ラッキーセブンですね。
「……あんたはん、ほんまにええの?」
「あー……? なんだよ、叶野の……俺ってば死にかけてんの。血が抜けて頭がふわふわしてんだから、もう少し分かりやすく質問してくれ……」
「せやから、あの江迎とかゆう子、このまま放っておいたら『友達のため』とかほざいて死んでまうよ?」
「んあー……それでいいんだよ、
「思うてもないことを、よくもまあそう堂々と言いはりますわ。あんたはんのそういうところ、うちは嫌いやないよ」
「……黙ってろ」
「ほほ、嫌どす。そんで、あんたはんの言うとることはまあ分かるけどな。あんたら、何か勘違いしとらんか? 命ゆうんは、もっと重いもんなんや。そんな風に捨てるんは──」
「俺だって……誰だって、そんなことは分かってるよ。でもな、潜木はこっちが命を賭けないと倒せねえ。それも分かってる。叶野の、お前だってそうだろ?」
「まあ、否定はせんよ。それに……
「ははっ……策だなんて、そんな大それたもんじゃねえよ。俺はただ
「……まさか、
「そう言ってんだよ。つーか、来ないわけねーだろ。後輩がいじめられてて、妹が殺されてんのに、あの人が動かないわけが無え。そこから先がどうなるのかは、俺の知ったところじゃねえな」
「──はぁ……揃いも揃って、ほんまに過保護どすなあ……」
「そりゃあそうだろ。妹っつーのは、いくつになっても可愛いもんだからよ」
私は
ここに来てから、ずっとそう考えていた。
だって他のみんなは、黒神さんたちを助けるためにここまで来ている。全員真剣に、一生懸命に。
私だって真剣だったし、一生懸命だった。だけど、やっぱり私だけは、他のみんなとは一線を画して──距離を離されていたと思う。
……私はやっぱり、人吉くんが好きだ。
だけど、女々しい私は、女々しくも自分自身の好意を断ち切れなかった。
応援するって決めたのに。
怨念ばっかり湧いてくる。
さっきの牢屋で人吉くんが、一瞬で暗号を解いた姿を見て、確信した。私は人吉くんのことが未だに好きで、黒神さんに嫉妬してる。
嫌な奴だなあ、私って。骨の髄から
そんな、最低なことを考えていた矢先に。
私は後悔した。だって、親友だと思っていたのに、私はあの子のことを何にも分かってなかったんだもん。
最期の最期に、善吉くんを膝枕して、いつもの
私は私の愚かさの最低値を更新した。
たくさん恋愛相談に乗ってもらった。
私が、そんなことを言わせちゃったんだ。
どんな気持ちだったんだろう。私には想像ができない。少しは分かるつもりでいるけど、それだって正しいとは限らない。
自分の好きな人が、自分を好きとは限らない。
だけど好きな人には、幸せでいて欲しかったんだ。
自分の好きな人の幸せを願って、
だから
──それで、私は?
わたしは、なんだ。
なにをしてる。
なにも、してないじゃないか。
人吉くんに、無責任に言葉をぶつけただけで、彼にとって特別な人間になれたと思うな。思い上がるな。思い違うな。
私は特別な人間じゃない。
どこにでもいる、普通で最低な人間だ。
目の前で
スキルは使えないから、生き返るのも無理だ。
死んだ。
殺された。
だから唯一動ける私が、
分かってる。本当はいつでも殺せるのに、私が何かに迷っていそうだったから、おちょくるために周りのみんなを攻撃したことを。
つまり、私のせいで、みんなは散々攻撃されたのだ。
私のせいで、
私のせいなら、私が始末を付けないとって思った。
そして同時に、これは
──私のせいで死んでしまった
そんな自分に、腹が立った。
生まれて初めて、頭の中で何かが切れたかのような錯覚を感じた。
それほどまでの、自分に対する怒り。
それほどまでの、自分に対する呆れ。
それでも、潜木には届かなかった。
仕込みはもう済んだ。覚悟は決まった。だから、あとはタイミングさえ間違えなければどうにかできる。
……多分その時、私は死んでいるだろうけれど。
人生の最期くらいは、自分のためじゃなくて、誰かのために戦いたい。
生徒会に加入するかどうかの相談をしに行った時、私に対して「やらずに満足するよりも、やって満足しろ」と言ってくれた黒神さんみたいに。
友を想って戦いたい。
友のために戦いたい。
死ぬことは怖い。死ぬほど怖い。死ぬより怖いことはない。まだ死にたくない。本当は死にたくない。こんなところで死にたくない──。
──だけど私は、変わりたいんだ。
マイナスから、ゼロへと向かっていきたい。
変わらないことの恐怖に比べたら、死への恐怖なんて恐るるに足らない。
……もう怖くない。
だって私は、今から生まれ変わるから。
だから、見てて。
江迎怒江の、人生最後の大舞台。
あなたとは結ばれなくたっていい。
だって、私は──。
江迎に対して「逃げろ」と叫んだ善吉は、己の判断ミスを呪った。いや、それすらも
しかし江迎は、善吉の予想に反し、その場を動くことはしなかった。体からは血液が垂れ流しになり、もういつ死んでしまってもおかしくないように見える。
江迎を支えているのは、怨念──ではなく、執念。絶対に
善吉が歯噛みしていると、江迎はおもむろに自らの髪へと文化包丁を当てがい、そして包丁を一気に引いた。早い話が、
善吉は、その江迎の姿を見て──
しかし、身体は動かない。
「江迎、お前、まさか──」
「うん、そのまさかだよ。私は今から、これまでで一番の無茶をして、あの人の
あまりにも突然の、一方的な告白。善吉がそれに対して何かリアクションを取るよりも先に、江迎は潜木に向かって
「なっ、おい江迎っ!! やめろおおぉぉっ!!」
善吉の声は、確かに届いている。しかし、江迎はもう止まらない。覚悟を決めてしまったから。決まってしまったから。
今の江迎に、後退はない。
だから、
「へえ、命懸けの捨て身かあ。格好いいなあ、きっと通じるよ。もしも漫画だったならね!!」
江迎は潜木にとって、まっすぐこちらへと向かってくる的でしかなかった。そんな大きな的を、まさか潜木が外すはずもない。
結果として、潜木が放った数十本のドライバーは──その全てが江迎の身体へ命中した。
「──ッ、ぁ……」
「おーっ、全弾命中! いやー、やっぱり全部当たると気持ちが良いねー! そんで……今っ、どんな気持ち?」
驚異的な意地をもって、未だに二本の足で立っている江迎の方へと潜木は近づいて行き、江迎に刺さっているドライバーを
「っぐ、ぃいっ……!」
「うわ、血まみれでばっちい……まーいいや、それでお前はどんな言葉を遺したい? 私は優しいからな、あそこで突っ立ってる男に教えといてあげるのだ!」
潜木は江迎の髪を掴みながら、にっこりと笑ってそう言った。江迎にもっと体力があれば、あまりの痛みにのたうち回っていたかもしれない。
だが、江迎はそれよりも、自分のやるべきことに集中していた。
「……、……ちろ……」
「んー? なになに、声ちっさすぎて全然──」
「地獄に落ちろ」
「──ぇ」
江迎の言葉の真意を、潜木が理解するよりも前に──潜木の体に付いている江迎の返り血が、勢いよく腐敗を始めた。
「は、えっ何なのだこれ!? 止まれ止まれ!!……なっ、どうして
「『
腐食は止まらない。とんでもない勢いで潜木の体を駆け巡り、その肢体を蹂躙する。
「くっ……なんで、なんで止まらないんだよ……!?」
「だって
「……それだったら! 今すぐお前を殺ッ──ゲホッ……ぁ、何なのだ、これ……!?」
再びドライバーを振りかざした潜木だったが、突如として吐血。その場に膝から崩れ落ちた。
「
「だっ……だったら! 今すぐこの場から離れれば──」
そう言って潜木はその場を四つん這いで離れようとする。が、しかし。両手足が氷漬けになっているせいで動けなかった。
当然この状況で、そんなことができるのは一人しかいない。名瀬夭歌その人である。
名瀬は完璧なタイミングで、しかも遠隔で凍結をしっかりと決めたのを確認して、その場に倒れ込んだ。
「ッ……!! くそっ、あの女……! 放っておくんじゃなかった!!」
「……怒ってるところに悪いけど、私は死ぬよ。だけどそれは、あなたが死んだのを見届けてから。それまで私は、何があっても死んであげないから」
江迎は血塗れのまま、かの
しかし潜木は、全身を腐食に蝕まれながらも、何かを考え込んでいる様子であった。そうしてしばらくの後、突如江迎の方を向くと、にへらと人のいい笑みを浮かべて見せた。
その時には既に、潜木の体は
「……
「なっ……そんなのって、アリかよ……!?」
それを見ていた善吉は、余りにもあんまりな潜木の行動に絶句した。折角江迎がもう少しで勝てそうだったのに──。
──江迎は、優しく微笑み、そして。
「……善吉、くん。あとは頼──」
「頼ませないのだーっ!!」
最期の言葉を吐ききる前に、潜木に蹴り飛ばされ──恐らくは、絶命した。飛んでいった先は、皮肉にも
善吉はあまりの衝撃に、何もすることができない。
「……俺の、せいで……」
「まーそんな思い詰めんなよ。二人とも自分のやりてーこと通して、死んじまったんだ。お前は悪くねーよ」
……誰かが善吉の隣に立って、そう語っている。いやまあ、誰かと言われると、先ほど気絶した名瀬夭歌以外の何者でもないのだが。
「──えっと、名瀬師匠? あれ、ついに俺目がおかしくなったのかな……どうして
何かがおかしい。怪我が治っているのなら、起きていてもいいはずだ。というかそもそも、
それによく見ると、名瀬自信の怪我も完全に治っているように見える。なるほど、名瀬は自らを手術したのだろう。いやしかし、それにしたって
「──自分で治したんですよね? さすが名瀬師匠、俺なんかじゃあ想像もできないことを簡単にやってのけますね。ははは……」
「……善ちゃん、あんまり怯えんなよ。もしもトラウマが刺激されて怖いってんなら、もう一回薬剤を投与して眠らせてやってもいいんだぜ」
「違う、違うんですよ名瀬師匠。たった一言『自分で治した』って言ってくれるだけでいいんですよ。はは、ははは──そうなんでしょう?」
「……善吉、これは俺が治したわけじゃねえ。もう分かってんだろ、何があって、誰が来たのか。俺の読み通り──本当なら、当たってほしくは無かったが──これでみーんな、
「そんなわけがない!!
善吉は、それでも振り返る。
おそるおそる、怖いもの見たさで。
確かめなければいけないから。
背後にいる
者の正体を、
確かめなければ。
そこには──。