TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 最近遅刻が多くてごめんね!




第78箱「無駄じゃなかった」

 

 

「……あれ? 私、死んだんじゃ……?」

 

「お、江迎も目ぇ覚めたか。それで……体は大丈夫か? いやまあ、大丈夫だとは思うんだけどよ……」

 

「……善吉くん? あ、あはは……私ってば格好付けたのに、恥ずかしいなあ……うん、えっと、今の状況も恥ずかしいけど……」

 

 死んだはずの江迎は、善吉の膝の上で目を覚ました。氷の上で眠って体調を崩してはいけないからという、善吉の心遣いによる行動である。

 

 正直なところ、江迎はいっぱいいっぱいだ。目が覚めたと思ったら、目の前に大好きだった人の顔があったわけで。しかも膝枕されていて。おまけに(そそぎ)を差し置いて──。

 

「っそうだ!! (そそぎ)ちゃんはどうなっ──」

 

「あ(いだ)ぁっ!!」

 

 (そそぎ)がどうなったのか確認しようとして、江迎は思い切り起き上がる。しかし善吉以外を見ていなかったせいで、そのままの勢いで誰かと頭をぶつけてしまった。

 

 というかぶっちゃけ、(そそぎ)本人だった。

 

「──ったた……って、(そそぎ)ちゃん!! (そそぎ)ちゃんだよね!? もう動いて大丈夫なの!? えっと、えっと……!」

 

「あはは……うん、大丈夫! もう大丈夫だから! ゆらっ、揺らさないで……!!」

 

 江迎は驚愕のあまり、ものすごい勢いで(そそぎ)の肩を掴み揺らした。当の(そそぎ)は剣道をやっているので、揺らされても特にダメージは入っていなかった。

 

「そっか、無事なんだ……よかったぁ──でも、どうして?」

 

「あー、それについては……まあ()()()()()()()()()よ。ところで江迎、体の方に違和感は無えか?」

 

 江迎の疑問に返答したのは、これまたつい先ほどまで倒れていた名瀬である。よく見ると彼女の背後には、鰐塚と虎居も立っていた。どうやら江迎は一番目を覚ますのが遅かったらしい。

 

「名瀬さん……うん、私は今のところは大丈夫。それで、一体後ろがどうしたって──」

 

 名瀬に言われた通り、江迎は背後を振り向いた。まあある程度の想像は出来ていたのだが、それでもやはり、驚愕せざるを得ない光景だった。

 

「──はは……こうなるんだったら、あんな無理な無茶も、無駄な努力も、しなくてよかったんじゃ……」

 

『いいや、そんなことはないさ、怒江ちゃん。無理だったかもしれない。無茶だったかもしれない。だけど──』

 

 

無駄じゃなかった。』

 

 

『きみが命懸けで頑張ってくれなきゃ、僕は敵の二つ目の能力……その対処法が()()()()()()()()()()もしそうなっていたら、僕は()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼が目配せした先には、全身に()()()1()0()()()()()()()()()()()を螺子込まれ、髪の色が真っ白に変色し、その場に正座させられている潜木の姿があった。

 

 江迎の視界が滲む。

 

『ありがとう、怒江ちゃん。きみの努力が無ければ、全員やられてた。そしたら僕は、きっと死ぬほど後悔したぜ』

 

 いつもの彼からは考えられないほど、優しげに。

 

 球磨川禊は笑った。

 

 


 

 

「……それで、江迎。さっきの件だが、俺から一つだけ言っておきたいことがあるんだけど──いいか?」

 

 ひとまず事態が落ち着いたところで、善吉が江迎に話しかけた。この場合の()()()()()というのは、言うまでも無いことであるが、江迎の告白のことである。

 

「……うん。それじゃあ聞かせてもらおうかな。ううん、聞かせてほしい。善吉くんの返事を聞いておかないと、きっと私は前を向けないから」

 

「おう、任せとけ。お前の好きになった男が、お前を世界一格好良く振ってやるから──ところで贄波、もう一回小太刀使わせてもらうぜ」

 

「えー? またー? まあいいけどさ……」

 

 善吉は懐から、預かっていた贄波の小太刀を取り出した。そしてお腹に刃先を当てた。

 

「そんでもって(そそぎ)。もし俺が死にかけたら、治療は任せたぞ。死ななそうなら、治療はしなくていい。これは俺のけじめだからな」

 

「オッケー! さっきの怨みも込めて、思いっきりやってやる!!」

 

 (そそぎ)はそう言うと、頭上まで日本刀を振り上げた。どこからどう見ても、介錯をつける構えに見える。

 

「ああ、頼んだぜ……治療だからな? 間違ってもとどめは……いやまあ、刺したければ刺してもいいんだけど──なっ!!

 

 善吉はまるで気合いを入れるかのような声と共に、持っていた小太刀を()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまるところが、切腹である。

 

ぐっ……ううううううおおおおおおおおっ!!

 

「ッ!? ぜ、善吉くん……!」

 

「……治療は不要、だね」

 

 腹から勢いよく血が噴き出たが、内臓は運良く避けたようだ。それを見た(そそぎ)は、刀を鞘へと納めた。

 

「……これは、()()()()()()()だ。もちろんこんなのは謝罪になんてならないし、俺がしてしまったことは切腹如きで許されるもんじゃねえ。だから、俺はお前には謝らない」

 

 善吉は苦痛に悶えながらも立ち上がり、江迎に正体した。普通に立つのも辛いはずだが、今の善吉はむしろ、普段よりも気迫に満ち溢れていた。

 

「代わりに俺は! お前に対して、腹を割って、胸を張ってこう言うんだ──」

 

俺は生まれ変わってもめだかちゃんを好きになるだから、お前とは付き合えない。」

 

 ……あまりにも堂々としていて、いっそ清々しいくらいに感じる、予想できた返答。一途で、愚直で、まっすぐ筋の通った言葉だった。

 

 覚悟出来ていたとはいえ、振られるのは精神的にかなりダメージが大きい。どれだけ割り切ろうとしても、割り切れないのが恋心である。

 

 ──しかし、江迎は()()()()()()

 

 涙すらも堪えて、善吉の目をまっすぐ見て、今までで一番の笑みを浮かべて、言葉を放った。

 

「──ありがとう! 私、善吉くんを好きでいて幸せだった……だけど、勘違いしないでね! いつかもっといい人を見つけて、今より何百倍も何千倍も幸せになっちゃうから!!

 

「……はは、本当に……俺なんかには勿体無いくらい、お前はいい女だよ──だから、俺のことを好きになってくれてありがとうな、江迎」

 

 二人の間に悲痛さは感じ取れない。沈痛な面持ちでもなく、遠慮しているような空気感すらもなく──ただただ、爽やかだった。

 

 

「……なんか格好付けてるけど、結局のところ振ってるだけじゃん」

 

『潜木ちゃん、言葉のプロなんだから口の利き方には気をつけよっか』

 

 二人の覚悟を茶化した潜木に、禊が「却本作り(ブックメーカー)」をさらにもう一発螺子込んだ。封印はおよそ50年プラスされた。

 

 潜木は泣いた。

 

 


 

 

 二人の関係が一度終わり、生まれ変わったところで。江迎は禊の方を向き、ある意味当然の疑問を口にした。

 

「ところで球磨川先輩……その人、どうしてここにいるんですか?」

 

『ああ、どうして潜木ちゃんをぶっ殺して顔面の顔剥いで「却本作り(ブックメーカー)」で封印して「大嘘憑き(マイナスオールフィクション)」でこの世から完全に()()()()()()にしてないのかって話?

 

「えっ、そんなことしようとしてたのか!? ぶっ殺すのはまだしも、そこまでされるかもしれなかったなんて私初耳なんだけど!」

 

『わざわざ言うわけ無いでしょ。てゆーかさ、潜木ちゃん。僕が君を()()()()()()()()()()()()()()()()()理由、まさか忘れたわけじゃないよね?』

 

「……ちなみに、ここで『忘れた』とか言った場合、私はどうなるのだ?」

 

『気になるなら試してみる? 僕は構わないけど』

 

 禊はそう言いながら、これ見よがしに螺子を取り出した。潜木はそれをみた瞬間、一瞬で縮こまった。

 

「いやー、やめとこっかなー……あは、あはは……」

 

『最初っから変なこと言わなきゃいいのに。それじゃあ、ほら、行ってこいよ』

 

「……ちぇっ、まあ仕方ないから、言ってくるけどさー……」

 

 潜木は封印されている両手両足を器用に使って立ち上がり、(そそぎ)と江迎の方へと歩いて行った。

 

 (そそぎ)も江迎も一瞬だけ警戒するが、しかし潜木にどうにも敵意を感じなかったので、すぐに警戒は解き、何か言いたげな潜木の話を聞く姿勢に入った。

 

「……まずはお前達二人に、最初に断っておくことがあるのだ。別に私は、お前達に対して攻撃したことを悪いと思ってない。

 

「……それじゃあ何? 私達のことを散々痛めつけて殺したあなたは、一体何を話に来たっていうの?」

 

 とても謝罪しに来たとは思えない態度の潜木に、江迎はあまり面白くなさそうな表情を浮かべる。それを見て潜木の方は、自らの失敗を悟る──ようなことはなかったが、しかし彼女の話は続いた。

 

()()()()()()は悪くないと思ってる。だけど──()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()は、まあ、悪いと思わないこともないのだ。だから、ごめんなさい

 

 そんなことを言いながら、潜木は二人に向かって頭を下げた。

 

 ふざけているとか、誤魔化しているとか、そういうのではない。潜木が提示した二つの点に関して、彼女は本当に悪いと思っている。

 

 今までの人生で一度も謝ったことがない潜木にとって、これが精一杯の謝罪だった。謝り方を誤っているような気もするが、それでもこれが、彼女なりの精一杯だった。

 

 精一杯だからって、別に許す必要はない。

 

「……江迎くん。きみはどうしたい? ぼくは何もできなかったから、ここはきみに任せるよ」

 

「任せる、って言われても……(そそぎ)ちゃん、あなたこの人に殺されてるんだよ? 許せないなら許せないって」

 

()()()。完全に極論だけど、潜木くんよりも弱かったぼくが悪いよ。まあ内心複雑だけど……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 (そそぎ)はそう言って、禊の方を見た。妹からの視線に気が付いた禊は、呑気に手なんか振っている。

 

「……球磨川先輩は、許せるんですか? 自分の妹を、あんな風に──」

 

許せるわけないじゃん。まあ僕が許せないと言っているのは、(そそぎ)ちゃんを殺したことの方じゃないけどね』

 

「殺したことの方じゃないって、それじゃあ一体何が許せないんですか……?」

 

(そそぎ)ちゃんの、善吉くんに対する想いを笑ったことに決まってるじゃんかあ。死んでも僕がどうにかできるけど、そっちに関しては僕が出来ること無いからね』

 

()()言って大丈夫なんですか!?」

 

 禊がいきなり妹の想いをカミングアウトしたので、流石に江迎も大声を出してしまった。いや、隠していたはずなのに、兄の口からバラされるのはあまりにも──。

 

 と、江迎はそう考えていたわけだが、しかし江迎の予想に反して、全員焦っている様子はなかった。不思議に思っていると、善吉から説明が入る。

 

「あー、それなんだけどよ、江迎……あー、その……これ言っていいのか……?」

 

いや別に言いたければ言えばいいんじゃないかなぼくの許可なんて必要ないよ善吉くんだって当事者だしこれを話しても問題ないとは思うよだってほらぼくだってあんなことした以上覚悟はしてたわけだしそれにもう終わったことなんだから二度や三度掘り返されたくらいじゃこれっぽっちもダメージ受けないしなんなら江迎くんが寝てる間にそれ意外全員の前で思いっきり言っちゃったから今更知ってる人が一人くらい増えたところで何も問題ないというかそもそも最初から隠すつもりなんてなかったしねだってしょうがないでしょあんなこと言われて背中押されて助けられちゃったら誰だってこういう気持ちを持っちゃうのは仕方のないことだよしょうがないことだよつまりつまるところそういうわけでそういう理由でぼくが色々と過程やら何やらの一切合切をすっ飛ばして復活した直後起き抜けに寝ぼけて勢いだけで善吉くんに想いの丈をぶちまけちゃったことに関してもぼくは悪くないから!!

 

「……そういうことだ」

 

 善吉がまごついている間に、(そそぎ)が事情を一から十まで語ってしまった。江迎が驚きのあまり隣にいる(そそぎ)を見る。

 

「あの、あんま見ないで……」

 

 羞恥心からか耳まで真っ赤に染まっていた。

 

『というわけで、これで大丈夫だね。(そそぎ)ちゃんは善吉くんのことを好きだったわけで、その可愛らしい想いを笑われちゃったら、流石に兄である僕が出張らないわけには行かないよね。1日に2回も女の子を振るなんて、善吉くんも贅沢だよねえ』

 

「うわあああやめて!! だからぼくは善吉くんの横で戦えればそれでいいって言ってんじゃん!!」

 

「……ま、まあそうですね。それじゃあ、その点を差し引いたとしたら──」

 

『別に許せるよ。そんなのありふれたことだし、僕も何回かやりかけてるからね』

 

 どこか茶化すような禊の言葉は、しっかりと江迎の耳へと届いた。しばらく考え込んだあと、江迎は再び潜木と正体する。

 

「……潜木さん。正直言って、私はやっぱりあなたを許せない。(そそぎ)ちゃんも私も殺しちゃうし、あんまり悪いとも思ってなさそうだし」

 

「まあ、そりゃあそうだろうなー。でも別に、私は許されなくたって──」

 

「だけど、あなたのお陰で()()()()()()()()()()。」

 

「──は? おい、お前……」

 

 江迎の突飛な言葉に、潜木は思わず目を開き、驚愕のあまり言葉を放つ。しかし江迎は、その言葉を遮り、話を続けた。

 

「きっとあなたがいなかったら、私は()()()()()()()()。あなたのお陰で、私はやっと変われたんだ──だからあなたのこと、許せるように頑張ってみるね

 

「……ああもう、お前達と関わってると調子狂ってしょうがないのだ……」

 

 精一杯謝られても許す道理はないのに、江迎が笑いながら、そんな甘っちょろいことを口にするものだから、潜木は大きなため息をついてしまった。安堵なのか、呆れなのかは分からないが。

 

 ──ともかく、こうして。

 

 生徒会と潜木もぐらは、なし崩し的に和解し。

 

 江迎怒江の恋は終わった。

 

 






 球磨川くんはちゃんと後輩に見えないところで潜木にめっちゃ攻撃してあり得ないくらい痛めつけましたが、顔面の皮は剥いでないので大分甘くなってますね(当社比)

 嘘です。治してるだけでやること(顔剥がし)やってます。

 ネタバラシの時間です。
 潜木が持っていた二つ目の言葉(スタイル)
「命令使い」でした。正解した人、おめでとうございます。

 ちなみに前回の最後に潜木が全回復した理由は「誤変換使い」を使って「腐る」→「苦去る」と変換したからです。

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