にしても黒神の名を捨てたあんたはんには、関係ないことどすえ。部外者は口挟まんでほしいわ」

 

 ──っ、いや、落ち着け。怒ったらあいつの思うツボだ。あくまで頭は冷静に保て。それにしても、関(・)係(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)ねえ。

 

 ……その時俺は、ちょうど黒神との約束を思い返していた。あいつが会長職を辞し、ただの黒神めだかになった後、俺があいつに謝りに行った時のこと。

 

 素直に謝罪の一つもできず、茶を濁してその場を立ち去ろうとした俺を、あいつは後ろから抱き止め、そしてこう言ったんだった。

 

「謝らないでください。しかしそれではお姉さまの気が済まないのであれば、どうか昔のように、めだかちゃんと呼んではくれないでしょうか」と。

 

 ……まあ、俺の性格からして、昔も呼んだことはねーだろうが……しかしそれでも、可愛らしい妹の可愛らしい頼みだ。

 

 ここでお願いを聞かなかったら、俺は今度こそ姉貴失格だろーよ。

 

「……漆黒宴の目的は理解したぜ。しかしだったら尚更のこと、俺はそんな宴を叩き潰さねえわけにはいかねえぜ」

 

 体が熱い。柄にもなく張り切っているからなのか、それとも漆黒宴に憤っているからなのか、はたまた全身に鎌が刺さっているからなのか。きっとそのどれもが正解だった。

 

「名を捨てようが家を捨てようが、俺はあいつの──め(・)だ(・)か(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)お(・)姉(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)だ(・)! 俺が認める奴としか結婚なんかさせねーよ!!」

 

 体が熱くてしょうがない。こんなに熱いのは初めてだ。果てしない上空にいるというのに、燃えたぎった心は俺の体の原動力となっている。

 

「……殺したら認めてくれる? お(・)姉(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)」

 

 ──その一言は。その、余(・)計(・)な(・)一(・)言(・)が。

 

 

俺の堪忍袋の緒を焼(・)き(・)切(・)っ(・)た(・)。

 

 

「っ、くっ、くくくっ……ふふっ……」

 

「……どうしたんや、いきなり一人でに笑い始めて……気色悪いったらありゃしないわ」

 

 そうだ、そうだよ。なんで気が付かなかった? あるじゃねえか、「皮(・)肉(・)」を(・)無(・)効(・)化(・)で(・)き(・)る(・)方(・)法(・)が(・)よ(・)。

 

 怒りは人の原動力と言うが、本当かもしれねえ。だって俺は今、最高に活き活きとしてるんだからな。

 

「……善吉くん、なんかさ──熱(・)く(・)な(・)い(・)? ムシムシとかじゃなくて、肌がチ(・)リ(・)チ(・)リ(・)するくらい」

 

「ん? いや、そりゃあこんな密室に6人ですし詰めなんだから……いや、確かに、やけに熱いな──まさか、名瀬先輩!?」

 

 善ちゃんがなんか叫んでるが、悪い、今それどころじゃないんだわ。自分の馬鹿さ加減に呆れて言葉も出せねーからさあ!

 

 思い返せばめだかちゃんの乱神モード──これを使って鶴喰の言葉(スタイル)を無効化したらしい──は、ブ(・)チ(・)切(・)れ(・)た(・)モ(・)ー(・)ド(・)だった。

 

 つまりは、頭(・)が(・)カ(・)ッ(・)と(・)熱(・)く(・)な(・)る(・)モ(・)ー(・)ド(・)。それを擬似再現したいなら──俺は志布志の時と、ま(・)っ(・)た(・)く(・)反(・)対(・)の(・)こ(・)と(・)をすればいいってことだ。

 

 冷静(クール)になるのではなく、もっと熱(・)く(・)な(・)れ(・)。冷血ではなく、熱(・)血(・)であれ。全身を駆け巡らせろ。

 

 

──そうして、俺の心(体)が真(・)っ(・)赤(・)に(・)燃(・)え(・)た(・)。

 

 

「なっ……名瀬先輩の全身が発火したああぁぁぁ!? 雪(そそぎ)、急いで『却説遣い(ブックマーカー)』で──」

 

「あー、一々うるせーな本当に善ちゃんは! いつもやってるのとは逆に、炎(・)の(・)着(・)物(・)を身に纏っただけなんだからギャーギャー騒ぐんじゃねーよ、男の子だろー!?」

 

「名瀬くん……そ(・)れ(・)、まさか……乱神モード!?」

 

「いやいや違えよ。本家本元の乱神モードの再現は流石の俺でも不可能だからさー、俺風にアレンジさせてもらったわ。その名も──炎神(えんじん)モード。」

 

 はっ、はははっ。いや、いやいや、俺も土壇場でよくやるぜ。まさかで(・)き(・)ち(・)ま(・)う(・)と(・)は(・)な(・)、擬似乱神──炎神モード。妹にできて姉にできねーってのも格好つかねーからいいんだけどよ。

 

「……なんや、それは。随分と派手なお召し物やなあ。よう似合っとるわ……? いや、な(・)ん(・)で(・)無(・)く(・)な(・)ら(・)ん(・)の(・)や(・)!?」

 

「無くなるわけがねーだろ。っつーか、もう『皮肉』は効かねーよ! なんたって今の俺は、腑(はらわた)が煮えくりかえってて人の話なんざ聞けねえからなああああああ!!!!!!」

 

「無茶苦茶やないの……!! まあええわ、せやったらうちは『漢字』だけで相手したる! 雅な炎の着物も腑が煮えくりかえっとるのも、これなら関係ないやろ──」

 

 叶野がそう言って、「漢字」を使おうとする……が、しかし。それよりも先に俺(・)が(・)仕(・)込(・)ん(・)で(・)お(・)い(・)た(・)罠(・)が作動しちまった。

 

「うぐっ……なんやこの匂い……!? 強烈な刺激臭……まさか、ガソリン!?」

 

 叶野はそう言い、あまりの刺激臭に耐えきれず立ち上がった。予定よりは早まっちまったが、まあしょうがない。

 

「ああそうだよその通り大正解だぜ叶野さんよお!! さっき俺が戻ってきた時氷の鎧を脱いでただろ!? 実はあん時つま先に氷でドリルを作って飛行機の翼に穴を開けてたってわけさ!! ガソリンが滲み出してくるまで随分待ったぜ本当によお!!」

 

「ぜ、善吉くん! 名瀬くんが見たことないブチ切れ方してる!!」

 

「俺だって見たことねえよあんな名瀬先輩の姿! 常に冷静だからあんな乱神モードみたいな姿見たことないし……っつーか着物がやけに似合ってんな!!」

 

 うるせーないいだろたまには冷静じゃなくってもさー。俺は基本的に森ガールだが、森だってよく燃えてんだろー? それと同じで今の俺は、森林火災ガールなだけなんだよ。

 

「本当はそのガソリン、凝固させてお前の手足を固めてから、顔面の至近距離で蒸発させて刺激臭をお見舞いする予定だったんだがよ。もう面倒くせえからお前ごと燃やし尽くしてやるぜ」

 

「……やれると思うとんのか? うちは『漢字使い』なんやぞ。『炎』なんて『火』二つに分解してまえば、全く熱くも──」

 

「あー、違う違う。これは『炎』とかいうもんじゃなくて『Fuego(フェーゴ)』っつー情熱溢れたもんだよ、『漢字使い』さん」

 

「──は? ふぇ……何やって?」

 

「おいおい知らねーのかよ、あの情熱の国・スペインで『炎』を示す言葉だぜ!? 妹への情・研究への熱に溢れる俺は、ついつい技名にもスペイン語を使っちまうんだよなー」

 

 これを聞いたおめーは、どうせすぐさまこ(・)の(・)会(・)話(・)に(・)意(・)味(・)が(・)な(・)い(・)ことに気が付き、俺の炎の着物──火花衣(ファイアワークス)を「漢字」で消しにかかるだろう。

 

 が、もう遅えよ。

 

「なあ叶野。俺はお前の姿(・)勢(・)がずーっと気になってたんだよな。高貴くんみたいに寝技師でもねーのに、いつまで経っても這(・)い(・)這(・)い(・)の(・)姿(・)勢(・)を崩さねーんだから。それ、重要なんだろ?」

 

「……仮にそうやったとして、うちをこんな風に立たせてどうするつもりなんやろか。是非とも教えて欲しいわあ」

 

「心配しなくても教えてやるぜ、体の方にな……っつーか、も(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)け(・)ど(・)」

 

 叶野は特に何をするでもない俺の様子を伺いながら、恐る恐る翼に手を付けようとして──直後、何かに驚き飛び上がった。

 

「熱っっ!!?? さっきまでこんな温度やなかったやん!? あんたはん、一体何を……!」

 

「何をって、お前が立ってる間にお前の周りだけ超(・)高(・)温(・)にしただけだっつーの。具体的には肉が焼けるくらいにな」

 

 俺はそう言いつつ、未だ立ったままの叶野に向かって一歩前進した。

 

「今のうちに降参すればこれ以上痛い目には遭わせねーよ。だから、降参しろ」

 

「嫌どす、まっぴらごめんやわ。たかだか熱い程度で、うちがくたばると思うとんのか?」

 

 もう一歩前進した。

 

「異変に気が付かねーほどお前は馬鹿じゃないだろ。今のうちに降参しておけば、これ以上温度は上げねーよ」

 

「嫌やってゆうとるやろが。聞く耳は──もう持っとらんのやったっけ。うちを炙るのは構わんけど、お仲間さん達はどないするん?」

 

 イラついたので二歩前進した。

 

「おいおい叶野の。忘れてるかも知れねーけど、俺は周囲の温度を自在に操れるんだぜ? 今熱さを感じてるのはお前だけだよ、安心しな」

 

「……せ、精々が炎の温度やろ。現にうちはまだ、肌がチリつく程度の熱しか感じとらん。せやったら──」

 

 どうやら未だにことの重大さに気が付いていないらしい。俺はいい加減一歩ずつ進むのに飽きたので、一気に距離を詰め、文字通り目と鼻の先まで進んでやった。

 

「──ほら、こんなに近づいても、温度は大して変わらんやないの」

 

「お前馬鹿か? 俺がお前まで熱が到達しないように配慮してるに決まってるだろーが。それとも、あれか。いっぺん焼かれてみたいのか」

 

「さて……な!!」

 

 叶野は俺に向かって鎌を投擲した。しかし、その鎌は俺の体に突き刺さることはなく、火花衣(ファイアワークス)に吸(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)消(・)え(・)た(・)、ように見えただろうな。

 

「……これで分かったかよ。俺の体表温度は鉄(・)を(・)一(・)瞬(・)で(・)融(・)解(・)さ(・)せ(・)る(・)。どうせお前の『漢字』は這い這いの姿勢じゃなきゃ使えねーんだ、諦めろ」

 

「ぐっ……いや、それでも、まだ……!」

 

「そうか、そうかよ。これでもまだ、分かってくれないなら──更に温度を上げるしか無えよなあ!!」

 

 俺は笑みをこれでもかと叶野に見せつけながら、体表と火花衣(ファイワークス)の温度を上げて行く。多分今の俺は、どっちが悪者か分からねー表情だろう。

 

 そうして、温度を上げて、上げて、上げ続けて──俺は突如として叶野の手を取り、その手に持っていた鎌の刃を俺(・)の(・)腹(・)に(・)押(・)し(・)付(・)け(・)た(・)。

 

 

 

ジュっと。

 

 

 

 妙な音が鳴る。手応えはない。

 

「な、ま……まさか、あんたはん……鎌を、蒸(・)発(・)さ(・)せ(・)た(・)んか……!?」

 

「大正解! 俺の現在の体表温度はロケットエンジンと同じ四(・)千(・)度(・)だよ。それで──」

 

 顔をぐいっと叶野に近づけ、笑みを深め、目をかっと開き、これ以上ないくらいに楽しそうな表情で、俺は叶野へと問いかけた。

 

 

 

 

 

 

「──試してみるかあ?」

 

 

 

 

 

 

「…………降参や。」

 

 

 叶野がそう言ったので、俺は炎神モードを解除する。すると叶野は、突如としてその場でへたり込み、これ以上ないくらいの深いため息をついた。

 

「あーあ、降参や降参! 訳分からんわ、炎神モードだから言葉(スタイル)効かないって……後出しにも程があるんよ。うちは楽しく漢字と建前が使えればそれでよかったっちゅうのに、ほんま、えらい災難やわあ」

 

「そうか? 俺は久々に頭使った戦いが出来て楽しかったけどな。それに、後輩たちに格好いいところも見せられたし、おまけに言葉(スタイル)についてもよーく学べたぜ。叶野、お前には感謝しかないわ。ありがとな」

 

「……あんたはん、いい性格しとるなあ」

 

「はは……よく言われる」

 

 俺がそう言うと、叶野は再びため息をついた。ま、そう落ち込まずにさ。敗北の手土産として、俺の意趣返し、是非とも喰らっていってくれや。

 

 






 炎神(えんじん)=エンジン。

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