少し短めに5,000文字です。
──ふと、どこか懐かしい記憶が湧き上がった。
あの時。善吉とめだかの関係が
(……あれ、
善吉はさらに記憶の奥深くを探る。確かにいたはずなのだ。もう一人、
ちょうど今みたいに、膝枕をしてもらった記憶が──。
「──あれ、
善吉は
「つーか、お前が戦ってないってことは……もう戦いは終わったのかよ。カッ、二回も助けられちまっ──」
「馬鹿なこと言ってねえで江迎を助けろ!!」
「──た、ぜ……って、名瀬師匠? ど、どうしたんですか、そんなに大声出して」
善吉が顔を傾け、横を見る。するとそこには、口から血反吐を吐いて倒れている名瀬の姿が見えた。
叫ぶのも辛いはずだが、叫んでいないともう意識を保てないらしい。尋常ではない量の出血だが、大丈夫なのだろうか。
「
「は、え……いや、死んだって言っても、
「あいつの前ではスキルを使えねー、多分
いや、いやいやいや。
ちょっと待ってくれよ。
善吉は信じ切れず、
……冷たい。暖かみがない。生物の生存に必要なものが、完全に欠落している。目は虚で生気が感じられないし、一部は既に凍ってしまっていた。
死んでいる。物悲しそうに。こんなにも善吉と近くにいるのに、孤独に塗れて死んでしまったのだろう。
──そんなの、
あまりにも、報われない。
だから、善吉がここからするべきことは一つしかなかった。
「……あの潜木とかいう奴を江迎と一緒にぶちのめして、球磨川先輩を救出する。俺がやるべきことはそれですよね、名瀬師匠?」
「おー、その通りだ……それじゃあ、最後にアドバイスを一つ。
「はいっ!!」
善吉はそう言うと、潜木と江迎が戦っている方へと駆けていってしまった。その背中を、名瀬は見送り──再び血反吐を吐いた。
(一発蹴られただけでこうなるってことは……腹腔内出血、並びに複数の臓器の破損──あー、こりゃマジで死ぬかもな)
「可愛い後輩、一人で死なせるわけには行かねぇ……か」
名瀬はそんな言葉を言い放ってから、何やら地面に掌を付け、江迎達の方を見た。
「ま、まだ死ぬには早えけどよ──」
名瀬夭歌という女は、やられたままでは終わらない。
一方、江迎はというと──視界が明滅するほどに怒り、差し違えてでも殺す覚悟を決めたとはいえ──未だ本気ではなさそうな潜木に翻弄されていた。
全身にドライバーを刺され、このままでは
「うふふふ、物体を腐らせるスキルかあ。こんな南極でも使えるなんて大したものなのだ! だけど私には通じないんだもんねー!」
「うるさいから喋らないでよ……はぁ、もう、血塗れじゃん」
「おっと、ごめんごめん! いやー、ほら……怒ってる人間って単調だからさー、ついつい煽っちまうのが私の癖なんだよなー」
ドライバーを指でくるくると回しながら、潜木はそんな風に、一切悪びれる様子もなく言い放った。
「……やっぱり、あなたは殺さなきゃダメだ。人一人殺しておいて、まったく悪いとも思ってない人を、私は許せない」
「うっそだー、
「いちいち揚げ足を取るのが上手いなあ。仮にその通りだったとして、だから何? 目の前で親友を殺されて、怒らない奴がいるわけがない。だって、親友なんだもん」
「感情論で駄々こねられても困るよ、高校生。それに、弱いから殺される。弱いから
潜木はけらけらと笑う。
自慢げに。得意げに。楽しげに。
「黙れっ!! お前みたいな奴が──」
「うるさいのだ、お前が
「いやだ! 絶対にお前を殺すから!」
江迎は潜木に向かって突撃する。一見考え無しに見える、無謀な行動だが──当然江迎も、考えがあってこの行動を取っている。
……この行動は潜木に、とあることについての確信をもたらしてしまったが、それは結果論だ。今取れる作戦の中では、これが最上だった。それだけのことである。
潜木は突進してきた江迎に対し、ドライバーを刺し続ける。その度江迎の身体からは血が吹き出し、距離の問題もあって、返り血が潜木の体を半ば染め上げていた。
「うへー、ばっちい……ちょっとー! もう少し楽しませてくれないかなー!?」
「ッ……言われなくても!」
江迎は自らの爪を一枚、何の躊躇もなく剥ぎ取り、潜木に向かって思いっきり投げつけた。しかし潜木は動体視力も優れているため、飛んできた爪を難なくドライバーで弾く。
「うわー、痛そうなのだ……しかも多分、わざわざ腐らせた爪でしょ? でも残念! どんなに痛い思いをしても、私までは届かないもんねー!」
「……あなたは、勘違いしてるよ。知らないの? それなら教えてあげるよ。
そう言って江迎は、潜木が持っているドライバーを指差した。するとそこには、先端から勢いよく腐っていくドライバーがあった。
「うわっ気持ち悪っ!! 止まれ止まれ!! あっぶなー……言われなかったら、指先くらいまで腐ってたかもしれなかったよ!」
敵に塩を送る愚策──のように見えるかもしれない。しかし江迎は実のところ、最初からずっと、一貫した目的を持って行動している。故に、
(……止まれって言っただけで私の腐食が止められた……つまり、
思い返すのは、潜木との戦闘直前。潜木に
(
江迎の目的──情報の収集。
いや、本当のところは潜木を殺してしまいたいのだが……あくまで生徒会として動いている以上、私怨だけで動くわけにもいかないのだ。
このまま行けば殺されるのは分かりきっている。だけど、それでも。例え自分が死んでも──
(球磨川先輩が、
最悪、禊だけでも生き残っていれば、全員復活できるのだ。江迎はそこに賭けた。
そのためにも、情報を集めなければならない。禊や
と言っても、江迎はすでにここまでの戦いで
それから江迎は、潜木が
(いくらパワーが強いからって、
江迎の記憶が曖昧なのは、
(多分、私達を舐めてるんだ。だったら好都合、このチャンスを使わない手は──)
江迎がそこまで考えたところで、突如として大きな声が響いた。声がした方向を向くと、善吉が改神モードを使って全力でこちらに向かってくるのが見えた。
当然それを、見逃す潜木ではない。
「江迎っ!! 大丈夫──」
「動くな! きみはそこで見てろ!!」
「──は? えっ……な、何だよこれ……
「人吉、くん……」
「ちょうどいいところに! これから私がそこの腐食系ガールを
「なっ!? おい、江迎!! 俺もまだ事情が把握できてねえけど、お前だけでも逃げろ!!」
この状況を作り上げてしまった善吉のことを、誰が責められるだろうか。まさか敵の
ついさっきまで、江迎は一人で状況を整えていた。結果として出来上がったのは、
しかし、善吉が参戦しに来たことにより、その状況は一瞬にして崩壊する。
かくして、先ほどまでの状況とは打って変わって──。
まだまだ潜木が出張ります。
多分あと2回くらい。
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