TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 UA40万行きました。いつもありがとう。

 色々と書いてるけど、後々効いてくるはず。




第80箱「大きな一歩だ」

 

 

「とにかく嫌だ! 私は帰らない、ここで善吉と──そして雪(そそぎ)とずっと遊ぶ!」

 

 ──その日託児室で発見された黒神めだか(二歳)は、人吉善吉と球磨川雪(そそぎ)を人質に立てこもった。恐らくは史上最年少の手による、人質籠城事件である。

 

 善吉の母であり、めだかの主治医である人吉瞳は、馬鹿なことを言っている目の前の二歳児をなだめようと近づいた。するとめだかは、雪(そそぎ)になにやら耳打ちをし、何かを吹き込んで瞳にけしかけた。

 

「ち、ちょっと何を……」

 

「ゆけっ、雪(そそぎ)! 私たちの力を見せつけてやるぞ!」

 

「うんっ! まだまだ善吉くんとあそぶんだからー!」

 

 めだかと雪(そそぎ)は、瞳に向かってじりじりと一歩ずつ近づいていき──。

 

「……えいっ」

 

「……あれ、捕まっちゃったよー!?」

 

 ──あくまでこの時点の雪(そそぎ)は普通(ノーマル)な子供であったため、瞳にあっけなく捕獲されてしまった。

 

「なっ……卑怯だぞ瞳先生! 二歳児を人質に取るなどと、よくもそんな……!」

 

「めだかちゃんも善吉くんを人質に取ってるじゃない……」

 

「うあー! 離してー! ぼくは悪くないんだよー!」

 

「えーっと……?」

 

 なんとも気が緩む光景が広がっているわけであるが、しかし事態は依然深刻であった。善吉は未だに人質なわけだし、気を緩めれば雪(そそぎ)が逃げ出してしまいそうである。状況は膠着し、このままでは日が暮れても一切の変化は無いままだろう。

 

 が、しかし。突如現れるもう一人の子(・)供(・)により、状況は一変する。

 

『雪(そそぎ)ちゃん、人吉先生に迷惑かけちゃダメだよ』

 

 ──球磨川禊。当時四歳であった彼は、お気に入りのぬいぐるみを引き摺りながら現れると、瞳に捕まっていた雪(そそぎ)に語りかけた。

 

「あっ、お兄ちゃん!! 聞いて聞いて、お友達が! 二人も!! できたんだよ!!」

 

『そうなんだ、それならよかったよ。僕は心配だったんだ、雪(そそぎ)ちゃんが寂しがってないかなってね』

 

 雪(そそぎ)がぱぁっと笑みを浮かべ、禊の方へと手を伸ばしながらじたばたと暴れ始めたため、瞳は雪(そそぎ)の身柄を解放した。

 

 するとその瞬間、雪(そそぎ)は禊へと飛びかかった。禊は少しよろけながらも、雪(そそぎ)の全体重を受け止め、互いに顔を見て笑った。

 

『それで、雪(そそぎ)ちゃんは一体何をして遊んでいたのかな? 僕にもぜひ聞かせてほしいなあ』

 

「うんっ! あのね、めだかくんと善吉くんとおままごととかして遊んでたの! 二人に膝枕してあげたんだあ」

 

『…………へーえ、そうなんだあ。羨ましいなあ』

 

「お兄ちゃんには今度やってあげる!」

 

『本当に? やったあ、僕は優しい妹を持って幸せだよ』

 

「膝枕」というワードに一瞬だけ怪しいオーラ(マイナス)が漏れかかったが、しかし雪(そそぎ)による膝枕が確約されたことで機嫌は治ったようである。

 

 球磨川禊は、妹の前ではまともを装っていた。

 少なくとも、この時点では。

 

 そんな風に、突如として現れて雪(そそぎ)を回収した禊であったが、しばらくすると雪(そそぎ)の右手を取り、出口の方を向いた。

 

『さて、そろそろ帰る時間だよ、雪(そそぎ)ちゃん。ほら、めだかちゃんと善吉ちゃんに挨拶して』

 

「……もう帰るのー? でもぼく、まだ遊び足りないよ?」

 

『友達になったんだろう? だったら、またいつか遊べるよ。それに、そろそろ眠たくなってきちゃったんじゃない?』

 

 禊に指摘された途端に眠気が襲ってきたようで、雪(そそぎ)は大きなあくびをした。あまりにも突然眠気を感じたので、雪(そそぎ)は不思議がっている。

 

 それもそのはず、めだかとの遊(・)び(・)というのはそれほどまでにハードなものなのだ。遊びに集中していたせいで、雪(そそぎ)は体力がほとんどなくなっていることに気づかなかったらしい。

 

「あれ……ふぁ……急に眠たくなっちゃった……なんでー?」

 

『なんでだろうね? でも、眠たくなったなら帰って眠らなきゃだ。だから、ほら、挨拶しよっか』

 

 禊にそう促された雪(そそぎ)は、細めた目を擦りながらもめだか達の方を向いて、うっすらと笑みを浮かべながら手を振った。

 

「めだかくん、善吉くん……ばいばーい……また遊ぼうね……」

 

『それじゃ、僕達はこれで。人吉先生はめだかちゃんの説得頑張ってくださいね』

 

 禊はそう締めくくると、右手でぬいぐるみを抱え、左手で雪(そそぎ)の手を引きながら帰ってしまった。

 

「……それでは、続きを始めようか。さ、まずはジュースとお菓子を持って来い! 私は善吉をもてなさねばならんのだ! 本当は雪(そそぎ)ももてなしたかったが、おねむならばしょうがない!」

 

「……えっと、めだかちゃん……諦めてくれないかな?」

 

「断固! 拒否する!!」

 

 

 そんなわけで、善吉とめだかはこの時すでに、雪(そそぎ)と禊に出会っていたわけだが、しかし特に成長に影響を及ぼすようなことは無かった。

 

 結局この後、めだかの遊びに無理についていこうとした善吉は熱を出し、それによってめだかはこ(・)の(・)世(・)に(・)特(・)別(・)な(・)人(・)間(・)な(・)ど(・)い(・)な(・)い(・)ということを知る。

 

 それと同時に、そ(・)ば(・)に(・)い(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)人(・)間(・)な(・)ら(・)い(・)る(・)ということも。

 

 しかし、ここにいた全員が知(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)もある。

 

 この四人が、再び一堂に会するということだ。

 

 


 

 

「──ふむ、えらく懐かしいことを思い出してしまったな……この感じだと、雪(そそぎ)が(・)私(・)に(・)か(・)け(・)て(・)い(・)た(・)封(・)印(・)が(・)解(・)け(・)た(・)と考えるべきか」

 

 めだかは「暴れること」に警(・)告(・)を喰らった雪(ゆき)に対して、というわけではないが……雪(ゆき)の隣でそう呟いた。

 

「あー、あの子なんか自(・)分(・)の(・)心(・)に(・)蓋(・)し(・)て(・)た(・)しね〜。ま、私はそこをわざわざ暴くような不粋な真似はしなかったから、なにを隠してたのか知らないけどさ」

 

「善吉への好意じゃないのか?」

 

「うええぇぇぇそうなの!?!?」

 

「警(・)告(・)だ(・)、騒(・)ぐ(・)な(・)!!」

 

 雪(そそぎ)が隠していた感情、そしてそれをい(・)と(・)も(・)容(・)易(・)く(・)暴(・)い(・)た(・)めだかに驚愕した雪(ゆき)は大声を上げるが、流石にうるさすぎたため「騒ぐこと」に警告を喰らってしまった。

 

 今の雪(ゆき)はスキルを使うことも暴れることも騒ぐことも禁止されているため、もう大人しく助けを待つことしか出来ない。

 

「……それで? 雪(そそぎ)ちゃんがかけてた封印と、その善吉くんへの好意ってどんな関係があるわけ? 私、その辺はノータッチだから把握してないんだけど」

 

「いや、あれと同じだよ、『却本作り(ブックメーカー)』。あれって確か球(・)磨(・)川(・)が(・)幸(・)福(・)だ(・)と(・)効(・)き(・)目(・)が(・)弱(・)く(・)な(・)る(・)のだろう? それと同じで、感情を隠すのをやめたから、私(・)に(・)隠(・)し(・)て(・)お(・)き(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)も(・)無(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)のだろうな」

 

「ちなみに一応聞いておきたいんだけど、根拠は?」

 

「勘だ」

 

「でしょうね……」

 

 まるで敵地のど真ん中と思えないほど、のんびりとした会話を二人は繰り広げているわけだが、しかしいつまでものんびりさせてくれるほど、婚約者達・月氷会も暇ではない。

 

「あのー、お二方? 折角武器子さんコレクション秘蔵の一品であるロケット『ブラックライト』を用意したんですから、できれば早く乗り込んで欲しいんですけど……あり得ない仮定ではありますが、早くしないと、人吉善吉も来ちゃうかもしれませんし」

 

 武器子はそう言って搭乗を促すが、しかし二人は一切動かない上に、そもそも婚約者達もまだ搭乗していなかった。

 

 武器子は本日何度目か分からないため息を吐いた。

 

「そういえば、善吉に会うのは久しぶりだな。ま、だからといって甘やかすような真似はしないが……」

 

「そういえばめだかちゃん、善吉くんと最後に会ったのは髪を切ってもらった時が最後なんだっけ? ストイックだねえ、なんというか」

 

「ストイック……まあ、そうなのかもしれないな。ここ最近は意識して距離を置いていたわけだし……しかしまあ、そんなことをしてもま(・)る(・)き(・)り(・)無(・)駄(・)だとは思うがな」

 

「……その件、詳しくお聞かせ願いたいのですが、構いませんか? 黒神さん」

 

 そろそろ胃が痛くなってきた武器子は、しかし月氷会の役目を全うしようとしているようで、めだかの発言に噛み付いた。

 

「詳しくもなにも、大した話ではない。曲がりなりにも私が人間であれるのは善吉のおかげだが、しかしだからといって、善(・)吉(・)が(・)い(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)に(・)も(・)出(・)来(・)な(・)い(・)人(・)間(・)に(・)は(・)な(・)り(・)た(・)く(・)な(・)い(・)と思ったのだ」

 

「それも自分探しに入ってるの? それとも──」

 

「一応は自分探しの範疇だな。一(・)人(・)で(・)な(・)に(・)も(・)出(・)来(・)な(・)い(・)奴(・)は(・)、二(・)人(・)で(・)い(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)という持論に基づいて、こんなことをしてみたわけだが……やはりどこへ行っても善(・)吉(・)は(・)追(・)い(・)つ(・)い(・)て(・)く(・)る(・)という結果が明らかになるだけだったな」

 

「……やけに、自(・)信(・)満(・)々(・)に(・)言(・)う(・)じゃないですか。何か根拠でもあるんですか?」

 

 訝しげにそう問いかける武器子を見た二人は、どちらともなく顔を見合わせて笑い合う。流石に武器子も煽られているように感じたようで、声色に苛立ちの感情が乗り始めた。

 

「ッ……あなた達は! これからこのロケットに乗って月へ行くんですよ!? どうやって追いつくって言うんです!? 根拠もないのに適当言うのはやめてくださいよ!!」

 

「どうやって、か──雪(ゆき)、教えてやれ。一体どのあたりが根拠なのかをな」

 

「えー、私? まったくもー、しょうがないなー……ほら、武器子さん。あ(・)そ(・)こ(・)見(・)て(・)よ(・)」

 

「はあ? あそこ見てって言ったって、特になにもないじゃないですか──」

 

 雪(ゆき)がロケットの上部を指差す。言われた通りに武器子はロケットの方を向いて──数秒後。

 

 

「根拠がくるよ。」

 

 

 ──とてつもないスピードで突っ込んできた戦(・)闘(・)機(・)が、ロケットにぶつかり大破した。炎上している上に火が消えるようには見えないため、爆発は秒読みといったところである。

 

「──はあ? え、え? 私の、ロケットが……1兆7000億円のロケットが……」

 

 秘蔵のロケットが滅茶苦茶になってしまい、武器子は完全に放心してしまった。と、そこに大きく声が響く。

 

「……この一歩は、人類にとっては小さな一歩だが、俺達にとっては大きな一歩だ。」

 

 

第百代箱庭学園生徒会執行部、現着。

 

 

 






 ちなみに雪(そそぎ)ちゃんの一人称が「ぼく」なのはお兄ちゃんの真似です。

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