ぼく達半袖くん奪還チームは、あいも変わらず怪儡くんの案内に追従していた。いやー、道中には様々なハプニングが……あったりはしなかったけど。
あっ、そういえば。途中で善吉くんが「影武者やってるときってあんたら楽しかったり幸せだったりするのか?」って質問してたなあ。
もっとも、怪儡くんは「私は『イエス』としか言えないので、既に役を終えた半袖さまに聞け」と言ってはぐらかしてたけど。
あとは、そうだな……めだかくんの元婚約者達の現在について。
どうやら変わらず元気でやっているらしい。潜木くん──もぐらくんだけは、お兄ちゃんに「
想像すると、けっこうかわいいかも。
泣きべそかいてるもぐらくん。
「……さて、到着いたしましたよ」
「おっと、意外と早いんだな……って、これ……」
「別れ道……というか、立て札だね」
ぼくの前を歩いていたお兄ちゃんが突然止まったので、ぼくも足を止める──目の前には善吉くんと
正しい道をひとつ選べ。
ろ「左の道が正しい」
は「『い』は嘘をついていないが、
『ろ』は嘘をついている」
「ええ、ご覧の通りですよ。こちら第一関門──
「いやいや、あのさあ怪儡くん。あなた自分のことを道案内だってさっき言ってたじゃんか」
「そうだよ、なんでわざわざ俺達がこんなクイズもどきに付き合わなきゃなんねーんだ?」
「解きたくなければ結構──不肖この私が命じられているのは
……やっぱり、怪儡くんは嫌いだ。何というか、僕は潜木家との相性が滅法悪いなあ。
「……いいよ、付き合おう。間違った道がどこに通じているのかは……まあ聞かないほうがよさそうだな」
「めだかちゃん。あのさ、一応聞いておきたいんだけど……やっぱり、
「む、そういえば
「ほう? 黒神さま、そんなことを言われましても、こちらとしてはどのような意図もございませんよ。これは言わば不知火の里に入るための──」
「たとえば、そうだな──
「──……さあ? 黒神さまがそう思うのであれば、あなた様の中ではそうなのかもしれませんねえ」
どうしよう。ぼくの周りの人達、全員揃いも揃って頭が良すぎるから置いてけぼりだよ。
そう考えていたところで、聞き馴染みのある、聞いていると落ち着く声がめだかくんに語りかけた。
というか声の主はお兄ちゃん──球磨川禊だった。
『随分物分かりがよくなったね、めだかちゃん。あんなに
「…………」
『でもきみがそんなに物分かりがよくなったからこそ、不知火ちゃんは姿を消したんだってこと分かってる? きみの成長が不知火ちゃんを、箱庭学園から追い出したんだって』
……お兄ちゃんも随分と丸くなったというか、なんというか。
『どういうつもりで僕を連れてきたのか知らないけど、そもそも「
会ったところで、正直意味があるとは思えないぜ──お兄ちゃんはそこで憎まれ口を叩くのをやめた。めだかくんの反応を見るためだと思うんだけど、正直なところを口にさせてもらうと。
今更めだかくんが、その程度の言葉で消沈するとは思えない。
「なあ、球磨川──貴様最近はすっかりそんな風に悪ぶって憎まれ口を叩く程度だけど、
めだかくんは怒るでもなく、しかし諭すでもなく、シンプルに純粋な疑問としてそう言った──ように見せかけて、お兄ちゃんに
「私はいまや生徒会長ではないし、貴様も最早副会長ではないが、私の寝首をかく気はなくなったのか?」
『…………』
「誤解するなよ、それならそれでいいんだ。私も昔ほど戦いたがる奴じゃなくなったしな。だから貴様が私に勝つことをさっぱり諦めて日々を満喫しているというならそれでいい。勝たなくても幸せな人生もあるだろうからな──」
うん、いい発破のかけ方だ。お兄ちゃんって結局は勝ちたがりだし、こんなことを言えば当然乗ってくるだろうね。もしかしたら、格好も──括弧も付けないかも。
「──それとも」
……ん? 「それとも」? どうしたんだろうめだかくん、ぼくと
うーん、お兄ちゃんに発破をかけるのが目的なら、これ以上は必要ないと思うんだけど──。
「天下の球磨川禊といえど、流石にこれ以上かわいい妹二人の前で負けるのが嫌になったとか?」
「んなっ!?」
──いや、いやいやいや。どこが「昔ほど戦いたがる奴じゃなくなった」のさ。めだかくん、すっごく楽しそうに笑ってるんだけど。
『……そこまで言わせちゃうくらい、僕はきみに期待されているということなのかな?』
「そこまで言わなくても、貴様なら分かるだろう?」
『ああ、そうだね。きみは昔っから、そういう奴だった──』
「それで? どうなんだ、球磨川」
「──勝つさ。めだかちゃん、僕は卒業するまでにきみに勝つ」
未だに楽しそうに笑っているめだかくんに対して、お兄ちゃんは格好つけず真剣に──しかし、どこか楽しそうに力強くそう言った。
「きみの肩書きが何かなんて関係ない。僕は生徒会長に勝ちたいんじゃない、きみに勝ちたいんだ。欲を言えば、大勢の前で。もっと言うなら、妹二人の前で」
「……そうか。ふふ、そう来なくてはな──それならば一切問題はない、委細承知だ。不知火を
「ちょっ……めだかちゃん!? クイズもう解いちまったのかよ!?」
……めだかくんは、満足げな笑みを浮かべながら
「お兄ちゃん、大丈夫? めだかくんにボロボロに言われて、らしくもなく心に傷を負っちゃってたりはしない?」
『心配せずとも僕は平気さ、
「そっか、それならよかった──って、どうしたの
「ん? いや、別に……仲良しだなーって」
なぜか少し遠巻きにこちらを見ている
……錯覚かな。
「ところで半袖、客人五人は──」
「六人だよ、帯」
「ん? ああ、そうかそうか……そうなるのか。それで、客人六人はどうするの? 黒神家の人間がいるともなれば無下にもできないよ──もっとも、例の立て札で道に迷ってるかもしれないけどね」
帯は半袖に対して、表情一つ変えることなくそう問いかける。純然たる疑問として聞いているだけなので、そこに他意が挟まれる余地はない。
対する半袖も、その質問に対して大した感情を込めるでもなく、ただただ機械的に返答した。
「『ここから先は嘘つき村です』って挨拶みたいなもんでしょあれは。あんな立て札、お嬢様にとっちゃ案内板みたいなものだよ。それに──」
「あの『代替品』がいるおかげで──いや、
「──そういうこと。まああいつのことだから、こっちの意図に合わせて手出しはしないでいてくれると思うけどさ」
半袖は帯に向けて、明確にそう宣言した。
「ただまあ、門番『ドッペルゲンガーズ』がどうなるかは、正直なところ私にも分からないよ。あいつは言うなれば、
「不知火の里を取りまとめている俺としては、そういう不確定要素は出来るだけ少ない方がいいんだがね──まあいいさ、その辺はアドリブでなんとかしよう」
「……悪いね、帯」
「良いも悪いもないよ、半袖。
帯が放ったその言葉を受けた半袖は少し俯いたが、しかしすぐさま先ほどまでのような調子に戻り、再びつまらなそうな仏頂面を浮かべた。
「……強いだけの奴と弱いだけの奴と持て余してるだけの奴と、長生きしてるだけの奴と全部知ってるだけの奴と、優……甘いだけの奴だ。とはいえあそこで足止め出来るのは、精々が10分ってところだろうなあ」
「随分と連中を高く買っているようだが、お前がそこまで言うならそうなんだろう──そういうことなら俺も、少し早いが客人をお出迎えに行くとするかな」
「うん……ああ、そうだ。帯、これだけは伝えておきたいんだけど」
既に半袖に背を向け、その場を去ろうとしていた帯のことを半袖が呼び止める。何やら深刻そうな感じがしたので、帯は足を止めた。
「……何かな、半袖。まさか『代替品』を排除する方法でも教えてくれるのかな」
「排除する方法というよりも──やり過ごす方法。帯、
「さもないと……?」
「……
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