TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 ラッキーセブンですね。




第77箱「あの時よりもずっと」

 

 

「……あんたはん、ほんまにええの?」

 

「あー……? なんだよ、叶野の……俺ってば死にかけてんの。血が抜けて頭がふわふわしてんだから、もう少し分かりやすく質問してくれ……」

 

「せやから、あの江迎とかゆう子、このまま放っておいたら『友達のため』とかほざいて死んでまうよ?

 

「んあー……それでいいんだよ、()()()()()()()()。いや、今更思ったんだが、俺達は()()()過ぎたんだよ。いくらあいつが過負荷(マイナス)だからってな」

 

「思うてもないことを、よくもまあそう堂々と言いはりますわ。あんたはんのそういうところ、うちは嫌いやないよ」

 

「……黙ってろ」

 

「ほほ、嫌どす。そんで、あんたはんの言うとることはまあ分かるけどな。あんたら、何か勘違いしとらんか? 命ゆうんは、もっと重いもんなんや。そんな風に捨てるんは──」

 

「俺だって……誰だって、そんなことは分かってるよ。でもな、潜木はこっちが命を賭けないと倒せねえ。それも分かってる。叶野の、お前だってそうだろ?」

 

「まあ、否定はせんよ。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()しなあ」

 

「ははっ……策だなんて、そんな大それたもんじゃねえよ。俺はただ()()()()()だけだ。勝ちの目なんざ万に一つもねえ、馬鹿げた賭けにな」

 

「……まさか、()()()が来る言うとんのか? そんなはずは──」

 

「そう言ってんだよ。つーか、来ないわけねーだろ。後輩がいじめられてて、妹が殺されてんのに、あの人が動かないわけが無え。そこから先がどうなるのかは、俺の知ったところじゃねえな」

 

「──はぁ……揃いも揃って、ほんまに過保護どすなあ……」

 

「そりゃあそうだろ。妹っつーのは、いくつになっても可愛いもんだからよ」

 

 


 

 

 私は最低(マイナス)だ。

 ここに来てから、ずっとそう考えていた。

 

 だって他のみんなは、黒神さんたちを助けるためにここまで来ている。全員真剣に、一生懸命に。

 

 私だって真剣だったし、一生懸命だった。だけど、やっぱり私だけは、他のみんなとは一線を画して──距離を離されていたと思う。

 

 ……私はやっぱり、人吉くんが好きだ。

 

 安心院(あんしんいん)さんの領域の中で、人吉くんが持っていた黒神さんへの好意を、肯定したのは私。後悔はしてない。

 

 だけど、女々しい私は、女々しくも自分自身の好意を断ち切れなかった。(そそぎ)ちゃんはできていたのに、私にはできなかった。

 

 応援するって決めたのに。

 怨念ばっかり湧いてくる。

 

 さっきの牢屋で人吉くんが、一瞬で暗号を解いた姿を見て、確信した。私は人吉くんのことが未だに好きで、黒神さんに嫉妬してる。

 

 嫌な奴だなあ、私って。骨の髄から過負荷(マイナス)なんだろうなあ、(そそぎ)ちゃんが羨ましいなあ、私もそんな風にきっぱりと諦めたいなあ──。

 

 そんな、最低なことを考えていた矢先に。

 

 (そそぎ)ちゃんは死んだ。

 

 私は後悔した。だって、親友だと思っていたのに、私はあの子のことを何にも分かってなかったんだもん。

 

 最期の最期に、善吉くんを膝枕して、いつもの(そそぎ)ちゃんからは考えられないくらい、優しくて弱々しい手つきで、頭を撫でているのを見て。

 

 私は私の愚かさの最低値を更新した。

 

 たくさん恋愛相談に乗ってもらった。(そそぎ)ちゃんはニコニコしながら「応援するよ!」と言ってくれた。言わせてしまった。

 

 私が、そんなことを言わせちゃったんだ。

 

 どんな気持ちだったんだろう。私には想像ができない。少しは分かるつもりでいるけど、それだって正しいとは限らない。

 

 自分の好きな人が、自分を好きとは限らない。

 だけど好きな人には、幸せでいて欲しかったんだ。

 

 自分の好きな人の幸せを願って、(そそぎ)ちゃんは自分の想いを押し込めたんだ。

 

 だから(そそぎ)ちゃんは、善吉くんの隣に立つことにしたんだろう。せめて戦う時くらいは、近くにいたかったから。

 

 ──それで、私は?

 

 わたしは、なんだ。

 

 なにをしてる。

 

 なにも、してないじゃないか。

 

 人吉くんに、無責任に言葉をぶつけただけで、彼にとって特別な人間になれたと思うな。思い上がるな。思い違うな。

 

 私は特別な人間じゃない。

 どこにでもいる、普通で最低な人間だ。

 

 目の前で(そそぎ)ちゃんが死んだ。

 スキルは使えないから、生き返るのも無理だ。

 

 死んだ。

 

 殺された。

 

 だから唯一動ける私が、(そそぎ)ちゃんの敵を取らなければいけないと思った。私はここまで何もしていないし、なぜか目の前の潜木という人にも攻撃されなかったから。

 

 分かってる。本当はいつでも殺せるのに、私が何かに迷っていそうだったから、おちょくるために周りのみんなを攻撃したことを。

 

 つまり、私のせいで、みんなは散々攻撃されたのだ。

 私のせいで、(そそぎ)ちゃんは殺されたのだ。

 

 私のせいなら、私が始末を付けないとって思った。

 そして同時に、これは()()()()()()()だとも。

 

 ──私のせいで死んでしまった(そそぎ)ちゃんに報いることができる、と思った。一瞬だけど、思ってしまった。

 

 そんな自分に、腹が立った。

 生まれて初めて、頭の中で何かが切れたかのような錯覚を感じた。

 

 それほどまでの、自分に対する怒り。

 それほどまでの、自分に対する呆れ。

 

 それでも、潜木には届かなかった。

 

 仕込みはもう済んだ。覚悟は決まった。だから、あとはタイミングさえ間違えなければどうにかできる。

 

 ……多分その時、私は死んでいるだろうけれど。

 

 人生の最期くらいは、自分のためじゃなくて、誰かのために戦いたい。

 

 生徒会に加入するかどうかの相談をしに行った時、私に対して「やらずに満足するよりも、やって満足しろ」と言ってくれた黒神さんみたいに。

 

 友を想って戦いたい。

 

 友のために戦いたい。

 

 死ぬことは怖い。死ぬほど怖い。死ぬより怖いことはない。まだ死にたくない。本当は死にたくない。こんなところで死にたくない──。

 

 

 ──だけど私は、変わりたいんだ

 

 

 マイナスから、ゼロへと向かっていきたい。

 変わらないことの恐怖に比べたら、死への恐怖なんて恐るるに足らない。

 

 ……もう怖くない。

 だって私は、今から生まれ変わるから。

 

 だから、見てて。()()()()

 江迎怒江の、人生最後の大舞台。

 

 あなたとは結ばれなくたっていい。

 だって、私は──。

 

 

 

──あなたを好きでいられて、幸せだったから

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()まで、残り一分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 江迎に対して「逃げろ」と叫んだ善吉は、己の判断ミスを呪った。いや、それすらも()()()()()である可能性もあるのだが。

 

 しかし江迎は、善吉の予想に反し、その場を動くことはしなかった。体からは血液が垂れ流しになり、もういつ死んでしまってもおかしくないように見える。

 

 江迎を支えているのは、怨念──ではなく、執念。絶対に言葉(スタイル)を暴き、あわよくば殺す。これは潜木に対する怨念でも何でもなく、自分以外の仲間たちを思った上で、現在の江迎に成し遂げることができる、最大級の戦果であった。

 

 善吉が歯噛みしていると、江迎はおもむろに自らの髪へと文化包丁を当てがい、そして包丁を一気に引いた。早い話が、()()したのである。

 

 善吉は、その江迎の姿を見て──()()()()()()()()()()()()かのような江迎の姿を見て、言いようもない感情に突き動かされた。

 

 しかし、身体は動かない。

 

「江迎、お前、まさか──」

 

「うん、そのまさかだよ。私は今から、これまでで一番の無茶をして、あの人の言葉(スタイル)の秘密を何としてでも引き摺り出す。だから私のこと、ちゃんと見ててね──善吉くん。本当に、ずっと好きだったよ。黒神さんとお幸せにね!

 

 あまりにも突然の、一方的な告白。善吉がそれに対して何かリアクションを取るよりも先に、江迎は潜木に向かって()()した。

 

「なっ、おい江迎っ!! やめろおおぉぉっ!!」

 

 善吉の声は、確かに届いている。しかし、江迎はもう止まらない。覚悟を決めてしまったから。決まってしまったから。

 

 今の江迎に、後退はない。

 だから、()()()()()

 

「へえ、命懸けの捨て身かあ。格好いいなあ、きっと通じるよ。もしも漫画だったならね!!

 

 江迎は潜木にとって、まっすぐこちらへと向かってくる的でしかなかった。そんな大きな的を、まさか潜木が外すはずもない。

 

 結果として、潜木が放った数十本のドライバーは──その全てが江迎の身体へ命中した。

 

「──ッ、ぁ……」

 

「おーっ、全弾命中! いやー、やっぱり全部当たると気持ちが良いねー! そんで……今っ、どんな気持ち?

 

 驚異的な意地をもって、未だに二本の足で立っている江迎の方へと潜木は近づいて行き、江迎に刺さっているドライバーを()()()()()()()()()

 

「っぐ、ぃいっ……!」

 

「うわ、血まみれでばっちい……まーいいや、それでお前はどんな言葉を遺したい? 私は優しいからな、あそこで突っ立ってる男に教えといてあげるのだ!」

 

 潜木は江迎の髪を掴みながら、にっこりと笑ってそう言った。江迎にもっと体力があれば、あまりの痛みにのたうち回っていたかもしれない。

 

 だが、江迎はそれよりも、自分のやるべきことに集中していた。

 

「……、……ちろ……」

 

「んー? なになに、声ちっさすぎて全然──」

 

地獄に落ちろ

 

「──ぇ」

 

 江迎の言葉の真意を、潜木が理解するよりも前に──潜木の体に付いている江迎の返り血が、勢いよく腐敗を始めた。

 

「は、えっ何なのだこれ!? 止まれ止まれ!!……なっ、どうして()()()()()──!?」

 

荒廃した腐花(ラフラフレシア)腐乱嫌肢体(フランケンシュタイン)私の()()()の腐敗に巻き込んで、全身腐らせて──必ず殺す、必殺技、だよ」

 

 腐食は止まらない。とんでもない勢いで潜木の体を駆け巡り、その肢体を蹂躙する。

 

「くっ……なんで、なんで止まらないんだよ……!?」

 

「だって()()()だよ? バレてないと思った? 怒ってる相手に言葉(スタイル)が通じないこと。血液だって私の一部なんだから、言葉(スタイル)なんかで()()()()()()()()()()()

 

「……それだったら! 今すぐお前を殺ッ──ゲホッ……ぁ、何なのだ、これ……!?」

 

 再びドライバーを振りかざした潜木だったが、突如として吐血。その場に膝から崩れ落ちた。

 

()()()()()()()()()んだよ、私の過負荷(マイナス)は。さっきから随分と楽しげに話していたけれど、今までに一体何回呼吸したのかな

 

「だっ……だったら! 今すぐこの場から離れれば──」

 

 そう言って潜木はその場を四つん這いで離れようとする。が、しかし。両手足が氷漬けになっているせいで動けなかった。

 

 当然この状況で、そんなことができるのは一人しかいない。名瀬夭歌その人である。

 

 名瀬は完璧なタイミングで、しかも遠隔で凍結をしっかりと決めたのを確認して、その場に倒れ込んだ。

 

「ッ……!! くそっ、あの女……! 放っておくんじゃなかった!!」

 

「……怒ってるところに悪いけど、私は死ぬよ。だけどそれは、あなたが死んだのを見届けてから。それまで私は、何があっても死んであげないから」

 

 江迎は血塗れのまま、かの負完全(マイナス)を彷彿とさせるような笑みを浮かべた。完全なる作戦勝ちである。

 

 しかし潜木は、全身を腐食に蝕まれながらも、何かを考え込んでいる様子であった。そうしてしばらくの後、突如江迎の方を向くと、にへらと人のいい笑みを浮かべて見せた。

 

 その時には既に、潜木の体は()()()()()()

 

「……()()()()()()()()()()()()()って言うのは、例えば──こういうことがあっても?

 

「なっ……そんなのって、アリかよ……!?」

 

 それを見ていた善吉は、余りにもあんまりな潜木の行動に絶句した。折角江迎がもう少しで勝てそうだったのに──。

 

 

ありがとう()()()()()()()()()()

 

 

 ──江迎は、優しく微笑み、そして。

 

「……善吉、くん。あとは頼──」

 

「頼ませないのだーっ!!」

 

 

 最期の言葉を吐ききる前に、潜木に蹴り飛ばされ──恐らくは、絶命した。飛んでいった先は、皮肉にも(そそぎ)の遺体があった所と同じであった。

 

 善吉はあまりの衝撃に、何もすることができない。(そそぎ)も、江迎も死んだ。江迎に関しては、善吉のせいで死んだようなものだ──と、善吉はそう考えていた。

 

「……俺の、せいで……」

 

「まーそんな思い詰めんなよ。二人とも自分のやりてーこと通して、死んじまったんだ。お前は悪くねーよ」

 

 ……誰かが善吉の隣に立って、そう語っている。いやまあ、誰かと言われると、先ほど気絶した名瀬夭歌以外の何者でもないのだが。

 

「──えっと、名瀬師匠? あれ、ついに俺目がおかしくなったのかな……どうして()()()()()を引きずってるんですか? しかも、()()()()()の。意識は無いみたいですけど……?」

 

 何かがおかしい。怪我が治っているのなら、起きていてもいいはずだ。というかそもそも、()()()()()()()()()()()()

 

 それによく見ると、名瀬自信の怪我も完全に治っているように見える。なるほど、名瀬は自らを手術したのだろう。いやしかし、それにしたって()()()()()()()()()()()()()のはおかしいだろう。

 

「──自分で治したんですよね? さすが名瀬師匠、俺なんかじゃあ想像もできないことを簡単にやってのけますね。ははは……」

 

「……善ちゃん、あんまり怯えんなよ。もしもトラウマが刺激されて怖いってんなら、もう一回薬剤を投与して眠らせてやってもいいんだぜ」

 

「違う、違うんですよ名瀬師匠。たった一言『自分で治した』って言ってくれるだけでいいんですよ。はは、ははは──そうなんでしょう?」

 

「……善吉、これは俺が治したわけじゃねえ。もう分かってんだろ、何があって、誰が来たのか。俺の読み通り──本当なら、当たってほしくは無かったが──これでみーんな、()()()()()()()()()

 

そんなわけがない!! ()()()()()()()()()()()()()()が、俺の予想通りの人なんてことはあっちゃ駄目なんです!! だって、()()()()()()()()()()()()()……!!

 

 

時計台地下で出会った時より、ずっと。

 

 

 善吉は、それでも振り返る。

 

 おそるおそる、怖いもの見たさで。

 

 確かめなければいけないから。

 

 

 

 背後にいる

 

 者の正体を、

 

 確かめなければ。

 

 そこには──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無傷の(そそぎ)と、江迎がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封印は既に解かれている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ん?あれ、お前……何でここにいるのだ?」

 

 

 

 

 

「黒神めだかと一緒に──っておい、止まれ!

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと、おい。な、何なのだその顔……!?

 

 

 

 

 

 

「やめろ!おい、近づくな!! 近づくなって!!

 

 

 

 

 

そっ、そんなに怒んないでよー! ほら、こ

 

 

 

 

が悪かったから! 謝ったから許して

 

 

 

んで!?私 ちゃんと謝

 

 

 

まれ!! 止ま

 

 

 

 

 

が悪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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