まだまだ
黒神めだかは、仲間に恥じる戦いはしない──つまりは「心配するな」という意味であるのだが、しかしそれはそれとして、相手方もそろそろめだかの離席にはうんざりしていたようだ。
「……しかし黒神めだか。立ったり座ったり、出たり入ったりが見ていて不愉快なのは確かである。座れ」
「……これは驚いたな。このゲームは敵に直接命令してもよかったのか?」
「命令? おいおい早とちりするな、吾輩は……
桃園は凶悪な笑みを浮かべながら、めだかに着席をを促す。そんなことを言われてしまえば、流石のめだかといえど、着席せざるを得なかった。
その様子を見た桃園は満足げに、威圧感のある笑みを浮かべ、漆黒宴の真実を語り始めた。
「えらく物分かりがよいではないか──まあいい、それでは語ってやる。まずは……鶴喰博士がなぜ
「そもそもことの始まりは、
「
「贄波家・叶野家・潜木家・桃園家・寿家・杠家・鶴喰家──その全てと
「まあ黒神の家系は愛が深いとも聞くからの。あの男の愛は一人の相手に注ぐには大きすぎるし、多すぎるだけだとも取れるがな」
「それはともかくとして、つまるところは
「ちなみに
「そして、黒神めだか。
「──これで、分かったであろ? 博士が
「当たり前だわな、叔父と姪では、
「鶴喰博士が
「結局博士は
「だから博士はその身を貫かれたのだ。他ならぬ、月下の手によってな」
「黒神家の栄華永続を目的とする月下の年寄り共にとって、まあ有り体に言ってしまえば、博士は邪魔で邪魔で仕方がなかったのだわ」
「なにせ、博士の
「つまりな、博士を殺したのは、彼に敗北した他なる六家とかではなく、そのときの──初代の媒酌を務めた者なのだよ」
「……まあ、とは言ってもだな。愛する娘を、愛する姉を、
「鶴喰博士は
「同じ轍を踏まないために、自らは立ち上がらず、
「つまり、誰が勝ち、誰と結ばれたところで、黒神めだかを手に入れられる形を作ったのだ。それが吾輩達『
「──吾輩達は、博士から
「吾輩達が
「いわばそれは、実姉の血を継ぐ者に、他の男を近づけたくない、博士の『親心』だよ。もっとも、少し過激すぎるがの」
「……何やら物言いたげだな、
「博士は既に死しているのにも関わらず、吾輩が
「吾輩からすれば、どの口が述べるの極みだな──大体復活や不死身は
「それよりも、もしや
「……思わなかったのか。ふむ、なるほど。それならば仕方ない、吾輩が直々に
「そもそも博士が
「
「……は?」
いきなり打ち切られた桃園の話に、呆けた声を上げたのは一体誰だったのか。今となっては分かるところではないが、しかし。
どうやら、桃園に嵌められたらしいということだけは確かであった。
「……いや、しりとりだよしりとり。前の言葉が『
意味不明なことを言い始めた桃園であったが、しかし鰐塚が持っているタブレットで現在時刻を確認すると、ようやくその言葉の意味を理解できた。
「なっ……ただいまの時刻、午後一時!? 黒神殿が『雌犬』と言ってから、既に
「『午後一時』に答える──のは吾輩、であろ? タイムぴったりで答えねば失格になる取り決めだったかの確か。杠の、寿の、つまり
「なっ……!?」
あまりにも理外の戦法。つまり桃園は、お喋りのペースを徐々に遅くして、
これならばルールには抵触しないし、当然場にいる全てのプレイヤーへの攻撃が可能である。もっともそれは、理論上の話だが。
「いや、しかし……ならば何故黒神殿を狙わなかったのです!? 今の話では、許婚はみな仲間であり! それに彼女達は手を組む約束をしていたのに!」
「仲間? 約束? おい、
「っ……!」
鰐塚が思わずといった様子で詰問するも、しかし当の桃園はといえばどこ吹く風、まったく悪びれる様子などもなければ、いっそ清々しいほどの開き直り様である。
「誤解するなよ、今話したのはあくまで
「……あのちびっ子、マジでヤバいね……こそこそしがちな僕といえど、あそこまで姑息な真似ができるかは分からねーな」
「いやいや、
「俺としちゃあ、
『ちょっとちょっと、あまり滅多なことは言わないでもらいたいね。言いがかりを付けたいなら僕を倒してからにしなさい』
……あまり緊張感は感じられないが、しかしこれでも警戒は怠っていないのだ。今いる場所は敵の本拠地なわけで、流石にここで気を抜くほど丸くなってはいなかった。
無用な警戒であっても、するに越したことはない。
「……それに、
「…………」
「吾輩はな、あえて二人を失格に追い込むことによって、黒神めだかの無粋極まる
「企み? はて、何を言っておるのか──」
「とぼけるなよ。
めだかの言葉を遮り、桃園はそう話した。つまり彼女は、
「いかに長引いても、後一日足らずでゲームは終わる。捕まってしまった人質共の顔を立てる意味もあったに違いないが──生憎だったの、黒神めだか。これで
「……ぐっ、ここまで早く、しかも的確に、それを見抜いてくれるとは……」
桃園はそう勝ち誇り、口の端をにいっと上げて、凶悪な笑みを浮かべた。彼女の目には、目の前の黒神めだかが悔しがっているように見える──。
──桃園の名誉のため、先んじて言っておくが、桃園のこの読みはほとんど正解である。
めだかは実際に半袖辺りが封印を自力で解く可能性も考えていたし、そういう意味では、策を見破ったというのもあながち間違ってはいないのだ。
だからこの場合、桃園が読み違えたのは──。
「もしも見抜いてくれなかったら、
それで私の負けだった!」
──黒神めだかが、策を一つしか用意しないはずがないということだった。
漆黒宴の終宴は、すぐそこである。
特殊タグ、大変。
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