TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 少し短めに5,000文字です。




第76箱「お前を殺す」

 

 

 ──ふと、どこか懐かしい記憶が湧き上がった。

 

 あの時。善吉とめだかの関係が始(・)ま(・)っ(・)た(・)時。果たしてめだかは、善吉に向かって何と言っていたのだったか。

 

(……あれ、も(・)う(・)一(・)人(・)、いたような気がするんだけどな……)

 

 善吉はさらに記憶の奥深くを探る。確かにいたはずなのだ。もう一人、白(・)い(・)髪(・)の少女が。

 

 ちょうど今みたいに、膝枕をしてもらった記憶が──。

 

「──あれ、雪(そそぎ)? なんで膝枕なんかしてんだよ……ああ!南極の氷で頭が冷えないようにしてくれてたのか?」

 

 善吉は雪(そそぎ)の顔を見上げる形で目を覚ました。膝枕されているのだから、当然のことなのだが。

 

「つーか、お前が戦ってないってことは……もう戦いは終わったのかよ。カッ、二回も助けられちまっ──」

 

「馬鹿なこと言ってねえで江迎を助けろ!!」

 

「──た、ぜ……って、名瀬師匠? ど、どうしたんですか、そんなに大声出して」

 

 善吉が顔を傾け、横を見る。するとそこには、口から血反吐を吐いて倒れている名瀬の姿が見えた。

 

 叫ぶのも辛いはずだが、叫んでいないともう意識を保てないらしい。尋常ではない量の出血だが、大丈夫なのだろうか。

 

「雪(そそぎ)は俺達を守ったせいで死んだ! このままじゃ今戦ってる江迎まで死ぬ! ドクターストップかけた手前申し訳ねーんだが頼むぜ善吉!」

 

「は、え……いや、死んだって言っても、雪(そそぎ)には『却説遣い(ブックマーカー)』があるんじゃ……」

 

「あいつの前ではスキルを使えねー、多分言葉(スタイル)のせいだ!」

 

 いや、いやいやいや。

 ちょっと待ってくれよ。

 

 死(・)ん(・)だ(・)のか、目の前にいる雪(そそぎ)は。

 善吉は信じ切れず、雪(そそぎ)の頬に手を伸ばした。

 

 ……冷たい。暖かみがない。生物の生存に必要なものが、完全に欠落している。目は虚で生気が感じられないし、一部は既に凍ってしまっていた。

 

 死んでいる。物悲しそうに。こんなにも善吉と近くにいるのに、孤独に塗れて死んでしまったのだろう。

 

 ──そんなの、あ(・)ん(・)ま(・)り(・)だ。

 

 雪(そそぎ)は、ようやく兄と双子の妹と、幸せに暮らせるようになったのだ。生徒会室でも、時々自慢するように口にしていた。

 

 あまりにも、報われない。

 

 だから、善吉がここからするべきことは一つしかなかった。

 

「……あの潜木とかいう奴を江迎と一緒にぶちのめして、球磨川先輩を救出する。俺がやるべきことはそれですよね、名瀬師匠?」

 

「おー、その通りだ……それじゃあ、最後にアドバイスを一つ。怒(・)れ(・)。雪(そそぎ)のために、江迎のために。俺はもう動けねーから……後は頼んだぜ、人吉善吉」

 

「はいっ!!」

 

 善吉はそう言うと、潜木と江迎が戦っている方へと駆けていってしまった。その背中を、名瀬は見送り──再び血反吐を吐いた。

 

(一発蹴られただけでこうなるってことは……腹腔内出血、並びに複数の臓器の破損──あー、こりゃマジで死ぬかもな)

 

「可愛い後輩、一人で死なせるわけには行かねぇ……か」

 

 名瀬はそんな言葉を言い放ってから、何やら地面に掌を付け、江迎達の方を見た。

 

「ま、まだ死ぬには早えけどよ──」

 

 名瀬夭歌という女は、やられたままでは終わらない。

 

 


 

 

 一方、江迎はというと──視界が明滅するほどに怒り、差し違えてでも殺す覚悟を決めたとはいえ──未だ本気ではなさそうな潜木に翻弄されていた。

 

 全身にドライバーを刺され、このままでは雪(そそぎ)の二の舞になってしまいそうである。しかし激しい怒りが、江迎を突き動かしていた。

 

「うふふふ、物体を腐らせるスキルかあ。こんな南極でも使えるなんて大したものなのだ! だけど私には通じないんだもんねー!」

 

「うるさいから喋らないでよ……はぁ、もう、血塗れじゃん」

 

「おっと、ごめんごめん! いやー、ほら……怒ってる人間って単調だからさー、ついつい煽っちまうのが私の癖なんだよなー」

 

 ドライバーを指でくるくると回しながら、潜木はそんな風に、一切悪びれる様子もなく言い放った。

 

「……やっぱり、あなたは殺さなきゃダメだ。人一人殺しておいて、まったく悪いとも思ってない人を、私は許せない」

 

「うっそだー、友(・)達(・)殺(・)さ(・)れ(・)た(・)か(・)ら(・)怒(・)っ(・)て(・)る(・)だ(・)け(・)でしょ。そんなに人殺しが許せないなら、お前はきっと過負荷(そんなん)じゃないはずだよ?」

 

「いちいち揚げ足を取るのが上手いなあ。仮にその通りだったとして、だから何? 目の前で親友を殺されて、怒らない奴がいるわけがない。だって、親友なんだもん」

 

「感情論で駄々こねられても困るよ、高校生。それに、弱いから殺される。弱いから分解(バラ)される。最後の最後まで私よりも弱かったあの子が悪いと思うけどなー!」

 

 潜木はけらけらと笑う。

 自慢げに。得意げに。楽しげに。

 

「黙れっ!! お前みたいな奴が──」

 

「うるさいのだ、お前が黙(・)れ(・)。」

 

「いやだ! 絶対にお前を殺すから!」

 

 江迎は潜木に向かって突撃する。一見考え無しに見える、無謀な行動だが──当然江迎も、考えがあってこの行動を取っている。

 

 ……この行動は潜木に、とあることについての確信をもたらしてしまったが、それは結果論だ。今取れる作戦の中では、これが最上だった。それだけのことである。

 

 潜木は突進してきた江迎に対し、ドライバーを刺し続ける。その度江迎の身体からは血が吹き出し、距離の問題もあって、返り血が潜木の体を半ば染め上げていた。

 

「うへー、ばっちい……ちょっとー! もう少し楽しませてくれないかなー!?」

 

「ッ……言われなくても!」

 

 江迎は自らの爪を一枚、何の躊躇もなく剥ぎ取り、潜木に向かって思いっきり投げつけた。しかし潜木は動体視力も優れているため、飛んできた爪を難なくドライバーで弾く。

 

「うわー、痛そうなのだ……しかも多分、わざわざ腐らせた爪でしょ? でも残念! どんなに痛い思いをしても、私までは届かないもんねー!」

 

「……あなたは、勘違いしてるよ。知らないの? それなら教えてあげるよ。腐(・)食(・)は伝(・)播(・)するっ!!」

 

 そう言って江迎は、潜木が持っているドライバーを指差した。するとそこには、先端から勢いよく腐っていくドライバーがあった。

 

「うわっ気持ち悪っ!! 止まれ止まれ!! あっぶなー……言われなかったら、指先くらいまで腐ってたかもしれなかったよ!」

 

 敵に塩を送る愚策──のように見えるかもしれない。しかし江迎は実のところ、最初からずっと、一貫した目的を持って行動している。故に、作(・)戦(・)通(・)り(・)だ。

 

(……止まれって言っただけで私の腐食が止められた……つまり、そ(・)う(・)い(・)う(・)言葉(スタイル)な(・)ん(・)だ(・)。みんなの様子がおかしくなったのも、その時の私の記憶が曖昧なのも、多分こ(・)れ(・)が(・)原(・)因(・)だよね)

 

 思い返すのは、潜木との戦闘直前。潜木に何(・)か(・)さ(・)れ(・)た(・)という記憶はないが、大方「忘れろ」とでも言われて記憶から消えているのだろう。

 

(雪(そそぎ)ちゃんに対して、『もう誰かも分からないのに』って言ってたから、多分間違いない。『止まれ』って言ったら止(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)し、『忘れろ』って言ったら忘(・)れ(・)さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)る(・)んだ──これを、どうにかして伝えないと)

 

 江迎の目的──情報の収集。

 いや、本当のところは潜木を殺してしまいたいのだが……あくまで生徒会として動いている以上、私怨だけで動くわけにもいかないのだ。

 

 このまま行けば殺されるのは分かりきっている。だけど、それでも。例え自分が死んでも──こ(・)い(・)つ(・)だ(・)け(・)は(・)倒(・)さ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)い(・)け(・)な(・)い(・)。

 

(球磨川先輩が、大(・)人(・)し(・)く(・)捕(・)縛(・)さ(・)れ(・)て(・)る(・)な(・)ん(・)て(・)あ(・)り(・)得(・)な(・)い(・)。あの人のことだから、きっと何かしてくれるはずなんだ。それに、安心院(あんしんいん)さんだって)

 

 最悪、禊だけでも生き残っていれば、全員復活できるのだ。江迎はそこに賭けた。

 

 そのためにも、情報を集めなければならない。禊や安心院(あじむ)なじみが、潜木を必ず倒すために。

 

 と言っても、江迎はすでにここまでの戦いで言葉(スタイル)の性質をおおよそ掴んでいた。

 

 言葉(スタイル)は激怒している相手に通じない。わざわざ江迎を挑発し、むやみやたらと怒らせたのは完全に悪手だった。

 

 それから江迎は、潜木が言葉(スタイル)を二(・)つ(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)と予想を立てていた。これまでの二人がそうだったことに加えて、雪(そそぎ)を完封したことがその推理を後押ししていた。

 

(いくらパワーが強いからって、雪(そそぎ)ちゃんの刀はそうそう折れない。前黒神さんと稽古してるのを見たけど、そ(・)の(・)時(・)も(・)刀(・)は(・)折(・)れ(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・))

 

 江迎の記憶が曖昧なのは、戦(・)闘(・)開(・)始(・)前(・)ま(・)で(・)だ。始まってからのことは全て鮮明に覚えているし、記憶の欠落もない。もちろんそれが潜木の罠である可能性もあるが──正直言って、潜木はそこまで頭が回るようには見えなかった。

 

(多分、私達を舐めてるんだ。だったら好都合、このチャンスを使わない手は──)

 

 江迎がそこまで考えたところで、突如として大きな声が響いた。声がした方向を向くと、善吉が改神モードを使って全力でこちらに向かってくるのが見えた。

 

 当然それを、見逃す潜木ではない。

 

「江迎っ!! 大丈夫──」

 

「動くな! きみはそこで見てろ!!」

 

「──は? えっ……な、何だよこれ……な(・)ん(・)で(・)動(・)け(・)ね(・)え(・)ん(・)だ(・)!?」

 

「人吉、くん……」

 

「ちょうどいいところに! これから私がそこの腐食系ガールを分解(バラ)すところだったから、特別に特等席で見せてやるのだ!」

 

「なっ!? おい、江迎!! 俺もまだ事情が把握できてねえけど、お前だけでも逃げろ!!」

 

 この状況を作り上げてしまった善吉のことを、誰が責められるだろうか。まさか敵の言葉(スタイル)が、一言聞いてしまった時点でアウトだなどと、初見で見抜けるはずもない。

 

 ついさっきまで、江迎は一人で状況を整えていた。結果として出来上がったのは、潜(・)木(・)の(・)言葉(スタイル)を(・)暴(・)け(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)あ(・)る(・)状況。

 

 しかし、善吉が参戦しに来たことにより、その状況は一瞬にして崩壊する。

 

 かくして、先ほどまでの状況とは打って変わって──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──潜(・)木(・)を(・)殺(・)せ(・)る(・)状(・)況(・)が整った。

 

 

封(・)印(・)解(・)除(・)まで、残り二分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 まだまだ潜木が出張ります。
 多分あと2回くらい。

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