お久しぶりです。
不知火不知編以降の展開が二転三転してしまったことや、他の創作にうつつを抜かしていたこともあり、後半部分が全然書き終わっていません。
しかし二年も投稿しないのは流石にどうなんだ、と思ったので「不知火不知編への繋ぎ」という形でいくつか外伝、というか閑話を投稿しようと思い立ち、今回投稿するに至りました。
随分と長いことお待たせしてしまっていますが、その分力は入っていますので、もう少しだけ首を長くして待っていただけると幸いです。
閑話 球磨川
実のところ、ぼくが剣道に対して持っていた情熱というのは、ここ最近ですっかり削がれてしまった……とまでは言わないけれど、しかし
言い訳をさせてもらうのならば、ここ最近の生徒会業務はそれこそ火の車といった感じだったし、ぼく自身もそれに釣られて尻に火が付いたような有様──当然ながら慣用句だ──だったものだから、剣道に割く時間はほとんどないと言って差し支えなかった。
継続は力なり、という言葉が指す通りである。どれだけ得意なことだって、しばらく距離を置いていれば腕前は
なーんて。
結局のところ、ぜーんぶ言い訳。
そんなこんなでなんやかんやありまして……というか色々と思うところ(めだかくんの婚約者候補たる潜木もぐらくんにボッコボコにされたとか)がありまして。
不詳このぼく、球磨川
現在、剣道部の稽古に混ぜてもらっています。
混ぜてもらっています、というか。
混乱を作り出している真っ最中!!
「あはっ、ははははっ、はーっはっはっはっはああぁあぁぁぁああああ!!!!!!」
いやあ、いやあ〜っ! 思いっきり身体動かして汗を流すのってこんなに気持ち良かったっけ!?
楽しすぎる! 剣道の全てが楽しすぎる! もう冬だから足の裏がものすっごく寒くて痛くてもう痒くなってきちゃうくらい床が冷たいんだけど、もうそれすらも楽しくて仕方がない!!
ばったばったと薙ぎ倒されていく剣道部員たち! 都合二十四回目の試合稽古! 死屍累々! 屍山血河! 全戦! 全勝!!
なんて言うんだろうな、なんて言えばいいんだろうな!? もうとにかく、心地いい! 気分がいい! ぼくもうここで死んでもいい!!
……いや、それはダメだろ。
ふうっ、危ない危ない、Be coolだ、ぼく。名前が「
ぼくは普通、ぼくは普通。
今になって思い返してみると、ぼくってだいぶ戦闘の時だけテンション高かったりするけど大丈夫、気にしない気にしない。
つーか、気にしたら負け。
人として負け。
「また勝てなかった……なんつって。んふふ」
「お前なぁ! 手加減ってもんを知らねえのか、球磨川
剣道場の隅から響く怒号。どうやらご立腹らしかった。
ぼくがそちらに視界を向けると、そこには山積みになった死体の山──じゃなくて、剣道部員たちがいた。当然ながら、血の海でもない。
どうやら叫んでいるのは、一年生にして剣道部の指導係であるところの日向くん。この前の大会、個人戦で優勝したらしい。んふふ、よく頑張った!
……いやしかし、手加減? 手加減ってなんだ──つって、伝説の
「という冗談は置いておいてもね、日向くん。やっぱり手を抜くのって失礼じゃない。だからぼくはいつだって! 誰にだって! 全身全霊で刀を振るうだけであって、きみたちにだけ特別ってわけじゃないんだからねっ」
「なんでいきなり往年のツンデレみたいな語尾に……?」
「きみたちのことなんかマジでぜんっぜん好きじゃないんだからねっ」
「ツンデレっつーかツンドラじゃねえか……」
「きみたち以外は好きなんだからねっ、ほら、道場壊したり汚したりしないし。剣道を冒涜する人って好きになれないなあ。ところで日向くん、剣道三倍段って知ってっか?」
「古傷抉ってくるのはやめろや!!」
抉るというか、巡り巡ってというか。
要するに因果応報だよ、日向くん。
と、そんなことを考えていた折。日向くんは至極当然であるとも言える疑問を、ぼくに投げかけてきた。
「というか
「ん? ああ、なーんだ、そんなこと。ちっちっち、初歩的なことだよ、日向くん」
「ツンデレの次はホームズかよ……」
「初歩的なことなんだからねっ──まあおふざけはここまでにしておくとして、大して難しい話でもないんだよ。何というか、つまりは
「何となく……というと、あれか。ミラクル双子パワー的なアレで互いの思考はお見通し、みたいな。そういう話か?」
「そんなとこかな。体験したこととか体感したこととか、本当に少しだけ分かるんだよ。不思議だよねえ」
実際のところはもう少しこと細かに分かるんだけどね。今どこらへんにいて何をしているのか──とか、そのくらいなら全然分かる。
お悩み相談を受けてるとか、友達と遊びに行ってるとか、ご飯食べてるとか、お着替えしてるとか、お風呂入ってるとか、エトセトラエトセトラ。
ちなみに
……という冗談はさておいて置くとして。
実際のところは、当然ながら
「まあ、本当のこと言っちゃうとね? あの時のぼくと
「ああ……なるほど。なんていうか、一気に合点が行ったわ」
……もっと驚けよ。自分で言うのもなんだけど、一人が二人に分裂してるの、普通に考えたら意味分かんないからな。
三兆年生きてる人(外)がいる学校でこんなこと言っても意味ないけどさ。
「えっと、こうやって手加減なしにボコボコにしてくるところとか──」
「は、
「──
「えっ、やだっ、そっくり? 何だよこのやろー、嬉しいこと言ってくれるじゃないの! うりうり」
「だあっ! やめろてめえ、肘で小突いてくんじゃねえ! おだてたらすぐ調子に乗るところもそっくり、つーか別に褒めてねえよ!」
そんな風に叫ぶ日向くん。しかしその解釈は間違っていると言わざるを得ないぜ。
ぼくのも
あー、顔あっつ。
「ところで日向くん。個人戦で優勝したからって調子に乗っていたようだけど、ぼくから見ればまだまだ甘いところが多すぎるよ」
「……うん?」
稽古も終わり、部員たちがぞろぞろと帰路に着いたところで、ぼくは日向くんをそうして呼び止めた。
先ほどまでは話の雰囲気に合わせて軽い調子だった日向くんも、しかしぼくが真剣な話をしようとしていることに気が付いたらしく。眼鏡の向こうにある双眸は、いつもよりなんだか鋭かった。
呼び止めたからにはそれなりの話をしてくれるんだろうな。そうとも取れる日向くんの表情。ならばぼくは、その期待に応えて差し上げよう。
「今日の稽古で気付いたことなんだけどね。日向くん、ちょっと打突の後の残心がお粗末すぎるよ。いやまあ、この点に関してはぼくもあまり偉そうなことは言えないんだけどね」
「ふぅん、残心がお粗末──つまり、何が言いたいんだよ」
「
「……と、言われてもなあ。いやまあ確かに、他でもないお前が、僕の残心がお粗末だっつーんならそうなんだろうけどよ……」
ぼくの言葉をしっかりと受け取りながらも、しかしその一方でどこか不満げな日向くん。そりゃあそうだ、ぼくだって同学年からこんなこと言われたら「じゃあお前はどうなんだよ」って気持ちになる……かも、しれない。
日向くんだって、別に弱いわけじゃない。ぼくとの試合稽古の時も惜しい場面は少なからずある。だけど、むしろ
そこさえ克服出来てしまえば、向こう三年は負けなしになる可能性だってある。完全にエゴではあるんだけど、ぼくはもっと強くなった日向くんと死合ってみたいのだ。
「まあ、ぼくもただ言葉を弄して説教もどきに興じられるのは好きじゃないからね。どーせなら残心のなんたるかを実演して見せたいんだけど……二分だけ時間もらっていい?」
「二分? 思ったより短いな……まあ、そのくらいで僕の油断が消えるってんなら──」
「よっしゃ言質取った!!」
球磨川
「──は?」
「ラァラァラァ!! ダラッダッダララララッダラァッダッダッダァ……って、あれ? 私、カラオケにいたはずなのに……?」
日向くんからの言質を取ったぼくは、即座に
ぼくたちの眼前には、どうやらカラオケに行っていたらしい
……いやいや、どうなってんだよ、この子のカラオケで歌う曲のセンス。
「あっ、日向くん? やあやあ、元気そうで何より! ところで
「えっ、あっ、ああ……
「隙ありっ」
「──えっ?」
……日向くんが間抜けな声を漏らしてしまったのも、仕方のないことではある。
だって、ぼくはたった今、
するりと抜ける刃。ざぱっと飛ぶ首。噴き上がる血飛沫──まあつまりは、
「とまあ、このように──」
「『このように』じゃねえよ! なんだこのスプラッタ映画も真っ青になって逃げ出しかねない惨状は!?」
「──油断してると、どんだけ実力があってもイチコロだからね。日向くんもこんな風にぶっ殺されないように気を付けてよねっ」
「お前はマジでさっきからどういう気持ちなわけ!? なんでこんな状況なのにツンデレぶりつつ僕の言葉をフル無視できる!?」
まあまあ、落ち着きたまえよ日向くん。
ぼくは肩を組みつつ、剣道場の出口へと向かっていった。
ちょっとちょっと、暴れないでおくれやす。そんな風に暴れられると、ぼくも出したくもない手を出さないといけなくなるんだから──。
そう形容するほかないくらい、ぼくの身体はあまりにも呆気なく、それでいていっそ気持ちいいくらいに、
まあ、正直予想できたことではある。まさかあの
というか。
そんなこと分かった上で、ちょっかいかけてるし。
「あのさあ
「……とまあこんな感じで──」
「無視すんな! 私は
「──いやあ、ごめんね。今度ハンバーガー奢るから許してよ。さて、日向くん。残心を大切にしないと
「……首なし死体と両断死体が話してる光景とか、忘れたくても忘れられる気がしねえよ……夢に出るかも……」
いやあ、ごめんごめん。でも日向くんには言質取ったもんね。たった二分できみの油断をなくすくらい、ぼくには容易いことなんだよ、ふふん。
百聞は一見にしかず。そんな言葉が指す通り、こういうのはちゃんと実物見せたげるのが一番学びにつながるよね!
その後。ぼくは
それから日向くんと一緒に剣道場を後にしたんだけど、なんでかずっと渋い目で見られてしまった。
流石に、真剣使うのはやりすぎだったかもしれない。
日向くんの剣道に対する心持ち、変わってませんように。
KABURI CATSさん(@sansansun_gudee)に球磨川
今回の閑話で突然人を一人斬殺したとは思えない可愛らしさですね! 本当にありがとうございます!
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