なんか12,000文字もあります。
長い。
「これで私の勝ちだ、礼を言わせてくれ桃園喪々。いやまったく、あと一回りするまでに見抜いてくれなければ、私の負けは決まっていたよ」
先ほどまで焦ったような顔をしていためだかの表情は一変し、まるで
その笑顔に桃園は一瞬気圧されるが、しかしすぐさま先ほどまでの調子を取り戻し、不敵な笑みを浮かべた。
「博士の話が一足早く聞けたのは、はっきり言って
「言ってろ、苦し紛れのハッタリであろ?
どうせ、後はただ普通にしりとりをやり切れば自分の勝ちである──桃園はそう考えて、再びしりとりの場についた。現在の手番はめだかなので、当然ながら、めだかが先に言葉を放つ。
──ゲーム開始から、二回目の午前七時である。ここまで二人とも失格することなくもつれ込んだが、しかし終宴はすぐそこまで迫っていた。
……桃園の勝利は
(は、はは。やはり黒神の言ったことはまったくのハッタリ! 現状がそれを証明しておる! 吾輩は残っている文字を、適当に並べるだけで──?)
と、桃園はそこで、自らの持ち字を思い返して……とあることに気が付いた。
(──いや、え……? ちょっと待て、まさか、
「あはははは、この私が戦いにおいて、
「ッ──黒神、めだかっ……!」
桃園は突然何かに驚愕したように席を立ち、めだかのことを睨みつけ、歯軋りなんかもしていた。既に勝利は確定しているというのに、とても勝者の顔つきではない。
「……一体どうしたんだ、あのちびっ子。いきなり立ち上がって焦ってるみたいだが……」
「……そもそもさ、このしりとりって今どっちが勝っててどっちが負けてるの? いよいよ分からなくなってきたよ」
『ベースがしりとり、つまり語彙の競い合いであるにしたって、このゲームでもっとも大切なのは、互いの記憶力だからね。そこがこのゲームの難しいところだ』
「まあね──しかしとはいえ、ギャラリーの多くが『今』を把握していないのも決まらない話だ。鰐塚、ここらでここまでの記録を見せてあげなよ」
「え? でもそこまで細かい記録は取っていないのですが……」
「貸せ。お前には過ぎたデバイスであるそのタブレットを僕に貸せ」
半ばキレながらも、
「これが『今』だよ。あの二人の残る持ち駒は、実のところそこまで多くはなく、既にこれだけしかない──」
「黒神めだか残り『く・こ・り・れ』の四文字に対して、桃園喪々残り『う・さ・ん』の三文字──思っていたより
視覚化された現状を目にした虎居は、悲痛な声色を隠しもしない。というか、その場にいるほとんど全員が悔しそうな表情を浮かべていた。
「四文字以上の言葉を作るルールだから、残り三文字の桃園は嫌でも次で五十音を使い切る! 状況は明らかに、桃園に傾いている……!」
「うん……しかも『取説』の『つ』から、めだかくんが作れる言葉は、ぼくの間違いでなければ──『
「……まさかあの子、ここまで考えて『つ』を回してたの!? ゆっくり話して感覚を乱したり、相手の使う言葉までコントロールするなんて、
「
「もう敗色濃厚とか、そういう次元やないわ。なぜなら、今やこの勝負、残念ながら──あんガキの勝ちで詰んどるんどすから。」
「……ま、桃園相手によくやった方でしょ。いやー、私の敵を討ってほしかったんだけど、しょうがないよねー」
『きみ達一体どっちの味方なわけ?』
ギャラリー達がやいやいと騒いでいるが、しかしその中でも禊と
『……というかさ、そもそも「公算」って「ん」で終わる言葉じゃん。これってルール④に抵触してない? そこのところどうなのさ、武器子さん』
「……いえ、その前に持っている五十音を全て使い切る──ぐすっ、つまり、ルール①が適用されるわけですから、ずびっ、この場合は、桃園さんの勝利でゲーム終了です」
「あーもういい加減泣き止みなさい、どうせこの後球磨川くんあたりが直してくれるさ、ロケットの一基や二基程度」
「えっ!? 本当ですか!?」
そんな武器子に、禊は近付いて行き、耳打ちをした。どうやら何か条件があるようで、武器子はうんうんと頷いている。
「──なるほど、それならば、まあ……本人の意向次第ですけど、問題ありません。終宴後のことまで、我々月氷会は
『オッケー、それならいいんだ……つーわけで、僕はやったよ
「よくやった球磨川くん。いぇーい」
禊と
なんて、二人が何やら楽しげにしている間に、時刻は午前8時を回り、めだかが口を開いた。飛び出した言葉は当然ながら、予想された通りに「
「ああっ……駄目だ! 分かっていても黒神さんは『こ』を回すしかなかった! 状況は必至!」
「あのガキ、ほんまに嫌味な奴やなあ。五十音を綺麗に使い切って、しかも相手が確認を怠った『ん』で締めるラスト!」
「それに関しては完全に同意だよ、叶野。ともかくこれで、あとは桃園が『こうさん』と言って終わり…………ん? あれ──」
名瀬はそこで言葉を区切り、何かに気が付いたようで、冷や汗を一筋垂らした。その何かとは、先ほど桃園が気付いたものと同一で。
「桃園が『
その言葉を聞いた全員が、絶句した。もう少し具体的に言えば、
「……確かに桃園さんは、ここで実現可能性って意味の『公算』を言えるわけだし、極端に言えば『高山』とか『合算』とかに
「──もぐらの言う通り、吾輩が『降参』と言うのではなく、
『……どういうことか、分かるように説明しておくれよ、潜木ちゃん。勿体ぶられると、うっかり封印を一本増やしちまうかもよ?』
禊はそう言って潜木を脅すが、しかし潜木はそれどころではないようで、禊の脅しなど気にも留めていなかった。
「黒神にもっとも近いだとか、そんなことを言っていた一昨日までの私が恥ずかしいのだ……
潜木がそう大きな声で言い、全員が信じられないといった表情を浮かべる──が、しかし。潜木の話はそこで終わらなかった。
「しかも、その範囲は……別に桃園さんに限った話じゃあないんだよ。それに、五十音表の上での話ですらない」
「いや、いやいや、ちょっと待ちなよ潜木くん。それは、いくらなんでも
「その
「コントロールしてたんだよ! 私達の会話を! 言葉を! 黒神は
──今度こそ、本当に。
その場にいる全員が
「……まあ、標的はもちろん桃園喪々一人だったのだがな。誰かが口にすれば思い出されてしまうので、皆には諸共になってもらった。やったことは貴様の『時を忘れさせる話術』と同じだよ」
「ッ──どこが、どこが同じなものか!! 吾輩がコントロールできたのは精々
桃園は、
そんなこと、自分達には逆立ちしたって出来ないのだから──例え千年かけたって、そんなことはできないのだから。
やけにルールを細かく確認したのも、ラストに『ん』を使うルールを確認しなかったのも、全てこのため。
制限時間を一時間に設定したのは、確かに人質が自力で脱出するのを待っていたというのもあるが、本当のところは、桃園がフェイントで他の二人を倒してくれることを願ってのことだった。
つまり、桃園は最初から最後まで、今この時まで、
が、しかし。
めだかはここに来て、急に桃園に全てを託した。つまり、桃園が「公算」と言うか「降参」と言うかを託したわけだ。
「……どうして、吾輩に勝敗を委ねるような真似をする。吾輩が気が付かなければ、それまでだったのだぞ。それに、吾輩にはまだ
「まあ、使いたければ使うがいい。
めだかがそう言った瞬間、桃園は口を開いて「警告」を使おうとする──したのだが、何者かの指が口の中に突っ込まれたので、発音が上手くできなかった。
指を突っ込んだ犯人の正体は、たった今自力で封印を抜け出した不知火半袖であった。
「ッ──
「あひゃひゃ! どうやってって、そりゃあ
半袖はそう言ってからめだかの方を振り向き、にやりんと笑いながら「報酬は弾んでくださいよ」と目で訴えた。めだかもそれを察知したようで、一度深く頷いた。
そしてもう一度桃園の方を見ると、やや涙目になっていたので、半袖はそこそこ強めの勢いで指を引き抜いた。6歳児への仕打ちではないが、若干自業自得の気があるのでしょうがない。
桃園は咳き込みながらも、対面しているめだかを睨みつける。その目は「説明しろ」と促しているように見えたので、めだかはこんなことをした理由を説明し始めた。
「……そうだな。貴様の言うとおり、私はこの『
その言葉を聞いた桃園が、目を見開く。しかしめだかは、そんなことお構いなしに説明を続けた。
「影武者六人が負けようと善吉達に追い付かれようと決して負けを認めない貴様が、しりとりで負けた程度で潔く負けを認めるとはどうしても思えなくてな」
「……もしやすると、ゲームのルールには従順かもしれぬぞ」
「ついさっき私の煽りに乗って
半袖はその言葉を聞いて、苦笑いしていた。要するにめだかは、
間違っても「勝った」なんて言えないように。
「まだ終わってない」なんて言えないように。
分厚い面の皮を。分厚い二枚舌を。少しずつ少しずつ、言葉という鋭利な刃物で削り取っていく。
約束事を舌先三寸で反故に出来ないように。言葉という鋭利な刃物で
「貴様に勝つというのは、つまり貴様の
何も言えないのなら、それはつまり、
これはもう、黒神めだかが
『小細工を弄した戦い方も、終わってみれば相手に合わせたフェアなスタイルか。ところで虎居ちゃん、
「……黒神めだかですよ。戦いに対して誠実で、私の好きな元生徒会長です!!」
あくまで、暴力なしで。
あくまで、謀略のみで。
「ま、これでも負けを認めないのならお手上げさ。その時は貴様の勝ちだ、なんとでも言え。結婚でもなんでもしてやるよ」
「ッ──!!」
そして輝かしく、ヒロイックで、劇的に。
そして初めて、
──ゆっくりと目を開くと、眼前には
「やっほー、おはよう。気分はどう?」
「……私が目を覚ました、ってことは……勝ったんだね、めだかちゃんは」
「おっ、やっぱ分かってたんだ。ちなみに
あー……なるほどね、私が目を覚ましたのは
……えっ? いや、何やってんのあの二人。
──うん、一件落着だね。よかったよかった。
私はなんにも見てないぞ。
「……ツッコまなくていいの?」
「
目覚めたばかりの私が見ている幻覚──とかではないな。残念ながら現実らしい。
「やっ、やっと目覚めたか
「いやいや、自分が謀って殺した相手に助けを求めるとかそれはないだろ、桃園ちゃん」
『そうそう。これでも僕達、結構温情をかけてやってるんだぜ?折角の勝利に水を刺すのもアレだし』
……私の眼前に広がる光景とは、
何してんの?
「この二人を説得してくれ妹御!! 吾輩は脇が弱いのだ!! 後生である!! たのむ!!」
「えいっ」
「ッ!?!? おい! おい妹御!! やめろ!! 日本刀の鞘で小突くでない!! やめろ!!」
……楽しそうだし、恨みもあるからつついてみたけど、こうして見るとちっちゃいなあ……私六歳児に負けたのか……。
『ちなみに実行犯の方は、どうやら桃園ちゃんに弱みを握られていたようでね。
「ああ、うん……別に気にしないでいいよ、別に私って死んでも生き返れるし」
「まあきみならそう言うと思っていたから、そもそも攻撃しに行くつもりはなかったがね。あときみ多分、子供に攻撃したら怒るだろう?」
「っていうかもしかして、桃園ちゃんに対するこの仕打ち──報復と抱腹絶倒をかけてる?」
『大正解。相手はまだ子供だし、こんくらいでちょうどいいでしょ。それに、下手に傷つけて
……なんだろう、やってもらいたいことって。うーん……分かんないなあ。分かんないことだらけだ。
「ダメだ、
「……えっと、その、あの……」
「おい、武器子、まさか……!?」
「ロケット、直してもらうって約束したので、手出しできなくって……それに、漆黒宴はもう終わってますし……」
「武器子ぉッ!!」
いや、まあ……そうだよね、1兆7000億円が帰ってくるとなると、流石にそうなるよね。
「……ふっ、んふふ……なんだよ、私ってばこんな子供にしてやられたのか。うわ恥ずかしくなってきた……」
「ははは、今回はかっこ悪かったねえ、
──
「──うん、そうだね。それじゃあ帰ろっか、私達の箱庭学園に!」
私たちはそのあと、全員で足並みを揃えて、黒幕島を後にした。これにて一件落着、よかったよかった。
「……えっと、
「うん。この子に
お兄ちゃんに続いて、
──でも、そんなことを気にしてる場合じゃないな。私には私で、
……鍛え直そう。
漆黒の花嫁衣裳編、完!!
あらかじめリポグラムに慣れておいてよかった。
さて、次回からは事実上の最終章である不知火不知編に入るわけですが、何が何でも最後まで一気に駆け抜けたいので、書き溜めしてから投稿になります。
つまり、次にこの小説が投稿されていたら、
当然ですが、
お楽しみに。
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