私は異常だ。
私は人知を超えた才をいくつも持っている。
天は二物を与えずという言葉があるが、私は百...いや千・万物を与えられている。
現代で不可能な事も私の前では可能である。
だからといってそれをひけらかす真似はしない。少なくとも今はそんな気分では無い。
他人にその力を活かせと言われた事もあった。
そんな時は、当人から私の存在に関する記憶だけを消去した。当人が作った記録も全て消去した。それが一思いに...呼吸をする様にできるのが私の能力。
私はこれを全能...そう呼んでいる。
ただ、全知では無い...というかそういった面に関してはあまり優れているとは言えなかった。
全能に学力でも取られたんじゃ無いかと邪推した時期もあったが、それにしては中の中という実力というのは採算が取れない。全能があれば下の下でもお釣りがくるレベルなのだから。
つまり私の人生における勉学の実力は素の状態で中の中であるという事だ。
そして私が全知全能であったらこんな、無駄しか存在しない様な行動はしないだろう。
白い花束の中に刃物を隠して、狂気を人知れず撒き散らす一人の男を尾行するという理由がわからない行動を取ってしまう自分は、まさしく好奇心に駆られる子供そのもの。
今年で『再び』16を迎える中で、こんな幼稚な部分があったのだと自分の中でも大いに驚きつつ気配を断ち続けながら、その男の背後1m以内を維持して着いていく。
異空間から視点を呼び出して彼の持ってる花束がなんなのかを視る。
白いバラ、確か花言葉は...そんな洒落た事を私が知っているはずがあるまい。そして大して興味もない為、能力を使ってまで調べようとも思わない。
能力を使わなくともわかることは一つ。
彼は今から誰かを殺傷しに行くということぐらいだ。
私はそれを見届けたい。
今世初めての殺人現場が見られるかも知れないのだ。ドラマや映画でしか見られない様な映像を生で見られるとなれば、自分の脳内の記憶領域をフル稼働させて思い出として保存させて貰うつもりだ。
彼があるマンションの前で立ち止まった。どうやらこの高層マンションが彼の目的地であり、対象が住んでいる場所らしい。
彼は興奮をその身に封じ込める様にしてその身を震わせた。
深呼吸ができていないようだが、なんとか抑え込んでエントランスへ入っていく。
私も不可視と透過の結界を自分に纏わせて彼の後に続く。
彼は管理人に花束を見せて部屋の番号を伝えて開けてほしいと言った。
管理人は少し怪しんだが、何を思ったのかそのままエントランスからマンション内部に続く扉を開けてしまった。
折角鍵付きのセンサードアがセキュリティとしてエントランスにあると言うのにこれでは何の意味もない。
このマンションの管理会社が関連しているマンションに住むのはやめておこう。あとで調べる必要があるな。
エレベーターには鍵で認証するシステムはついていないようで、彼が目的のボタンを押すと扉がゆっくり閉まってから上に昇り始めた。
エレベーター内には人生初の殺しをするという事で武者震いをする男性と、人生初の殺傷の様子を見学する事への緊張と好奇心が入り混じった事でそわそわする未成年の少女がいた。
男性は若干青白い肌で目が血走っている。逆に少女はどうかというと、まるでこれからパーティーへ向かう時のあどけない子供の様にニコニコしている。
──チンッ!
エレベーター内にはフロアの到着を知らせる音が短く響いて、ゆったりとした速度で扉が開く。
最近流行りのバリアフリーというやつなのだろうか?そんなことより住人に危険が現在進行形で迫ってますよー、と少女は呑気に考えている。
文字通り他人事である。
さて、そんな彼は深呼吸を今度こそしっかりした。
すると魔法のように青白い肌も血走った目も、健康なものへと早変わりした。
これには少女...なんだかもう面倒臭いから私も吃驚した。
遂に彼がインターホンを押す。
私は不可視と透過の結界以外の能力を一旦オフにしてあり、この舞台を楽しむオーディエンスとしてこの場にいる。
彼が、そしてその被害者がどのようなドラマを繰り広げてくれるのか。
私自身興奮で思考がおかしくなってしまっている気がするが、これも刺激的なものを見る時の醍醐味というやつだろう。
そしてあまり時間がしないうちに扉が開いた。
そこから現れたのはなんと...驚くべきことに、世間を賑わすアイドルである『アイ』その人だったのである。
彼女の瞳に輝く六芒星や溢れんばかりのオーラ、そして長年でこびりついた錆のように張り付いた嘘、それら全てを合わせて彼女がアイである事を確信した。
彼は花束を彼女に押し付けながら前もって考えていたであろう台詞を告げる。
「アイ、ドームライブおめでとう。子供は元気?」
私、本日二度目の衝撃。
こんな短いスパンで衝撃的な事が起きるとは思いもしなかった。
アイは体調不良で芸能活動を休むといった事を過去にやっていたが、いまの言葉が正しいのだとしたら彼女はファンに嘘をついて出産していたということだ。
今もそれを隠して芸能活動を継続しているというなんとも愉快な真実。
もしもマスコミがこの場にいるとすれば全力で食らいつくのだろう。
アマゾンで獲物に集るピラニアの集団のように容赦なく喰らい付き、喰らい尽くす。その後にはバラバラの骨しか残っていない。つまりは芸能人としての終焉。
まぁ彼女はこれからその終焉を芸能活動だけではなく、人生という観点においても終えることになりそうなんですけどね。
ですが、どうしましょうか。
まさか子供がいるとは思っても見なかったです。
先程までオフにしていた能力を一部開放して透視能力で彼女の奥の方を確認する。
すると、確かに小さな子供の存在を二つ確認できた。
DNAも共通している部分があり、二人いる子供はどちらもアイと血の繋がりがあって彼女との親子関係であることの揺るぎない証拠となっていた。
あんな小さな子供二人を残して母親が先に旅立ってしまうというのは、流石に私も気が引ける。
...仕方ない、後で助けるので今は傍観していよう。何かドラマティックな何かが見れることは間違いないんだ。今確信した。
彼が花束から大型ナイフを引き抜いて彼女の腹部に深く一刺し。
その刃は彼女の大動脈を傷つけて、彼女の身から引き抜くとその成果を誇らしく見せつけるかのように刀身に鮮血がこびりついている。
彼女は痛みで少し呻いて後ろに数歩下がる。
流れ出る血が尾を引く蛇のように彼女のいた位置を示す。
「クヒッ!痛いかよ。俺はもっと痛かった!苦しかった!!」
ここで彼の隠し込んでいた狂気や恨みが爆発するように噴き出した。
これだけは絶対創作では作り出せない迫真の雰囲気と表情である。そしてこれが紛れも無いリアルだということがトッピングとなり、至上の映像になる。
「アイドルのくせに子供なんて作るから...!ファ...ファンを裏切るふしだらなっ!」
興奮で息継ぎが上手くできていないのか彼は言葉を途切らせながら、台詞を続けた。
「ファンの事蔑ろにして、裏ではずっとバカにしてたんだろっ!...この嘘吐きがっ!!!」
彼の行き場のない強い負の感情は、私の涙腺を刺激した。
亜空間からティッシュを物音立てずに取り出してそっと目元を拭った。
こういったことはやっぱり演技ではなくリアルを見るのが一番だというのがこの光景を見て理解できた。
こうして泣く事を何て言うんだっけか。
涙活?そんな感じだった気がする。メンタル的な健康に良いらしい。
気付けばアイの子供らしき男の子が、アイの名前を必死に呼んでいる。
母を想う子の気持ち...実にイイ!美しいよっ!なんか変態チックなカメラマンになった気分だ。
こんな光景は世界のどの美術品にもない宇宙の真理を詰め込んだような膨大な美を秘めている。
コレは後で現像しておく必要があるな。映像と共に私だけのコレクションに追加だ。
「...わかんないよ、愛...なんて...」
アイが愛を分からないと言った。そして私はそれがどういうことなのかわからない。わからないの連鎖で何が何だかわからない。
「私なんて元々無責任で...どうしようもない人間だし...、人を愛するってよく分からないから......私は代わりに君が喜んでくれるようなキレイな嘘を吐いてきた...」
やはり重傷を負いながら紡ぐ台詞は重みが違う。
創作の薄っぺらいものとは違って少し心が動かされるような気がする。
「...いつか、嘘が本当になることを願って...、頑張って、努力して、全力で噓を吐いてきたよ...」
「私にとって嘘は愛、私なりのやり方で愛を伝えてたつもりだよ」
口から血を滴らせながらそう言う彼女は過去一輝いて見えたかもしれない。
そうして私は少しの間放心状態になっていたのか、恐らくこの間に起こったドラマを見逃していた。
「んだよ...それっ!そういうんじゃ...ぅわああああぁぁぁ!!!!」
私が気がついたのは彼がナイフをてから落として何か後悔を伴ったものを叫びながら飛び出していった時だった。
放心していた自分に喝を入れて再び鑑賞に入る。
一応彼女の生命力に配慮してこのドラマを鑑賞しているのでなんの問題もありません。
安全に配慮した素晴らしい現場です。(実際に刃物で殺人未遂は発生する)
アイが玄関に続く廊下とリビングを隔たる扉にその身を投げるようにして背をつく。そして座り込むと男の子が必死にアイを呼ぶ。
「アイ!!きゅ...救急車呼んだから!!!」
見た目からしてそんな歳でも無いだろうに流暢に言葉をしゃべっている上に、救急車まで呼べるとは...。
最近の子供の成長って異常に早いんだろうか?
「いやぁ...油断したね。こういう時のためにドアチェーンってあったんだ...。施設では教えてくれなかったな...」
「喋るな!!」
血を吐きながら戯けたように喋るアイに対して、無駄に体力を使わせないように喋ることを辞めさせる子供。キミ本当に子供なの?
「しゅ...出血がっ!腹部大動脈か、クソッ!」
どこを負傷しているのかを咄嗟に分析して圧迫止血を試しているようだが、その小さな手や子供の力程度では押さえつけることすらままならない。
「ごめんね」
彼女がそう言って男の子を抱きしめる。
「多分これ、無理だぁ...」
いいえ?貴方の生命の灯火が消えても絶対に生き返らずことが出来るので無理なんて事が無理なんです。貴方は絶対に死なせませんよ、子供のためにもね。
そして大体は私の為でもある。ドラマはリアルチックであるべきだが、悲劇はあくまで劇...フィクションでなければならない。つまり、これがノンフィクションだと私からすると後味が悪いって訳だ。
あと、生きていてくれれば映像を見返していても心が傷付くことなく再度楽しんでみることが出来る。素晴らしい考え方でしょう?
え、言ってることがめちゃくちゃだって?
こういうのは理屈じゃないんですよ。
「大丈夫?アクアは怪我とかしてない?」
自分の命がもう消えかけているというのに子供の心配をしているアイ。
子供の名前についてはもっと他にいいのは無かったのかと思ったがそれは置いといて、その行動ができるということはアイは自分の子供をしっかり愛せているという事だ。
自分がそのことに気付けていないということは、彼女は愛の無い環境で育ったのだと推測できる。
その後もルビーという名前の娘がいる事が分かったり、命の灯火が消えて行く過程でだんだん声が弱々しくなって行くリアル過ぎる様子も記録することができて満足である。
「ルビー...アクア...」
「愛してる」
「あぁ...やっと言えた。ごめんね...?こんなに言うの遅くなって...。あー、良かったぁ....この言葉は、絶対....嘘じゃない.......」
最後に自分が子供を愛していたことに気付けて安堵し、亡くなっていく。
最高にドラマチックであり、「愛してる」の部分は宗教画として描かれたとしても不思議では無いほど美しい光景で、彼女は一番星などではなく女神の生まれ変わりなんじゃ無いかと錯覚させられたほどである。
今ポトっと彼女の手が落ちて息絶えた感じがしたので急いで結界を解く。
解いた理由:蘇生の魔法はまぁまぁ集中する必要あるからね、仕方ないね。
「はいはーい、死ぬのストーップ!」
私がそう言って血を踏まないように浮遊しながらアイに近寄る。
男の子が茫然自失の状態で何も喋らない。目も虚空を見ており反応はない。
「あなた、誰なのっ!?」
扉越しからルビーという娘さんが私に叫ぶ。
私は戯けたように言う。
「私は、今死んでしまったキミらの母親を生き返らせる魔法使いだよ」
「ふざけないでっ!!」
「ははは、それが本当なのさ」
そいじゃ、私が虫や動物を使って改良に改良を重ねた完全無欠の超素晴らしい蘇生魔法のお披露目です!
せーのっ!
『※※※※※※※※※※※※!!!』(日本語ではないなにか)
私が呪文を唱えると大気中の魔力が、高密度の治癒の力を発揮してアイを包み込む。
そして時を操る魔法も連動で作動して彼女の傷を逆再生するように治して、血液もコピーして補充、壊れた細胞組織も全て補給した上で魂を呼び戻して固定する。
するとなんと!
元どおり!眠っているだけのアイが完成いたしました!
「ハイッ!蘇生大成功!」
「...な...っ!?」
「おっと?アクア君、キミのお母さんは無事に生き返ったよ?良かったねー☆」
あとやる事はないのでこのまま撤収しときますかっ!
記憶は...お詫びっちゅー事で消さないでおきましょ。
あ、でも私の事を他人に話せないようにする術式だけは発動させてもらうね。ここの3人には。勿論文字打ちだったり書いたりも駄目だからね。
「それじゃ、アデュー!」
「あっ!....消えた....!?」
そんなこんなで一番星の生まれ変わりと称された彼女の感動的一面を見ることに成功した私はご満悦な表情で自室のベッドで駄眠を貪るのでした。
めでたしめでたしっ!
久し振りにぶっ通しで5,000字以上書いた...!
正直これで完結でいい気がして来るレベル。