今回も後書きに描いていただいた立ち絵があります。
実のところ、私が人生に対して持っていた悲観的なあれやこれやというのは、ここ最近ですっかり削がれてしまった……とまでは、流石に断言できないけれど、しかし
そう、
つまりは、まだそれらは残っている。
比重としては楽観と悲観で7:3くらいだろうか。もしかしたら8:2かもしれないし、9:1かもしれない。取り立てて騒ぎ立てるようなことでもないし、これくらいは
ただまあ、夜眠る前になって色々と考えたりすると、ふとその悲観がひょっこり顔を出す。過去ってのは随分しつこく後を引くくそったれな野郎らしくって、あんな失敗こんな失敗何でもござれ。私の夢は愚かさのバーゲンセールだった。
夜は寂しい。ひとりぼっちはもう嫌だ。私の周りにはたくさんの友達や親切な人たちがいるけれど、それでも──というか、だからこそ。一人の時間は余計に辛い。
お兄ちゃんや
それはそれで魅力的だけれど、やっぱりこれ以上の迷惑をかけるのも忍びない、というよりかは耐えられない。そもそも普段から頼りっぱなしなので、いい加減に何か有意義なものを返したいところなのだ。
「……とはいえ、どうしたもんかなあ……」
もちろん分かっている。お兄ちゃんも
だけどそれじゃあ、私の心はまるで満たされない。つまるところは自己満足でしかないわけだけど、一割ちょっとの空虚を埋めるためには、そうでもしないとやってられない。
……いっそのこと、「プレゼントは私!」みたいな突飛なことをやってみようか? もしかしたらそんな滅茶苦茶なことでも、この空虚は埋まるかもしれない。
「はっ、だいぶ参ってんなあ……」
こうなる原因は多岐に渡る。が、こと今回に限っては……まあ、
ここ最近、未来のことをよく考える。覚悟はとうに決めているけど、それでも未来の自分がどうなっているのか分からなくて、心が軋む。
……世界の知識、というかいわゆる原作知識では、私の行く末を知ることはできない。それなりに劇的であることを願うばかりだけど、しかしそれだって未確定。
まさしく、一寸先は闇。もしかしたら、明日にだってすぱっと
まだ高校生活は二年もあるというのに、こんなところで終わりたくないなあ──だなんて、ちょっと女々しすぎるだろうか。
「弱くなったよなあ」
今までの私が強かったかどうかはさておき、明らかに以前までの私と現在の私とを比べると、なんというか丸くなってしまった感覚がある。
暖かい場所にいると、どうにも甘えてしまう。それが悪いこととは言わないけれど、私は甘えるのが下手なもんだから、どうしても胸にもやもやしたものが残る。
それだって、後を引くことはない。一度眠ってしまえば、次の日にはすぱっとそれらのもやもやはなくなっていて、また楽しく劇的な人生がスタートするんだけど……そもそも眠れないのだから、この仮定はまったくの無意味だった。
うーむ、ううん……あー、駄目だ、眠れない。どうした私、気にしいすぎるぞ。
「こういう時、話し相手の一人でもいればなあ──」
「呼んだかい?」
「うっわああああああぁぁぁ!?!?」
突如として頭上から降ってきた声! 時刻は深夜二時! 部屋には私一人だったはずなのに! 私、近年稀に見る大パニック! 背筋の力だけで五メートルは跳躍した! 即座に抜刀、臨戦態勢はバッチリ!
……って、あれ。
一気に冴えた頭が認識したところによると、どうやらそこは私の部屋ではなかったらしい。
部屋、っつーか。
見たまんま、
眼前には声の主。
見紛うことなく、
どうしてか、もこもこのパジャマ姿。かわいい。
「おいおい、そんなに驚くことはないだろう? せっかくこの僕が貴重な睡眠時間を削ってきみを救いに参上したというのにさ」
「──
「いやいや、確かに以前まではまったくその通りだったわけだけれど、しかし今の僕はこれでも健康に気を遣っていてね。つまるところが、
「へ、へえ……そうなんだ。なんか意外だな……」
宙に浮かびながら抱き枕を抱えた
それにしても、
……いや、もしかすると私が知らなかっただけで、原作における
何にせよ、というかどちらにせよ。
もこもこパジャマ姿の
「さて……それで? きみはどうしてこんな時間まで起きているのかな、
「え? ああ……ちょっとこう、センチメンタルぶって感傷に浸ってたというか、らしくもなく将来の設計図を描こうとしていたというか。とにかく、そんな感じ」
「へえ、なるほど。まあ確かにこれまでのきみの動向を見ている限り、きみは意外とその場のノリで動きがちだからねえ」
「え、そう? 自分ではそんなイメージなかったけどなあ……後学のために教えてもらいたいんだけど、例えばどんな時?」
「えー、聞きたい? きみの古傷を抉りかねない行為なぞ、僕は出来るだけ取りたくないんだがね」
「いーからいーから! 私のためだと思って、ねっ? はい、3! 2! 1! どうぞっ!」
「第一回レクリエーションで人吉くんの優勝を剥奪した時とか」
「思ったよりガチで古傷抉りにきてる!?」
ばたんきゅー。大袈裟な身振りでその場に崩れ落ちる私。心に9,999のダメージ!! 私のHPが10,000でなければ即死だったよ、
いや、違くて。あれはそういうんじゃなくて、なんかこう、私もおかしかったっていうか……とにかく! 私は悪くない──とは言えない! あれは流石に私が全部悪い!
「……ほら、想像通りのリアクションだぜ。多分きみが一番後悔してるのはあの辺のあれやこれやだろうからねえ」
「いや、マジで……その節は本当にすんませんっした……」
「気にすることじゃねーよ。つーか、今更あの程度のことを気にしている奴なんか……いないとは、言い切れないがね」
私のことをまるで猫を持ち上げるみたいな感じで抱き上げる
……それにしても、「気にしてないとは言い切れない」、ねえ。いやまあそりゃそうだろって感じだし、そのこと自体に異論を挟むつもりはない。
ご存知の通り、善吉くんはさっぱりした性格だ──というか箱庭学園の生徒は大抵いい人だ──から、私はそれに甘えてしまっているわけだけれど。
だからと言って、私の犯してしまった行為が帳消しになるってわけじゃない。私の
私の身勝手は、今なお私の背中に重くのしかかっている。先ほども考えていたことだ……となると、実のところ
「さて、
「えっ……まあ別にいいけど、これまた随分突飛だね?」
「僕の行動が突飛じゃなかったことがあるかよ」
「星の数ほどあるだろ」
むしろ
そうだったとするなら、私はいよいよ人を見る目がないってことになるぞ。いやまあ、
「きみが随分と僕のことを高く買ってくれているのは嬉しいがね──まあいい、とにかく女子会だ女子会。無駄に無闇に無為で無意味な話をしようじゃないか」
「まあそれは別にいいんだけどさ。私もちょうど話し相手が欲しかったところだし──ところで、どうしてこれまた女子会なんて
「簡単なことさ。これまでの僕はご存知の通り
「なるほどね? 健康志向もつまりはその一環だと、そういうわけだ」
「はい
何だよそれは。
いきなり意味の分からないことを言うな、ツッコミが間に合わないから。
「ちなみに
「ちょっと待って、一気に欲しいかも……!」
「わははは、まあその内勝手に貯まってくだろうから、その時を楽しみにしていなさい──ところで
と、そこで突然私の目を真っ直ぐ見てきた
それに合わせて、私も少しだけ居佇まいを直す。真剣な話の可能性もあるから、念のため正座の姿勢を取った。
「ああいや、そこまで畏まらなくてもいい──きみに合わせるのなら、『足を崩してくれたまえ』と言うのが正しいかな?」
「あ、そう? それじゃあ崩させてもらう──あぐらをかかせてもらうけれど。それで、聞きたいことって?」
「なに、難しい話でもない。きみは先ほど『将来の設計図』を描こうとしていたらしいけれど、
「……それは、私くらいの年齢ならば、誰だってすることじゃない?」
「きみはまだ高校一年生だろう。いやまあ、僕だって学籍上では一年生なわけだが、そういったことは差し置いておいても、
こてりと首を傾げて抱き枕に頬を乗せながら、そんなことを問うてくる
……だからなのか、分からないけど。
私の思うところを。
私の抱える問題を。
「……時々こうして、眠れなくなる夜があるんだ」
「うん、続けて?」
「それは例えば過去の失敗のせいだったり、現在の在り方について色々考えたせいだったり、未来に対する不安が膨らんだせいだったりする」
「なるほど? 実に人間らしいね、きみは」
「生きてるのは楽しいけど──ああいや、別に『時々死にたくなる』とか、そういう話じゃなくてね。独りぼっちの夜には、このままでいいのか分からなくなる」
「ふうん。『私はこのまま先に進んでいいのだろうか』──そんな不安が時々顔を出す、と。そういうことかな?」
「うん、そうだよ」
「もう少し細かく言語化するのならば、『過去にたくさんの失敗をしてきた
「うん。間違いない」
……私は、過去の自分と未来の自分が、
他人の変化は見ていれば分かる。だけど私にとっては、自分の変化はどうにも分かりづらい。緩やかな変化すぎて、自身の変容を自覚できていない。
だから、怖い。
もしかしたら、過去の自分と現在の自分には、大した違いがないのかもしれない。だとしたら、現在の自分は紛れもなく
そんな自分が、この先変わっていける自信がない。以前までのように失敗を重ねる私が、このまま未来の果てまで永久に続いていってしまう可能性があるのが、凄く怖い。
生きていくのって、とっても怖い。
「……僕の意見を率直に述べてもいいのなら、是非そうしたいところなんだがね」
だから、そうして
「
「そうかい。それならば言わせてもらうのだけれど──いちいちそんなことで悩む必要はない。僕の意見はそれだけだぜ、
「……それは、どうして?」
「簡単なことさ。『失敗は成功のもと』という言葉がある通り、そもそも単一の生命体というのは生きている限り失敗を繰り返す。人間であるかないかに関わらず、ね」
「…………」
「過去の失敗を気にすること自体は間違いではない。未来に底知れぬ不安を抱くことも同様だ。そして過去を変えられない以上は、未来が確定しない以上は、きみのその不安はむしろ正しいと言える」
「そう、なのかな」
「そうだとも。つーか、それ以外ないだろ。そしてここからが大事なんだが、確かに過去は変えられないけれど、未来は確定しないけれど──それでも
そこで
……人間味のある、温もりだ。
「本当なら、あまりこういうことを言いたくはないのだけどね──きみは何者にでもなれるんだ。きみのことを決められるのは、きみ自身だけなんだ」
「……私、だけが?」
「その通り。過去は変えられないけれど、
……ふふっ。なあんだ、そういうこと。
「私も──私だって、
「せっかくぼかしているところをそうして言語化されると、僕としてはやはり照れくさいものがあるが──ま、つまりはそういうことさ。僕にできることは、きみにもできるはずだぜ」
……触れられた頬は、まだ暖かいままだ。
「さて、と。宴もたけなわだけれど、しかしそろそろお別れの時間だ。健康志向の僕は、夜更かししてやがる他の
「そっか。うん、
「そうだね──
「ううん、大丈夫。おかげでぐっすり眠れそうだよ」
「ふうん、そりゃ結構。じゃ、もう夜更かしするんじゃねーぜ。今度は昼間に遊ぼう──この前のカラオケよりも進化した僕を見せてやるから、覚悟しておきなさい」
それじゃあ、おやすみなさい。
そんな言葉を最後に、私たちの女子会は終わった。
「ってなことがあってさあ。
「へえ、そうなんですね……私だってあの人の
女子会の翌日。
私は前々から会う約束をしていた財部ちゃんと一緒に、小洒落たカフェでそんな感じの他愛もない会話を交わしていた。
九月ごろからの付き合いである候補生のみんなとは、時々こうして顔を合わせては無闇に食べ物やら飲み物やらを奢っている。おかげで──ってわけでもないんだけど、関係は良好だった。
「……いやしかし、あの
「ね。私としても意外だったよ、わざわざ健康を促しに私のところまでやってくるだなんて。その辺り、徹底してるよねえ」
「徹底してるっていうか完璧主義なだけな気がしますけど本当ですよね。だけどおかしいですね……
「……え?」
「いや、だから。
「へ、へえ〜、そうなんだぁ……」
……えっと。
それじゃあ、あれか。
ただただ、私に会いに来ただけ?
しかも多分、励ますためだけに?
嘘だろ。恥ずかしすぎる。
でも、それでも……めっちゃ嬉しい。
「……まあ、
「かも、ね……」
……どうして
照れくささのあまり、顔を真っ赤に染めた私は、そう考えずにはいられなかった。
……まあ、いっか。
どんな理由でも、嬉しいもんね。
KABURI CATSさん(@sansansun_gudee)に球磨川
めちゃめちゃ元気そう! だけど意外と引きずりがちで可愛いですね! 本当にありがとうございます!
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