TSした上に『負完全』の妹   作:Minus-4

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 久々に遅刻しちゃった。
 その分長めに8,000文字です。




第83箱「私は黒神めだかだ」

 

 

消失しりとり(デリートテールトゥノーズ)……もしも(なれ)が敗北したら、自らその観察眼()を抉り取れ。そして仮に(なれ)が優勝したなら、吾輩はこの(スタイル)を切り落とそう。

 

 ──消去しりとり(デリートテールトゥノーズ)のルール説明が終わった瞬間に、桃園はとんでもない提案をした。

 

 要するに、()()()()()()()()()()()と言っているわけだが、しかしこの提案、今回のような心理戦においてはかなり効いてくる。

 

 分かりやすく痛々しい提案をすることによって、相手の余裕を奪う。しかも相手が負ければ当然相手が痛い思いをするし、仮に勝った時のことを考えると、その際に発生する事態もそれはそれで悲惨である。

 

 この勝負、めだかの勝利は──6()()()()()()()()()()()()()()()という結果をもたらすのだ。

 

「まさか異論はなかろうよ。(なれ)の大切な幼馴染と、親友の命がかかっておるのだからな……まさか我々が、命を賭さぬわけにもいくまい」

 

「……うむ、それでいい。言っておくがな、私は相手が幼児だからといって、手加減が出来るような()()()()()はしていないのだ。後悔するなよ」

 

「……当然であろうが。言葉使い(スタイリスト)の名を戴いている以上、自らの発言に責任くらいは取るわい」

 

 揺さぶりに揺さぶりを重ねた桃園であったが、しかし相手は百戦錬磨の黒神めだか。痛みを伴う脅しなど、効果があろうはずもなかった。

 

「あの幼女、どさくさに紛れてなんてルールを提案するのよ……って、鰐塚さん? タブレットなんか持って、一体何を……?」

 

「ああいえ、自分は書記ですので、一応記録をつけておこうかと思いまして……なにせこれは新生黒神めだかの、()()()()()()()になるのですから──」

 

 上記を逸した桃園のセリフに内心ドン引きしていた虎居であったが、自分の隣に立っていた鰐塚がタブレットを一心に操作しているのに気が付き、その画面を覗き込んだ。

 

 するとそこには、びっしり並んだ文字列──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()消去しりとり(デリートテールトゥノーズ)のルールが纏められていた。

 

 

 

消去しりとり(デリートテールトゥノーズ)』ルール

①しりとりを行い、最初に

 五十音表を使い切ったプレイヤーの優勝。

②五十音表の各文字は一回しか使えない。

③しりとりの頭文字は前プレイヤーから引き継ぐ。

 つまり消費するのは二文字目以降。

④以下のケースは失格。

 ・言葉を作れなかった場合・同じ文字を使った場合

 ・他プレイヤーが既に作った言葉を使った場合

 (同音異義語は可)

 ・『ん』で終わる言葉を作った場合

 (『ん』から始まる言葉が極端に少ないから)

⑤失格者が出た後は残ったプレイヤーでそのまま

 しりとりを続ける。残り一名になった場合は、

 該当プレイヤーの優勝。

⑥パスはなし。

⑦『五十音』とは旧かなと『を』を除いた

 四十五文字のことを指す。

 濁音・半濁音・促音・拗音はそこに含む。

⑧用言は体言化して使用すること。

⑨暴力禁止。

────────────────────────

⑩作る言葉は四文字以上。

⑪制限時間は一時間。

(一時間未満で答えても失格)。

 

 

 

 先に決めておいた順番──めだか→杠→寿→桃園の順で、用意された席に着く。消去しりとり(デリートテールトゥノーズ)は道具を使わないゲームであるため、円卓の上には何も置かれていない。

 

「それではもたもたするのもあれだし、さっさと始めてしまおうか──ではオープンザゲーム。『えぐりとり』の『り』から!

 

 

 

 

協定世界時

21:00:00

 

 漆黒宴決勝戦(ファイナルステージ) 開演

 

 

 

 

「さすがに引きが強いっつーか、当たり前みたいに先行を取るねえ、俺の妹は」

 

「ええ……これで少しだけ有利になりましたね。五十音を最初に使い切った人の優勝なら、出番が早いに越したことはありませんから」

 

『だがしかしそれは、四番目の席を取ったあの凶悪ロリに対して、めだかちゃんは()()()()()()()()()()()()()()ということも意味するし……そう考えると、あの子の引きもめだかちゃんに引けを取らないよね』

 

「あー、なるほど……つまりお兄ちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そう言いたいってことだね」

 

「……つまりあのちびっ子は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。この場合、先手を取ったのは果たして運がいいと言えるのかな──」

 

 各々がめだかの動向をそうして見守る中、当のめだかはと言えば──徐に腰を上げて、どこからどう見ても離席していた。

 

「ちょっと散歩に出てくるぞ。お姉さま、申し訳ありませんが、しばし留守をお任せします」

 

「ッ!?」

 

 当然ながら、その場の全員は困惑を隠せない。めだかがこんなことをする意味も意図も不透明であるからだ。

 

「なっ、なにを言ってるんですか黒神殿! 今はゲームの真っ最中です、座ってください!」

 

「どうしてだ鰐塚ちゃん、ゲーム中中座してはならんというルールはなかっただろう。安心しろ、制限時間のうちには戻る。ちょっと外の空気を吸いたくなったとでも思っていてくれ──」

 

 鰐塚の静止も虚しく、めだかは部屋を後にしてしまった。取り繕うつもりもない番外戦術。わざとらしく席を外すことによって、他のプレイヤーを揺さぶりにかかった形である。

 

 これならば確かに、席順など関係なく全員に効果的だ。が、しかし、初手からそんなに印象の悪いことをしてしまえば──。

 

「おい、寿の、杠の。()()()()()()()

 

 ──当然、不要な反発を買う。

 

「吾輩がこの席から、勝算を度外視して黒神めだかを不利な状況へと追い込んでくれよう。その隙をついて(なれ)らのどちらかが優勝しろ。ま、優勝者からはそれなりの見返りはいただくがの」

 

「ち……ちょっと! なにを勝手な相談してるのよあなた達! 三対一じゃないってあれだけ言ってたくせに……」

 

「もちろんそのつもりだったが、あの挑戦的な態度──否、()()()()()()()()()()()()()。あんな挑発に乗らんほど、吾輩人間ができておらん。ほら、まだ6歳児であるしな」

 

 江迎が見かねて突っかかるが、しかしこの場合は桃園の言い分に理がある。まだまだ文句を言いたいところだったが、江迎は引き下がらざるを得なかった。

 

 ──そうして、特に何もないまま1()()()が経過し、部屋の扉を開くと同時に、めだかは一手目の言葉を口にした。

 

 

22:00:00

手番:黒神めだか

 

「待たせたな、一手目は『硫酸霧(りゅうさんむ)』だ」

 

 

 一秒のズレも無く、めだかは時間ぴったりに帰ってきた。しかし初手から六文字の言葉を作って帰ってきたのを見て、贄波が(完全に気分で)因縁をつけにかかった。

 

「ちょっと待ちなよ黒神めだか。お前外で辞書とか見てきてない? いきなり六文字の難しい言葉を作ってくるとか訝し過ぎるよ」

 

「よい、贄波の、そこは怪しまないでおくわい。むしろ逆にがっかりじゃろ、鶴喰博士が愛した娘が、辞書よりも語彙が少なかったら」

 

 そう言って贄波を止めに入ったのは、意外にも桃園であった。実際に怪しんでいるわけではないのだが、しかし桃園の表情があまりにも変わらないので、その内心をはかり知ることはできない。

 

「……怪しまないでもらえるのは助かるが、疑問の余地が残るのは気持ち悪いな。分かった、ならばそこの()()()()使()()、次からはついてきてくれ。誰の味方でもない立場からなら、私の無実を(あか)してくれるよな?」

 

「ちょっ、えっ!? もしかしてあなた、また外に行くつもりですか!?」

 

「まだ少し外気を吸い足りなくてな。はは、柄にもなく中々落ち着かないのだ、笑いたければ笑え」

 

 めだかはそう言い残し、他のプレイヤーの回答を聞くこともなく、再び外に行ってしまった。武器子もついていったので、不正をしていないということは証明されるだろう。

 

『……確かに他のプレイヤーが答える間もまた、席にいなきゃいけない決まりはないけれど、マジで何を仕掛けているのかなあの子は……』

 

「それに、あの言い回しも気になるところだよね。()()()()使()()とか……でもなあ、具体的に何をしてるのかまでは分からないね……」

 

(そそぎ)の言ったとおり、まああいつのことだから()()()()()()()ってのは確定だろ。言葉のプロ相手に言葉で罠を仕掛けるっつーのも、愚妹らしいっつーか……」

 

「ともあれ、ただの嫌がらせじゃあないってのは確実だろ。しかしこの僕にも読めないなあ、黒神めだかの見据えている意図が──」

 

 安心院(あじむ)なじみが読めないという意図が、他の誰かに読めるはずもなく。しかしゲームそのものは、その先も途絶えることなく進行した。

 

 

23:00:00

手番:杠かけがえ

室町(むろまち)時代(じだい)

 

00:00:00

手番:寿常套

巻柏(いわひば)

 

01:00:00

手番:桃園喪々

(はな)部屋(べや)

 

02:00:00

手番:黒神めだか

山鰐(やまわに)

 

03:00:00

手番:杠かけがえ

肉詰(にくづ)

 

04:00:00

手番:寿常套

メダリスト

 

05:00:00

手番:桃園喪々

共布(ともぬの)

 

06:00:00

手番:黒神めだか

野狐(のぎつね)

 

07:00:00

手番:杠かけがえ

合歓木(ねむのき)

 

08:00:00

手番:寿常套

曲折(きょくせつ)

 

09:00:00

手番:桃園喪々

露姫(つゆひめ)

 

10:00:00

手番:黒神めだか

雌犬(めすいぬ)

 

 

 ──ゲーム開始より十三時間が経過したが、未だに一人の失格者も出ていない。ちなみに現在それぞれのプレイヤーが持っている残りの文字は、以下の通りである。

 

 

 

 黒神めだか 

 

あ××えお

か×くけこ

×し×せそ

たち×てと

な×××の

はひふへほ

×み×めも

や × よ

らりるれろ

×   ×

 

 

 

 杠かけがえ 

 

あ×うえお

か××けこ

さ×すせそ

×××てと

なにぬね×

はひふへほ

×み××も

や ゆ よ

らりるれ×

わ   ん

 

 

 

 寿常套 

 

あいうえお

かき×けこ

さし××そ

×ち×て×

なにぬねの

××ふへほ

まみむめも

や ゆ ×

ら×るれろ

×   ん

 

 

 

 桃園喪々 

 

あいうえお

かきくけこ

さしすせそ

たちつてと

×に×ね×

は×ふ×ほ

まみむ××

× × よ

らりる×ろ

わ   ん

 

 

 

 戦局としては、一手目で「室町時代」を出し「ろ」「ま」「ち」「じ」「だ」「い」の6文字を消去した杠がやや有利と言ったところだろうか。

 

 そんな戦況など知ったことではないかのように、めだかは再び外へ出て行こうとする。都合六度目の外出である──が、しかし。流石にめだかの奇行が相当頭に来たらしく、叶野が大きな声を上げた。

 

「そのくらいにしときや黒神の! どれだけ落ち着きがない奴どすか!! 武器子! こいつの(おこな)いは、そろそろしりとりの決まりごとに抵触するやろ!」

 

「……お気持ちは分かりますけれど、やはり席を外した程度で失格には出来ないですよ。それに彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()──」

 

「ぐっ……」

 

 ゲーム中の離席など、他のボードゲームなどでも認められている行為である。代表的なものを挙げるとするならば、将棋の長考などがこれにあたるだろう。

 

 故に、これを理由としてめだかを失格にすることはできない。できないが、しかし、()()()()()()()()()()()

 

 めだかの行動を咎めたのは、なんと身内のはずである虎居砕であった。

 

「──黒神めだか、あなたに言いたいことが……いえ、こればっかりは言わせてもらいますけれど、私もあちらと同じ気持ちです!」

 

「なっ、おい虎居、お前今は……」

 

「分かっています、分かっているつもりです……でもここは言わずにはいられない!!」

 

 名瀬が虎居の糾弾を止めようとするがしかし、虎居はそれを払いのけてめだかの元へと近づいていき、持論──つまりは()()を口にした。

 

「黒神めだか! たとえいかなる思惑があるにしたって、私は姑息な戦い方をするあなたを見たくないです! あなたはもっとヒロイックに! 誰に恥じることなく勝つべきなのです!」

 

 あまりにも身勝手な価値観の押し付け──が、しかし、その場にいる誰も、虎居を否定できなかった。

 

 それは違う、とは()()()()()()()()()。ここにいる誰もが、ほんの一瞬とはいえ、()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってしまったからだ。

 

 安心院(あじむ)なじみの攻撃をめだか以外の全員が静止しようとしなかったことから分かるように、これは明らかな事実である。

 

「ああも輝かしかったあなたのはずがみっともない……立ったり座ったり、ちょこまかといじましい勝ち方をして、それで人質に取られている仲間が喜ぶとでも!?」

 

「…………」

 

「一度負けたくらいで、あなたは勝ち負けに対する誠実な姿勢まで失くしたのですか? それでいいのですか!? あなたがあれだけ愛した『戦い』なのに!!

 

 虎居の言葉に、めだかは何か考え事をしているように見えた。その沈黙に耐えかねたのか──実際はただの疑問ゆえなのだが──禊が口を開いた。

 

『……あの「特別(スペシャル)」の子、なぜやたら「黒神めだか」に挑みがちなわけ? 僕にはそこが分からないわけだけど』

 

「確かに……言われてみれば初めからあの人、助けに来ること自体乗り気じゃなかったみたいですし……」

 

「ああ、それについては僕が説明しよう。ま、つまりあの子は完璧超人(むかし)の黒神めだか』の支持者って奴だぜ」

 

 禊と江迎の疑問に対して、安心院(あじむ)なじみが即座に返す。曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に憧れた人間なのだとか。

 

 そんな虎居だから、恋愛にうつつを抜かす黒神めだかなど、認められるはずがなかった。

 

「いやしかし、僕としても気になるところではあるよね。『変わらないね』って言われるのと『変わったね』って言われるの、人はどちらが喜ばしいものなのかね?」

 

 安心院(あじむ)なじみは最後にそう締めくくり、めだかの動向を見守り始めた。当のめだかは何を言うのか決めたようで、口を開き始めている。

 

 語られた言葉は、決して多くはなかった。

 

私は、黒神めだかだ。何が変わっても、それだけは変わらない──そして、言われるまでもない

 

 しかし、その言葉は何よりも雄弁だった。

 

黒神めだかはいかなる時でも、仲間に恥じる戦いはしない。」

 

 めだかはそう言って、凛とした表情を崩しもしなかった。

 

 






 もう()()はやってます。めちゃ大変。

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